破暁
闇が、辺りを支配する時刻。 電気もない森の中はまさに暗闇という言葉ぴたりと当てはまる。 このような原始的な村には、暗くなると炎の明かりぐらいしかない。
そのため、夜の見張りは最小限に絞られ、警戒もかなりずさんになっていく。
事実、タツマの小屋の前の見張りもいなくなり、車両との見張りの兼任になっている。
『タツマ。 だいぶ暗くなりました。 見張りも減っています。 どうします? 』
≪了解だ。 行動を開始する≫
夜が暗すぎて裸眼では何も見えないが、暗視機能付きバイザーなら、そこそこ見える。
といっても今は小屋の中。 しかし表の炎の灯りが多少中に入ってくる。
―― ボロ屋で助かる。
地面と壁の間に隙間もある。 生身では厳しいかもしれないが、コンバットスーツ装備であれば容易に突破できそうだ。 しかし、隠密に実施する必要がある。
『タツマ。 抜け出せそうですか? 』
≪多少時間がかかるが、問題ない。 周囲の警戒を引き続き頼む≫
タツマが、木の壁の破壊は、音がでるため、地面を掘り始める。 音を最小にして、コンバットスーツのパワーと頑丈さを頼りにした方法である。
―― 攻撃用に指先が鋭いのも運がいいな
4半刻の時ほど時間を掛け、人が通れる程度のくぼみが出来上がり、そこから小屋の外にでる。
バイザーメットの暗視機能を使わなければ、星空すら光さえ届かない、この山の暗闇の深さを実感する。
―― 何か地の果てにいる気分だな。
≪脱出完了≫
『了解。 バイザーメットにマーカーを落します。 進行方向と住民をマークします』
セレンが、バイザーにマーカーを出してくれるので、そちらの方向に進む。
バグドローンにより集落の地図が出来上がっているのが役立つ。
≪その先に見張りがいます。右に迂回です≫
的確な指示もありあがたい。
進んでいくと集落と森を隔てる木製の壁に突き当たる。 先ほどのぼろ屋の壁のような感じではない。この壁を破壊するのは可能だが、確実に音が出る。
マーカーに従い、壁に沿って行くと、筵で覆われた地面がある。筵を捲ると地面を掘った場所がある。
≪ここ? ≫
『そこから出られます。相手の武装はアサルトライフルです。 こちらは、コンバットスーツを装備していますが、集中砲火を浴びた場合、旧式の銃火器と言えど危険になります。 隠密での対応を推奨します』
≪了解だ≫
穴を通り、集落の外に出ると周囲は高い茂みになっており身を隠すには十分である。
≪セレン。 ナビをお願い≫
≪現在の監視者は3名。バイザーにマーカーを転写します。 距離が出ていますのでそれに沿って対応してください。 その位置からであれば他の2人に気づかれることはありません≫
≪了解。監視者が減っている理由は? ≫
バイザーにバグドローンからの映像が転送されてくる。
≪不明です≫
どうやら見張っているというより、いるだけだな。 茂に隠れ動くが、特にこちらを警戒している様子はない。
―― 見張りなのに装備が衣類だけとは……
山賊であるため、装備に金を回す費用がないのだろう。
―― 取り敢えず、人質にするか。 銃撃戦になって死人が出た場合、治安隊へ証拠としての生きた盗賊も確保しないといけないからな。
寛いでいる見張りを背後から襲い、電気ショックで失神させる。
コンバットスーツの力で捕捉えられた場合、生身では逃げられない。
拘束具により見張りを拘束して、茂みに隠す。
『慣れていますね』
≪まったく、なんでただの商人でこんなことしなきゃいけないのよ≫
『愚痴を聞きたいところですが、こちらに見張り人間が近づいてきています。 対応を』
バイザーにも映っている。
―― 時間で持ち場を回す方法か……居眠り防止策とは。微妙に考えられているな。
“おーい。場所変更の時間だ”
先方から声が聞こえて来る。 もちろん、返事を返さない。
“まったく、寝ているのか” などの小言が聞こえてくる。
見張りが目的の場所に着くと、拘束され伸びている人間を見つける。
「おい!どうし……」
―― 囮です。ありがとうございました。
再び電気ショックで意識を飛ばす。
≪二人目だ≫
『相手の意識を意図的にそらしたその手口さすがですね』
≪さっきの奴の声をマネできるか? ≫
『可能ですよ』
*
3人目の場所に向かう。
今度は堂々と歩いて向かう
「おーい。場所変更の時間だ」
「ああ。そんな時間か? どうだそっちは、問題なしか? 」
暗すぎて輪郭も怪しい。恐らく相手は、声の質だけを頼りにしているのだろう
「ああ」
単発の言葉で凌ぎきる。
「まったく、”かしら”にも困ったもんだぜ。 銃撃が効かないカーゴを奪取したらしいが、あんな重量物どうやって運用する気なんだろう……お前誰だ!! 」
相手は銃を構えたが、発砲する前に意識を飛ばす。
―― これで3人完了。
≪周囲は? ≫
『変化なしです』
≪“かしら”と言っていたが、居場所の予測は? ≫
『不明ですね。それと飛ばせる範囲でバグドローンは飛ばしていますが、周辺に集落はありません』
―― 山賊はいるが、そのアジトがない。 アジトらしき場所はこの村のみか……
≪決まりだな。 この集落が“撃鉄の狼”のアジトだ≫
『……どうしますか? 』
―― メレア街道の盗賊もそうだったが、地下に基地がある可能性がある。
≪セレン。最初5名いた見張りが3名になった。 残り2名はここの集落人間と仮定した場合、門は開いていない≫
『はい』
≪子供の遊び用通路を通るとも考えにくい。 であれば、地下通路があるはずだ。 草木が少ないとか、地表が不自然に盛り上がっている場所を探してくれ≫
『確認します』
バグドローンが対象エリアを捜索中の間、気絶した見張りを動き回れないように樹木に括り付ける。 移動の自由がなくなれば少しは安全だろう。
気絶した見張り得物は、旧型のアサルトライフルになる。 特にカスタムもされていないが、手入れは行き届いている。 このモデルは、型も古く集弾率こそ悪いが、弾数が多く、弾丸も汎用的で扱いやすい。
―― まぁ弾丸が発射できれば、新しいも古いも関係ないか。
しかし、古いとは言え、簡単に手に入る代物じゃないな。
『ありました。雑草が極端に少ない箇所があります。当初場所の近くになります』
≪了解だ≫
指定エリアに行くと確かに周囲の茂みが刈り取られている。
―― ここか?
周囲を調べると、取っ手と共に蓋の様な計上が見える。 それを引き上げるとハッチのように開く。
バイザー越しに梯子が見える。
≪セレン。バグドローンを侵入させることは可能? ≫
『了解です』
フライタイプのバグドローンが、タツマの視界を横切り内部に侵入していく。
流石最新型。暗闇でも良く飛ぶな。
≪警報機は無いと思うけど、どんな感じ? ≫
『確かにないですね。 横穴があります。 進みます 。向きからして集落の方向に向かって掘られています』
バイザーメットにバグドローンの映像が転送されてくる。
≪明かりが、見えます≫
―― 地下の明り取りが火とはね。 酸素不足にならないかのか? いやランプか……
バイザー越しに彼らの話し声が聞こえてくる。
<かしら 彼らをどうする気ですか? あの装甲車みたいなカーゴを奪取しても、我々で持て余しますよ。 それに売るとしても汎用性でない以上、必ず足が付きます。 危険すぎる代物です>
別の男の声が聞こえてくる。
<それに、あの車両。 かなりの重武装です。 あれだけの武装を持った奴が、ただの商人の訳が無い。 今のところ大人しく従っているのが奇跡ですよ。 奴が本気で暴れたらこの集落が無くなっちまいます。 奴は危険です>
―― うーん。 ただの商人のつもりなんだけどねー
<じゃぁどうしろと? >
<このまま、車両と共に帰らせましょう。 理由は適当に付ければいいんです>
「……」
<じゃぁ。 住民の生活はどうなる! 食料がないんだぞ! >
“かしら”と呼ばれる人物が、声を荒げる。
<故郷から迫害された我々は、ここ以外にどこに行けと言うんだ! タニアからは迫害され、アスクレウスからは棄民者扱い。 この裏街道が唯一の住処なんだぞ! あの車両を売り飛ばし金を得れば、向こう数ヶ月の食料が手に入る>
<しかし、 モノがモノだけに武器商人が引き取ってくれるか疑問です! >
<最悪ばらして部品にして売り払いえばいい。 あれを何としても金にする。 それに銃弾も弾く装甲だ。 おそらくレベル5相当だろう。 その手の輩には需要があるはずだ>
“かしら”の部下が、黙る。
<それに私は、あいつが気に入らない! こともあろうか、あの男は、不便な場所と言いやがった。 我々の唯一の場所にだ。 許せるわけない! >
―― 逆恨みじゃないですかね。
<しかし、”かしら”。 あの男の装備。 あれパワードスーツでなく、コンバットスーツで軍仕様ですよ。 対人戦であっても我々の一人、二人の犠牲者では倒せません。 もし、カーゴの援護を受けてあの白いのとの戦闘になれば、我々に勝ち目はありません。 このまま帰ってもらいましょう>
話し合いは続いている。
――タニアを追われた民ね……※1ガラスの雪か。
『音声は録音しております。 どうします? 』
≪人を襲って暮らしている……か ≫
セレンの問いかけも何処か上の空のタツマ。
―― 悲壮感しかないな
セレンの質問には答えず。タツマから別の話題を上げる。
≪アスクレウスの治安隊が、奴らを自由にしておく理由って何? ≫
『恐らくですが、アガニッペ街道の維持も兼ねているじゃないですかね。 変な外部のマフィアの縄張りになるぐらいなら、いわゆる難民を住まわせておけば、追剥してでも対応するだろうと。 そもそも連絡便の輸送車があること自体不自然です。
山賊の縄張りに旅客車両を出しますかね? それと旧型と言え、あのアサルトライフルはかなり強力です。 ただの難民が手に入れられる代物でないでしょう』
≪毒には毒? ≫
『恐らくは』
≪奴らを治安隊に突き出したらどうなる? ≫
『不明です。 そもそもアスクレウスの治安維持庁が、この状態を良しとしているのか、それとも現地対応の支部が見逃しているのかも分かりません』
―― どうするかね。
しばらく思案の時間が流れタツマが決断する。
≪……犯人を治安隊に突き出し、罪を償わせる。 襲撃を実行する。 セレンは、集落側の基地の出入り口を探し出し突入してくれ≫
『了解です。バグドローンで対応します』
≪それと、おやじに繋いでくれ≫
『何をお考えで? 』
≪まぁ。 柄にもない事さ≫
『了解』
*
セレンのバグドローンで基地内の偵察により、集落ないの基地出入り口は容易に発見されることになる。
手掘りであるため通路のような、部屋である。
そのため出入り口が1つずつ存在している簡単な作りになっている。制圧は難しくない。
≪そちらは確保できたか?≫
『小屋内部から外に出られる仕組みになっています』
≪セレンの武装は? ≫
『一般的なカービンとショットガンです。 車両の見張りには少し眠ってもらっています。 門番のほうは、外ばかり警戒しているのようなのでこちらに気づくのは、暫く掛かるでしょう。
車両は遠隔で制御を掌握していますので、他者に乗っ取られることはありません』
≪了解だ。 対象者は、生け捕りで頼む。 ※2 スタングレネードの爆発音後に突入しろ。3……2……1≫
爆発音が、静かな森に響き渡る。 住民の眠りも直ぐに覚める大きさである。
梯子を下り、通路に沿って進むとうずくまっている人間が5名いる。
「確保しろ」
素早くマヒした対象者を拘束バンドで縛り上げていく。 トークンがいるため、大人一人や二人を楽々抱えながら地上に持ち上げていく。 タツマは先にでて、地上の安全確保に係る。
全員地上に上げると、小屋の前に集落の全員が武器を持って集まってきている。
例の”かしら”から声を掛けてきた。
「お前ら。こんなことして気分がいいのか? 政府の狗か? 」
「どちらでも。 気分は良くないし、政府の狗でもありませんよ。 それにここに来たのも偶然でしかない」
「……我々をどうする気だ! 」
「治安隊に引き渡そうと思います……が、それはあなた達が決めてください。ナーミャンのお母さん。 自ら出頭するか、このまま残るか」
村人が銃をこちらに構えている。
端末を彼女の前に置く。
「話してください。うちの親父ですけど」
*** ☎ 通信中 ***
≪どうも、うちの息子が迷惑かけているようだね≫
端末からの通信は拡声で行われている。
そのため周囲の人間にも話している内容が伝わっている。
≪迷惑どころの騒ぎか! ≫
かしらの怒号が、森に響く。 捕まってもこの胆力には恐れ入る。
≪あんたが、アガニッペ街道の”撃鉄の狼”の頭目かい≫
彼女は答えない。
≪まぁいいや。 息子からの情報でおおよそ検討が付いている。そこにいる理由もね。
“ガラスの雪”の被害者とはね≫
カーゴのヘッドライトの光があるので彼女の表情が良く分かる。 動揺しているね。
≪だから何だ! 貴様らには関係ない! ≫
≪まぁね。こんなことは、ガラじゃないんだが、その場所に援助を考えている≫
≪ハッ! いつもの手口だな。そういった輩は、何度、見てきたと思っている! 街道の利権目当てに話を持ちかけて、裏切る馬鹿にはもう慣れている≫
≪融資は、パボニス都市国家のグリーンレイク観光から行わせる≫
“どこだそこは?”
“あんなまともな企業が”
“かなり有名だよ”
周囲の人間から話す声が、聞こえてくる。
≪こんな辺境に善意で投資だと笑わせるな!! ≫
≪そうだな、じゃぁ少しだけだ。 スキュリアル・フォー・ベルナール・トリュフィナ≫
≪……ベルナール?……。……。 ティファー大陸とテンペ大陸の境の都市……。フォーとなると上貴族か≫
≪ガラスの雪の大粛清の時、あそこの被害も大きかったんだ≫
≪らしいな。……。……トリュフィナ?≫
≪そうだ。こちらもそれ以上は言う気はない。彼女の伝手の企業なんだよ。そこは≫
≪……同情か憐れみのつもりか! ≫
≪そうだな。 それもあるが、その生活状況から脱出できるのか。 もちろん君達じゃない、その娘・息子に対してだ。自分の子供にも同じ環境で生活させる気か? ≫
≪……何が目的だ≫
≪山賊をしたツケを払ってもらう。 そうすれば、裏がない投資として資金を入れられる。 この件に関して、我々に得はない。 ただの善意だ。
それでもクリーンな投資でなければ裏を勘繰られ迷惑をこちらが被るのでね。 もちろん、断ることもできる。 断った場合は、俺の息子はその場所を去るだけで、従来の生活に戻るだけだ≫
≪そのツケの支払いが、治安隊への出頭か≫
≪そうだ≫
彼女も迷っているようだ。
急に女性の声が入ってくる。
≪聞こえる? あなたの気持ちはよくわかるわよ。子供と別れる悲痛は、よくわかっている 。私もあの粛清で旦那と子供を失っているの。 それでも今を生きている。 私はできなかったけど、あなたは次の世代を活かしなさい。 あなたには、まだ可能性が残っているの≫
*** ☎ 通信終了 ***
「とのことです。映像証拠があるので、山賊は外部の見張りの3名と内部の5名、計8名だけにします。 私が仲裁した体で対応します。 もちろん断っても構いません」
刃物を地面に投げ、地面に突き刺さる。
「拘束を解いても構いませんよ。 集落外に3名がのびているので助けてやって下さい。 ただし、映像証拠を元に証言するので、身代わり出頭があった場合、治安隊から不必要な追及が発生する可能性があります。 後はあなた達が決めてください。 期限は夜が明けるまでです」
スマイル号に戻り運転席に座る。ライトはつけっぱなしである。
『サナエさんを連れて来なくて正解でしたね』
「キツイ現実だからね」
『スキュレス氏が、“ガラスの雪”の被害者と知っていたんですか? 』
「なんとなくね。タニアへの必要以上な執着心は疑問だったし、当時の貴族名簿に似た名があったのでもしかとは思っていたけどね。 アルゴスでカマ掛けてはっきりしたけど」
『それで、出資要請を? 』
「商社プロメンテやシメリア鉱山開発社も考えたけど、他の大陸からの出資は怪しまれ、警戒される。 同じ大陸で動きやすい会社としては、グリーンレイク観光社しかないからね。 観光地開発名目で出資すれば何とかなるでしょう」
『利益は出るんですか? 』
「完全に博打だよ。 それに収益目的ではないから」
・
・
・
長い夜が明ける。 日が昇ると樹々で遮られた薄暗い空間でも光が差してくる。 朝が無事に迎えられる。 小鳥のさえずりが聞こえて来る。 それに合わせたように集落の人間がぞろぞろと表に出てくる。
スマイル号のライトを消し、バイザーメットを外したタツマが、車両から降りる。
「でっどうします? 」
「出頭する」
迷いがない返答になる。
「そうですか。 分かりました。 もしかしたら、ここには二度と戻れないかもしれませんよ? 」
「かまわないさ。 投資の話は、本当だろうな? 」
「もちろんですよ。それにマールス人なら私の考えも分かると思いますけど、どうですか? 」
「そうだな。 揺らぎが見えなかったからな。 本当だと思っている。 今までの奴らとは、違っているのは事実だな」
「では、行きましょうか」
カーゴの荷台を開け、8名が乗りこむ。
「では皆さん、私はいったん戻りますね。 必ず戻ってきますので」
彼らは立って見送るしかない。
銃でも歯が立たない装甲車にいったん入ったのでは、取り返す術もない。
門が開きゆっくりとスマイル号は細い山道を進んでいく。
--- その後
アガニッペ街道の山賊を捉えたとのことで、治安隊に引き渡しが完了する。 サナエさんからも連絡を寄越せとのお叱りを受けた。 と言ってもけどそれどころじゃないし。
数日後にグリーンレイク社から例の社長が、アガニッペ街道に入り周囲を調査したいとのことで案内する。 住民の生活を見て愕然としている様子は傍から見ても分かる。
社長は、現状の改善のため大張り切りで、観光資源になりそうな地域固有の資産を住民からの聞き取りをしている。
その状態を見る限り、工作員としては微妙だが、商人としては一流なため、こちらとしての心配が一掃されることになる。
タツマから要望としては、道路の拡張だろうか。 この道走り難いし。
1ヵ月後にアガニッペ街道の山賊を捉えた報道が流れることになるが、それほど大きな扱いではなかった。
と同時に、グリーンレイク社からアスクレウス政府に対して、投資申し込みを行ったようで直ぐに了承されている。 アスクレウス政府もあそこ山道は持て余しているようだ。
観光業者を入れることでアスクレウス麓の集落の治安が安定すればいいとの考えだろう。
そして社長の聞き込みの結果、観光資源として温泉に目を付けることになる。 アスクレウス山の地形から判断して温泉があるはずなのでそれを探し出す方針になった。
地域住民からの供述をもとに温泉探しの為、野山の散策を手伝うことになる。 ただの旅行が地域振興に駆り出される羽目になる。
コンバットスーツで温泉探しとは――いや、こういう使い方が、適切なのかもしれない。
血や硝煙に塗れない使い方が一番だよ。 損耗もないし。
大人達の証言をもとに散策を続けている間、子供たちは、社長が教師を集落に引き連れ読み書きできるように教育している。
事業が軌道に乗れば、従業員にするために動いているようだ。
―― まったく、その金はどこから出ているんだか
そんなこんなで6カ月が経過した。
温泉の目途も付き、本格的な投資を行う矢先に一つの情報が届けられる。
“ルゥルゥ・フォー・タニア・ノークティア5世の崩御”
タニア連合王国の国王が死んだ。
つづく
※1:ガラスの雪:10年ほど前から数年間、タニア連合王国内で行われた大粛清の総称になる。 ティファー大陸統一後に長くの平穏の時代が続いたが、王国に対して反抗的な都市が出てきた。 そのような諸都市に対して、長期にわたる大粛清を実施している。 割れた窓ガラスが道に積もり、歩くと軋む音がすることから”ガラスの雪”と呼ばれている。
※2:スタングレネード:爆発時に発生する強烈な閃光と爆音によって、付近の人間の視覚・聴覚・平衡感覚を一時的に奪う非殺傷の制圧武器




