宴の終焉
--- エリス配下のホテル
案内された最上階の最上階のスイートには、女帝・オーソン嬢・ゴルディー氏・支配人が、既に待っている。
早速、女帝が、口を開く。
「遅かったわね」
「まぁね。 主役を退場させるのに手間取った」
負ぶっているサナエさんは、熟睡中である。
「アルプ、セレン。 彼女のスーツを脱がして、休ませておいて」
『了解です』
トークンの二体が彼女を隣の部屋に連れていく。
―― 部屋が広いって便利。
「さてと、役者が揃ったとろことで、今後対応を考えましょうか。 あなたが、報道準備って言っていたけど、メディアを使って何をするのかしら? 」
女帝が、先ほどのタツマの送ったメッセージの内容を確認してくる。
「あれね……そこの元将軍様に一芝居打ってもらおうと思ってさ。 ストーリーは、”アルゴス内部の反乱を企てたタニアとそれに組した軍の上層部が、兵士に信頼のある退役少将を人質に取り、退役少将からの命令かのように、彼を慕う人間に武器を渡し、大規模な反乱を企てた”ことにする。
実際の部署は分からないが、アルゴスのどこかの中将が、タニアから武器供与の密約を取っているはずだ。
反乱の理由は、“以前から軍務改革を推進する彼の行動と彼の兵士からの信頼を危惧への対応として彼を排除する目的”でつじつまを合わせる。
アルゴスの将軍らは、外国勢力と結託し邪魔者を排除しようとしたが、今回事前に対応できた体にする。 実際にタニアの工作員の画像もあるため、彼らをタニア側の主犯とする。
そして、今回の計画の動機ともなった軍の改革を促すこの論文を公表することで、話にさらなる信ぴょう性を持たせるってところかな」
「相変わらず、よく思いつくわね。 反乱の主犯をゴルディー氏から軍務庁の高級将校に押し付けるのね」
「簡単に言えばね。 アルゴス政府にも一芝居打ってもらいますよ。 隣にいたでしょ? 執政官」
「まったく。 よく見ているわね」
「貴方もたいがい、目立つんですよ」
「彼ら……傭兵への対応はどうなる?」
ゴルディー氏が、自分の目的達成に関して質問してくる。
「今回の対応だけでは、無理ですよ。 それに、この程度で全てのことが、片付けば苦労しませんよ。 ご存じでしょう? 」
タツマが、現状を指摘する。
「……」
ゴルディー氏は、黙っている。
「これからは、拾った命をどう使うか? 自分の目的は、自分で達成するしかないと思いますが? 」
「……」
「今回はその目的達成の障壁の1つをリスクなく取り除けるんです。それだけでも儲けものと思いますよ」
「……」
「貴方がなぜ傭兵への待遇にこだわっているかは聞きませんが、もし本当に目的を実現したのであれば、達成可能な方法を探してください。 少なくとも今回の案件は、反乱により政府を恫喝する方法では、不可能です」
「そうだな。追い詰められて周囲が見えなかったかもしれないな。助かったよ」
「この提案は、大サービスですから。 このサービスをしっかり使い切ってくださいね」
タツマがゴルディーに念押しをする。
「ふふふ。 それではゴルディー将軍これからのお話のため、少しいいかしら、貴方への疑義も晴らさないといけなし」
そういって、支配人兼工作員と共にトリフィナが、ゴルディー将軍と部屋から出て行った。 サナエさんは寝ている。
もう荒事はないと思うが、念のため最新版のコンバットスーツを確認しておくか?
「オーソン嬢。 スマイル号を確認したいんだけど―― キー持っている? 」
「いいですよ。 付いていきますよ。 うちもタツマさんに聞きたいことがあります」
--- オーソン嬢とタツマの2人で部屋を出て廊下からエレベータへ向かう。
オーソン嬢がいつもの明るい表情から、陰鬱かつ低いトーンでのこちらに質問をしてくる。
「タツマさん。 ゴルディーさんに言っていた“白翼の騎士団”ってあの集団ですか?」
「まぁね」
「タツマさんはその“白翼の騎士団”ってかかわりがあるんですか? エージェントって言っていましたけど」
「なぜそんなことを」
「プロメンテへのテッサリア進行の原因は、白翼の騎士団聞いていました。 タツマさんらがいたから、戦争になったんですか? 」
「……そうだね。 つけ入られたと言われればそうなる。言い訳はしないさ」
―― タニアの権謀術数が原因であることは、知れわたっている。 しかし、根本原因は“白翼の騎士団”の存在に間違いは、ない。
「……うちに運転技術を教えてた師匠は、あの戦いの砲撃で命を落としました」
「……そうか……」
「今。私がこうして運輸業に付けているのも師匠の指導のおかげなんです」
「……」
タツマは無言で、目的地向かうが、オーソン嬢もその後をついてくる。
--- エレベータに乗車して地下駐車場に向かう
「周りを巻き込んで、あの戦争では、住民にも被害が出ました」
「住民に被害が出ていることは、承知はしている。 言い訳がましいが最小限被害にする努力はした」
「あんな年増の言いなりに動いて、周囲に被害出して。 社長は、タツマさんの事を尊敬しているようですが、うちには、そうは思えません」
「――そうだな。 私は尊敬に値する人間でもないしな」
タツマには、それ以上の言葉が無い。
「あなたの正義は何ですか?」
「正義ねー何だろう。 こればかりは難しい質問だよ。」
どの質問ものらりくらり交わしているその解答に、徐々にオーソン嬢の発言に怒気が籠ってくる。
「いつも、へらへらして、どうしてそんな風にいられるんですか! あんなのに良いよう使われて! 危険な目にも合ってる。 おまけにねーさんも巻き込んでいるんですよ! 」
「まぁ色々あるんだよ。 でも、これでテンペ大陸の案件も終わりだ。 私もこれでマールスから、いなくなる予定だ。 安心してくれ」
オーソン嬢の顔は、さらに不満が募っている。
--- スマイル号の前に到着
「荷台のカギを開けてもらえるかな? 」
鍵と扉を開けてもらう。
―― さてと、コンバットスーツは……あるね。それも白色か――因縁深い色にしてくれたものだよ。
「これが、例のやつですか」
「まーね」
コンバットスーツを確認してオーソン嬢の不満が爆発する。
「さっき……マールスから、いなくなるとか言っていましたけど! うちが問題にしているのは、タツマさんがいるいないの意味じゃありません! あんな年増に従って、にねーさんを巻き込んで何をしているのかと言うことです。 ねーさんは! ねーさんは少なくとも……」
「……」
タツマが困った顔をしている。
「うちは、“白翼の騎士団”が、義賊とは思えません! 」
「……」
彼女はキーをこちらに投げてよこし、荷台を降りて去っていった。
まぁ憎まれ役も板についていきたな。 アルプがいれば場を和ましてくれたんだけど。
“白翼の騎士団”のコンバットスーツは、最新モデルに更新されている。
着脱する個所の一部が自動化にできるタイプになっている。
「実際の性能は、セレンかアルプがいないと分からないな」
「貴方も女性泣かせね」
不意に後ろから声が掛けられる。
―― ここまでついてきたのか。
「女性に泣かされている側だと思いますけど? 特定の2人……3人に。 ゴルディーさんをほっといて、いいんですか? 」
「疲れているから少し休ませようかと思って――彼女がオーソン・イーノかしら」
「女帝が、このような場所に如何用ですか? 」
「オーソンさんの雰囲気が少し気になってね。 とりあえず、アルゴスへの根回しは済んだわ。 エリスお抱えのメディアもあるから。 ここの執政官にも了解を得ている。
反乱がなくなってほっとしているみたい。 それに、小賢しい現高級将校の排除にも乗り気よ。 武官府内でも評判が悪かったし良いんじゃない? 」
「傭兵の案件は、話していないんでしょう? 」
「まーそっちは、別件だし。 興味がないわ。 それに彼の仕事に口を出す気もないし」
「はいはい――サナエさんを引き込んだのは、私への軛ですか?」
タツマの発言トーンが落ちる。
「そうよ。 ヒルベルト商会のハッピーカムカム号の駐留費と商会の財務状況で説明したら快く手を貸してくれたわー。 ホントの感謝ね」
――こいつ本当に他人をとことんまで利用するな。 宇宙ステーションは、そもそもエリス管轄だろ。
「最初から疑問だったんですよね……なぜあなたが、タニアにこだわるのか。 共生同盟でしたっけ? 本来であればタニアを懐柔するほうが、効果的なはずだ。なのに、作戦としては敵対する方向になっている」
彼女の余裕も一気に消え、警戒心が全面に出てくる。
「……親子そろって、勘が鋭いのね。」
「テンペ大陸とティファー大陸の境の都市ベルナール。 精神科医だったんですね。今からおおよそ10年前の……」
「止めてもらえるかしら。人には触れて欲しくない過去もあるのよ」
「私は状況しか確認していない推測ですけどね。 はっきり言って無理ですよ」
「あの人と同じことを言うのね」
「主要4カ国の経済規模は確かに大きい。ですが、他の3つは都市国家に対して、タニアは大陸国家だ。国力が違い過ぎる……そんなことは、わかっているって顔ですね」
「……マールス人でもないのに人の心が読めるね」
「自己満足のために、各国の人の命をチップに大博打を行うのは、どうかと思いますけど? 」
「復讐心がここまで、私を突き動かしてきたの。 ここでこの気持ちがなくなれば、自分が、自分でいられなくなる」
「うちの親父との結婚も戦略的なものだったんですかね。 それでも、うちの親父は喜んでいましたよ。 あれが、あなたの企みを見抜けないと思えない。
年甲斐もなく口が達者で異性にもモテていましたから、傍にいれば、結構、いや今も楽しいんじゃないですか? 」
「……」
彼女は黙っている。
「アルゴスの件は、仕上げますよ。これで主要3か国を同盟に目途がつけられそうですね。 ここまでは、あなたの筋書き通りって訳だ」
スマイル号の荷台のカギを閉め、彼女を残して駐車場を離れる。
「人生の選択を誤ること無きよう」
タツマはそう言い残して駐車場を後にする。
難儀な人生だな。
--- アルゴスの反乱未遂の終幕
あれから5日が経過している。 アルゴス政府による反乱に加担した高級将校への糾弾が発生し、武官府内部は混乱に陥っている。 当の本人たちは、“濡れ衣”との弁明を実施するも証拠も出てきており、タニア政府との癒着も疑われている。
実際、8割は濡れ衣だけどね。 ただ、タニアから武器供与させて反乱を教唆したのは、弁明の余地はないけど。
ゴルディー元少将も報道に出ることで、自分の置かれた環境と嵌められた状況を説明したようだ。 9割方は、虚構であるが。
最終的に罪に問われたのは、高級将校のみで事件の幕引きが完了した。
加えてここから今回の発端となった、軍務庁の改革案を上げることになる。
内容は、組織の合理化による兵士への待遇向上と高級幹部と縮小となっており、握りつぶされていた内容になっている。
--- 報道番組を流れているスイートルーム
室内には、ゴロゴロしているサナエさんとアルプとセレン。
そしてちょっと距離が出ているオーソン嬢がいる。女帝は既にエリスに戻っている。
「これで、テンペ大陸の案件も終わりだな。さてと、セレン。今度こそテラに戻るぞ!」
『了解です』
「えーいっちゃうの? 」
「まあね。 もう仕事は、終わったし。サナエさんもアルプももう危険なことをしなくて済む。 危険手当は、あの年増から貰えばいいさ。 そして、“白翼の騎士団”は、マールスに二度と現れない」
お茶を口に含む。
「サナエさんはこれからどうするの? 」
「決めてないけど、ヒルベルト商会の役員だから、私もテラに行くわよ」
その提案にタツマが渋い顔をする。
「うーん。マールス人なんだから残った方がいいんじゃない? 」
「なに? 着いて来てほしくないわけ? 」
「ねーさん。本当にこの人についていくんですか? プロメンテに残りません? 」
「……」
サナエさんは少し驚いた様子で彼女を見る。
「それがいいと思うよ。 惑星間貿易商は海賊に襲われる危険性もあるし。 言われているほど、楽ではないし」
「セレンの管理は、どうするのよ」
「考えてなかった――なんとかなるでしょう」
タツマは意外に楽観的に考えている。 事実、今までも何とか動いていた経験があるからだろう。
「やっぱり私もテラに行くわ。 セレンの管理は、あんたの親父に頼まれた仕事だし。 イーノは、どうするの? 」
「私は……折角テンペ大陸まできたので、故郷に里帰りしようかと。兄貴や親に会おうと思って。 それから、プロメンテに戻ります」
「たしか、アルバテラだったわね」
「ええ、会社の上長に申請して、休暇を貰おうかと」
「そうねー途中まで私たちといたことにしてもいいわよ。 そのほうが、有休も少なくてすむでしょう! 口裏は合わせるわ」
「ありがとうございます」
その後、ホテルをチェックアウトし、ホテルのロビーから彼女を見送った。 オーソン嬢は、空港方面の旅客車両に乗り込んで行ってしまった。
スマイル号を届けるまでが彼女の仕事であるため、カーゴ車両はこちらに残すことになる。
アルバテラは、プロメンテより少し大きいくらいの都市国家である。
しかし、空港があるとは、羨ましい。
「あなた。 彼女に何言ったのよ? 」
「何も。 事実を言ったのみさ」
「まったく。 少しは女性の気持ちを考えて発言しなさいよね。 何でもストレートいえば良いってもんじゃないくらい、貴方ならわかるでしょう? 子供じゃないんだから」
サナエさんの説教を受けることになる。
―― 自分の業も分かっているさ
「わかったよ。 しかし、本当について来るの? 」
「そうよ。 テラとか行ってみたいし。 それに、いまのハッピーカムカム号は、その辺の海賊では、相手にならないわよ。 はっきり言って、この星系でもっとも安全な商業宇宙船よ」
―― セレンを改造したようだけど、一体何をしたんだか。
「とりあえず、スマイル号もあるから、アルゴスの港から船でガレに向かってそこから、エリスかな」
「いいんじゃない」
地下駐車場のスマイル号に乗り、アルプが運転手となる。 セレンは荷台に再び乗っている。
「またこの構図ね」
「やっぱりこの絵面が落ち着くわね」
ラジオを付けると軽快な音楽が流れる。
「さぁアルゴスの港にしゅっぱーつ。そこから、ガレからエリスよ!! 」
サナエさんから発破が掛かる。
―― 元気そうで、何よりです。
つづく




