港湾都市国家 サクラメンサ
--- テンペ大陸 サクラメンサ 空港 ラウンジ
「……」
「……」
両名はテーブルに座り沈黙している。
「……説明が欲しいんだけど」
そして、その沈黙を自分の赤い頬を撫でながら、タツマが破る。
現在、一向は、空港のラウンジで一休み中。
「てへっ! 」
舌を出して、おどけて見せるサナエさん。 古い表現であるが、やはりやる人物によっては、それが魅力的になってしまう。
―― かわいい……
そのあざとさに一瞬は騙されるものの、そこから自分を戻す。
公衆の面前にて平手で張り飛ばされて、泣かれたわけで。
保安員が飛んでくる事態にならなかったのが幸いであった。
周囲には、痴話げんかしている男女程度に思われていたようだ。
―― いや幸いじゃないし! 痛いし!
とにかく、サナエさんを落ち着かせて空港ラウンジに来ている。
まぁ張り手の件は、まあいいとしよう。問題は、アルプが持っているこの指示書だ。
<サナエさんと合流し案件を頼む>
案件って何? ってなるわけです。
一体サナエさん何を持ってきたのでしょうか?
サナエさんが徐にメモが張り付けてある大きめの封筒を取り出し、こちらに渡してくる。
タツマが、メモを読む。
<パボニスにトークンの配送と乳製品の買い付け をお願い>
との記載がある。
―― 何なんだこれ?
「要望って誰から?」
封筒の中身を確認すると、何やら業者の資料やら取引先の資料が入っている。
――電子データで寄越せばいいものを
と思いつつ、タツマは資料を読み込んでいく。
サナエさんが、タツマの質問に回答してくる。
「ギャップリバー・トランスポート」
「ギャップリバー・トランスポート? 変な名前。親父の会社か……何で受けたの? 」
資料にちょうどその名前を見つける。代表がダイゴ・スキュレスになっている。
「えー。テンペ大陸って火山地帯だからスパが有名でしょ。それにリゾート地だし」
今までのマールスの業務で、テンペ大陸の行先は、アルゴスとパボニスが主な目的地であった。
アルゴスはマスドライバーがあり、街並みの綺麗なので確かに高級リゾート地って感じがする。
一方、パボニスは、鉱物の買付けが主な活動であっため、あまりリゾート地との感じがない。
確かに温泉が湧いていたが、私の中では鉱山のイメージの方が強い。
パボニスは、地表が温かいためか土壌凍結もなく、新鮮な牧草が安定して育つため、良質の乳製品が有名な場所である。
その辺りの観光資源を合わせて上手い感じにリゾート化に成功したエリアでもある。
「なるほどーまぁ乳製品の買い付けは何となくわかるけど、トークンの配送ってどうゆうこと? 」
サナエさんが申し訳なさそうに答える。
「数日後にこのサクラメンサにスマイル号が到着する予定なの。 そこカーゴにトークンが積んでいるのでそれを届ける感じ。 それが終わったら、バポニスの乳製品の買い付けって感じかな? 」
伝え終えると困ったような、作り笑いを浮かべている。
リゾートを兼ねての業務ね――。
―― そこは問題ないが、しかし、この程度の仕事をわざわざ、こちらに振る内容でもないだろう。 あの腹黒年増。また何か企んでいるな。
サナエさんの表情も何処か暗い。
―― 彼女にこんな顔させるとは、あんにゃろー。 いつかとっちめないとだな
どうやらこちらを使い勝手の良い駒として見ている感じがする。
こちらを嵌めてあまつさえサナエさんまで巻き込んでいるため、いい気分ではない。
しかし、サナエさんが巻き込まれている以上、あまり過激な行動にも出られない。
―― 完全に奴の術中かー
天を仰ぐが良い作戦も思いつくはずもない。 であれば取り敢えず、奴の術中の中で動くしかない。 それにここで何もかも放り投げるのも何か気分が悪い。
「じゃぁ。落ち着いてから行きますか」
「……いいの? 」
その言葉に彼女の顔の曇りが解ける。
「引き受けたんだから対応しますよ。スマイル号はどんな感じ? 」
「ガレからの輸送船に乗せてこちらに向かっている。明日か明後日ぐらいにサクラメンサの港に着く予定よ。それにセレンも乗っているわ」
メレアの決戦では、敵の銃弾で負傷したので、|エリス《サバエア大陸筆頭)の修理屋でメンテナンスを実施させていた。
―― 彼女がここにいる理由はセレン関連でもあるか。
エリスは、最大の都市だけあって、最新のトークンの修理に対しても十分な設備とスキルがあるようだ。
「しかし、そうなるといきなり出発ということでは、無い感じ? 」
「ええ。 そして今度は4人でテンペ大陸道中よ」
「また、大人数だとこと。アルプ」
『なんでしょうか? 』
「サクラメンサってどんな都市なの? 」
『港町ですね。イスペリアほどのではないですが、良港をもっており、アルバテラやアスクレウスの物資を中心に海上輸送の北部の重要拠点になります。テンペ大陸の海上輸送の1割を此処で賄っています』
「ほー。テンペ大陸内の大きな港ってところ? 」
『はい。 テンペ大陸は、火山帯があるため、飛行機の欠航が多いです。 そのため、海上輸送も重要な交通インフラです。 加えて地上の交通インフラも安定した地域が多い為、キンメリアと比較すると安心して走行が可能です』
―― 移動中に野盗に襲われることも多かったからな。
『リゾート地も多いため、移動インフラへの投資が十分に行われていることが原因でしょう。 街道上の治安的問題は、ほぼないでしょう』
「なるほどねー。 とりあえず、この近隣で宿泊地をとって、スマイル号到着までこの地でリラックスタイムって感じかな? 」
『仰る通りです』
「了解だ。 こっちはこのサナエさんの資料とにらめっこだな。 パボニスへのルート確認や卸し先の情報の整理だな。アルプ手伝え」
『了解です』
まずの手筈は整った。一仕事終えたら、多少の休みを挟んでまた仕事。世知辛い。
彼女の要望をタツマが受け入れたことで、仕事の準備が進んでいく。 先ほどまでの不安げな表情も消えている。
「さてと。取り敢えず目的も決まったし、行きますか」
席を立ち、空港ラウンジを後にする。
案件を引き受けたことで、サナエさんの表情は、少し穏やかになっている。
エリス側に立って行動しているから、疑問に感じないもののエリスの評判もそれほど良い国ではなさそうだ。
サバエア内でもガレなどは、常にタニアとの最前線に立たされるが、特に対応もしてもらえないため、最近ではタニア寄りになっている。
エリス自身、軌道エレベータの利権を最大限に利用しマールスの富を集中させており、加えて軍事力や資金力をバックに色々無茶を言ってきているようだ。
簡単にいえば、金の力で何とかしようとする成金気質がある。
キンメリアの各国からもサバエア大陸内のエリス以外の国、レーベやルベリエには、それほど悪い印象がないものの、ことエリスになると圧倒的に印象が悪いようだ。
一方、テッサリアの軌道エレベータの運用は、輸送費を控えめにしてキンメリア大陸全体の生産性向上を考えているため、最近のやらかしたことを除けば、キンメリア内ではそれほど悪印象は聞かない。
本当に各国から嫌われていれば街道や航空の通過などは認めるはずもないし。 意外にキンメリア大陸は、テッサリアを中心にイスペリア(古の港湾都市)を除けばまあまあ、まとまっているのだ。
盟主との言葉は、こちらの国の方があっているだろう。
前回のエリス・テッサリア戦争の発端もトロイ島の領有権を巡って、エリスがトロイ島を強制占拠したことに始まっている。
―― 自ら戦争を吹っ掛けておいて負けそうになったか
エリスって、ナーミャンがいなければ、弱いんじゃねーのとか思うが、その疑問は一旦置いておく。
それよりもそんな重要な人物を国の意向とはいえ宇宙に上げていいのか、エリスの戦略が見えてこない。
--- 3日後
セレンよりスマイル号の検閲が通ったので明日荷物を取りに来てくれとの要望があった。どうやら、商社プロメンテの社員と一緒に来ているようだ。
港には巨大な貿易船が、数隻停泊している。
「デカいなー。 もはや壁だね」
『貿易船ですからね。ここから荷を積み、ガレに戻るのでしょう』
「我々もこうゆう仕事しているんだけどね――なぜできない 」
船を見ながら、同業者としての誇りと、自ら業務がきていないことへの愚痴を流す。
――実際おかしいでしょ。ドンパチングする商社って。
『準軍事組織だからではないでしょうか? 』
「ただの商社です。 品物を仕入れ、荷物を届けることで生計を立てている品行方正な会社だから! 」
どこから、こんな状況に陥っているのか不明すぎる。
今回は運搬と買付けだしね。ようやく本業らしくなってきた。
--- 荷受け場
タツマ一行が、ワイワイしながら荷受け場にいると、見慣れた車両が近づいてくる。 スマイル号だ。 久々の対面である。
イスペリアでの銃撃戦やメレアまでの道のりを共に進んだ仲間のような意識がある。
命を託してきたもはや仲間になる。
スマイル号に手を振ると、こちらに気づき近くまで来て停車する。
ドアが開き中から運転手とセレン・トークンが出てくる。
「よっと! 」
その後からボブカットの気の強そうな、女性が現れる。
「アンタが、タツマさん? 」
「……ええ、まあ」
―― 初対面からいきなりファーストネームですか?
「こいつをアンタのところに運んで、パボニスまで連れて行ってくれってネス社長より指示を受けたんだ。 それにしても、あんたがねー」
まじまじとこちらを覗き込んでくる。
「兄貴を救ってくれてありがとう。 感謝している。 うちは、オーソン・イーノ。
向こうでは、“13”とか呼ばれていたんだっけ? 」
いきなり感謝され、多少動揺したが、その後の数字にタツマが引っ掛かる。
「13って……13? ……ああ! 」
イスペリアでのレジスタンスのコードネーム。
ということは、面が割れたことで、途中退場した10の妹か?
「彼の妹か。 彼は変わりなく? 」
「まぁね。アルバテラで公務員になって元気に働いているよ。 イスペリアでは、銀行員だったんだけどね。 折角、大手の銀行に就職できていたのにさ。 裏では活動家みたいなことをしてさ。 まったく、妙に正義感が強いのも困りものだよ」
「何でそんなことを」
「時効だから教えるけど、銀行って金の流れがわかるだろう?それでタニア関連の企業による、結構な金額の資金洗浄が横行していたようなんだ。
もちろん、銀行もその恩恵に受けていたようなんだけど。 だけど、それが許せなくて、持ち前の正義感で、上層部に訴えたらようなんだけど、上から目をつぶれとのことだったらしい。
この不正も治外法権があるからだとか言って、レジスタンスとかに入ったらしい」
―― 何とも青臭い。
「青臭いって思っているだろう! 」
彼女の少し語彙が強くなるが、直ぐに元に戻る。
「……まぁその通りなんだけどね。 折り合い付けていれば、破格の待遇だったのに。もったいない。 タツマさん達が、治外法権撤廃してくれたおかげで、悔いなく今の仕事に励んでいるようだし、感謝しているんだ」
ここでも心を読まれるのか?
「で、君は?」
「うちは、商社プロメンテに就職して、今は運輸部門の社員よ」
「……テンペ大陸出身者が、キンメリアの会社に? 」
「まぁ、兄貴を追ってというのもあるんだけど。違う世界も見たいじゃん」
こいつ、ブラコンなのか?
「また、変なこと思っただろう! 」
何気にタツマが、初対面の異性と自分の知らない話題で盛り上がっていると、サナエさんが不機嫌な様子でこっちを見ている。
「あなた、いつからそんなに女性と仲良くなるのが得意になったの? 」
ジト目でタツマに視線を向ける。
―― えー。異性とは縁遠いですし、仲良くなりたいですよ。 仲良くなっているのは、おっさんとじいさんばかりじゃない。
「なに? あんたの彼女? 」
オーソン嬢が、興味津々に聞いて来る。
「同僚かな? 」
その回答になぜかサナエさんからケリが飛んでくる。
「おお、クリーンヒット」
その様子を見て思わずオーソン嬢が、叫ぶ。
サナエさんが口を開く。
「そうよ。 彼の同僚であるサナエ・キャミャエルよ。 よろしく」
初対面の人間にオーラ全開で対峙する。
「おー何か凄いのが出てきましたね」
サナエさんの独特の雰囲気にオーソン嬢が、思わず声を出す。
「凄い?」
その言葉にサナエさんが反応する。
「なんか雰囲気が? 違う? みたいな」
―― いつものサナエさんだろ?
その言葉にサナエさんのとげとげした雰囲気が穏やかになる。
そこに割り込むかのように聞き慣れた声が聞こえる。
『そろそろ、よろしいですか? タツマ』
声の方向に視線を向けると、もう一体のトークンがいる。
「おお、セレン! すっかり新品じゃないか? 流石、ウェヌスモデル 」
『お元気そうでなによりです。これからもよろしくお願いします』
―― 優しい言葉を掛けてくれるのは、トークンしかいないのかよ!
女性が2人いると、かなり賑やかになりそうな予感。
そして関係者の5人が揃ったところでパボニスに向かうことになり、テンペ大陸道中が始まる。




