業務開始
サクラメンサから大陸幹線ルート4号を南下して中継地点のフォーチュナに向かうタツマ一行。
--- テンペ大陸 ルート4号
カーゴの中身は、トークンが梱包された状態で満杯になっており、かつてあった居住スペースは完全に取り去られている。 一般的なカーゴ車両である。 護身用の武器やコンバットスーツは奥に押しやられている。
―― 治安がいいから問題ないか。
タツマにそんな感情がよぎる。
カーゴ車の性能からすれば、よほどのことがない限り破壊はされないだろう。
運転席には3人。運転手はオーソン嬢が、彼女を挟んで私とサナエさんがいる。アルプとセレンはカーゴ側にいる。
絵柄が変わって新鮮である。ラジオからは、ポップな音楽が流れている。
「流石、運輸部門ね。運転、上手いじゃない。 アルプとは大違い」
『私もこの程度は可能です! 』
専用スピーカを通して反論してくる。
「キンメリアでは、車両移動が主な業務でしたからね。これで、ヘスベリアとかシメリアに穀物を輸送しているんだ」
オーソン嬢が、サナエさんに回答する。
―― ヘスベリアとプロメンテ間の鉄道は完成していないの? まだ車両輸送ってどうゆうこと。
「ところで鉄道計画はどうなっているの? 」
タツマが、不安げに質問する。
「進んでいるよ。もう少しで完成かな。工事中に内戦やら戦争があったからね。やっぱり遅れてはいるんだ。
でもテッサリアに鉄道とか破壊されなくてよかったよ。シティ地区外だったことが幸いしたみたい」
――くっそ。幸いじゃねー 武力衝突なんていいことが一つもないじゃないか。 遅れる分、こっちは利息が加算されるだぞ! 借金返済計画が狂ってくる。
タツマの心労は続く中、オーソン嬢の語りも続く。
「社長からは、鉄道部門への移動も打診されているんだけどね。やっぱ、自動車で走り回る方が合っているんだ。 自由なのがいいよね」
「車が好きなのね」
「まぁね。 師匠に教えてもらった技術でだし。 これで自分の居場所も出来たし……」
オーソン嬢の影が、濃くなる。
何かあったのだろうが、それをずけずけと聞くほどタツマも幼くはない。
そんな、周囲の状況を素早く察して、オーソン嬢も直ぐに雰囲気をもとに戻し、タツマに質問してくる。
「でっ。タツマさん。 社長と親しそうだけど。どんな関係なの? 」
「ヒルベルト商会の雑用 兼 商社プロメンテの初期の従業員かな。耕作地の農道を整備したり、畑を耕したり、シメリアで鉱山労働したりかな」
ここで、変に偉ぶっても意味ないしね。フラットな関係がいいし。
それに実際に従業員登録されているからね。
「へー初期って今も務めているの?部署は? 」
「どこだろう? 確か農工部での所属になってはず」
「……? そんな部ないよ」
「あらま。まだ、在籍はしていると思うけど。当時、雇用契約に関してはガバガバだったからなー」
タツマが、過去を思い出しながら話している。
―― 解雇通知は貰っていないよな。流石に給料は出てないと思うけど。
「そこからなんで、イスペリアのレジスタンスに入ったのよ? 」
「まぁ色々あってね」
ビャーネさんは正体までは、喋っていないのか。
「ふーん。でーキャミャエルさんは? 」
「サナエでいいわよ。 私もヒルベルト商会の所属よ。 そこの役員。 それと、商社プロメンテの初期の運輸部にいたんだけどね。彼とはその時からの付き合い。
シメリア鉱山に爆薬運んだりしていたの。まだ、席はあるはずと思うけど。解雇通知貰っていないし」
―― それはアルプが運転したはずですが?
「おお! 先輩で大株主じゃないですか!! 」
先輩と言われ気分が良くなる、サナエさん。
「まぁね。そして私が、ヘスベリアとレーベとの交易路を開拓したとも過言ではなのよ! 」
―― すぐ調子に乗るのがこの天才だ。いや天才だから調子にのるか?
「凄いじゃないですか!! これから姉さんと呼ばせてください」
「良いわよ。どっかの誰かさんは、リスペクトが足りないから呼ばないけど」
こちらを見てくる。
まぁ確かに、厄介ごとに首突っ込んで最終的に我々に好都合側に転んだけど。
最終的なしりぬぐいは、全部こっちでしたよ。サナエさん。
まぁオーソン嬢もなついているからいいか。
話題が尽きると、車内は沈黙になる。 別に悪い雰囲気ではない。 ラジオから流れる音楽が心地よい。
スマイル号は引き続きルート4号を南下する。 街からは外れ、車両の窓からは郊外の典型的な田畑が広がる。 人家は少ない。
治安が良いところだけあって道路は舗装されており、他の車両もスムーズに流れている。
タツマもその光景を見ながら、最近までの命を張ったプレッシャーから解き放たれた解放感を感じている。
―― 今日という朝が迎えられたこと。 それ自体が奇跡のような幸運だよな
内戦、工作活動、都市国家相手の戦争。 今までは、確かに海賊相手に命を張った経験もあったが、隣にんは信頼できる仲間がいた。
今回は指示をくれる親父も副社長もいなかった。 そして支援してくれる鄭さんもアリエフさんもいなかった。
その中でこうして、風を感じ、光を感じ、景色を見られることに何とも言えない感情が湧き上がる。
そんな、穏やかな感情が支配しているタツマの脇には、相変らずタブレットを弄っているサナエさんがいる。
―― スローライフは、命の危険の無い生活のことかもな
そんな感想を持った時、サナエさんが、何かに気づいたようにオーソン嬢に話しかける。
「そうだ。イーノは、パボニスからどう戻るの? 」
「社長からは、タツマさんが、いいっていうまで一緒居てくれって言われていますよ」
サナエさんの視線か、タツマに向く。
「……」
―― 別に悪いことはしませんよ
オーソン嬢は運転に集中しているため前を向いているため、サナエさんの視線には気づかないまま、話を続ける。
「それと、タツマさんパボニスに着いたら、連絡が欲しいって」
―― しかし、配達業務に人を張り付けるか?
「了解。 今って商社プロメンテってどんな状況なの? 」
「さっきも言ったかもしれないけど、シティ地区から外れていたから、大きな破壊もなかったってところ。鉄道工事は止まっちゃけどね。
それと戦時中の損害としては、テッサリア軍が製粉工場のパンや食料を徴発していったぐらいかな。
テッサリア軍が、地域を破壊されたくなかったら食料を差し出せって迫ってきたらしのよ。そこら辺は、社長が対応したらしいから、詳しい経緯は、聞いてみないとだけど。
まぁ麦の収穫時期に相まって、消費しきれないぐらい生産してやったけどね。損害はそのくらいかな? 鉄道破壊されるよりはましだし」
また、たくましいことで。
「シメリア鉱山はどうなの? 」
「ああ、シメリア鉱山開発社ね。 我が社の最大の稼ぎ頭になっているわ。 この間も、戦後体制の確認と友好関係の強化もあって、シメリアの執政官が、ショーン社長と会談があって中々豪華でしたよ! 」
「へー」
「私も運よくシメリアへの運搬があって、社長と一緒にセレモニーに立ち会えて色々おこぼれに預かれたんですよー。 ああ! でも執政官が、ショーン社長を見て驚いていたようだったけどね。小生意気な奴は、どうしたとかいっていたけど。 なんだろう? 」
「……」
――吹っ掛けて来たのはそっちだろうが。 ともあれ、何とか稼働しているようで何よりだ
ラジオから昼の報道が流れてくる。
≪北部共同ラジオネットワーク。 お昼になりました。 これまでに入った情報をお届けします。
まずは、キンメリア大陸での南北動乱についてです。“プロメンテ解放戦線”の勝利により終結した動乱ですが、テッサリアは、不安定化する国際情勢を勘が見て、先の大陸間戦争のエリスに対して、停戦条約から平和条約を結ぶことになりました≫
エリス・テッサリア平和条約締結式の様子である。
≪テッサリアは、先に大陸内の講和条約として“キンメリア講和条約”を締結しました。 しかし、当面の外交的不安定化を回避するため、エリスとの停戦条約を平和条約に切替え締結することで対応する方針です。
この条約により、テッサリアはトロイ島の領有権を完全に放棄することになります≫
―― 国民からの突き上げがありそうだな
≪本件により戦役で疲弊したテッサリをどこまで回復できるかが、執政官の今後の政権運営が期待されます。次の報道です――≫
「タニアの工作に関して伝えないのね」
サナエさんが、不満を持っている。
「色々な思惑があるんでしょう? 」
タツマの感想。
「まったく。 プロメンテは何かにつけて巻き込まれますねー」
オーソン嬢の愚痴も入ってくる。
ラジオは既に次の話題に移っている。
≪――“アルバテラ”は、大型のシティ地区再開発が活況で食料・観光以外にも投資分野にも力を入れていくとの方針を示しました。 一方で物価高騰に対して、市民からの生活改善への……≫
「アルバテラ? 君のお兄さんがいる場所? 」
「それと私の故郷ですよ。 観光業が当たって、今好景気なんですよねー」
「へー」
「テンペ大陸の北端の食料地帯で、アスクレウス山やオリンポス山にそれなりに近くて便、交通の便もいいですからね。特に火山灰の影響が少ない地域のため、飛行機の欠便も少ないのが好まれている理由ですね」
「ほー」
≪気象情報になります。北部地域は、高気圧の張り出しにより引き続き広域にわたって晴れ模様が予想されます。各地の天気です――≫
車両は目的地に向かって進む。
気象予報通り、晴れ間が広がる大地。
テンペ大陸の大地は思いのほか平坦であり、地平線まで見える。
――頼むから見通しのある人生であって欲しい
そんな思いを持ちながらカーゴは進む。
【エリス・テッサリア平和条約締結式】
エリスとテッサリ(キンメリア筆頭国家)の両執政官が、トロイ島で会談を行っており、締結式は佳境に入ってきている。
「いやー。 停戦条約から平和条約への改定とは、両大陸にとって有意義な会談した」
エリスのメラノ執政官は、テッサリアに意気揚々と話しかける。
手を汚さず、各都市に海軍演習を要請しただけで、憂いの種を取り除けたため上機嫌である。 テッサリアの執政官は、引き続きフォシン氏になっている。
タニアに踊らされていたことが判明し、支持率も低水準であるが、危険水域に入っておらずリコールが発生していない。
実際、リコールを発生しても誰も立候補者いない状況のようである。 内紛や戦争後の後処理など、厄介ごとが多い場合、立候補がいないことも多い。
「そうですね」
そして、エリスからの質問には、定型文でしか返せない。
今回の平和条約は、テッサリアにしてみれば屈辱そのものである。
タニアにかき乱され、キンメリアの南部地域と戦い、国力まで落としてしまっている。
そこにつけ込まれる形で、平和条約によりトロイ島が取られている。
テッサリアが、現状倒れていないものの、ここで“第二次大陸間戦争”でも起きようものなら本当にテッサリアがなくなる可能性がある。
エリス以外の他のサバエアの都市国家とは良好な関係の国が多いため、今回の和平条約を認め、通商の発展の方を取った。
もちろん、キンメリア側にも有利な部分もある。
例の“食料備蓄条項”になる。プロメンテの食料生産高は、農業改革の成功により著しく増加し、レーベから更にサバエア大陸の各都市へと広がっている。
さらに、従来まで穀物相場価格指標にプロメンテウィートを加えることを認めた。 トロイ島の領有権に比べれば小さいため、議論されることもなく通過してしまった。
実質、穀物価格の主導権を握る指標であるが、他の小麦指標もあるためあまり気にされていないようである。
その後、調印式は、滞りなく進み全ての行事が完了した。
調印式が終わり、落胆の中、控室に戻るテッサリアの執政官に一人の女性が声をかける。
「フォシン執政官」
振り向き、声の主の姿を捉える。 瞳孔が広がる。 年齢を感じさせない佇まい、知的であり色香もある。 社交界であっても多くの男性が、その魅力の虜になるだろう。
妖艶な護民官などと持ち上げられているのも納得だ。
しかし、彼にとってみれば、黒幕の登場と言ったところだ。
「スキュレス……」
恐らくこいつが今回の元凶だろう。 陰でこそこそ動き、“白翼の騎士団”なる政治組織を背後から操っている元締めらしいとの報告は受けている。
「これは、これは、私に如何なる御用ですかな? 」
鋭い視線を向けながら、最大警戒心を持って対応する。
「あら、そんなに警戒しなくてもよろしいと思いますけど。 ここは安全よ」
「……」
「ああ、話しかけた理由ね? 平和条約を結んだ友好国同士のただの立ち話ですよ」
微笑みながら話してくる。
「友好ねぇ。中々面白い冗談ですな」
怒りが漏れそうになるが、努めて抑える。
つかみどころない雰囲気と話し方。
「ふふふ。まぁいいじゃないですか。そうそう、これからサバエア・キンメリア大陸は、どうなると思います? フォシン執政官」
いきなり訳の分からい質問を投げかけてくる。意図が見えない。サバエア・キンメリア大陸がどうなる?
「外交も執政官の重要な仕事よ。サバエア・キンメリア大陸同士の“食料備蓄条項”の締結。これでヤキモキするのはどこかしら?」
「……」
こいつ何を考えている。フォシン執政官は質問への回答ができないでいる。
彼女は人差し指でほほを押さえ少し困った様子を示したが、直ぐに何かを思いつた様に話し出す。
あざとい。地球年齢で30半ばであるが、彼女がやると様になるのが、また魅力になるのだろう。
「言い方を変えましょうか。 マールスの主要4か国の内2か国が“食料備蓄条項”に批准している。これが何を意味するか。食料への対応を行うことで最も割を受けるのはどこか? そして、もう一つの国がこちら側になったらどうなるかしら? 」
「……また紛争か? バカバカし……! 」
フォシンに何かに気づく。
「そうゆうこと。 相手の出方次第だけどねー」
軽い感じで言っているが、おそらく相当重い感じになりそうだ。
「貴様。正気か? 主要国家間で……」
フォシンが、言葉にしそうなるのを、彼女が話の流れを持っていく。
「私は“食料備蓄条項”による食料と国家間の安定が欲しいの。 貴方が知りたい私の腹の内。 これは事実よ。 しかし、相手がどう思うか……ね? 今回の立ち話の話題、興味は持ってくれたかしら? 」
「私に話した理由はなんだ」
「あなた、外交に弱そうだから。それと……」
一旦話を切るスキュレス氏。 穏やかな口調から急に強めの口調になる。
「タニア連合王国程度につけ入られるんじゃないわよ! あなた、治安維持庁出身でしょ? タニアの工作員ぐらい排除しておきなさい! こちらにちょっかい掛けてきたのは、タニアの民兵組織なのよ! 」
一気にトーンを変えて、鋭い言葉を言い放つ。
「……」
反論できない雰囲気があり、フォシン氏は、スキュレスの雰囲気に完全に飲まれている。
「向こうには、強大な海軍があるの。準備しておきなさい。恐らく火種は、あなた方の大陸になりそうなんだから」
通路の向こうから足音が聞こえる。テッサリアの秘書官が、控室に到着の遅い執政官を迎えに来たようだ。
「遅いですよ、執政官……。スキュレス……」
鋭い視線で睨みつけてくる。
「あら、キンメリアの男性は、女性を見つめて落とす気でいるのかしら? モノにしたいのなら見つめるだけではだめ、言葉も必要よ。“白翼の色男”にでも習ったら? じゃぁねー」
彼女はそのまま背を向け、手を振りながら行ってしまった。
「執政官大丈夫ですか」
「ああ。……あれがスキュレスか。女帝の2つ名に相違なしか。妖艶な護民官などと、持ち上げられ、どんな腑抜けかとおもったら。見た目に騙される典型例だな。前職は精神科医だったか」
「ええ。そう聞いています。それにしても“白翼”は男性なんですね」
「あんな発言、当てにならんさ。私は女性と聞いている。それに今は、どちらでもいい。それよりも奴が言っていたことが、気になる」
執政官の顔の表情から苦悶に満ちている。
「いいこと……ではなさそうですね」
「最悪だよ。 くっそ、最近は人生の最悪が更新されていく。 控室に戻って話す」
「承知しました」
こうして、”エリス・テッサリア平和条約締結式”は、一応の終わりを告げる。




