悍婦大立ち回り
--- 催事場 格闘技大会
ホテルの上階では、反乱阻止に向けた緊張したやり取りが続いている。 一方で催事場では男臭い格闘技大会の催が佳境に入っている。
事実、メインイベントで会場のボルテージは最高潮に達している一方で、格闘技そっちのけでサナエさんの不満も最高潮に達している。 珍しくお酒を飲んで、セレン相手にくだを巻いている。
オーソン嬢という話し相手もおらず、荷物持ちのトークンを引っ張り出して話し相手にしているようだ。
「なによ! 彼女がそんな良いわけ! 確かに可愛い系だけど。 なに? 時代はそっちなの? 綺麗系はダメなの?」
『サナエさんは、少し素直になった方がいいと思いますよ。 彼女の魅力は、かわいい系かもしれませんが、それ以上に純朴なところが最もポイントが高いですし』
「なーにが純朴よ。まぁあ可愛いのは認めるけど」
面倒くさい状況になっているが、トークン故、気長に対応できている。
うだうだやっている両名に声をかける人物が現れる。
「おや、キャミャエル博士では、ないですか?」
突然、名前を呼ばれ、そちらに視線を向けるサナエさん。
視線の先には、色男がいる。 なかなかのイケメンである。
「……誰よ? 」
「ハハハ。これは手厳しい。同じ大学で研究していた仲じゃないですか? 」
「ふーん、何か用?」
「博士は、こんなところでなにを」
「べっつにー。 誘われたからいるだけー」
「そうですか……私もようやく教授ですよ。 あなたが、急に辞めると言い出して、研究科は、結構ごたついたんですよ? 」
「へー」
サナエさん自身、彼に興味がないようである。 どちらかと言えば、のけ者にされて居る方の鬱憤がつよい。
「大学を辞めて、今はなにを」
「いいじゃない。 何をしていても」
「そちらは、貴方が開発した次世代トークンでしたっけ。随分と使いこんでいますね」
セレンを見ているようだ。 外見だけではアルプもセレンにも似通っており、一見さんでは見分けは付かないだろう。
それに今のセレンは、戦場を駆け巡っていたので、修理したといえ、ボディなど外見はかなり傷がある。
「どうです? 私の力でまた、大学に戻してあげましょうか? 」
「結構よ。 今の生活も楽しいし」
「そうでしょうか? ボロボロのトークンと共に、こんな退廃的なパーティーに参加しているのでしょう。 どうです。 もう一度戻ってきませんか」
しつこい勧誘にサナエさんも彼の意図が気になる。
「何が目的よ」
「大学に戻る代わりに、私と付き合いませんか?こう見えても学内では結構な力があるんですよ」
「その指にはめているのは何? あんた配偶者いるんでしょ? 愛人にでもなれっていうの? 他の人を当たったら? 馬鹿らしい」
こんなところにもテラ文化が浸透している。
『サナエさんには、既に意中の人がいるので貴方が入る余地はありません。 残念ですがお引き取りを』
セレンからの言葉を聞いて、男は途端に態度を豹変させる。
「ふん。私よりいい男なんてそうはいないぞ。 まぁ。お前も急に外に出て、そこら辺のチンピラにほれ込んだんだろう? お嬢様がよく陥るパターンだ。 冷静に考えろ? そんな奴と一緒にいてお前が幸せになれるのか? 」
「……」
サナエさんはグラスの中の酒を見つめている。
「そんな下賤な男ではなく、私と共に来た方がよっぽど優雅な生活が送れるぞ」
「はー。了見が狭い男って見苦しいわ。消えて」
「いい気になるなよ。 お前は、こんなポンコツを連れて歩いて惨めだとは思わないのか? 」
「それをポンコツと言っている時点で、貴方の負けよ」
セレンがサナエさんの前で出る。
『お引き取りください。今サナエさんは、機嫌が悪いので』
その行為と発言が、彼の琴線に触れる。
「どけ! ポンコツ! トークンの分際でキャミャエル博士をファーストネームで呼ぶな! 分をわきまえろ! 」
セレンを突き飛ばす。 さすがに、オーバーテクノロジーに手を上げられたら、サナエさんもカチンとなり、目が座る。
「いいわ。 私に勝ったら愛人にでもなんでもなってあげる」
「はっ? 何を言い出すかと思えば」
「あそこにリングあるでしょう? 使わせてもらいましょうよ」
サナエさんの視線の先には、メインイベントが終わり、格闘大会のセットも作業員により撤収が始まろうとしている。
「正気か? お前」
「まぁーね。 今色々鬱憤がたまっているからサンドバックを殴りたい気分なの」
『サナエさん。やめてください』
「ポンコツは黙っていろ! いいだろう」
色男は、大きな声で作業者を呼び止めながらリングのほうに歩いていく。
「そこの係員、片付けるのは少しまってくれ。体を動かしたい」
『よろしいのですか? 』
「貴方、支援しなさい」
『しかし、軽量型パワードスーツといえども、作業用をさらに準戦闘用に改造を施しています。 生身相手での戦闘装備ではないですよ。最悪は……』
「そこは調整しなさい」
『難題を』
「それと意中の人って何よ? 」
『そのままの意味ですよ』
リング側から大声で“準備ができだぞー”との声が掛かる。
「まぁいいわ。どうせむしゃくしゃしていたんだから。まずはストレス解消するわよ」
『了解です』
--- リング上
係員からヘッドギアと競技用のグローブを渡されながら、心配そうにサナエさんに尋ねてくる。
「あのー本当にやるんですか?」
「そうよ。なにか?」
彼は上着を脱ぐ。しまっている肉体を見せつけるかのようだ。
「これでも、学生時代から格闘技をしていてね。街中のチンピラ程度の喧嘩なら負けなしだったんだよ」
どうやら武勇伝と肉体自慢らしい。
「へー」
サナエさんも上着を脱ぐ、一瞬どよめきが起こったが、下には例の軽量型パワードスーツの黒色のダイビングスーツ装着のような姿になる。
サナエさんオリジナルのため、マールスには現在2着しか存在していない代物になっている。
しかし、軽量型パワードスーツは、体にフィットしている分、体のラインがかなり強調されている。
そのため男性からの好奇の目に晒されているが、彼女自身あまりその視線に関心がないようである。
セレンにグローブを付けてもらう。
『お酒をのんでいますが、体調は大丈夫ですか? 』
「何とかなるでしょ」
「ほー対衝撃スーツでも着ているのか? まぁいいだろう。 ハンデは必要だしな」
彼はやる気でいる。
「さぁ、そのゴングを鳴らせ! 開始だ」
色男の指示で係員がゴングを鳴らし試合が開始される。
相手はいきなり顔狙いで打ち込んでくる。
左右のジャブが飛んでくるが、サナエさんが無駄のないステップでかわしていく。
サナエさん自身が、意図せず大きくバックステップをすると、突如目の前に相手の上段蹴りが空を切る。
セレンからの操作により間一髪を逃れる。
「ちょっと! 何でもありなの?」
返答はない。相手もの本気のようだ。
「スポーツじゃないのこれ?」
呟くが、相手はこちらからの質問には無視している。
引き続き間合いを詰めてくる。左からの下段ケリに右足でのガードを試みる。
相手は蹴った衝撃なのか顔が歪みいったんサナエさんと距離を取る。
サナエさんはノーダメージ。
相手はケリ技中心で攻めてくる。
上段蹴りで顔面を狙ってくるが、それを躱すと、次の手として左フック飛んでくる。
サナエさんも右腕でガードする。 継ぐ手として相手の右のジャブが来るが、サナエさんは左で弾く。
再度の右の中断蹴りは、左腕で捌いていく。 かなりの前のめりの攻めが続く。
左腕で捌いていた瞬間、相手のバランスが崩れる。 サナエさんとしては、その隙に一撃を入れようとした際に、1ランドが終了する。
双方がコーナーに戻る。相手の色男は、大分息が上がっている。
サナエさんは、トークンとスーツに身を任せているため特に疲れていない。
「ねー。 何でもありなの? これ」
話しかけても、息が切れているため相手からの何の返事はない。
相手からの怒涛の攻撃に対して、サナエは一回も攻撃をしていないのもあるのかもしれない。
反応が無いことにウンザリしているサナエさん。
「セレン。 飽きた。 次で終わりにして」
『早くないですか? 』
「だって。 もうへばっているし。 これ以上見るものないでしょう? 時間の無駄よ。 あれだけ自慢しているのに大したことないし」
『了解です』
第二ラウンドのゴングが鳴る。 相手の色男がファイティングポーズを取っているが、守りの姿勢に転じている。 先ほどのラッシュで体力を使い切っているようだ。
刹那、サナエさんは、1m半の距離を瞬時につめ、ボディーへの攻撃が男性の腹部を捉える。軽量型といっても、200kgを持ち上げられる力になる。
そもそも作業用であり、いくらスポーツの用の安全グローブを付けていても、その威力は、けた違いになる。 彼の意識は飛び、リングロープまで飛ばされ、そのままロープもたれ掛かることになる。
周囲の観客は一瞬の出来事に場が静まる。
係員が、ゴングを鳴らし試合終了の合図を知らせる。
「いえーい。 しょうりー! さぁ終了、終了」
サナエさんが、勝利宣言を上げ、サナエさんが、リングを降りようとする
この妙な催しものは、ここで終了するかに思えた。
しかし、一人の大柄な男が寄ってくる。
「なぁ。 ねーちゃん。 俺と一戦できないか? あんたの動き気に入った。 ぜひ手合わせして欲しんだ。 ルールは守る」
なんか変な方向にことが動いている。
「いいわよ。 腕自慢は掛かってらっしゃい。 特に、ボディーガードの皆さーん。 ホテル内で退屈しているのでしょう。 ルールに沿って対戦できるわよー」
『サナエさん……』
タツマが、すぐに調子に乗るから、対応よろしく言っていたがこれのことか。 しかし、どんどん話は進んでいき、セレンの介在する間が無くなる。
ルールは3分間、最初から全力、足の裏以外が、リングについても終了とのこと。
列ができている。自分のボディーガードを戦わせるため、オーナーにも熱が入る。
サナエさんサイドが負けることはないが、時たまのドローに周囲から歓声の声が聞こえる。ドローにするだけでも盛り上がる状況である。
「あの娘……何やっているのかしら? 」
スキュレス女史も呆れ顔で、事態を眺めている。
タツマから、<目標を確保した。自動車を用意しておけ> の連絡が来ている。
そこまでは良いのだが、問題はその後、報道の準備をしておけとのこと。
「まったく。何をする気なのかしらね-」
とりあえず、自動車の準備だけは完了している。
<キャミャエル博士の催しで、1Fの催事場は大いに盛り上がっているわよ>
メッセージを送信する。
<詳細は後で聞く。 まずは、B1Fから出る>
<了解>
「まったく。破天荒な娘なこと」
スキュレス女史は、呟きを残しながらB1Fへ向かっていく。
*
エレベータの電子音がなり、ゴルディー氏がエレベータから降りてくる。
「はじめまして、ゴルディーさん」
スキュレス女史は、笑顔で対象者を迎える。
「誰かと思えば、女帝さまのお出ましか。 なるほど、小僧の言っていた“白翼の騎士団”か――流石だな。 エリス 」
「送迎車を用意したわ、乗っていきなさい。 オーソンさんもね。 ホテル内の荷物は、こちらで全て対応するわ。 安心しなさい」
「どこにいくんです?」
「我々のホテルよ」
二人の会話にタツマが入る。
「何かサナエさんが、盛り上げているって何しているの? 」
「自由参加型の手合わせってところかしら?」
「目立つなって言っているのに」
タツマの顔が曇る。 状況によっては命を狙われるかもしれない状況である。 本人はそれを気に留めていなのも問題だが、ここで唸っていても仕方ない。
「彼女を回収してきなさい。 車両はもう一台運転手付きであるから、自由に使って。 あなたの方も、グリーンレイク観光経由で対応するから、ここに戻ることはないわ。それじゃあねー」
自動車は出ていった。
『どうします? 』
アルプが、質問してくる。
「回収する。 まったく」
そういって上階に上がるタツマ一行。
1Fの催事場に到着したタツマ達は、その熱気に愕然としている。
催事場のリングは、それなりに盛り上がっている。
「どうなのー。まだやれる人はいなのー」
サナエさんの声が響いている。
「まったく。 アルプのマスターは、何をしているんだい? 」
『……かなり酔っているようです。 状況から見るにセレンさんも制御できなかったようですね』
「それにあのパッツパツの格好は、軽量型だろ? 」
『ええ。 こちらもタツマも装備していますが、向こうの方は、改造していますね』
「もー天才って何考えているのか分からんね」
『同感です。対応は? 』
「戦って連れ出す。 支援を頼む。 それとセレンとの間接バトルだ」
『燃えますね。 資力をつくします』
―― 感情的なトークンだこと。
制服の帽子を深めに被り、リングに上がる。 周囲からは、顔がよく判別できないが、ホテルマンが、リングに上ったことはわかるようだ。
「おお、ようやくお出ましね。 のけ者にした罪。 償ってもらうんだから」
サナエさんから宣戦布告の煽り発言がある。
「お客様、会場の撤去もありますので、そろそろお開きにさせていただきますね」
「やれるもんなら、やってみなさいよー」
ゴングと共に応酬が始まる。
サナエさんからの複数のジャブを交わしながら、タツマがサナエさんの鳩尾に打撃を与えるが、固い。
――うそだろ? 改造品故の強度か?
サナエさんが後ろに衝撃で下がるが直ぐに体制をと整える。
「その程度じゃ私は倒せないわよ! 」
刹那、1mの距離をつめられ右フックが来る、ガードは間に合ったが、手がしびれる。
―― 流石アルプのフォロー……しかし、速いし重い
おお。周囲からどよめきが聞こえる。あれを防いだのが凄いらしい。
「へーやるじゃない! 」
うすら笑いを浮かべるサナエさん。
――酔い過ぎだろう! しかし、どうしたもんかね。 アルプの経験則でギリギリ何とかしているが、長丁場になればこちらの不利は明白。 それにあの装甲を打撃で停止させるのは無理だぞ。
≪タツマ。打撃で倒すのは不可能です。スーツ性能は、向こうが上。 土を着かせるしかないでしょう≫
アルプからの指南が、降りて来る。 ルール通りに決着を付ける。
≪そうはいっても簡単に転んでくれるかね……≫
≪相手の動きとパターンを見切って、順次データ更新で即時対応します。 必ず相手より一手先に抜きんでるチャンスがあるはずです≫
≪了解だ。 アルプの今までの経験を見せてやれ! いくぞ≫
今度は、タツマから仕掛けて呼び水とする。
タツマの上段蹴りに対して、サナエさんは裏拳で対応し、攻撃を弾き飛ばしてくる。接触時の性能は圧倒的にサナエさんが上である。 体勢に僅かなぶれが生じる。
コンバットスーツの性能差は、いかんともしがたい。
弾かれ、タツマの体勢に僅かなぶれに着けこむかのように、サナエさんからの左足かかと落としが炸裂する。
アルプの軽量型制御により、辛うじて交わし、よろけながらもロープまで後退し難を逃れる。
サナエさんの攻撃の余波は、リングが揺れるほどになる。
―― 殺す気か!
しかしサナエさんは、攻勢をやめない。その勢いを殺さずに、タツマとの距離をいっきにつめ右ストレートがタツマを襲う。
アルプの予測プログラムにより辛うじてガードするが、重すぎる。しかし、サナエさんは手を緩めない。その勢いのまま上段廻し蹴りが顔面に飛んでくる。
一連の動作で、全ての動作が繋がっており、流れるように攻撃が続く。 大振りのように見えて次の一手がある。 小賢しい動きが続く。
腰を下げ、サナエさんの上段廻し蹴りを躱すが、身を丸めたため、タツマの行動が制限される。
―― このままだと押し切られる!
サナエさんは、身を丸めたタツマに対して、好機とみて中段蹴りのモーションが発生する。 今の状態でまともに喰らえば、完全に転がせられるのは、こちらになる。
―― くっそー
ここで、アルプからの昔日の経験則が発揮される。 タツマを撃ち抜こうしている足をとり、そのまま反対の足に足払いを仕掛け、サナエを転倒させることに成功する。
結果、サナエさんの背中がリングに着くことで試合終了となった。
流石のタツマも息が切れている。
「対戦ゲームじゃないんだぞ。 何なんだ。 あの人外の動き」
『人を使った対戦ゲームですね』
「勘弁してくれ」
「くっ……やったわね」
サナエさんが、あお向けて嘆いている。
「お客様暴れ……過ぎです。とり……あえず、酔っている……ようですので医務室に」
タツマの息も上がっている。
お姫様抱っこで連れ出そうと思ったが、重すぎるので負ぶることになる。
スーツ型といえどもパワードスーツのため、人工筋は特殊金属のため重量がある。
周囲からは、感嘆の声と拍手が起きている。背負っているサナエさんの声が聞こえる。
「ふふふ」
少し笑っているようだ。
「まったく。あんな大立周りしてー」
タツマが少々呆れた感じで不満を漏らす。
「いいじゃない。 ターゲットは確保したの? 」
「まぁね。後は締めが残っている」
「それはよかった」
そう言った後、寝息が聞こえてくる。
―― 困ったお嬢様だ
トークンと共に地下駐車場から自動車でホテルを後にする。




