潜入 アルギューレ・海洋城
--- アルギューレ・海洋城 関係者詰め所
いつもの恒例行事が、始まる。
「本日からパーティーの期間。 臨時で入ってくれる、タツマ・スキュレスさんとアルプさんだ。両名ともパボニスのグリーンレイク社からの派遣だ。 みんなよろしく頼むよ」
「パボニス・シティ地区。グリーンレイク社から来ました。タツマ・スキュレスです。 よろしくお願いします」
『同じく彼の相棒をやっておりますアルプです。 よろしくお願いいたします』
何度目のくだりだ。これ?
青い繋ぎの作業服を着て挨拶をしている。 とりあえず、支援とのことなのでごみ処理関連の分担を割り当てられている。
“へー、パボニスねー”
“あそこの温泉いいよなー”
グリーンレイク観光のホスピタリティからの派遣という形になっている。
「どうだ、こんな都会初めてだろう? 」
ここの所長らしき人間が、都会感を出してくる。
「ええ。 都会と言えばパボニス・シティ地区が最大でしたから」
「そーだろう。 じゃぁまずは、リーダーについて行って、地下3Fでのごみ処理を頼むわ」
朝礼での2,3の会話の後、早速現場に派遣されることになる。
リーダーと呼ばれた人間が前に出てきて“俺に付いてこいと”とのことなのでその後を付いていく。
『よろしいのですか? 』
アルプが聞こえるか聞こえないかの声で聴いていくる。
「まずは従うことが賢明だ。 機会を待つんだ。 それにパーティー開催まで多少の時間もある」
移動中、リーダーの業務の軽い説明に相槌を打ちながら、ホテルの地下へと移動していく。
--- 地下3F
典型的な地下エリアになる。 駐車場兼ゴミの処理施設になっており、裏方の作業場にふさわしい雰囲気がある。
「いやー親方。 ここのホテル凄いっすね」
「まぁなこの辺りじゃ一番の豪華ホテルだからな」
「親方ってどこ出身なんですか? 」
「俺か? アルバテラの農村出身かな。 俺も都会に憧れて、アルゴスに来たんだ」
「へー」
「お前さん。パボニスに居たんだって? 」
「鉱山で働いていたんですよ。 流石にきつくて、グリーンレイク観光に拾ってもらった感じ何です。 まだ見習いで、とりあえずホスピタリティを学んで来いとの理由で派遣ですね」
「鉱山かー大変だったろう? 俺の友達も鉱山で働いていたからわかるよ」
「自分は鉄鋼石でしたけど、中々の重労働ですよ」
「わかるわー。 苦労しているじゃねーか……よし! 俺が色々おしえてやるよ」
「ありがとうございます。都会とかあんまり慣れていないので、よろしくお願いします」
地方出身者を全面的に押し出し、相手の株を上げてあげる。
「ところでスキュレスは、今回のパーティーに付いての情報はあるか? 」
「いえ。 大きなパーティーとしか」
「このパーティーはな、当ホテル6周年記念パーティーなんだ。10日間の連日イベント尽くしだ。 例年アルゴスの政財界だけでなくテンペ全土からこれに乗じて色んな客がくるとのことだ」
「へー。 みんなお金持ちっすね」
「応よ! リッチマンばかりが集まるパーティーだ」
「自分はそんなセレブのパーティーで何をすれば? 」
「上のフロアで出てきたゴミをここの地下で処理するんだ。 コンテナがエレベータで降りてくるから、それをこの箱にいれる仕事だ。簡単だろう。スイッチ一つで済む仕事だ」
「いいすっね。了解です」
まだそれほどではないが、ゴミの入った籠が下りて来る。それらはレールの上を動き焼却炉の前で止まる。
タツマの仕事はスイッチを入れ、焼却炉の扉を開き、籠を昇降させ中身を入れる作業になる。
ゴミが散らばったり時たま燃えないものまで入れる客もいるため、もしもの時の対応要員になる。 まさに支援に打ってつけの業務になる。
―― 仕事は楽でいいが、ここでは本来の案件に取り掛かれないな……
親方は、やり方を教えタツマの仕事っぷりを見ながら、業務に一定の慣れて来るのを感じると次の現場に向かう為、その場を去ろうとする。
その時、親方の携帯端末が鳴る。 タツマも気づき業務を行いながら聞き耳を立てる。
≪どうした? ≫
≪空調が効きづらいんですが、対応をお願いできますか? ≫
≪はー。その位自分でやれよ。 こっちは客室の掃除対応があるんだ≫
≪しかし、機械の操作とかよくわかないので。 機械爺さんも休みで対応をお願いします≫
「くっそ……あの機械爺さんー。 忙しい時に上手い具合に有給休暇入れやがって……」
この親方の人物もよく分からないようだな。
「自分、行きましょうか?」
「お前、機械とか大丈夫か?」
「鉱山に居ましたからね。一人で色々と機器の稼働やら、故障したら直さないといけなかったんで、内燃機関や電気関連ならそこそこ対応できまよ。 それに資格もありますし」
端末の履歴データには、資格がずらりと並んでいる。
「すげーな」
「自分。 学がないので、こうでもしないと、雇ってもらえなくて」
「いいね。気に入った。よくわかった。おまえ清掃員じゃなくて、施設技術者にしてやる。 上に掛け合ってやるよ。 少し給料がいいんだぜ」
「ありがとうございます」
まず、受け入れられるのには、素直が一番である。
「とその前に、空調機を治しに行かねーとな。お前さん能力も観たいし、ホテルの設備説明も兼ねてだ。付いてこい! 」
「了解です」
念のためアルプも付いて来る。 現場に到着して空調機を確認すると、ただのフィルター目詰まり程度であったため、フィルターの掃除すると、スムーズに冷風が流れ始める。
親方もほっとしたような顔になる。
タツマも鄭と共にラッキースター号の故障を修理していたため、この程度ならほぼ問題なく対応できる。
これもきっかけの一つとなり2、日目から施設の設備管理へのジョブチェンジが成功となる。 これで行けるフロアが広がる。人手不足で故の兼任とは好都合だ。
ホテル利用者との会う廊下を歩くため、青のつなぎとはいかず、ホテルマンのようなしっかりした制服になる。
技術者にジョブチェンジしたが、客室のチェックアウト後の部屋の掃除も積極的に手伝っている。 少しでもホテルの間取りを覚える必要もあり、ゴミ回収フォローしている。
すっかり、アルプとの働き者のコンビになっている。
エレベータには、確かに鍵を差し込む場所がある。 入居者様用との記載もあることからこれに間違いないだろう。
9Fへのスイッチを押してもランプが、点灯しないところを見ると、やはりキーの入手は必須と判断する。
--- 6周年パーティーの開催
潜入してから数日後、6周年のパーティーが開催される。 制服のため、客前フロアも堂々と歩ける。 何とかここまでこぎ着けた。
サナエさんから物騒なメッセージも来たので、取り敢えず、彼女のドレス姿を見ておきますか。
エントランスホールの2階から、1階部を見ていると多くの来賓者が続々と入ってくる。その道も大物やおそらく女優者や俳優もいるのだろう。
そして、ある瞬間周囲の男性陣からため息のような声が聞こえる。
声の方向では、サナエさんとオーソン嬢が会話をしながらホテルに入ってくる。
「ねーさん綺麗ですね。」
「ありがとう。 あなたもね」
セレンは、荷物持ちとしてついているようだ。
「タツマさん見てますかね」
「大丈夫よ。見てなかったら、ぶっ飛ばすってメッセージ入れたから」
「ねーさん……」
「何よ?」
「いいえ」
(これは、相手が苦労するタイプですね)
タツマは手で額を抑える。
潜入捜査で、目立ってはダメだって言ったでしょ……まぁ綺麗だけどさー。
彼女の魅力を抑えるにはあのダボダボの服じゃないとダメなのかね?
まぁオーソン嬢は、かわいい系で揃えているから、あれなら何とかなるだろう。
執事みたいのを従えてやたら荷物も多そうだし、替えのドレスもあるのだろうか。
気持を切り替える。
―― さてと、リミットは10日間か……。
詰め所に戻ろうとエントランスを離れようとした、その時、会場が盛り上がる。
――女優かタレントでも来たのか?
野次馬気質で再びエントランスに目をやると、周囲に目もくれず受け付けに進む、“女帝”の姿がある。なぜか知らない男性と歩いている。
「今回は執政官まで来ているのか」
隣に近寄ってきた親方が声をかける。
「執政官……? アルゴスのですか? 」
「ああ。隣の女性は誰だっけ? 随分きれいなねーちゃんだよな。どこかで見たような――」
――嘘だろ。もー、一体なんなの?
登場人物が勢ぞろいの波乱含みのパーティーが始まる。
*
パーティープログラムを見せてもらったが、歌劇、演劇、演奏会、ダンスパーティーに格闘技大会やカジノもある。基本連日、飲めや歌えの宴になっている。退廃的っぽいな。
とはいえ、このパーティーは、自分を売り込みに来る駆け出しの女優の卵、政治家同士の内輪の取引、企業間の怪しい相談事が活発に行われている。
口頭だけで案件が進む為、証拠が残らない、裏の社交場としても有名とのこと。
故に毎年実施しているのか。世の中を上から動かす連中にとっては都合がいいようだ。
加えて格調高いホテルであり、孤島のホテルゆえパパラッチなどの排除も完璧で情報も洩れない。
サナエさん達は、この胡散臭いパーティーにどんな設定で参加するのかは不明だが、まずは自分の業務を進めますか。
--- サナエさんサイド
「ねーさん。このパーティー色々退廃的過ぎますよ。 私には無理ですよー。どう考えても、参加したら体目当てや愛人目当てのおっさんしか寄ってこないじゃないですかー」
「あら、イケメン俳優っぽいのもいたじゃない」
「無理ですー。どう考えても、その場限りじゃないですかー」
確かに、かわいい系の彼女では荷が重すぎる。
「いつも運搬屋のおじさん達をあしらっていたじゃない」
「人種が違うんですよ、なんかねちっこいというか、なんというか」
「まっ。この程度、こなしてこそレディよ。 とりあえず私の近くに居なさい。 そうね、パーティーへの参加は偶然で、旅行中の姉妹にするわ」
「全然似てないじゃないですかー。 ねーさんは規格が違い過ぎるんですよ」
「じゃぁ、友人でいいじゃない。私は会社経営者にすればいいんだし」
「まぁ、遠からず近からず、ですね」
「あなたは、取引先の御令嬢ね」
「輸送車両の運転手ですよ。 社交界の礼儀なんてしりませんよ」
その言葉にサナエさんの眼が鋭くなる。
「いいこと? 不明なことがあれば周りに合わせるの。 だから、よく周囲を観察しなさい。 こっちは野獣の群れに入ったうさぎ。 それでも野生と違って生き残ることもできるわ」
「……」
「私たちは、うさぎであっても知恵がある。 これこそが、野生と違って生きこる術なの」
「いきなり辛辣過ぎませんかねー」
サナエさんの携帯端末に着信の音が鳴る。
<綺麗だったよ>
タツマからのメッセージが届く。
「えへへへ」
サナエさんの真剣な顔から、思わず笑みがこぼれている。
(もーなんなんですかねー)
オーソン嬢もいきなりの変容に少し呆れている。
その下の、<目立ち過ぎだからもっと抑えて>
の文字は目に入っていないようだ。
そんなこんなで、パーティー初日が過ぎていく。
--- パーティーは続く
サナエさん達は、歌劇や演奏会を満喫中。 そんな中でも、言い寄ってくる親父達相手に上手く立ち回っているようだ。
タニア関連の人間が絡むと女帝が言っていたため、念のためイスペリア時の工作員の写真を渡してある。
パーティーにいるようであれば、即座に報告する算段になっている。 とはいえ、成果については、芳しくない。
オーソン嬢は、目を回しながらも何とか食らいついている模様。 相貌はよいものの、田舎臭さが抜けないためか、一人にしたら直ぐに持ち帰られそうである。
よく言えば、純粋といったところだろう。
もちろん、それを狙う者も多いが、サナエさんが上手くブロックしている。
--- ロビーラウンジ
「はー流石に気を張るパーティーね」
紅茶を飲みながら、サナエさん達が一息ついている。
「ドレスは素敵ですけど、キッツいです」
オーソン嬢は、甘いジュースのようだ。
「ダレ無いの! 気を張ってなさい」
「えー。ゴロゴロしたい。このソファに横たわりたい」
「こちらよろしいかしら? 」
やたら美人の女性が話しかけてきた。
「スキュレスさん……どうぞ」
サナエさんが驚きながらも着席を許可する。
「……」
一方でオーソン嬢は、一瞬唖然としたが、敵意がむき出しになる。
「通話だけだったものね。対面は初めてかしら? キャミャエル博士」
サナエさんの眼がきつくなる。
「……何用かしら」
「約束を守ってもらっているようで感謝するわー」
スキュレスの軽口に対して、両名の雰囲気は非常に悪い。
「……」
「……」
「よくよく警戒されるタイプなのかしら。どこいっても警戒されるのよね。 そうねー息子の恋人を確認しようと思った。ではダメかしら? 」
「息子? タツマの親御さんの訳ないでしょう? そもそも母方は……」
「ふふふ。さすが天才ね。実の息子ではないけどね。彼のファミリーネーム知っている? 」
「ヒルベルトでしょ」
「残念。トリフィナの姓になっているはずよ」
「あの親父、再婚したの? 」
「まーね。 ところで調子はどう」
「芳しくないわ。そっちはどうなの? 説得材料は何とかなりそうなの? 」
「そのために、ここにいるのよ。 アルゴスの人間は、ターゲットがここにいることは、まだ知らないわ。 今のところ教える気もないし。 私も誘われただけー」
「どうかしら? 無理矢理押しかけて来たんじゃないの? 」
「私もそこまで暇な訳ではないのよ」
「あんたが……あんたがプロメンテとテッサリアの戦争を引き起こしたのか」
オーソン嬢が喚くことなく怒りを抑えてスキュレスを威嚇する。
「あら、活発的なお嬢さんだこと。起こしたのはテッサリアでしょ? 巷の陰謀論なんか信じちゃダメよ? 」
悪意を向けられても余裕で躱していく。
「そうやって、裏で……」
「でも、事実でしょ? そうならないようにするのが、執政官の役目。
私に怒りをぶつけるのはお門違いよ、お嬢さん。 ぶつけるなら、無能なプロメンテの執政官に抗議しなさい」
あくまでも笑顔で、そして優雅に事実を突き付けて行く。
「なにお……」
「止めときなさい。 この程度の徴発、乗るもんじゃないわ。 それで? 喧嘩しにきたのではなのでしょう? おばさん」
サナエさんの目が鋭くなる。
「ふふふ。 いい感じになってきたわね。 まず、タニアの武器供与の噂だけど事実ね。 パーティー開催中に接触するらしいわ。
それと、今のところの説得の材料だけど、反乱を実行しないなら、全てなかったことにする。 “部下が罪に問われたくなければ、潔く散会しなさい”とのことよ」
「彼の意志はどうなるの? 」
「思いに結果がついてくるのであれば、誰も苦労しないわ。 私としても、アルゴスが疲弊するのは困るの。 上手くいかなければ、治安隊を突撃させる。 執政官に助言すれば、問題は一気に解決するわ」
「私達にそれを話した理由は、なによ」
「私としては、クーデター側にも政権側にもわだかまりを残すことなく、この案件を閉めたいの? 分るわよね。 とにかく、血を見ることなく終結させること。 そして、あなた達も一枚かんでいる当事者。息子にばかり、労働を押し付けないこと。 いいわね」
その一言に対する反論する材料を、彼女達は持ち合わせていない。
「じゃぁーねー。 それとお二人さん、今回の社交界の花形になっているわよ。 怪しい連中に注意しなさいね」
彼女は手を振りながら去っていった。
「あいつが、スキュレス・トリフィナ――エリスの女帝――」
オーソン嬢の眼は鋭くなるが、正論の前には太刀打ちする術もなかった。
「そうよ」
「何も言い返せなかったです。あの戦えさえなければ師匠は……」
反論できない悔しさに俯く。
「貴方じゃ。彼女をいいまかす事は、まだ無理よ。 エリス女帝と呼ばれているのよ。 あれを口で倒せるのはタツマぐらいでしょ」
「……」
「私としても、他国であっても反乱による内戦は御免よ。 プロメンテの2の舞をこの国で引き起こすのも御免だし。 引き続き、できることをするわよ。 とはいっても無理は禁物。 私たちは、素人同然なんだから」
「わかりました。 できるだけ頑張ります」




