肉体労働
--- 現場の昼休み
隣接現場からは、物音ひとつしない。班長から声を掛けられる。
「おう、新人どうだ。調子は?」
「いやー、きっついすねー。ところで隣って何もしていないんですか? 工事中に思えたんですけど? 」
「ああ。隣か? なんでも開発会社が倒産したらしくてな。今は休工中になっている。大変だよなー」
「あー。やっぱりですか?隣のビルの噂聞きましたよ、よなよな自殺した社長がでるんでしょう? 」
冗談とも本気ともつかない表現で話題を振ってみる。
「馬鹿言ってんじゃねーよ。 あそこの社長は、まだ生きている。 そもそも、あの程度でくたばる玉じゃない。 ……ああでもなんか、夜に誰かいるようなことは聞いたことがある。昼間も休工中なのに音がするとか」
「おーやっぱ出るんですね! 」
タツマが追い打ちを掛ける。
「おめーは、ホラー好きか? 噂もほどほどにしとけ。 それと隣工区には、休工中でもセンサーがあって通報されるから、肝試しみたいなことはするなよ」
「分かりやした―!」
班長は呆れて、向こうに行ってしまった。
ケルン氏が怪訝な顔向けて質問してくる。
「出るんですか? 」
「知らない。 出ないんじゃない? 生きているって言っていたし」
「でっち上げたんですか! 」
「まぁね。実際、情報が得られたし、問題なしでしょう」
「夜に人がいること。作業中に工事音がする。 ですか……」
目的の情報が集まりつつある。
≪アルプ。 そっちはどうよ? ≫
≪昨日のセレンのバクドローンの情報を整理しています。 隣のビルへの通路にはセンサー類と監視カメラの設置を確認しました。 この監視網を潜り抜けるのは無理ですね。
今の工事現場からとの間には何もないようなので侵入するのであれば、今いるところからが最適ですね≫
なるほどね。
「ということです」
「どうゆうことです? 」
「単純に考えれば、こちらから飛び移れってことだね」
「無理でしょう……ビルの間を飛び越えるなんて正気ですか? 」
「まー行けるんじゃない?」
≪アルプ。次は、ビル間の調査をしてくれ。相手側のセンサーや監視カメラの確認だ ≫
≪了解です≫
「さてと、昼休みは終わりだ」
「……キツイ……」
--- 午後の作業が始まる
発泡コンクリート板の運搬になる。軽量であるがやはり重い。
掛け声を掛けながら、運んでいく。
「新人! コンクリートを一輪台車で運んでくれ! 」
「了解でーす」
タツマが了解し、運搬の準備を始める。
「タツマさん。少し……少し……休ませてもらえませんか」
ケルンはかなりへばっている。
―― デスクワークには、きつ過ぎたか。
「……班長。 あいつ休ませてもいいですか? 現場の清掃でもさせておきましょう」
「近頃のわけーもんは、体力無さ過ぎだろ! まぁいいだろ」
「じゃぁ、清掃用具渡しておきますね」
「おう。 あいつの面倒は、お前が見ろよ」
「へーい」
取り敢えず、班長の許可を得てケルンに新しい仕事を振り分ける。
「というわけで、周囲の掃除お願いね」
「……ありがとうございます」
「分かっていると思うけど。 本当に清掃だけする気じゃないよね? 」
「……」
「隣接ビルとの間の確認をお願い。 飛び移れそうな場所と、周囲のセンサやカメラ類。 それらを注視して対応して。 それと反対側のビルから監視役がいるから、屋上とか見られるところには絶対顔を晒さないでね」
「……」
「じゃぁ頑張って。 アルプも作業しながら調査しているから。 情報を共有しながら進めて。 決して怪しまれず、現場に溶け込みながらだからね」
注文の多い指令が飛ぶ。
「……了解です」
――アルプと2人なら何とかなるだろう。さてと、こっちもポイントを探さないと。
とにかく、タツマは動く。 コンクリートを運びながら、隣のビルに渡る方法を考える必要がある。
「まいったなー」
どこからか声が聞こえてくる。
先ほどの班長と周囲に数人が、何かを見ながら話し合いをしている。
“どうします。ここの工程が、かなり遅れています。 ここらで挽回しないと、後の工程に影響してしまいますよ”
“夜間作業か……。しかし、ガードマンは、急に対応できなって言ってきているしなー困ったな”
“いいんじゃないですか? いなくても。 流石に工事現場に入る人間もいないと思いますよ”
“しかし、一般人にもしもの事態が発生したら、大問題だぞ”
――おお? 何かあったか?
「どうしました? 」
タツマが、協議中の内容に顔を出す。 現場では、新人であるが、度胸のみで会話に加わる。 タツマが協議内容の資料に視線を落とすと、見ているモノを確認すると工程表のようだ。
「ああ、今日の新人じゃねーか……。 いやな。 業者のおっちゃんが、腰やっちゃって、作業が一人になっている工程があるんだよ。
2人での担当だから、徐々に遅れが目立ってきてな。できれば、夜間作業で間に合わせたいんだけど、ガードマンがいないんだよなー」
「ガードマンがいないと、問題あるんですか? 」
「作業中は、ガードマンがいることが絶対条件なんだ。 作業中にガードマンがいないと一般人がいたずらで現場に入ってケガなどの事故が発生すると、俺達の責任になって会社で医療費とか慰謝料払わないといけない契約になっているんだ」
「また、きついっすね。 ……トークンでもいいんですか? 」
「ああ。いたな! 規約には人間とトークンの区別はないな……。頼む。お前のを今晩貸してくれるか? 」
「いいですよ。 もし、必要であれば自分も対応しましょうか? それともう一人も一緒に対応するのは、どうです? 」
「まぁ……新人だしいいだろう! いや助かるわ。 よし! 夜間作業班の準備をしてくれ。 明日の朝までに仕上げるぞ! 」や! 」
悩んでいたグループが解散していく。 工程に目途が付いたことで、やる気になっている。
「おう。新人! 今日は早めに上がっていいぞ。 また夕方にお供を連れて来てくれや」
タツマが、新しい業務を引き受けると、夜勤になるため、昼を少し過ぎたぐらいであるが早めに切り上げさせられる。
仲間である、オーソン氏とアルプを連れ、近くに止めてあるオーソン氏の自動車に乗り込み、彼の自宅に向かう。
彼自身かなり疲れ切っている。
「収穫は?」
「……4Fに一角に防飛シートの空きがあります。 そこからであれば、向こうの工事エリアとの間に障害はありません」
ケルンが、回答してくる。
『周囲の状況は、調査完了です。 上階には、センサー類はありませんね。 カメラも検知できませんでした』
「了解だ。 今晩、夜間作業の確約を取ってきた。 体制を整えて再度出直しだ」
「問題の核心部分過ぎません? 治安維持庁や情報庁に任せた方が良くないでしょうか? 」
「証拠が、まだ確認できていない。 それにあいつらは、大勢で乗り込んで来るだろ。 気づかれでもしてみろ。ドカンで、更地だぞ」
「……」
「アルプ。 セレンも利用する。 戻ったら作戦会議だ」
『了解です』
「オーソンさん、銃の経験は?」
タツマがオーソンに視線を向ける。 彼もかつてのレジスタンスであれば、多少の経験を期待している。
「威嚇までです。 人を殺めたことはないです……あなたは?」
「職業柄、やらないと やられる 激しい職場でね」
「……」
「それでどうする? 」
「どうするとは? 」
「隣接ビルへの侵入だ」
「支援程度であれば対応できます。 しかし、作戦はあるんですか? 隣のビルに移る方法やTF型の対処方法が確定していませんよ? 治安維持庁のバックアップ無しで本当に大丈夫なんでしょうか? 」
心配そうにこちらを見てくる。
「そこは、うちの艦長に聞きますか。 何もしていない訳が、ないし」
「セレンとかいうトークンですか? それにしてもトークンに単独で名前を付けるとは、珍しいですね」
「まーね」
自動車は、オーソン宅まで渋滞に巻き込まれながら進んでいく。
*
オーソン宅に到着し、早速、会議を開始する。オーソン嬢はともかく、サナエさんにも加わってもらう。
ガレージに集まったのは、オーソン氏・アルプ・セレン・そしてサナエさんである。
「それで目途が付いてそこに侵入すると? 私を呼んだ訳を聞こうかしら? 」
サナエさんが足を組みながら聞いてくる。
「例の軽量スーツを貸してほしい。 ビル間を飛び越えないといけないんだ。それとここから彼の一家と共に逃げて欲しいんだ。」
「軽量パワードスーツは貸すわよ。しかし、旦那を危険地帯において逃げろと? 馬鹿じゃないの? 」
「そこを頼むよ。 君は、マールスのAI分野の進歩に欠かせない人物になる。セレンの改造を見ればわかる。 逃げてくれ」
「残念。 お断り。 私を死なせたくなかったら、ミッションを成功させて生きて戻ってきなさい」
サナエさんの頑固で我儘な性格が、ここでも発揮される。
『タツマ。 マスターがこうなった以上、絶対に意見を変えることはありません』
アルプからの指摘が入る。
―― 困ったお嬢さんだよ。 まったく。
しかし、ここで押し問答しても時間を費やすだけである。 作戦協議に移る。
「セレン。 対応はどう考える」
『工事中の施工図は、ケルン氏の支援で入手済みです。 周囲は鉄鋼で床までのできている状況です。 進入路を提示します』
画像が投影される。
『4Fの防飛シートの抜けから軽量型パワードスーツを用いればこの程度の距離なら問題ないでしょう。
TF型は重量の関係から1Fなど移動が少ない場所で組み立てられていると思われます。 そのため、フロアを降りる方向に向かってください。
その際、周囲のセンサー類に注意を払う必要があるため、バグドローンで調査しながら進むことになります』
―― 確かに重機を使っての組み立てとなるとそうなるか。
『そして、TF型の対応方法法としては、解除するしかないですね』
「できるの? 」
『系統図と回路図は手に入れてあります』
図面が投影される。
「模様にしか見えない……」
『起爆信号によりバッテリーから高電圧が供給され、オネガソンを起爆、その後多重水素の融合へと進みます。そのため、最初の起爆信号のラインを破壊すれば、爆発は止められます』
「映画にでてくるやつ?赤の線とか?青の線とか?」
『問題は、プリント配線になっているので裁断器具でバッサリとはいかないところです。配線を目視で確認して破壊する必要があるところです』
破壊用のピック見たなものを出してくる。
「基盤ごと破壊すればいいじゃない」
『想定ですが制御ラインも同じ基板上にあるはずです。制御ラインの電源が断線すると起爆する仕組みですので、安易な破壊は厳禁です。 そしてこれはタツマの仕事になります』
―― まじかー。このピック見たいなドリルで配線を削るのか……何気に責任重大じゃない?
「……アルプがガードマン。 セレンと私が解除班。オーソン氏は支援ってところか? 」
『最善です』
「了解です」
人員も配置も決まった。さてと、最終作戦に出向きますか。




