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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
10章 四国大戦
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大戦前夜

--- エリス スキュレス事務所内


スキュレス女史が、信じられないほど落ち込んでいる。 今まで、その容姿を武器に異性を翻弄、相手を挑発、そして権謀術数を駆使してきた女帝のオーラが消えている。


今朝方、ダイゴが彼女の執務室訪れた際、突如大声上げて報道紙を破り、半狂乱になっていた。 あまりの様相に、彼自身も唖然としたほどである。 


そして、その状況下で彼女に声も掛けらず、そのまま退室することになった。 遅れて彼女の秘書が、執務室に来ることになるのだか、あまりのスキュレスの狂乱状態にダイゴが、秘書の入室を止めたほどであった。


ドア向こうの音が静かになり、ダイゴと秘書の両名が扉を少し開け中をのぞくと、そこには魂が抜けたように椅子にもたれかかり、外を見ているスキュレスのすすり泣く声が室内に響いている。


ダイゴの権限で本日の予定を全てキャンセルし、秘書も本日は暇を与えた。


そうして、執務室内で半日、食事も摂らず、外を見ている。

彼女からのすすり泣く声も聞こえないところみると、涙も枯れてたようだ。


デスクの上には破られている報道紙。

紙面には“タニア連合王国の国王崩御”の文字がある。


落ち着いた彼女を確認して、ようやくダイゴが、執務室内に入る。

「お茶だけでいいから飲まないか? 」


既に窓からの陽の光は、だいぶ傾いている。 彼の手には、お茶とリフレッシュメント(お菓子)がある。 


ダイゴの言葉に、女帝のオーラが消えたトリフィナの視線が、自然と対象に向く。


「……いただくわ」

置かれたティーカップに口を付ける姿をみて、ダイゴも安心する。


「あっけないものね」

「ああ」


彼女は復讐心だけでここまで動いてきた。


炎王と呼ばれていたノークティアをこの手で始末することをだけを生きがいにしてきた。

突然の標的の消滅により、今はほぼ放心状態になっている。


「これからどうするんだ? 」

「さぁ。わからないわ。何もやる気が起きないのは事実」


「アガニッペ街道の集落への対応とか、大粛清で被害にあった人達へのボランティア活動とかどうだ? 」


「そうね。タニア連合王国内にいくつか支援している集落もあるけど。ちょうどいい具合に橋渡しもしてもらったし、護民官を辞めて本格的にボランティア活動でもしようかしら。――彼のように墓守のような生活もいいかも」


「あいつは……別の意味であの立場だからな。どうだろう? 」


ダイゴの携帯端末が音を立てる。


「どうした? 」

≪……≫


「それで」

≪……≫


「冗談だろ? 今の時代にか」

≪……≫


「わかった。引き続き情報を集めてくれ」

ダイゴは天を仰ぐ。


「若干意図が違うようだが、トリフィナの予想が的中しそうだ。 残念だが、議員最後の一仕事はやってもらうぞ」


「……軍を動かすのは、執政官の仕事でしょ? 」


「各国とのパイプを持っているは、間違いなくトリフィナだ。 情報庁に情報を上げて対策だな。 俺は今までの情報をまとめてみるよ」


ダイゴは見解を述べたのち、背を向けて業務のため執務室を出ていこうとすると、袖を掴まれる。


「私も一緒に行く。ここでは息が詰まりそう」


マールス(火星)の治世が大きく動きだす。




--- アスクレウス 宿屋

「へー。タニアの国王が死んだんだって」

サナエさんが、朝の報道紙を読みながら、話しかけてくる。


アガニッペが一段落して、タツマ達は、観光の続きをしようと戻ってきたところである。 今は朝のホテルのラウンジで朝食をとっている最中である。


―― 朝食中にそうゆうの読まないのっていっているのに。


と言いつつもタツマとしてもその話題には興味ある。


「でっ、次期国王は? 」


「えーと。国王の姪に当たる……1歳(地球歴2歳)の女王だって」

――紙面からでもヤバい雰囲気しかないのですが。


『恐らく死亡してかなり経過していますね。次期統治者が決まるまで、国王の死は隠ぺいされていたのでしょう』


セレンが情報を補足する。


だよね。1歳の女王に下肢づけって家臣に言っても、恭順しないでしょう。


「そうなの? 」

『大人が、言葉も話せない子供に下肢づくのです。プライドもありますし、能力だって劣っているのは目に見えています』


「なるほどねー」

『サナエさんで言えば、地位だけ高く能力がない人間の言うことを聞けてと言われているようなものです』


「あー。最悪だわ。反乱だね。反乱」

紅茶を飲みながら、力説してくる。彼女が下肢づく人間なんているのか?


『それに対応する目途が立ったのでしょう。そうでなければ報道されませんよ』


1歳(地球歴2歳)の女王で国をまとめる方法か……どんな目途だと推測する? 」

タツマが、セレンに問を投げる。


『やはり、国内共通の目標を定めることでしょうね』

「国内共通の目標……外敵を作るのが一番簡単だけど……」

タツマが少し思案する。


「戦争じゃない? 」

サナエさんがサンドイッチを 頬張りながら言ってくる。


「まー。一般的にはそうなるよね」

問題は、どこで起こすかだ。それよりも、内政のごたごたを外部に持ち出すか?


「プハー。といっても。内戦程度じゃないの? 国家間のいざこざはあるけど、ここで大きな問題起こしても利益ないし」


カップのスープを飲みほし、理論の補足をしてくる。

―― なんかどんどんワイルドになっていない?


理性的に考えれば国内をまとめるとの戦争ではあまりに利益がかみ合わない。


しかし、近年のタニア連合王国の行動はあまりにも理性から外れたことばかりやっている。本当に何かデカい事でも起こしかねない。


事実、タツマがここにいられるのも紙一重であり、セレンやアルプがいなかったら、この世にすらいなかったかも。


――せっかく温泉散策で野山を駆け巡っていたスローライフだったのに。少し癪ではあるが、念のため親父に確認の連絡でも取ってみるか。


             ***  ☎ 連絡中  ***


≪何もない状況からお前からの連絡とは珍しいな? ホームシックにでもなったか? ≫

≪ホームシックの方が何倍もいいかもね。報道紙を見た? ≫


≪ああ。例の女優の不倫報道だろう? 結構、応援していたんだけどなー≫

こいつ知っていてやっているのか?


≪……冗談だ。 タニア国王の崩御だろ? ≫


≪王妃は、新女王を使っての ※1垂簾聴政を進める気でいるが、それを良しとしない連中も多い。簡単にいえば、国王の王妃派と国王兄弟派に分かれているんだ≫


――また、不毛な権力争いかよ。

≪で? 宮廷内闘争程度で終わるんだよね? ≫


≪そうだな。恐らくだが外に敵を作ると思う。特に国王兄弟派は、そうしないと現権力から政権奪取が困難だからな。戦争を通し、有能さを示すことで権力を奪うのが王道だろう。外敵はプロメンテだな≫


――そっかープロメンテかー……

≪待って! 何でいきなりプロメンテが出てくるの! ≫

タツマがつい大声を出してしまう。


≪土地の収奪法案でタニア民から資産を取り上げているだろ? それの報復がまだ終わっていない≫

≪あれは、タニアの工作だろう! ≫


ホテルのラウンジで連絡してるのもどうかと思うが、それを越す緊急事態になる。


≪でも実施したのは、プロメンテの住民だ。タニア側の正義は、表面上通るだろ?≫

確かに、いくら工作活動といっても既に実行者はこの世にいない訳か。


≪今のところ予測だが、恐らく可能性は高い≫

≪でどうする気?≫


≪そこだな、そこなんだよ。プロメンテはテッサリアと、テッサリアはエリスと、エリスはアルゴスとそれぞれ食料融通条約を結んでいるわけだ。


集団的自衛権なんぞは無いが、問題はプロメンテが関わっていることだ。あそこは、工業力こそないものの、食料に地下資源といい、キンメリアの南部地域は、宝の山になっている。


ここをタニアが征服されたらとんでもないことになるのは、目に見えている≫


―― いつの間にか宝の山になっているのか


≪軍事力は、前回から多少は回復しているものの、弱小には変わらない。故にタニア相手では、数時間と耐えられないだろう≫


―― そもそも、戦闘する軍隊じゃなかったからね。


≪で、彼らを守るために主要3カ国が動く可能性がある。いや、既に動いている≫


―― 主要国が動いているのであれば、今回は出番はなしで良さそうだ。さっさと逃げよう。

≪対応するなら問題ないね。じゃぁ、早々にエリスに戻って、マールス(火星)を脱出するわ≫


≪残念だがそれはできないだ。護民官の親族は、戦争時には国への忠義を尽くさないといけない。事実、公民に対しては準軍事例発令されているから、軍事目的無い限り宇宙には上がれないぞ≫


≪冗談だよね……無関係者だよ。 こっちは美味しい汁にもあずかっていないんだぞ! ≫

タツマが、昂ぶる。


≪気持ちは分かるが、それが無理な主張であることぐらい、わかっているだろう? ≫

――まじかー。厄ネタにもほどが、あるだろう。


タツマもここでごねても状況は変化しないことは理解している。


≪でっどうすればいいの? アルバテラやアスクレウスのアガニッペ地域で農業や林業でもやっていればいいの? 別にいいけど。できれば、そうして過ごしたいんだけど。いやそうさせてください、お願いします≫


何もしない方向で話を進める。


≪何というか丁度こちらからも連絡しようと思っていてな。 助かったよ。 アルバテラに相応の機材を送った。 起きないことを祈るしかないな。 それと鄭とアリエフが、そちらに向かっている。 俺はここから離れられないんでな。 じゃぁな≫


              *** 通信終了 ***


――機材ってなによ? それよりも連絡しようとしていたって、こちらを使う気満々ということ?


タツマは思わず頭を抱えてしまう。その光景にサナエさんが心配そうに尋ねて来る。

「なんか。大丈夫? 」


「大丈夫じゃない。アルバテラに戻れってさ」


「構わないけど。説明はしてくれるのよね? 」

「ああ。うんざりする程にね」




--- エリス ギャップリバートランスポート 社内執務室


“ギャップリバートランスポート”ダイゴがエリスで創設した、運輸会社になる。 エリスのシティ地区の郊外に会社を構えており、テナント長屋の一画を借りて事業を行っている。 質素な佇まいの会社である。


運輸許可を貰い、表向きは小型運搬や出前を中心に業務を行う事業計画書を提出している。 ラストワンマイルに商機を見出す会社である。


従業員はダイゴを含めて3名であり、業務実態はあるものの実質ペーパーカンパニーに近い状況になっている。


「息子さんから連絡? 」


「ああ。現状から今後、起こるだろう予測と不安への相談だ。 当たっていたよ。 裏も知らないのに、大したものだ」


「流石ね。昔日の経験がモノを言っているのかしら」


「ガキの頃からの宇宙船で業務をしているからな。状況判断や現状への嗅覚が鋭いんだろう……それにしてもいいのか? 大物政治家がこんな怪しい会社に出入りして? 」


「こっちの方が落ち着くし……それに高いところにいても事態はわからないわ。……彼はまだ“空白時間の出来事”は思い出していないの?」


「まぁな。別にいいさ。無理に思い出さなくても。辛い記憶なら猶更だ」


「彼が初めて銃を撃ってからずいぶんと経つのね」

「トリフィナが、精神科医で助かったよ。あの時は、俺では対応できなかった」


「別人格が出ていたものね。 今の彼が私を知らないのも無理ないかも。 私ももう一人の彼としか会話をしていないし。 今は完全に消えているでしょうけど」


「途中、夢遊病者みたいになっていたからな」


「数年間で飛躍的に学習能力と運動能力が向上していたようだし。文字の読み書きと計算

さえできれば、後は何とかると思っていたんだがな」


「あの時でしょう? 彼の銃撃から身を挺して私を守って義手になったの? 」

「まぁな。息子の失態だ。親が責任を取らないとな」


「あそこには、つらい過去がある人が集まるのね。平穏な人生が、過ごせればいいだけなのに」


「平穏な人生なんてありえない。 憧れるが、手に入らない代物の代表だろ」

一旦、狭い室内に沈黙が訪れる。


「……ところで、貴方は一体どんな機材をアルバテラに送ったの? 」

「コンバットスーツとトークン部隊だな、前線の2名分も含めて」


「戦が……始まるのね」

「ああ」


                ・

                ・

                ・


タツマ達は、アルバテラへ向けて北に向けて移動中である。

アスクレウスとアルバテラ間はやはり距離があり、どうしても1泊が発生する。


ピギーパックも考えたが、道なりとして余り時間が変わらないようなので車両移動になっている。 長距離移動は疲れるが、セレンの運転であるためそれほど苦にはならない。


加えてテンペ大陸の道は治安がよく、襲われる不安のストレスがないため、精神衛生的に非常に良い


ようやく行先看板に“アルバテラ”の表記が見えて来る。


「ようやくアルバテラの行先が出てきたよ」

「この道も長いわね」


「大陸横断道路だからね。 このままどこかに逃げたいものだよ」

「そう言っても逃げない癖に」

サナエさんが呆れたように返答してくる。


『タツマの長所でもあり、短所ですよね。 貧乏くじを引き続ける。 助けを求めている者に手を差し伸べすぎなような気もしますよ』


運転中のセレンが突っ込んでくる。


「途中で投げ出すのは性に合わないだけさ」

タツマ自身もこの性分には、匙を投げたくなる。


「それでも……私はアンタのその生き様。 好きよ」


視線の先には、アルバテラの光が見えてくる。 その灯りは、タツマ達の帰還を待ち望んでいるかのように見える。 そして、それは新たな戦いへの幕開けを感じる。


―― 平穏な人生はないものかね。


※1:垂簾聴政:簾を垂れて(まつりごと)を聴く。幼帝の代わりに皇太后が政治を代行する制度。


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