使命達成
最後のお使いである、パボニス酪農協同組合との協議に向けて、スパリゾートで一泊したタツマ一行。 一夜明け、ホテルの朝食を取りながら、今日が始まる。
--- 翌日 パボニス地区 スパリゾート
一夜明けて今日は、快晴になる。
タツマが、一足早くホテルのダイナーでモーニングを取っていると、オーソン嬢が現れる。
「タツマさーん。 何で昨日は、こなかったんですか! 」
「こっちも仕事を片付ける必要があったし」
「折角、ねーさんのセクシー水着姿が見られたのに! 衆目のまとでしたよ」
「そんな感じがする。で、楽しめたのかい? 」
「そうりゃもう。 あんなに長時間、湯に浸かったのは初めてかもしれません」
「ならよかった」
「タツマさんもしっかりねーさんを捕まえておかないと、どこか行っちゃいますよ」
「そーだね。でも彼女がそれを望むらなら、留めはしないさ」
「もー。何スカしているんですか!! このヘタレ!! 」
オーソン嬢が楽しみに取っておいたチーズ入り肉団子を攫っていく。
「ちょ! なんていうことを。楽しみに取っておいたのに」
またワチャワチャが、始まる。
「朝から騒々しいわねお二人さん」
サナエさんが現れる。最近の元気いっぱいから少し落ち着いてきたか?
「リラックスできた? 」
「それはもう。私の威光を見せつけたかったぐらいよ」
「それは。それは。またの機会にとっておくよ」
「で、これからの予定は? 」
「まぁまぁそう焦らずに。 まずは、朝食を取ってからにしましょう」
「それもそうね」
パボニスの乳製品に囲まれた朝食は確かに絶品になる。全体としてコクが深い。
改めて食すると確かにこれなら人気がでるわけだ。
「凄いわねこの乳製品。濃いわねー」
「いやー。うまいっすねー」
妹分は、感想を述べながらパクパク食べていく。
―― 食べっぷりがいいことで何よりです。
一通り朝食を終え、とりあえず、トークン達も引き連れてロビーに集まる。
「さてと、食事も取ったところで、本日のイベントだが……」
サナエさんが口を挟む。
「パボニス産乳製品の買い出しねー。どうなの? 」
―― 人の会話を取らないで。
それにオーソン嬢が、呼応する。
「アルプからは、偏屈な酪農協同組合が出荷を渋っていると内容でしたよね」
――もー、だから人の会話を取らないで。
「でどうするの? 」
買い出しと言っても、仕入れといった方が正しい。商社の仕入れなので物量がかなりある。
「まずは、対面して話を聞くことからかな。現状把握が出来なと何もできないし。偏屈の理由も知らないとね」
「なるほどー」
オーソン嬢が、なぜか納得している。
「さてと、向かいますか、パボニス酪農協同組合。ここからでもそんなに遠くないはずだし」
「了解です」
ホテルをチェックアウトし、ホテルの外にでる。 朝だけあって周囲は明るくよく晴れている。
昨日ホテルに着いたのは、薄暗くなっていため、周囲は薄暗く景色もそれほど鮮明には確認できなかったが、こうして明るい中でみると巨大な目隠しが、大々的に張り巡らされている。
それだけでも内部の広さが推測できるぐらいの規模になる。
―― これは入浴した方がよかったか?
「少し後悔しているんでしょう? 」
サナエさんが偽悪的な笑みを浮かべて煽ってくる。
「まーね。サナエさんの水着が見られなかったことは、残念だね。 綺麗だったんだろうなー。 拝みたかったよ」
その言葉にサナエさんの顔が赤くなり、タツマに対してケリが飛んでくる。
タツマの僅かな、喘ぎを聞き、サナエさんは、“ふん”と鼻を鳴らし行ってしまった。
―― マールス人は、ナーミャンといい。 照れ隠しが苦手なのかねー
そんな感情を持ちながら彼女達の後ろを追っていくタツマであった。
--- パボニス酪農協同組合
パボニス酪農協同組合に向けて、農業道路を進行中。
畜産地帯だけあって、道路を家畜が横切るためその間は、自動車側が停止しなければならないルールがある。
信号機などの交通整理はないが、予測できない、家畜の移動により待ち時間がかなり掛かる。加えてその分制限速度も低速に設定されている。
ここでは、家畜ファースト。もし自動車で家畜と事故を起こそうものなら、かなりの違約金が発生するとのこと。
もちろん、不慮の事故もあるので全部ではないが、いざこざを起こしたくないならば、土地のルールは守るに越したことはない。
実際、走行している自動車の速度は、全体的に控えめになっている。 牧歌的なカントリーロードを車に揺られての移動中。 このまま何も考えず、こんな場所で平穏に過ごすのも悪くない。
―― といっても酪農家には、酪農家の悩みがあるのだろうけど
タツマも楽な商売があるとは、思っていない。 ただ、命を狙われないだけ、多少は憧れがある感じである。
--- パボニス酪農協同組合
途中の道路を横切る家畜の群れ待ちに意外に多くの時間が取られながらも、スマイル号で揺られて、ようやくパボニス酪農協同組合に到着する。
この辺りを一帯を仕切っている組織の建物となるとどれだけ立派なものかと構えたのだが、その外観が見てタツマから感想が洩れる。
「思っていたよりこじんまり としているな」
木造2階建ての趣のある建物だ。歴史ある建物というより単純に古い。
外壁と周囲の環境を合わせてあるのか、緑色で塗装されているが、所々剥げて落ちている。補修など色々手が回っていないのか?
「なんか趣のある建物ね」
サナエさんの包んだ感想。
「農業や酪農の協同組合の建物はこんなものですかね。各農家の出荷量は、データで送られますからね。集計も自動化されていますから、職員も多くないんですよ」
そんな2人に対して、オーソン嬢の指摘が入る。
「へー」
「出荷先も市場の協同組合エリアでの集計ですからね」
「彼らの役割はなに? 」
「まー。生産品の価格維持ですかね。市場価格の下落を抑える役割ですよ。相場で決まる価格を安定させる役割です。いわゆる、現物を扱う相場師ですね」
「損とかしないの? 」
「価格が下落しそうになったら、出荷量を抑えて高騰しそうになら放出する役割ですね。
なので、大きな損はないですね。大きな利益もないですが。
生産品の出荷を極端に絞って、意図的に価格を釣り上げ、大儲けを画策した地域がありましたが、その場合、文官府農業庁の査察が入りますからね。
国民の利益を損なったとして、そこの理事長は、禁固刑でしたよ」
「随分と重いな」
「執政官の首も掛かっていますからね。 私利私欲の権力行使には徹底して対応するとのメッセージでしょうね」
「なんでそんなに詳しいの?」
「母親が酪農協同組合で、兄貴は、アルバテラの農業庁で働いていますからね」
生業にしていましたかー それは詳しいわけだ。
建物に入ると中もまた趣がある。
係員の一人がこちらに気づき、声をかけてくる。
「どちらさまでしょうか? 」
「商社プロメンテです。理事長との会談予約をとっているのですか」
タツマが回答する。 一応席もあるし間違ってはいない。今はないだろう農工部所属の這うずだ。
「はい……スキュレス様ですね。少しお待ちください」
しばらくして、2階の応接室に通される。
ノックをして部屋に入る。
当初は、傲慢な理事長を想定したが、いたって普通のビジネスマン風である。
「お待ちしておりました。私、パボニス地域の酪農協同組合の理事長をしております……」
両社、各人の挨拶が終わり、早速商談に入る。
アルプからデータを送られる。
「これだけの量を入荷したいのですが、弊社のネスが相談したところ、厳しいとのことでしたが、何か問題がおありでしょうか? 」
「これだけ量の発注はありがたいのですが、ネス様とのお打ち合わせ時にも話したのですが、従来のお客さまに加えての、この量の出荷はできないんです」
「では、どの程度ならお譲りいただけますか? 」
「頑張っても 要望の1/10ならお分けいたします」
「……」
量が全く足りない。
「価格を上げて優先的にもあるのですが、従来のお客様との信頼関係もありますので。
その関係を壊してでも、というわけにもいかなくてですね」
理事長は、いたって正論をこちらにぶつけて来る。
―― なるほど。生産量が出荷に見合っていない訳か。
サナエさんが急に思いついたように話し出す。
「じゃぁ。向こう30年この量を買い取る契約ならどうなの? 」
「30年ですか! いやそれなら、問題ありません」
理事長が急に興奮する。 確かに長期契約は向こうにとっても願ってもいない話だ。
しかし、急な長期契約にタツマが慌てる。
―― ちょっとなにいっているの?
動揺するタツマに対して、理事長は話を続ける。
「乳製品の出荷は、直ぐには増量できないのです。ですが、もし30年の保証があれば、投資に対しての見通しも確保できますので、それであれば、来年から優先的にお譲りします」
「ちょっと席を外しますね。 サナエさんこっち! 」
話しがタツマを置いて進んでいるため、まずは落ち着くため、サナエの腕を引っ張りドアの外に連れ出す。
「何言っちゃてるの? ヤバいでしょ。いきなりあの数字! それに30年間も買い続けるって、根拠算出すらしていないんだよ! 」
タツマの焦りにサナエさん自身特に困っている様子もなく。
「商社プロメンテで買い支えが出来なければ、ヒルベルト商会で買えばいいじゃない。私役員だし。それに、あの味の製品で売れない理由がないわよ」
確かに美味しかったけど。
「慎重になるのもわかるけど、この味は中々よ。将来性がありすぎるわ。恐らく、製品が市場にでなかったもの、投資がないから生産力能力が上がらないのが原因だわ。 購入量を約束して設備投資を促すの! 」
「……まぁそうゆう考えもあるか? 」
「乳製品は高級品だから需要は少ない様に見えて、これだけの購入を試みる商社プロメンテは、絶対何か考えがあるわ。ここは勝負よ!! 」
なんか偉いことになってきたな。
「しかし……ヒルベルト商会で食料品は、扱ったことがないんだけど」
「大丈夫だって。まぁ今回は1/10でいいじゃない。お徳様に考慮した姿勢も必要だし。その間にキンメリア内の販路を探せばいいじゃない」
「行き当たりばったりすぎない? 」
――といっても彼女は天才。何か意図があるはずだ。
「いつから考えていたの? 」
「うーん。観光会社のチーズサンドを食べた時かな? あれだけ濃厚なのは中々なかったし。 観光トークンは、地域に根差して小規模での乳製品の製造とかいっていたけど。 これだけの土地があるのに勿体ないじゃない、生産量増やした方がいいかなと思って」
――なるほどね。
「30年は勘だけどね」
――いや待って、30年ってテラ歴で60年だよね……。
「20年にならない? 」
「それはあなたが言いなさいよ」
――ひどくない。
部屋に入り、再び席に着く。咳払いをして、改めて
「20年で如何でしょか? 」
「うーん。28年」
「23年! 」
「25年でどうでしょう」
――テラ歴で半世紀……かー。
「わかりました。しかし、契約はヒルベルト商会でお願いします」
今回の協議では、商社プロメンテの要望は、達成できない。 そして、この場当たり的な契約は、商社プロメンテが望んでいないこと。
であれば、この契約はヒルベルト商会が巻き取るしかない。 ヒルベルト商会が卸となって商社プロメンテに卸す方法が最適になる。
「ヒルベルト商会? なんです? 信用できる会社ですか?」
理事長が急に怪訝な顔になる。 商社プロメンテは、例の鉱山で有名になっているが、ヒルベルト商会なる聞いたことのない会社が急に出てきたためである。
信用面において不安がっている感じである。 それを理解したタツマが、ヒルベルト商会のデータを送る。
「おお、惑星間貿易商じゃないですか! 問題なしです。 是非ともお願いします」
直ぐに、態度が変わる。 金が絡むのだ。 信用により180°態度が変わるのは常である。
――ホントこの肩書は役に立つ。信頼第一だね。しかし、半世紀の購入契約ねー。
飛び込みで、何気にとんでもない契約を結んでしまった感がある。
プロメンテやテッサリアなど巨大消費地もあるし無駄にはならないか。 もしだめなら、イスペリアの爺に、押しつけるか?
とりあえず、詳細を詰めるのは、ヒルベルト商会の副社長とセレンに任せる方針とした。 そして本年の契約としては、今年分の商品は、1/10量で商社プロメンテに発送する段取りになった。
「久々の大型案件です。ありがとうございます。これでこの地の牧畜業も維持できます」
理事長は、期せずしての大型契約に満足しているようだ。
「これだけの味であれば、引く手あまたでしょう? 事業の維持も難しくないように思えますが? 」
タツマが疑問を呈する。
「確かにそうですが、やはり、人手がどうしても。それにパボニスの田舎よりパボニスのシティ部の方が、若者は憧れますからね」
――確かに
「しかし、長期契約により安定した需要も確保できたので、トークンなどの整備投資が可能になります。 機械化への可能性も出てきました。 栄えれば参加者も増えるというもの。パボニスの可能性はこれからですよ」
投資ってなんでしょうかね。人を幸せにする金は使い方か。親父がよく言っていたな。
商談がまとまったので、酪農協同組合を後にする。
さてと、ビャーネさんに連絡を入れるか。
*** ☎ 通信中 ***
≪タツマさんですか?どうでした? ≫
≪今年度は、ビャーネさんにも伝えた通りの量以上は無理とのことでした≫
理由を説明していく。
≪そうですか。まぁ従来の顧客優先するのは、もっともです≫
≪しかし、この量は結構ありますよね。南部地域では、シメリア(鉱山)でも酪農があったはずですが? ≫
≪そうなのですが、シメリア地域が発展し、都市の巨大化に伴い乳製品の需要が増加しておりまして。その対応として、品質の高いパボニス産を仕入れようかと。
実際に、シメリア酪農だけでは、生産が追い付かなくなっているための対応ですね≫
……あの鉱山色々なところに影響を及ぼすな。
≪しかし、来年以降は、あの量の買付けができますよ。ヒルベルト商会で向こう25年の要望の量での長期契約を結ぶことができました≫
≪なんと!……相変わらず大胆ですな≫
≪状況はこんなところですかね ≫
≪承知しました。 今年分は、何とかしましょうか。 それでは≫
≪それでは、また≫
*** ☎ 通信終了 ***
「タツマさん。即決とか凄いっすね」
横で話を聞いていたオーソン嬢が、話題を振ってくる。
「もー不良債権にならないことを祈るしかないよ」
と言ってもタツマも気が気ではない。
「あなた結構、うじうじ悩むタイプ? 」
「いきなりの大型契約をしたらそうなると思うけど? 」
「大丈夫よ。こんなにも美味しいんだから! 」
サナエさんのその自信は、一体どこからくるのだろうか?
オーソン嬢が、ハンドルを握り行先を聞いて来る。
「さてと、これからどこに行くんです? これでギャップ・リバーからの要望は済みましたし、プロメンテ、それともこのままエリスでいいですか? 」
「アルゴスにお願い」
サナエさんが即座に返答する。
「……」
――あの腹黒年増から何か言われているな
タツマが、疑いの視線をサナエさんに送るが、向こうは、こちらに目を合わせない。
――全く分かりやすい。
「タツマさん。アルゴスでいいんですか?」
オーソン嬢が、確認してくる。
「ああ。 お願いする」
スマイル号は、再びルート57道を戻る形で一路、アルゴスへ向かうことになる。




