追跡
スマイル号は、夜の街を爆走している。 傍から見れば、映画のようである。
―― ちょっと出し過ぎじゃない?
タツマは少し引いているが、事態は一刻を争う。 オーソン嬢が、運転する車両の加速度は、コンバットスーツ越しにもそして視覚的にも圧迫感を感じる。
道路サイドの街灯は、車両内を明滅させ、同時に車両の外の景色は、高速で流れていく。
明滅の中に見えるオーソン嬢の顔は、何かに憑りつかれている風にも見える。
―― 完全にハイになっている
そんな車内の状況になる。
タツマがセレンに質問する。
「セレン。 あの弾頭、爆発はしないよな?」
『車両に技術者が乗車しても、基盤からバッテリーまで破壊しています。 爆発の可能性はありません』
「となると、彼らの今の目的は何だと思う?」
『弾核の奪取を防ぐことだと』
「だよね。 問題は、相手がどうやってそれを実施するかだ……。 今の奴らの状況は、圧倒的に不利な状況。 加えて重量物、 別の車両に積み替える時間もない。 自爆もできない」
――やつらは、どうする気だ?
「ハイウェイに入りますよ! 」
オーソン嬢からの声が響く。
―― ハイウェイ?それこそ逃走進路が限られる袋小路だろ。 自ら首を絞めるか……いや違うな。なにか意図があるはずだ。ハイウェイの特徴……!
「セレン。※1フルトン回収による輸送の可能性は?」
『難しいです。弾頭が重すぎます。それに気球を浮かべている間に気球を攻撃されます』
―― だよな。しかし、ではどうやって?
「追いつきました!! 」
オーソン嬢が、声を上げる。 治安隊が、けたたましくサイレンを鳴らし、追跡している。
「重機の荷台が開きましたよ! 」
ロケットエンジンを装着している……。
「わかったぞ!!あいつらロケットエンジンで強制的に弾頭を打ち上げる気だ!!」
『走行中からですか? それは無謀と言うものです』
荷台のクレーンを用いて、無理やりにミサイルを車両から放り出す。 ミサイルはそのまま地上に落ちる……訳だか、ハイウェイであるため、かなりの高さがある。
ミサイルのサイドスラスターが点火し、姿勢が垂直になりメインエンジンが点火されるとそのまま打ちあがる。
『無茶苦茶です……』
思わずセレンが反応する。 しかし、予想に反してミサイルのロケットは、上昇していく。
「くっそ! やつら目的はこれか! 適当な高度で弾頭を切り離して、パラシュートにより滞空時間を確保する気だ」
『その滞空時間で回収ですか? 』
「ああ」
『どうしましょう?』
「パラシュートを破壊するか。 航空機自体のへの対応しかない。伝えろセレン!!」
『発信者はどうします?』
「エリスの工作員でいいだろう!」
『了解です』
セレンが、通信を行っているようだが聞く耳を持っていない様だ。 エリスの工作員というのが、信じられないらしい。
あいつらー。 手を引いていると言っていたな。 本気で説教だな!!
「アルバテラ軍は、何している! 」
『ケルンからの報告! 残念ながらガンシップの許可が下りないようです! 』
セレンからの報告
―― マジかよ。
爆音を上げて弾頭が打ちあがっていく。 想定高度に達したのか、ミサイルの弾頭が分離して、落下傘が開き、ロケットエンジンは地上に落下していく。
「ダメだ! 間に合わない。 我々の装備では対応できなぞ! アルバテラは、何をしている」
タツマのイライラが、さらに増していく。
切り離されたロケットは、地上に激突する。 燃料が残っていたためかそれなりの爆発音と共に、周囲に火事が発生するが、幸いにも荒地であるため人的被害は一見するとなさそうだ。
―― ここまでか。
後方から航空機体音が聞こえてくる。 見ていることしか出来ないタツマ達。 航空機音が、大きくなり近づいているのがわかる。 そして、横から弾頭を攫って、去っていく。
時間としては僅かだろう。
速度を出していた重機は止まり、中から手を挙げて人間が出てくる。 まだ日も上がっていない夜中であるため顔は見えない。 治安隊のヘッドライトで輪郭程度は分かるぐらいである。
―― 戦略負けか……。
逃走班は3名でトークン部隊が降伏している。 アルバテラの治安隊が、犯人の拘束を始めている。 そしてもちろん、こちらにも治安隊が向かってくる。
―― はいはい。当然こうなりますよね。
「おい。お前なにものだ! 訳の分からない通信を入れて、我々の追跡を妨害して何様のつもりだ」
「エリスの工作員ですよ。 いったじゃないですか? 」
タツマは、諦めながら回答する。
「それ以外にも結構な情報を我々から得ているよな! なぜ報告したかった! 」
「証拠がないのにあなた方は、動くんですか?」
「……コノヤロ~。乗っている奴らも全員拘束させてもらう! 」
「如何なる理由で拘束されます?」
「犯人との共謀……」
「共謀?」
「捜査妨害だ!」
「確保する方法を無線で伝えたのに?」
「……」
何やら大柄で年配の隊長格っぽいのが出てきて、中年の治安隊員を制止させる。
「そういきるな。 落ち着け」
もともと興奮も高ぶってもいないが、場は一旦治まる。
「あの無線は君からかい? 」
「ええ。そうですよ? 」
「もし、あの状況で、この状況を推測出来たら大した洞察力だ……でもな、ここはアルバテラで、我々はテロの証拠を逃した。 その詳細は明確にせねばならない。 着いて来てもらうぞ」
おうおう、言葉を変えているだけで威圧するね。
「わかりました。 弁護士は、付けて頂けるんですよね」
タツマが権利の行使を求める。
「チィッ。いいだろう」
良いだろうじゃなくて、当然の権利なんだけど。
「じゃぁ連絡しますね」
「ここで連絡しろよ! 」
―― こんな時のための親父だ。 絶対に対応してもらう。
≪おうタツマどうした? まだ生きているところ見ると何とかなったか? ≫
≪ごめーん。爆発は阻止できたけどー。弾頭は奪取された≫
≪……でっ? ≫
≪アルバテラの治安隊に拘束されるので弁護士をお願い≫
≪お前……≫
≪母上に伝えておいて、母上の名で弁護士を寄越して≫
≪我が息子ながら、小賢しいなお前≫
≪褒め言葉として受け取っていく。サナエさんとオーソン嬢もいるから≫
≪……了解した≫
「はい。 じゃあ行きますか? そちらの車両に乗るのは、私だけでいいですかね? 女性陣はカリカリしていますから、男性の隊員が拘束すると別のことで逆に訴えられる可能性がありますよ」
隊長格が運転手側を除くと、確かにモデルのような2人がこちらを睨みつけている。
「……わかった。 彼女たちの対応は慎重にさせてもらう」
「それなら結構です」
タツマが治安隊の自動車に乗せられ、彼らの支部に連行されていく。
サナエさん達は、後から合流した女性隊員により連行される。
--- アルバテラシティ地区 治安維持庁
タツマは、留置場に入っている。
―― 牢屋ってこんな感じなのか。 それにしても、久々の一人の空間。 独房に入らないと実現できないとはね。 これで緑あふれる光景とお茶と本があれば最高なんだけど、ああ麗しのスローライフ……。
そんなことを考えながら、独居坊の冷たい床の上に寝転がっている。
―― サナエさんはー大丈夫だけど、オーソン嬢が、少し心配。 こういうのあまり慣れてなさそうだし。
タツマが余裕そうに見えるのも、自身が、惑星間貿易商と言う特権を持っていることもある。 とはいえ、まだ正体を明らかにしていない。
―― ここの奴らに灸をすえる必要はある。人の命がけの努力を無にしやがって。
妙な復讐心がタツマの心にあるからである。
「キャミャエル出ろ! 取り調べだ! 」
「へーい」
取調室には、強面と人間と優しそうな面の人間が二人いる。
――典型的な……。
強面から語りだす。
「さて、キャミャエル。 お前さー。 エリスの工作員って我々を馬鹿にしているのか?
あぁ? どうやってあの情報を得た! 情報源をはいてもらうぞ? 」
「それを聞いてどうするんですか? 」
「質問してるのはこっち。 ねーもう少し理解しようよ。 質問には答える。 習わなかった? ガキじゃないんだかさー」
―― おお、いい感じじゃない。 あーでもオーソン嬢大丈夫かなー。 こういうの慣れてなそうだし。
「いいですよ。 話します」
「へー中々殊勝じゃなかいか」
相手の尋問官は、簡単に折れた容疑者に満足しているように見える。
「ただし、聞いたらここの人は、全員共犯ですので。よろしくお願いしますね」
「何をいっているんだ? お前? 」
「あなた達が、追っていた代物の正体は、何か知っています? 」
「あのなー。 俺は……」
尋問官の発言を無視して続ける。
「水爆です」
タツマは、もったいぶらずに一気に核心部を述べる。
「……はっ?」
「あの弾頭。 水爆です。 名前はティル・フィング1型。 トツカ弾核ってご存じですよね? その改良版です。 ここで爆発した場合、爆心地から自動車で半日走った距離程度が更地になります」
「お前。なにを話して……」
「それをあなた達は逃した。 こちらが折角、間一髪のところで停止させたのに、敵に奪われたんです。 さらにこちらの助言を無視してです。
ああ。 それと軍務庁にも提案していたガンシップ要請も却下されましたよね。 ことは、武官府全体に波及する問題になるかも。 “結果論だ”とか大人が、言いませんよね。 それは、第三者が決めることであんたが達が、決めることではないですよ」
尋問官が黙ってしまう。
「ハイそこの書記官? ちゃんと記録している? マジの情報だから。 よかったですね。 本来君たちのような下っ端では聞けない国家機密情報です。 情報庁・治安維持庁の上層部しか知らない情報を君たちはいま得た訳ですよ」
全ての人間の顔が困惑している。
「さて、私がどんな罪で起訴する気でいるが知りませんが、これらの情報をもって法廷に立ちますよ。 次に、あなた達はこの情報の危険性を分かっていないので、説明してあげますね」
話をいったん切って一拍おく。 周囲を見ると全員こちらを見ている。情報を持つものの圧倒的優位性。
「今回の件で執政官や高級官僚は、長期出張とかの名目で全員、アルバテラを離れている。 つまり逃げています。
しかし、私が法廷に立てば、持っている情報を全部暴露します。 アルバテラ市民を無下にして、国を捨て、保身に走った執政官や高官達 報道紙の一面とした場合面白いですよね」
全員黙っている。
「そんなことはさせたくないから、上層部は、もしかしたら口封じを図るかもしれません。 一体、誰の口を封じるのか楽しみですね。 部外者の私がいくら吠えても、どうにでもできるでしょうが、内部に知っている人がいたら? ここの人数だけなら事故に見せかけるのは訳ないでしょう。 特に都市国家の権力を使うのであれば」
優しそうな面の男が急に興奮してくる
「お前。俺達を脅す気か!! 」
「事実を述べろと言ったのはそっちですよ。 そして、その後展開は、ガキの憶測ですよ。 何を興奮しているんですか? 落ち着きましょうよ。 あんた大人だろう? 」
タツマはニヤ付きながら、煽り返す。
知ってしまった事実は、命の危険すらある情報。
「……」
全員が沈黙の中にいる。
取調室のドアが開くと偉そうな人間が入ってくる。 周囲の人間が一歩後ろに下がる。
その顔を見て、タツマから挨拶をする。
「やぁ長官。 長期出張からようやくお帰りかい? いい時期に帰ってきたねー」
―― 知らいないと思った? 情報は収集済みよ。
「……」
周囲の視線が、彼に集中している。
「さすが、惑星間貿易商だな」
その一言で周囲がざわつく。 惑星間貿易商への無理な尋問や拘束は、状況によっては、惑惑星間の政治問題に上がる対応になるからだ。
自分の身分を話していないかって? 話していませんよ。こいつらに灸をすえるのが目的だからね。
「情報が、命ですから」
両者の沈黙が重い。周囲の人間が全員固まる。
只の若造なのに雰囲気が、先ほどと違っている。
「それで、私を何の罪で起訴する気ですかね?」
「お前さん。惑星間協定に守られているとか思っているのか?」
「もちろん。エリスとの伝手もあり、腹芸で勝負するには十分すぎるほど証拠もありますからね」
「お前を消すことぐらい造作もないことが、分からないほどの無能か? 若造」
「それに対策をしないほど愚かな惑星間貿易商に見えますか? 老害」
両者ともガン飛ばしている。
―― 可愛い子ならいいんだけど、どーしておっさんを見つめないといけないんだよ。 だんだん腹立ってきた。
空気は重く緊張感に包まれる。
ドアがノックされる。
「入れ!!」
「失礼します。……長官!? 」
「構うな。なんだ」
「その彼の弁護士が到着しました。彼への面会を求めています。それと、その……エリス護民官のスキュレス氏の意見書を持っておりまして……」
「だそうですよ。 長官殿。 こいつら連れて席を外してもらえませんか? 意見書は、おそらく、ここの執政官とあんた宛てだろうね。
“国難を退けた者に対して恩義を仇で返す気か”的な内容だと思うよ? 」
「……何を相談する気だ」
「エー聞いちゃうのー。 証拠を隠匿ではなく、広めようかなーとは考えますよね。
さっきの問答から消されちゃうの怖いし。
まー私を消したところでスキュレス氏は、もう状況は把握してるようだし? 私一人消したところで、どうにもならないと思いますよ? 」
ふざけた回答の挑発的なもの言い。
しかし、それ以上に向こうも起きた後の恐怖があるためこちらの態度に一切反応はない。
「交渉はできるのか? 」
「何勘違いしているんですか? そもそも罪があるから司法取引ですよ。 我々は悪いことしていませんよね? むしろアルバテラを救った英雄ですよ。
加えて、惑星間貿易商を拘束・尋問してるんだ。よく考えて発言しろよ? 」
タツマの視線が強くなる。
「ご要望は? 」
「ですよね。 生き残るには謙虚が一番ですよ」
とりあえず、アルバテラが地図から消えることは免れた。
情報庁と治安維持庁の縄張り争いで、重要情報が末端まで届かなかったこと。
軍務庁にいたっては何も知らされていなかったことなど、多く問題が明らかになる。 何も知らされていないのにガンシップ3機出撃させろは、確かに無理な状況なのは理解できる。
特に上級職が情報を独占して下に流さなかったことなどが大きな問題となり、
アルバテラ武官府の組織変更を行っていくことになった。
我々への報酬としては、オーソン氏からの情報流出は不問とする内容だけだった。
「金にならねーことばかりかよ! 」
『金運の無さはさすがですね』
セレンの突っ込みが入る。
会社には、ハッピーカムカム号の借金があるんだから、金一封ぐらい寄越して欲しい。
※1フルトン回収:地上から気球を上げてその気球を航空機ですくい上げる方法。 人を吊り上げる場合、その衝撃から死亡のリスクがある。




