脱出劇
--- レストルーム
レストルームでため息をつく、オーソン嬢がいる。
「はースキュレスが現われて……華やかな舞台なのに、もっとこう、ロマンスとかはないんですかね」
あまりの男性陣の猛攻に疲れ、とりあえず、休憩をとるためにレストルームに逃げ込んだ形だ。
「変なおっさんから、デビューとか言っていたけど、怪しさ満点すぎますよ。 小説とかでは、現状から連れ出してくる王子様とかいるのに。 それにしてもまたあそこに戻るのかー現実は世知辛い」
ぶつぶつ言いながら、レストルームを後にするオーソン嬢。
「お嬢様、ハンカチが落ちましたよ」
(おおこれは、王子様か?)
振り向くとホテルマンの正装をしたタツマが、ハンカチを持って立っている。
「ハー」
「露骨にため息つかれると傷つくんだけど」
ジト目でこちらを見てくる。
「ねーさんのものに手をだしたら、とんでもないことになりそうなので。 何ですか? それにハンカチなんか落としていませんよ」
「そういわず。 ね。 頼んだよ」
強制的にハンカチを渡して去っていく。
あの人も大変だな。 あのむかつくおばさんにこき使われているようだし。おまけに継母らしいし。 どんな経緯があったんだか。
タツマに対して少し悲哀を感じながら、ハンカチを見ると番号が書いてある。
「はいはい。 これを部屋までもってこいってことね。 ねーさんに報告ですね」
*
レストルームから戻るとソファーの周りに男性に囲まれているサナエさんが居る。多くの男性に口説かれながら会話を弾ませている。
「ホント。 ねーさんは、何者なんですかね? あれだけの男性をさばけるのが恐ろしい」
オーソン嬢が目で合図を送るとサナエさんは、直ぐに気づき席を立って、寄って来る。彼女はハンカチをサナエさんに渡し、ことを一通り説明する。
「でー。タツマにこれを渡されたと」
なぜか。むすっとしている。
「ええ。番号の意味は分かりせんけど」
「何となく理解できる。 おそらく、作戦が最終段階になっていんでしょうね。 じゃぁ、部屋に戻りましょ」
「いいんですか? ねーさんを待っている人が、向こうに結構いるっぽいですけど」
視線を今までサナエさんが座っていたソファーにやる。
「お話を面白くさせてもらったわ。 それだけで十分よ」
彼女の待ち人達に何かを話した後に解散させ、オーソン嬢と共に部屋に戻る。
--- ホテルの一室
サナエさんの部屋は2人用であるためスイートに近い広さがある。 荷物番のセレンもいる。 今回の宴にトークンがいると目立つため、留守番係になっている。
ベッドにダイブするオーソン嬢。
「あー、しんどいー。ここが一番ですねー」
「このハンカチの番号は、たぶん内線番号ね」
「直接、呼び出すんですか? 」
「まぁね。 特定の給仕にサービスを頼むことができるみたいだし。 じゃぁ掛けちゃいましょ」
躊躇なく室内の番号を押す。
≪どうも。333号室なんですけどルームサービス頼めます? ええ、料理番号は……≫
ねーさん行動が早い。
「さて完了。後は待つだけね」
「因みに何を頼んだんですか?」
「このホットサンドかしら」
「好きですねー。そうゆうの」
「いいじゃない。気に入ったんだから」
しばらくすると、呼び鈴がなる。ドアを開けるとホテルマン姿のタツマがいる。
「どうぞ、入って」
表向きの対応をするサナエさん。
「失礼します」
どうようにタツマもホテルの給仕としての振舞をする。
タツマが、部屋にはいると思ったよりひろい。調度品もかなり良いものを揃えている。
「似合っているわね。その恰好。いっそ就職したら? 」
ニヤニヤしながらサナエさんが煽ってくる。
「サナエさん……綺麗なんだけどもう少し抑えられないの? その恰好目立ちすぎ」
「普通じゃない。女優やモデルもいたけど、一番地味な服装よ」
一回転してドレスを見せてくる。なるほど、色こそ白と紺で地味であるが、素材が、際立っているため、服装が本人を引き立ててしまっている。
「セレン……」
『残念ですが、サナエさんの魅力では何を着ても一緒ですね』
「まーねー」
―― この自信は一体なんだよ。
そんなことを思いながら、ちらりとオーソン嬢に視線をやる。
「まー。ねーさんの存在自体が目立ちますからね。あの野暮ったいぶかぶかの装いじゃないと無理なんじゃないですか」
―― ここにも同じ意見を持つものがいたか。
「野暮ったくない。 あれは楽なのよ」
「それで、タツマさんここに来たってことはなんかあるんですか?」
オーソン嬢からの質問。
「ああ。ターゲットを見つけた。近日中に行動を起こす。そこで、オーソン嬢に協力してもらうと思って」
「うちが……ですか? 」
「そっ、君の美貌をもって目標を説得してもらう」
「無理ですよー。 ねーさんの方が適役でしょう! 」
「サナエさんは、目立ち過ぎるのよ。 それにモデルと遜色ないから、相手が警戒する可能性もある」
「それ、うちの外見けなしているんですか? 」
「まさか。 純朴というところがポイントなのよ。 親しみがある可愛さは、初対面では重要だからね」
「そっかー。 えへへへ」
照れている。可愛い。
「でっ、彼女を使ってターゲットをどうするのよ?」
なぜか、機嫌が悪そうなサナエさん。 そんなに威圧しなくてもいいじゃないですか。
「ターゲットを無傷で連れ出したい。 そうすれば反乱を止められる」
「じゃぁ。彼の意思はどうするの。生活が厳しい元傭兵を助けることは悪いことなの? 彼を説得できる材料はあるの?」
「本当ならそんなこと、どうでもいいんだけどね。 でも反乱は、抑えないといけないし、反乱で傭兵の生活苦が脱するとも考えられない。だから、そのための説得策は作ったよ」
――ホント、無用な責任まで負う自分の性格が嫌になる。
「わかったわ。私は何をすればいいの? 」
「今まで通り、パーティー楽しんで」
サナエさんは、タツマからの突き放された言葉に、何故か納得いかない顔をしている。
「うちは、どうすればいいですか。」
「そうねー。もう少し可愛い系のドレスはある」
「ありますけど。子供っぽいと思うんですが」
「それで結構」
「なんか子供の扱いしていません? 成人の女性ですから! 」
「はいはい。そうですねー」
「ふーん。 彼女とは楽しそうに話すのね」
サナエさんの視線が怖いんですが。
--- 作戦実行当日
奴らの会話を聞いていると、裏切りの2人は室内に閉じこもっているため鬱憤がたまっているようである。
そのため、本日行われる格闘技大会の観戦を見たいようだ。
どうやらそこに、タニアからの使者も来るようで、反乱計画最終段階を詰める模様だ。
「オーソン嬢。 準備は良い? 」
「大丈夫です」
格闘技のリングが設営され、前座の対戦だけでも盛り上がっている。
リング周囲は熱を帯びてきている。
熱気につられて、例の2人も催事場に降りてきてきた。
「上がるぞ」
アルプとオーソン嬢の3名での対応となる。鍵を用いて10Fにエレベータを上る。
「緊張しすぎて気持ち悪いです……」
住居の前に来て呼び鈴を押す。
「誰だ」
「ゴルディーさまより、彼女と面会したいとの要望がございまして、お連れいたしました」
「はぁぁ そんなことあるか! 」
「しかし、着信履歴がございまして。 確かにこの部屋からでしたので。 ゆえにエレベーターの借用もしております」
カメラに内線の端末を見せる。
確かに昨日のこの部屋からの着信履歴であると判明する。
メイド・トークンから掛けさせたんだけどね。
盗聴しているドローンから内部の会話が聞こえてくる。
“あの馬鹿どもか。この状況下でナンパでもしていたのか? ”
“確かに、かわいいな。ナンパしたい気もわからんでもないが”
“どうします? ”
“彼女もそれで稼いでいるんだ、いいだろう。入ってもらえば”
「タツマさん? 私コンパニオンか、そっちけいの設定なんですか? 」
「……まぁそんなところかな? 」
「もし何かあったら、責任取ってもらいますから」
オーソン嬢の視線が鋭くなる。
ドアが開き、中に入る。
彼女を連れて、室内に入ると2名がいる。 一人は写真の男と付き人が見える。
可愛い女性を前に少し警戒心が緩む。
「我々の同胞が誘ったようだね。 すまなかった……」
言い終わる前にメイド・トークンが、近くの工作員を捕まえる。
軽量型スーツの強制加速により案内役の工作員には、タツマが対応する。
手持ちのスタンガンを首筋に立てて、気絶させ、その流れでメイド・トークンが拘束した工作員も気絶させる。
瞬間に2人の対象を無力化に成功。、ターゲットは反応する間も立ち尽くすことしかできない。
「鮮やかだな。可愛い女性で油断したが、その後ろが本命か」
「どうも、お初にお目にかかります。ゴルディーさんでいらっしゃいますね」
「私を殺しにきたのか? 」
「まさか。ここから連れ出せとの命令ですので」
「素直に従うと思うか? 」
オーソン嬢が、ゴルディーに話しかける。
「アルゴス執政官から“反乱を実行しないなら、全てなかったことにする。部下が罪に問われるたくなければ、潔く散会しろ” とのことです。 今ならまだ間に合います。その反乱とか良くないと思うんですよ」
「貴様に何が分かるというんだ! 戦場では多くの人間が権力者の駒として利用されるんだぞ。 傭兵であれ、正規兵であれそこに差があるわけないだろう。
人を使い捨てにして、後ろで悠々自適に過ごす連中に何かをしないと彼らの処遇など変わりはしないんだ! 」
ゴルディー氏の剣幕が凄い。 しかし、押されることなく、タツマが話し出す。
「わかりますよ。 でっ。 勝ち目はあるんですか? 」
「勝ち負けの問題じゃない!! 認識させることが必要なんだ!! 」
「勝ち負けの問題ですよ。戦いなんだから。それはあなたが一番理解しているはずです」
「……」
ゴルディー氏は沈黙している。
「話は変わりますが、この反乱で失敗した場合、生き残った人間はどうなるんです? 」
「……」
「仮に貴方が責任を取って死ぬのは構いませんよ。 残った部下はどうなりますかね? 貴方に従ったが、リーダーがいない状況になる訳だ。制御が不能な武装集団が出来上がると思いますよ」
「……」
「アルゴスの地は荒れるでしょうね。この素敵な街並み荒廃する可能性が高い」
「そんなことは、わかっている!! それでも通さないといけない意地もあるんだ! 」
「因みに今回のタニアの武器供与。なんの裏もないと思っているんですか? 」
「おそらく、アルゴスの国力低下か武器供与による貸を作りたいぐらいだろう。でも今はそれ以上に、彼らの無念を晴らす時なんだ! 」
「本当にそれだけですかね? 」
「他に何があるんだ! 」
「内戦化したアルゴスで、タニアの自国民保護って言われたらどう思います? 」
「……タニア正規軍による国土の制圧」
「流石ですね。 その通りだと思いますよ。 あなたの考えはわかります。でもそれ以上を考えているのが彼らです。さて、改めて質問しますよ。矛を収めてくれませんか」
タツマは改めて落ち着いた態度で彼に接する。
「彼らの立場はどうなる? 結局、何もできずに終わるのか」
「そちらは、ある程度までなら、対応いたしますよ」
「貴様ら程度に何ができる! 」
「“白翼の騎士団”ってご存知ですか? 」
「得体のしれない風聞は聞いている。 それが本当であるとのことも……」
「私そこのエージェントをしておりまして、高官と話を付けますよ」
「! 」
「どーやって!! できるのものか!! 」
「完ぺきとはいきませんが、高級将校を排除するぐらいは可能ですよ」
「どうする気だ」
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**** 説明中 ****
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「どうです? ご満足いただけました?」
「私が……被害者になるのか? 手を貸してくれるタニアを裏切るのか? 」
「手を貸してくれるとの表現はどうでしょうか? それに、タニアに温情を感じるのは全くのお門違いですよ。 タニアは、貴方を利用し裏切りる算段です。 なので、裏切りの裏切りですかね。 メディア対応もこちらで準備しましょう。
その際の演技もお願いしますね。あなたの論文とやらも公表できる絶好の機会ですよ」
「しかし……」
「あまり時間がないので、即決で。 今1Fで格闘技観戦している彼らが戻ってきたらお終いです。 拒否するならそれもいいでしょう。 私はこの場所から去るだけですから」
「……わかった。 信じよう」
タツマは何かしら条件を付けて来ると思っていたため、少しその反応に訝しむ。
ゴルディーもタツマの不信感に直ぐに気づき、反応する。
「私もマールス人だ。 偽りの有無程度は、見抜けるのだよ。 特に捕虜の救出作戦を実施している身だ」
「そうでしたね」
「アルプ。 そこで伸びている人をす巻きにして。 襲われた体を作らないと、彼らの身も危なくなる。 それとメイド・トークンの映像データも消去しておいて」
『了解です』




