山村僻邑 アガニッペ
湖畔の駐車場にスマイル号を留めると、改めて両脇の切り立つ崖の大きさに圧倒される。
湖の近くのためか、観光客や家族ずれが多く、この地が、それなりの人気スポットであることを感じさせる。
タツマ達は、車両を降りる。
「いい天気ねー」
サナエさんの一言。
『秋季ですから。 本日一日晴れ模様です』
「いや。 寒くない? 」
「水差すようなこと言うんじゃないわよ! 」
そんな会話をしながら、湖畔の周囲を散歩する。 ボート乗り場の近くまで行くと、一人でウロウロしている幼女が、視界に入る。
「あの娘。親御さんと逸れたのかしら? 」
「さぁ。トイレを探しているだけかもよ」
心配したサナエさんが、幼女に近寄り声を掛けている。
『タツマが実施したら、通報ものですね』
セレンもだんだん毒づくようになってきている。
「……」
―― 確かに。 自分が声を掛けたら、治安隊が寄ってくるのか? 体面が良いって得だよなー。
そんな感じでタツマは、サナエさんと幼女の様子を遠巻きから見ている。 それにしても科学者なのに子供の扱いが上手いな。
「わかったわよー」
彼女がこちらに手を振りながらこっちに合図を送ってくる。
「親御さんと逸れたんだって、近くの治安隊の詰め所に行きましょう! 」
―― サナエさんなら変に勘繰られることもないか。
「歩いていける距離なの? 」
そう言いながらタツマが、近くの案内図を見ると、歩いていけそうな距離である。
「よーし、しゅっぱーつ」
サナエさんの元気な声が響く。
・
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幼女の手を引いてサナエさんが、前を歩いている。何気に様になっている。
「お嬢ちゃん名前は? 」
「ナーミャン」
―― ここで久々の登場。 随分と聞く名前だけど、一般的な名前なのか?
「……可愛らしい名前ね。どこから来たの? 」
「山の中」
―― どこだよ。
「山の中って広いのよねー」
サナエさんが困ったように呟く。 それに呼応するかのようにさらに詳しい地名が出て来る。
「アガニッペ」
―― アガニッペねー確かタルシス山脈の裏街道だろう。 治安が悪いので有名だよな。
「誰と来たの? 」
「お母さん」
「へー」
治安隊の詰め所に向かっている。
幼女もサナエさんに完全に気を許している感がある。
詰め所の近くに行くと、女性がウロウロしていのが分かる。
あの女性がこちらに気づき向かってくる。
「ああ。ナーミャンどこに行っていたの? 」
どうやら、感動の御対面のようだ。
彼女の母親が礼を言ってくるが、表情が冴えない。
「何かありました? 」
その様子を察したようにサナエさんが、彼女に質問する。
「それが、アスクレウス集落と“アガニッペ山岳集落”を結ぶ旅客車両が出てしまって。次の運航便は、3日後なのでどうしたらよいものかと」
「随分と間が空くのね」
「なにぶん利用者が少ない僻地の集落ですから、本数がないんです」
見る限り行商人のような感じである。
何でも山で取れた山の幸をここで販売して生活費の足しにしているらしい。
「いいわ。 同じ商人同士、助け合いましょう! 向こうに私たちの車両があるわ! 」
―― そうやって、いつもの如く妙な案件に首を突っ込む……勘弁してくれないかな。
とタツマは思いつつも、考えをそのまま口に出すと角が立つ。 別の方面から攻めてみる。
「観光は? 」
「困っている人を助けるのが、私の商人道よ! 」
こうなると、彼女の意思は硬い。 そしていつものしりぬぐいが発生の予感である。 タツマの感情を読んでいるのか、いないのか。
彼女が、アガニッペの親子を連れて先にスマイル号に向かっている。
その後ろをタツマとセレンが、付いていく。
「セレン。 どう思う? 」
『アガニッペ街道の治安は、最悪の部類です。 メレア街道と比較になりません。そもそも過去のいきさつ故に放置されていると言ってもいい』
「ガラスの雪? 」
『はい。 しかし、親子の2名程度あれば、スマイル号を用いれば問題ないです。 本気で手を差し伸べあの親子を“アガニッペ山岳集落”に連れて行くのであれば、武装を推奨します 』
「裏道と言われているぐらいだからね――それとあの親子どう思う? 」
『そちらを疑っていましたか。 一見すると人の親切に付け込むタイプではなさそうですが、幼子が母親と離れていても、泣いていなかった点が引っ掛かります。
あの年齢の幼女は1人では不安になるはず。 かなり単独にされることが多い。 それと、母親が治安隊の詰め所ではなく、周辺にいたのが疑問になります』
「そうなんだよねー。ただ、相手から連れて行ってくれとか、宿代くれって言ってきていないんだよな。 純粋に迷子との判断もできなくはない 」
『判断は分かれますね。 怪しい案件には、近づかないことも賢明な判断になります。 助けたいのであれば、それこそ金銭を渡して別れるのも一考です』
―― うーん。可能だけど。
「今の武装で耐えられそう? 」
『過去のアガニッペ山岳野盗襲撃の事件から判断するに基本アサルトライフルでの襲撃です。 まれにロケット砲が飛んできているようですが、この程度あれば撃退できます。
人数も十名たらずですので、襲撃されても対応は、可能でしょう。 こちらは、宇宙船の外装と武装はフル装備になっています』
―― 地域の野盗程度にガンシップの装備があるとは思えないからな。
「危険を冒して得る利益はありそう? 」
『このルートは、タニア連合王国への抜け道になっています。 密輸ルートを開拓するには、絶好かと』
―― 犯罪者じゃねーか。
「武装して相手に乗ってやる。スマイル号の武装は、フリー状態で頼む」
『了解です。 それにしても毎度、毎度、良くやりますね』
なんか、改良されてから皮肉が多くなってきたな。 まったくサナエさんにも困ったものだ。
「彼女は、どうする?」
『スマイル号であっても銃声の可能性があります。置いていった方が良いと判断します』
そうだよね。
スマイル号が見えると“早くー”との声が聞こえる。
少し強引だけど切り離すしかない。
「おまたせー。 ところでナーミャンは、お腹すかない? そろそろ昼食の頃合いだし」
幼女は頷く。
「だよねー。おばちゃんと……」
強力な平手が後頭部を襲う。
「おねえさんとお母さんで昼食にしてきたら? 昼食代はおねえさんが出すからさ」
「いいの! 」
「おう! いいよ。行っておいで」
「その……すみません。何から何まで」
「いえいえ。 気になさらずに。 じゃあサナエさん案内よろしくね」
「後で理由を聞かせてもらうわよ」
と小言を言われて彼女達を近くのフードコートのような場所に案内していった。
『でっ。 どう対応する気です』
「セレンは、サナエさん用の泊れそうな宿でも探しておいて、こっちはコンバットスーツの準備をする」
スマイル号の荷台に乗り込み武装の準備をする。
―― 白だよなー 山で白って目立つだけだよな
といっても修羅場に突入するのに、丸腰は無謀すぎる。 色は後回しにして装備を整えていく。 カービン銃、ショットガンの弾丸を確認する。
武装もこう調べるとかなり豊富だな。道中合羽に頭を通してコンバットスーツを隠す。
荷台から降りる。
『久々の姿ですね。 宿はありましたが、どうします? 』
「彼女に理由を説明して、ここに残ってもらう。 治安隊の出動要請が発生するかもしれないし、万が一の命綱は、欲しいところ」
『なるほど』
変に隠し事をすると碌なことがなさそうだし。 いくら軍用兵器があるとは言え、トークン隊もいないし、対応できる数にも限度がある。
*
彼女たちが、昼食を終えて戻ってきたようだ。
『ご帰還のようです』
「だね」
幼女が先頭でこちらに走ってきており。その後ろにサナエさんと彼女の母親が、会話している。
「おじちゃーん。 ありがとう」
幼女から何気ない言葉を掛けられる。
『おじちゃんですか? 』
セレンが反応する。
「まぁ、幼女からしたらおじちゃんだ。 しかし、こっちの気分は、引退したいおじいちゃんだ」
―― ホント。 引退したいが、会社を何とかしないといけなのが辛いところ
『30前の男性が、何を言っているんですか? 借金や会社の維持は、タツマにしかできませんので、引退はもう少し先延ばしですね。 おじちゃん』
―― 本当に何なの! このトークンは!
引きつった笑顔を作りながらナーミャンに話しかける。
「お帰り~。 さっさ乗って、乗って、今からお家に送っていくよ」
「いいの~」
「ああ。 車両の御乗り」
幼女が車両に飛び乗る。
「あの……よろしいのですか? 」
「ええ。 構いませんよ」
母親も車両に乗ることになる。
タツマは、親子をスマイル号に乗せ、サナエさんに話しかける。
「サナエさんは、ここに残って」
「……どうゆうこと? 」
「アガニッペ街道は危険だし、治安隊を呼ぶ可能性があるから、ここで待機していて欲しい」
その言葉に彼女としては、納得できない顔をしている。
「端末が接続できず衛星通信になった場合、対応者がいないと困るでしょう。命綱は必要なんだ」
「……わかったわ」
声とは裏腹に、顔の不安は消えていない。
「この装備とセレンもいる。 大丈夫だよ」
タツマが安心させるかのように、説得する。
「ふー。 どうせ、止めてって言っても、行くんでしょ? 従ってあげる……その準備のために、食事に向かわせたの? 」
「そんなところ」
それでもサナエさんは不安そうな顔をしながらこちらの装備を見ている。 いくら装備が充実しているとはいえ、逆説的に言えば、これほどの装備が必要な地域と言うことになる。 あまり安心はできない。
その感情を読み取って、タツマが手持ちの端末を見せる。
「端末にはこちらのルートの軌跡や現在地が、分かるようになっているから。こちらの一は把握できるよ」
「そう……あなた、あの親子を怪しんでいるの?」
「半々だね。 少しおかしいとは思っている。 サナエさんは? 」
「そうね。何かを隠している感じはする」
「なるほど。 念のため治安隊に連絡をできる体制を整えおいて」
「生きて帰ってきなさいよ」
「当然。 セレンもいる。問題ないさ。 行くぞ! セレン」
『了解です』
--- アガニッペ街道
セレンが、スマイル号を運転し街道を進んでいる。 街道は、対向車とのすれ違いに注意を払う程度に細く、路面は荒れている。
所々に落石や太めの枝が落ちており、片側は谷になっており、もう片方は崖になっている。
タツマからナーミャン一家に話題を振る。
「随分なところにお住まいなんですね」
「ええ、まぁ」
「出ようとは思わないんですか? 結構、不便だと思いますけど」
「……色々あって、中々難しいんです」
「治安が悪いと聞いていますが、実際どうなんですか? 」
「……」
「連絡用車両とかは、襲われないんですか? 」
「連絡便は、襲わないとの暗黙の了解があるようでして」
「なるほど。 もしかしてこの車両も襲われる可能性ってあります? 」
「わかりません」
『もし襲撃されても、安心してください。車内にいれば安全ですので、いざとなったら反撃も可能ですので』
セレンが会話に入ってくる。
「反撃とかは止めた方がいいと思います。人数が多いですし」
『全く問題ありません』
「……」
しばらく、蛇行する道を進む。 今は昼だが木の陰でやたらに暗い、窓を開ければ小鳥の囀り程度は聴けそうだが、場所が場所だけに窓はあけられなさそうだな。
出発してからどの程度、走行しただろうか。
森の木陰からわずかに見える空は、赤色に染まっている。
『タツマ。熱感知器より人を検知しました。人数は5名です』
――おでましか?
親子の方を見ていると、母親が幼女を抱きかかえている。
銃声が響き、突如道の前に現れ道を塞ぐように立っている。視界に入っているのは3名である。
「よう、ご客人。身ぐるみ置いてさっさと引き返しな! 」
『どうします? 殲滅しますか』
セレンは、やる気満々のようである。
「いきなり物騒なこと言わないの。 まずは要望を聞きましょう」
拡声器を用いて車内からでも安全にこちらの意図を伝える。
<我々はこの先の集落に親子を送っている最中です。通してもらえないでしょうか>
「じゃぁ。車両と親子だけ置いていけ! それで命は助けてやる」
<このカーゴは、重要な商売道具何でそれはできません >
「では、死ね! 」
銃弾が四方から襲ってくる。発砲音で親子が身を屈めている。
「セレン。状況」
『後ろに2名おります。計5名で確定です。 武装は一般的なアサルトライフル系ですね』
「威嚇射撃で正面の人間をどかして? 」
『了解です』
テクニカルのようにセントリーガンがスマイル号のルーフから出現し周囲を威嚇する。
威力と連射速度が桁違いの兵器であるためたちまち野盗は引いていく。
『敵が道を開けました』
「先に進みましょう。 この家族を集落に連れていくのがミッションだからね」
『了解』
スマイル号が動きだす。
正面の三名もはや障害になっておらず、スマイル号を見送る程度のことしかできない。
何ごともなかったように進んでいくスマイル号。
道が二手に分かれている。
「どっちでしょう? 」
「あ……あの。銃撃を受けたのですが」
「あの程度は大丈夫なんですよ。頑丈な車両でしょう? でっ、どっち? 」
「左です」
「山側ね。セレン頼む」
『了解』
上り坂を登っていく。 意外に急斜面でないところを見ると、利便性に気をつかって作られている……となると、利用者が多いということか。
道の先に集落が見え始めた。 集落の周辺は樹木が伐採されており、日が当たっている。
凄い場所に住んでいるんだな。
集落の門は、木製だがそれなりに重厚のように見える。
「ここですか? 」
「はい」
「開けてもらっても」
「分かりました」
母親が娘とともに車両を下りる。 小窓があり何か話している。
『因みにさっきの銃撃ですが、運転席は一切狙っていませんね。駆動部やカーゴ中心への攻撃でした。タイヤはガードされていますのでパンクもないですがね』
「ふーん」
扉が開き、スマイル号が集落内部に入る。
集落に入ると銃を構えた村民が20名ほどいる。
「想定通りだけど、あまり歓迎はされていないね」
『装備している銃は、襲撃犯と同型ですね。もしかして、旅人を襲って生活している集落と予想しているんですか? 』
「まあね」
『なるほど。で、この状況どうします』
「安易な殺生は、しない主義でね。 それに弾丸もタダじゃない。 まずは、話し合うさ」
『了解です』
<みなさーん。我々は、そちらの親子をここに善意で連れてきました。 我々は、一端の目的を果たしたので、このまま帰りたいのですが。 銃を降ろしてくれませんかねー>
「できるわけないだろう。お前は“撃鉄の狼”に逆らったんだぞ。ここで帰せば、俺達が仲間と疑われる」
――“撃鉄の狼”ねぇ。うちの“白翼の騎士団”と同じネーミングセンスを感じる。
『どうやら、少し訳アリのようです。 彼らは生身ですし、コンバットスーツの相手ではないでしょう。 私はここに残りますので、対話をどうぞ。 バイザーメットの装着をお忘れなく』
セレンの提案に従い、武装は解除しているが、バイザーメットを装備した状態で車両を降りる。
コンバットスーツであるが、道中合羽により相手への威圧感は低下してる。 車両を降りると両手を上げる。
「お前、何者だ!! 」
相手からの質問が飛ぶ。
「我々もただの商人ですよ。そちらのご婦人が旅客車両を逃して困っていたので、ここまでお連れしただけです」
幼女の母親が、リーダー格に話している。
――さてさて、こいつらの正体は白か黒か?
「ここまで送ってくれたことは感謝する。しかし、ここは 狼の縄張り ここからその車両に乗って帰すわけにはいかないんだ。 車両を置いて、次の連絡便で里まで帰ってくれ」
また随分と虫のいい話だな。 考えるふりをしてセレンと連絡を取る。
≪セレン聞こえる? ≫
≪ええ聞こえていますよ。彼らの言い分も聞いていました≫
≪取り敢えず、一旦従う。バグドローンで周囲の索敵をお願い ≫
≪了解です。 索敵開始します≫
≪それと過去の報道からの襲撃情報は、集まった? ≫
≪ええ。組織は10~20名程度の野盗と考えるのが筋ですね。 ロケット砲までの記事があるので最大火力は、ロケット砲でしょう。 しかし、高価な兵器ですからね。何発も所有しているとは考えにくいでしょう≫
セレンからの状況分析は、助かる。
≪了解した≫
その言葉を聞き、タツマが村人に
降伏宣言を表明する。
「分かりました。 その案。 受け入れます」
タツマの周りに数名の村人に銃を構え取り囲まれ、連行されることなる。 そして、収監されたのは物置小屋のような、木製の小屋になる。
「ここで一晩明かしてもらう。 食料は……まぁ一日食わずとも問題ないだろう! 」
雑多なやり取りで放置される。 室内に電灯はなく、ただ暗い室内になる。
コンバットスーツを装備しているため、外気や衛生面に影響はされないが、生身であれば中々厳しい環境になる。
―― とにかく、これで一先ず落ち着いたか。
ここの住居は、住まいというというより、木材で作られた質素な小屋のように見える。
―― イスペリア(港湾都市)の貧民窟でも、もう少し立派なところに住んでいたぞ。
セレンと通信を行う。
『ご無事ですか? 』
まずはセレンからの安否確認になる。
≪こっちはコンバットスーツだ。 全く問題ない。 変に暴れるなよ。 無実の人もいるんだから≫
『この村の事は、私としては感知していません。 タツマにもしものことがあれば、この村を更地しますので』
≪物騒なことをいうな。 まずは情報集めだ。 そっちの見張りは? ≫
『車両の周りには6名ほど、 タツマの小屋の前には一人ですね』
≪ずさんなことで≫
『所詮、山奥の野盗です。 この程度です』
口が悪いが、それは、ながそう。
≪バグドローンは? ≫
『既に20ほどで、展開済みです。 これからどうします? 』
≪ここの住民が盗賊を生業にしているか、それとも“撃鉄の狼”に脅されて盗賊を手伝っているかが気になる。 索敵次第だな≫
『“撃鉄の狼”を潰しますか? 盗賊稼業または盗賊からのおこぼれもここの住民の重要な資金源と思われますが』
≪そうねー。車両の損耗は、どの程度? ≫
『無傷に近いですね。多少のへこみがある程度です』
宇宙船の装甲を携帯兵器で何とかできるわけないか。
それにしても、確保して治安維持隊に突き出すか、それとも殲滅か……
『周囲にこの集落を監視している者がいますね。5名確認できました』
≪集落から正門以外に出られる場所は? ≫
『ありますね。 子供たちの遊び用として隠し通路がありました』
「少し作戦を考える。 引き続き、集落周辺の調査と住民の動向を探っておいて」
『了解です』




