長期休暇
命を張ったイベントから1ヵ月ほど経過している。
あの後も武官府の各庁に呼ばれ事情を聴かれることなった。
もっとも取り調べ室ではなく応接室での対応になり、お客様待遇でのもてなしになった。
しかし、お茶しか出てこないのは、どういうことなんでしょうか?
アルバテラを救った英雄だよ。 茶菓子ぐらい出しても罰は当たらいと思うんだけど
と愚痴を言っても始まらないので品行方正で事情を説明することになる。
軍務庁では、他の庁への罵詈雑言になっていたが、仕方がないだろう。
何故かお客様なのに、なだめる側になっている。
管理されていない水爆がうろうろしているのに、何も知らされていなければ、頭にくるのは当然か。
そして現在、オーソン宅の離れに居候させてもらっている。
というか、アルプの修理のため間借りしている。
先日のテロリストの3名は、爆破テロの容疑で逮捕されたが、タニア連合王国との容疑者引き渡し協定に基づいて本国に移送となったらしい。
こちらでもニュースで騒がれたが、爆発が耕作地帯であっため死傷者が出ないかったこともあり、他の情報に埋もれる形となった。
アルバテラとタニアの間にどんな取引があったが知らないが、彼を仮にテロリストとして起訴した場合、法廷で何を言われるか分かったものではないとの意思が働いたと考える。
それこそ、法廷で事実を述べて当時の高官の失態が世間に知らされたら、アルバテラ高官の自身の方が危険になるとの判断だろうか? 権力者の保身はいつでもこんな感じだろう。
そして事件の中心にいた我々のその後になるが、
ケルンは、引き続き役所で今まで通りに働いている。“相場がー”とか、“収穫量がー”とか言っている。
イーノは、キンメリア大陸に戻り商社プロメンテの仕事に従事している。
サナエさんは、セレンと共に離れの一室に籠っている。 恐らくセレンの調整とアルプの修理になるが、かなり破損個所が酷いのでボディ総交換の勢いでの修理になりそうである。
何気にタツマの周りは、労働に勤しんでいる。
一方、タツマといえば、屋外で軒先に椅子を出し、何も考えず日がな一日を過ごしている。
周囲は穀倉地帯であるため、作物が整然と育っており、この場所が消されなくて良かったとの思いと、平穏のありがたさを実感しながらの日々。
―― 本日も天気がいいな。
そんな感情がありつつも、何もしていない自分にふと不安が過る。
「……あれ? もしかして、いま何もしていないのは自分だけか? 無職……いやいや、今まで過剰労働した慰労は必要だ! 何処かに行こう! 」
せっかくの余暇を楽しまねばと、オーソン宅からスマイル号で飛び出す決意をする。
そしてサナエさんにメッセージを送る。
< しばらく、旅に出ます。 探さないでください >
直ちに返信が帰ってくる。
< どこいくのよ >
探さないでくださいは、完全に無視された形になる。 彼女は、メッセージの後半部を読まない癖でもあるのだろうか?
< 問題も片付いたし、折角時間も取れたので癒しの山アスクレウスにでも行こうかと >
メッセージを送った直後に、大きな音とガレージ向かってくる音が聞こえる。
黙って行けばよかったと思う反面、分かった時に碌なことにならないことは知っているため、どうしても行動を事前に報告する癖がついてしまっている。
……尻に敷かれている訳じゃないですよ。絶対に。
「私もつれていきなさいよ! 」
向かう先は、癒しの山アスクレウス。他の三山よりも湖などの水辺が多くレジャーに適しており、多くの別荘や観光地があるのも特徴になる。
折角の一人旅が、結局アルプの代わりになったセレンが運転することで、3名での旅行に代わる。 はた目からみると変わり映えのない運転風景になる。
「まったく、レジャーに行きたいならそう言えばいいでしょう? 」
実際、一人で旅に行きたいと書いたはずであるが、ここで蒸し返すのも、問題しか産まない気がするので黙っておき、話題をすり替える。
「いやサナエさん。忙しいそうだったし。セレンも調整中だったんでしょ」
タツマからの仮の反論がある。
「それでもよ」
彼女としては、要望を直接いってくれなかったことに多少おかんむりである。
アルプの修理は、かなり時間が掛かるとのこと。装甲車にひかれて完全に下半身がダメな状況になっている。
また銃撃も受けており、コアが無事なだけで、ボディ全交換の勢いである。
加えてウェヌス産の特注仕様であるため、それなりの時間を要するためコアだけ抜き出してある状態になる。
ラジオからは明るめの音楽が流れている。 ここ最近の一大事がひと段落して、平穏な日常に戻ってきたことへの凱旋曲にすら聞こえて来る。
地上を走るアウトバーンは、広大な大地を突っ切ている。音楽だけが流れる車内と傾く日差し。 その日差しが弱くなることに半比例して徐々に山が大きくなってくる。
そんな雄大な光景を見ながら、思い出しかのようにサナエさんに質問する。
「そうだ。 このスマイル号の武装ってどうなっているの? 」
「補充済みよ。 あんたが、役所巡りしている間にエリスの工作員が手配してくれたわよ」
―― あいつら逃げておいて何今更出しゃばっているの?
「それとあのエリスの撤退。 あれ執政官がらみらしいわよ。 スキュレスが動いたことでメラノ執政官の息の掛かった連中が抜けた感じね。 ここで失敗して、本国で責任追及でもしたかったんでしょね」
「ふっざけんなよ! 人の命を何だと思っているんだよ! 奴らは! 」
―― 現執政官メラノとトリュフィナの権力闘争なら、他者を巻き込まずに、エリス内でやっていろよ。
タツマの憤りもこの大自然の中では小さなものになる。 夏季から秋季に入ってきているが、未だ青々している木々や草花。といっても、それらも徐々に夕日により赤色に色づいていく。
アルバテラからアスクレウスまでは、自動車で恐らく12時間以上かかる。 当初の予定は、一人の時間を長く確保するための自動車旅行であったが、3人旅になってしまった。
といってもトークンでの運転は助かる。 午前から走り夜になる。 アスクレウスの麓付近に到着する。
かなりの距離になったが、トークンが運転してくれることで苦労なく来られた。
宿屋はとっておらず、周辺はすっかり闇の帳が下りており、周囲はよく見えない。本日は野宿になる。といっても車両内で夜を明かす感じにである。
スマイル号の中にいれば、ガンシップからの攻撃でもある程度大丈夫。 そもそもセレンがいるので防犯は問題なしと考えている。
広い空き地があったのでそこに停車する。
「今日はここが宿泊地だね」
「なんか路上生活の様な状況ね」
サナエさんがつぶやく。
実際ジプシーのような生活になっている。妙な問題に巻き込まれて東奔西走津々浦々。
これができるのも自営業故に可能な生活スタイル。 といっても本業は、開店休業になっているが辛いところ。
それもこれもあの腹黒女が、原因である。 しかし、既に過去のでき事。 今はこのリラックスタイムを楽しまないと人生の損である。
『身の安全でを気にしているのであれば、ご安心を。 路上宿泊であってもガンシップまでは対応できますし、私が付いています。
周囲にバグドローンを展開しますのでそこらの安宿よりセキュリティは万全です。 夜空を見ながらの少し狭い完全セキュリティの室内と思ってもらってくださいな』
「なるほど。 たしかにそれなら納得ね! 」
サナエさんは、セレンのからの回答に納得している。
―― 女性にはつらい生活スタイルにも思うけど、どうなんだろ?
「それに、こっちの方が刺激的でいいじゃない」
―― 活動的なのが彼女の長所だった。 しかし、寿命が縮まる刺激は、十分に味わったのでもうおなか一杯です。
*
--- 夜が明ける。
闇に隠れていた周囲の風景が、日の光で幕を開ける。 シメリア(キンメリアの鉱山)もパボニスもスケールが大きく圧倒されたが、この風景も凄い。
高台での夜明けのため眼下に、この土地の地形が一目で確認できる。
「良い朝ね! ヒンヤリするー……すごいわね。この光景」
サナエさんが、言葉を言いかけて感想を洩らす。
「おはようさん……圧巻とはこのことだね」
渓谷のような両側が切り立った岩肌に青々とする木々が茂る。秋季に近づいている為、力強い緑ではないもののその光景は圧巻である。 現在は初秋。
アスクレウス山からの流れ出す水が作ったのだろう湖とそこから流れる川の構図、川に沿って小さな集落がある。集落の周辺は、綺麗に区画され穀物の実りが見られる風景になっている。
夏季から秋季の間の季節であるため、山岳レジャーとしても良い季節になる。 しばらく、風景に圧倒され言葉を忘れる。
早朝であるが、ロッジから観光客や登山客が早速動き始めている。
高い山の登山になれば、早朝から動き出さないとか。
「でっ今日は何するの? 」
「考えてないなー。 なんとなく来たようなもんだし」
「じゃぁ、あの湖いきましょう! ボートに乗ってみたい! 」
サナエさんが遥か先の湖を指さす。
「じゃぁ言っていますか! 」
しかし、サナエさん。 朝からテンションが高い。
*
高台から下の小さな集落までには、それなりの時間が掛かる。 眼下に見えた集落に到着する。 アスクレウス麓の村落といったところになるだろう。
そんな村落を一台のカーゴが、荷物も運ばずに抜けていく。 それなりの道も整備されているが、集落の奥地に入るには、車両が大きすぎるため、幹線道路を走るしかない。
「ノスタルジックな建物ね」
「景観に合わせているんでしょう」
木造の急勾配の黒い三角屋根と、白い壁の対比が周辺の雰囲気を合わさっている。
童話に出てくるような光景だ。窓小さいのは冬季になると雪が多いためだろうか。
そんなおとぎの世界もパワードスーツに身を固め、荷物を背負った登山家パーティを見ると、現実に引き戻される。
「アンバランスね」
「まぁ。あれがあることで気軽に登山ができるようになったんだからいいんじゃない? 山の事故も減ったというし、あの装備があれば、素人でも気楽に登山か可能になったようだしね」
実際に雪崩に巻き込まれた一行が、パワードスーツのおかげで命拾いしたとの報道もあったぐらいである。
「それより朝食にしましょう。 この地の名物がいいわ」
近場の好いているティースタンドで、サナエさんはホットサンドの朝食である。
朝食というよりブランチに近い時間帯にはなっている。
そういえば、アルゴスの時も同じようなのを食していたような。
「挟んであるのをよく食べているけど。それ好きなの? 」
「まーね。何か気に入っちゃって。 今まであまり食事とか気にしなかったんだけどね。 それにここの名物の干し肉も入っているしいい感じの塩加減よ! 」
食べ盛りの子供の用に食欲旺盛でなによりか。
もう地球年齢で30近いはずだが、朝から大したものだ。
食事が一通り終わり会計を済まし、湖に向かう。
観光客と登山家客で田舎の集落はごった返しており、今が商売時期なのか土産物店も露店を広げている。この土地の柄の織物が売られている。道中合羽より短い民族衣装のようにも見える。
「賑やかねー。やっぱり世界って広いわね。それに言語が統一されても文化は残るものね」
「その土地の生活様式だからね」
惑星間の統一言語に関して、当時でも多くの反発があったのも事実である。
1400年も前の出来事であっても、当初の導入にも色々あっただろうことは、容易に想像できる。
しかし、当時のマールスの状況は悲惨極まりない状況であり、テラからの支援なくしては立ち行かない状況まで追い詰められていた。
|ノーマンズ・ライジング《人無き蜂起》による疲弊は、火星の人口減少、疫病の蔓延、生産力低下、文明も崩壊寸前まで追い遣られていた。
彼らの知識との交換でテラからの食料援助と環境改善を実施したことでようやく人口減少にも歯止めがかかった。
そして多くのテラ人がこちらに入植することで、共通言語の必要性が出てきたわけだ。
欲望と闘争が好きなテラ人が、よくマールスに対して征服・植民地化しなかったと思うが、テラもテラで惑星内の抗争と企業間抗争さらには、第4次大戦で宇宙艦隊の多くを失っており、立て直しに莫大な資金と時間を要していた真っ最中である。
今でこそ、阿保みたいな兵器を作っていられる余裕があるが、当時は食料や入植でテラの人口を圧縮することで精いっぱいだったらしい。
「何、耽っているのよ」
「えーいやー景色がいいなーと思ってさ。 今まで色々あり過ぎたからね」
「映画でも撮れそうな経験だものね」
「ヒロイン役は、サナエさんいけるんじゃないの? 」
「煽てても何も出ないわよ」
と言いつつ機嫌が良さそうですね。




