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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
6章 大陸鳴動
56/81

戦後処理

--- テッサリア 戦時評議会室


ただならぬ雰囲気を纏った首席補佐官が戦時評議会室に入って来る。

そして、その一報は突然と伝えられる。

「全滅? 殲滅されたのか! 」


最悪の言葉は、評議会の全員が静まるには十分すぎる効果を持っている。

そして各員まさかとの表情が見て取れる。


「正確には、捕虜となっております。 部隊としての機能がないということです」

「どこ情報だ」


レーベ(サバエア南部都市)からの通告文です。 テッサリアとプロメンテに対して送られています」

首席補佐官が、レーベ(サバエア南部都市)の公文書を執政官に提示する。


< 今回のバカ騒ぎに、我々はうんざりしている。 こちらの国民を危険に晒すなど言語道断であるが、同じ※1ヘラス民族として、この戦争の仲裁と温情をとの“プロメンテ国民解放戦線”の提案を了解し、5000名近い捕虜を一時的に我が地に置いてある。


食料やけがの手当てもしている。 重傷者は病院を手配して対応している。が長期間とはいかない。 速やかな問題解決と馬鹿げた戦争を終わりにしろ>


「怒り心頭だな」

「はい」


「リーリ執政官のところに行ってくる」

「……」


戦時評議会の出席者は何も言わず、ただ一人立って去っていく男の背中を眺めるしかなかった。



--- 拘置所

重い扉の先にリーリ執政官が、疲れた様子もなく、気丈に座っている。

「この環境の中、大したものだな」


フォシン執政官が最初に口を開く。


「このような場所に執政官殿が、直々にご登場とは驚きました。 私の知っている内容は、ほぼ話してしまっておりますが、何かお聞きなりたいことでも? 」


リーリー氏は、他の尋問官と同様、態度を変えることなくいつも通りの調子で話しかける。


フォシンが、その言葉への返答を行う。

「我々の負けだ。これ以上は、本当に立ち直れなくなる。私の首でこの国を許してくれないだろうか」


諦めが見えつつも、決意と責任による覚悟の方が強く出ている。

しかし、彼女の表情に変化は見られない。 感情を出さず淡々と返答していく。


「……なんか似たことを聞いたことがありますね……なんでそう白黒でしか判断できないのかしら? まぁいいわ。 あなた方が、我々に負けたのなら、私の言葉に従いなさい。 私が死ねと言うまで死なないこと。 良いわね」


「ハハハ。 手厳しいな」


しばらくして、テッサリア内に“プロメンテ国民解放戦線”に対しての停戦協議の情報が伝わる。 当初、多くの国民が状況を理解できないでいたが、間接的にプロメンテに敗北したことに気づく。


死傷者2000~3000の被害。もちろん執政官(フォシン)の支持率は下落する。 敗戦の責任から執政官には、武官府より監視が付くことになる。


停戦から1週間経過の後、ネス氏からヘスベリア経由での声明がでる。


≪テッサリアの皆さん。 この度は、両国にとって本当に痛ましいものとなりました。グルジョ執政官は前線で戦い、現在治療中です。リーリ執政官は囚われの身ですので私が代行する形になります。


我々もひどい内戦をくぐりぬけてきましたが、その元凶がタニア連合王国の工作によるものでした。そして今回もまた、同じことが繰り返されたのです。


当初、グルジョ執政官は降伏を考えておりましたが、私どものために戦ったのです。

こんな痛ましいことは、したくなかった。


そして両国で和平協定が結ばれたのであれば、テッサリアへの罪は問わないとまで言っておられました。


タニア連合王国が、暗躍した工作の証拠はあります。これは、我々キンメリア大陸に対しての暴挙です。我々は同じ大陸の住民であり、同じ道を歩んでいるのです。どうか執政官を咎めることなきようお願いします≫


             *** 発表少し前 ***


「良いのですか?わたしで」

ビャーネさんは、イスペリアの前次席補佐官と話している。


「執政官や行政の高官が、タニアの証拠を持っているとなるとイスペリア(古の港湾都市)の政府関係者が疑われる可能性があります。 あくまでも商業ネットワークからの情報にして欲しいとの先方からの依頼です」


「なるほど」


「それに、ここで敗戦の全責任をフォシン氏が受け、失脚または極刑になると、新たなポピュリストのような執政官が出てくる可能性があります。 それで戦争を再開されては困まる。 それにこの時こそが、キンメリアの主要国家からタニアの干渉を排除する最大のチャンスです。 どうかお願いします」


「目立つのはあまり好きではないのですが……まぁ奴らを排除することができるのであれば、私のような老体でよければ、いくらでも使いましょう」


「ありがとうございます。 上手くいけば次期執政官になれるかもしれませんよ」


「ハハハ。 そちらは、お断りします。 私には、植物を育てる方があっていますから。 それに戦時下を潜り抜けた執政官2人がいます。 私のような老体が出しゃばるものでもありませんよ」


                ***


テッサリア内のテロの証拠、エリスへの越境や、その他キンメリア大陸内の不可解な事象に関しての証拠が次々と上がっており、それら全てがタニアを示すものであった。 キンメリア大陸内は、一気にタニア連合王国への不信感や警戒心が高まり、反タニアの雰囲気に陥る。


--- イスペリア 執政官 執務室

複数の執政官がいる場合は、代表は月で替わるシステムになっている。


ここイスペリアでは、タニア連合王国の大使を偶然にもダイゴから提案を受けた執政官との対話になっている。


ローテーブルを挟み、申し訳なさそうにしている大使。 一方で、どこか余裕があるイスペリアの執政官の態度が、対照的になっている。 


力関係で言えば逆になってもおかしくない程に、キンメリア南北動乱のツケが大きく影響している。


会話は、世間話から始まり、徐々に核心に入っていく。

「それにしても今回は、色々大変でしたな」


タニアは、様々な都市国家での暗躍情報を暴露され、信用が失墜している状況である。


「はい。情報庁の暴走で、色々な方面からキンメリア大陸内の各都市国家から叱責を貰っている次第です。 イスペリアだけが我々に対して、寛容で助かります」


「いやいや。 我々も長い付き合いではないですか。 しかし……ですね。我が国も今回の件で色々と国民から厳しい目も晒されているのも事実です」


寛容的に接しているが、(執政官)の言葉には、この寛容は無料では無いとの意図が見える。


「……はい」


「そこでなんですが、以前から要求している我々の工業製品への関税の引き下げやタニア国内の※2 放送権をいただけませんかね。よりタニアに親密なるきっかけが必要だと思うわけですよ。 執政官としても国民への説明がありますからね。 あなた達(タニア)は、我々を裏切らない。 故に大きな障壁を取り除いてくている……とね? お判りでしょう」


「……本国に問合せします」


今の彼にはそれしか発言が出来ない。 いつもであれば反論もできるが、この状況でイスペリアまでタニアから離反するのは、厳しいものがある。 


「お願いしますね。 互いに友好国として歩める回答を期待しますよ」

タニア連合王国の大使は、本国との交渉に頭を痛めながら執務室を出ていくことになる。


執務室には、執政官だけが残る。

「くっくっく――ここまで上手くいくとは、流石エリスの悪知恵だな。 放送権を取得できれば、私の地位も当分安泰か」


執政官が手帳を開く。 エリスからの提案をメモに取っておいたようだ。 それを改めて見返して見る。


「キンメリア大陸内で孤立無援のタニアに手を差し出す最後の国、イスペリア。この希少価値を利用しない手はない……か、その通りだ。 さすがエリスの悪知恵だ。 笑いが止まらないな」


--- イスペリアのどこか

一人の男性が受像機を見ながらお茶を啜っている。


「あの状況からここまで仕上げるとは、さすが“白翼の騎士団”。 首領は一応死んだことにはしているようですが、どうでしょうかね? 」


受像機の映像を見ながら、そんなひとりごとを呟く。

「それにしても私の地位が、また回復するとは、諦めてはダメなものですね。 運び屋としてシメリア(鉱山都市)イスペリア(古の港湾都市)間をピストン輸送した介があったというものです」


執事のトークンが空いたカップにお茶を注ぐ。


「あとは、本国のキンバリーの古だぬきがどうなるのかが見ものですね。 タニアのテロ証拠は、たんまり渡してありますから無事では済まないでしょう」


その貌には、してやったりの表情が伺える。


--- タニア連合王国 ネクタリス郡 ヴィノグラードフ

今回の謀略の張本人であるキンバリーの元に一枚の手紙が届く。 電子メッセージではない公文書となる。ここでは、最重要情報に関して用いらる形式である。


しかし、開くと中身は簡潔な記載であった。

<陛下がお呼びです。ラビリントス宮へおいでください >


「……やってくれたな」

作戦が明るみになりおおよその事頃までは検討が付いたが、王宮への呼び出しとなれば、碌でないことが待っていると分かる


「まっ命を取られることはないだろうが――リーラインのやつ。 くっそ上手い事、現場に取り入ったな――敵の敵は味方か――古典的な関係を使いおってからに! 」


テロ証拠の件も恐らくイスペリアを焚き付け、イスペリアの工作員を使ったのだろう。 しかし、タニアの戦略に対して、イスペリアは動かないと胡坐(あぐら)をかいていたこちらのミスもある。


それ以上にそこまでの状況を創り出した“白翼の騎士団”の戦術眼を大きく見誤ったのが敗因ともいえる。


おそらく、イスペリアの奴らと交渉して、自分達に有利になるように物事を運んだ。 そんなところだろう。 そしてタニアとしても同盟関係がある以上、明らかな裏切りの証拠がない限り、強く出られない。


こちら(タニア)としても、キンメリア大陸内の唯一の同盟国の機嫌を損ねる訳にもいかない。これが狙か。


「やられたよ。 完敗だ」

キンバリーから言葉が洩れる。


さてさて、どんな裁きがまっているのやら。


--- テッサリアとプロメンテのその後


テッサリアからの停戦の申し出から6ヵ月が経過した。


リーリ執政官は解放され、現在は埃っぽいボロアパートを一棟借りて政務を行っている。 これも囮と心理戦のため庁舎を吹き飛ばしたことが原因だ。


資料は膨大であり、様々な仕事が溜まっている。インフラへの攻撃は軽微であるが、それでも無傷とはいかない。 戦後の後始末の大変さは両執政官ともよく知っており、ほぼ仮の庁舎での寝泊まりが続いている。


「足の調子はどうなの? 」

多くの業務を処理しながら僅かな時間が空くと、リーリ執政から話しかけて来る。

以前の間柄では考えられない変化になる。


「義足ですが、なんとか。あとでウェヌス(金星)産の義足と手術を手配してもらえるようです」


「そう……それにしても執政官庁舎を爆破するとは。あなたも大概ね」

その結果が、ボロアパートの一室でグルジョ執政官と共に執務になる。


「私は橋の下で執務を行う予定でしたので、別に庁舎はいらないと判断しました。 屋根と壁がある分、想定以上の環境です。 宮殿と言っても過言ではないですよ」


「……はー。 ボロアパートの一室で肩寄せての業務とは、官僚達にも苦労ばかり掛けるわね」


執務室の時間は静かに、しかし書類の確認やサインのペンを走らせる音、さらにはタイピングの音が響く。 執政官であってもこの状況では、自ら業務を動かす必要がある。


「しかし、あれだけの軍隊が侵入しても、都市インフラへの損害を最小に抑えた、その技量は認めましょう。ありがとう。感謝するわ」


「リーリ執政官からのお褒めの言葉とは、ありがたい」

グルジョが、思わず苦笑いをする。


「ところで、本当にテッサリアを許すの? あなた足を奪われたのよ」


「ええ。被害者同士が争ってもしかたないでしょ。そして、ここまでひどい状況になって、さらに利益のために戦いたいのであれば、別の人間が執政官をやればいい。


その時は、リコールではなく辞職しますよ。利益追求の戦争など二度と御免ですよ」


グルジョ執政官は一拍置き、お茶で喉を潤していく。


「――それに国民も立て続けの争いを経験してその悲惨さを理解できたでしょう」

「高い授業料ね」


「歴史はそんなものです。完全にプロメンテが倒れなかったのが救いです」

「でっ。これなの? 」


作成中のドキュメントを手に取る。

<キンメリア 講和条約>


「そうです。我々もテッサリアに食料を卸し商売もしている。戦争は経済活動を大きく低下させる行為です。経済的損失と共に人的損失もある行為を、回避するのが執政官の務めだと遅まきながら気づきましてね」


「それで慰謝料なしの講和条約ね……監禁されたんだけど? 」


「結果として、巷では自己犠牲による救国の女神と呼ばれていますよ。いいじゃないですか? 支持率も上々のようですし」


「女神ねー私の柄じゃないでしょう。 売国奴とか一時期呼ばれていたのに、勝手なものね」


「国民の心が移り気なのは十分ご承知でしょう? この政体を取っている以上、避けては通れませんよ」


「まぁね。 因みにあなたも、姫を助けるナイト様とのことよ」

「……姫様ですか?」


「何よ。そっち?」

執政官室に笑いが起きる。 忙しくも穏やか時間が流れる。


「後日、講和締結の協議がありますので、出席よろしくお願いします」

「わかったわ。因みに向こうの執政官は、大丈夫なんでしょうね」


「恐らくは。テッサリアの国民がどう考えるか次第ですけど」

「……」


業務の音のみが部屋に響く。

「ところで、あの“白翼の騎士団”は、本物だったのかしら? あなた対峙したんでしょう? 」


「間違いなく本物です」

グルジョ氏は、即答で断言してくる。


「ふーん。公式には戦死になっているけど? 」


「どうでしょうか。それほど、簡単にやられる人物ではないでしょう。生きていると思いますよ」


「色々な国に出没しているけど、どこの国の部隊なのかしら? エリス? それとも貴方が報告したPMCなの? 」


「わかりません。 行動原理が一定ではない気がします。 しかし言えるのは、プロメンテにかかわりが深いことでしょう。 加えて、戦略・戦術眼は一級品です。“エリスの英雄”や“タニアの戦術士”と並んでも遜色ないでしょう」


「……正体不明ね」


「メレア周辺を根城にしていた盗賊団が、“白翼の騎士団”を名乗る男女とトークンにやられたとの報告がありますが、どうでしょう? 女性は、やたらと目立つとの供述がありましたが、詳細は不明ですね」


グルジョ執政官は思い出したように、話つづける。


「ああ、“白翼の騎士団”つながりですが、ネス氏からプロメンテ政府への要望です。“白翼の騎士団”のコンバットスーツを取り戻していただけないだろうか。とのことですよ」


「コンバットスーツねー……やってみる。 私の慰謝料として交渉しましょう。 まったく。監禁の代金がボロボロのコンバットスーツとはね」


--- イスペリア

ここはイスペリアの高級住宅地。見覚えのある車両が一台、邸宅に乗り付けることになる。


中庭の庵ドアがノックされる。

「空いているぞ」


メイドがもう訳なそうにニルブに発言する。

「旦那様。 あの……タツマ様がお見えに……」


メイドさんの対応を気にせずに離れの小屋に乗り込んでいく。

「あーいいよ。いいよ。 気にしないでお嬢さん。 私はこいつに個人として用事があるから」


ニルブの爺さんは呆れたような、驚いたような表情でこちらを見てくる。

「やはり生きていたか」

「死ぬ訳ないでしょう? 売掛金回収していないからな」


「お前さんから何かを購入した覚えはないぞ」

「タニアから随分と恩恵受けたよね。 そして情報も隠したでしょう? 裏は取れているよ 」

タツマの鋭い視線がニルブに刺さる。


「……」

ばつの悪い表情をしているが、こっちは知ったことないので、会話を続ける。


「さて、今回アイデアを出したのは、ヒルベルト商会だ。 それを買っていい思いをこれからするんだろ? どうするよ爺。 二重スパイのことは前回で流すが、今回は別だ」


「お前さん。チンピラか? 」

「チンピラは、戦火を生き延びて勝利は掴めないかと思うけど」


「面倒やつ奴じゃな! 」

「面倒だから、惑星間貿易商なんて商売やっているの! 知っているだろ。 我々はヒルベルト商会だ! 」


タツマがごそごそと上着のポケットから一通の封筒を取り出す。

「この度は、ヒルベルト商会のサービスご利用ありがとうございます。 はい。 請求書です」


タツマがからニルブに一枚の請求書が渡される。 それを受け取るニルブであるが、その金額に不満がでる。


「……なんじゃー。この金額」

爺の驚く顔が、予定通りで気持ちがいい。


「かかった費用だよ。義勇軍への補償費とトークンの修理代安いだろ? 私の報酬は別のところに払ってもらうからディスカウント価格だ。放送権が決まればこんな金額、楽勝だろう? 」


タツマが、どや顔で講釈を垂れて来る。


「ぼったくり過ぎるじゃろう! 」

「きっちり振込先に振り込んでくれよな! 」


ニルブが振込先を確認すると、先ほどの熱も冷め冷静になる。

「……わかった。入金しておこう」


「いいね。高齢者で物分かりが良いことは、周囲から好かれる重要な要素だ。その性格。大切にしな! 」


一通りの悶着が終わると、タツマは去っていく。

庵に残ったニルブ会長は、ぐったりしている


「大丈夫ですか、旦那様」

メイドが声を掛ける。


「ああ。 まったくとんでもない奴だ……」

しばらく、請求書を見て何かを考え、そしてメイドにその請求書を渡す。


「これを指定口座に振り込むように、執事に頼んでくれ」

請求書をメイドに渡す。 そこには300億(3000億円)マリベルの金額が記載されている。


「凄い金額です! これをお払いに」

思わずメイドが声を上げる。


「振込先を見ろ」


<キンメリア南北戦 戦没者の支援団体>


ニルブ会長は、もたれ掛かった椅子から背を起こして外を見る。

手入れが行き届いた庭には、粗が見えるはずもない。


「……」

「命を張った者への敬意だよ。金でしか示せないがな」


「承知いたしました。 執事様へご報告いたします」


--- イスペリア空港

ニルブへの取り立ても終わり、親父(ダイゴ)にエリスに戻り、テラ(地球)帰る旨を伝えると、翌日にエリスの大使が、タツマ滞在のホテルまで出迎えてくる。


どうやら帰路の航空便を準備したらしく、 “チャーター機をご用意しました”との言葉に、タツマの気分が、良くなる。 タツマ自身もイスペリアからエリスへの帰路を想定したので、直ぐにでも動ける状態であった。


政府専用のチャーター機のためパスポートなく移動できる。 と言っても惑星間貿易商はIDだけでどこへでも行けるのが強みではあるが、それでも初めてのVIP待遇に気分がいい。


エリスの腹黒政治家の手先となり2度の戦に駆り出されて酷い目に合ってばかりであり、多少の蜜もないとバランスが取れない。


――このぐらいVIP対応じゃないとね。今までがおかし過ぎていただけなのよ。


そんな感情を抱えながら、空港に到着する。 大きめの空港であり、それなりの数の飛行機の発着が確認できる。


「それにしても。 これでようやくテラ(地球)に戻れる」

幾多の航空機を見ながらタツマが呟く。


『大冒険の連続でしたね』

隣のアルプがそれに呼応する。


「冒険というよりもただの危険業務だろ。 よくお互い生き残れたもんだ」

『セレンは、負傷して今はエリスですからね』


セレンは、挟撃作戦で銃弾に当たり損傷したため、エリスで修理中。

何でもウェヌス(金星)産のトークンを使用しているため部品納入に時間が掛かるとのこと。


それにしても全体的にトークン部隊の運動性能が高かったのが気になるが、生きているので気にしない。アルプと荷物を引きずり、多少の会話がを交わしながら、特別出国ラウンジに向かう。


『プロメンテに対して別れの挨拶はないようですが、よろしかったのですか? 』


「“白翼の騎士団”は、死んだ。 それが公式情報だ。 ビャーネさんだけが、事実を知っていればいい。 その他、多くの人が真実を知ればまた不幸が広まるだけだ。 これでいいんだよ」


『救国の英雄が、寂しいものですね』

「そんな大したものじゃない。 まっ商社プロメンテが潰れたらそれこそ借金が返せなくなるだけだしな」


照れ隠しなのか、タツマから少し斜に構えた回答をする。


出国ゲートの手続きは、ほぼノータイムで抜けることになる。 事前の手回しが行き届いている。 タツマ達は、そのまま指示された機内に乗り込む。 機内も貸し切りのため、個人で広いスペースを満喫できるのも素晴らしい。


――そうそう、この立場よ。本来こうあるべきだよね!


そんなことを思いながら席に着くと隣にアルプが座る。 広い場所であるが、どうも貧乏性が抜けず、こじんまりと纏まる癖は抜けない。


機体が加速して空中に浮く感じが全身で感じ、航空機の離陸を経験するとキンメリア大陸から完全に離れることになる。 多少の名残惜しさもあるが、それでも緊張の連続からの開放の方が強い。


飛行機が巡行に入ると、アルプから会話が振られる。

『タツマは、これから何を?』


「ああ、エリスからカムカム号で地球(テラ)に帰還だよ。 キンメリア大陸のお使いもこれで終わりだし。 ヒルベルト商会も長らく開店休業だったから、再開しないと。


また、惑惑星間を行たり来たりかな? まぁアルプも直ぐにサナエさんに会える。こんな刺激的な旅も今回限りだ」


『……そうですか』

「こんどマールス(火星)に来たら、挨拶にでもよるさ」


こうしてアルプと他愛無い会話をしてきた。 それももうじき終了になると、少し寂しい気持ちにもなるが、人生は一期一会。 


―― また新しい出会いに期待しないとな


タツマが、気持ちを切り替える。


アルプとの会話も途切れ両者の間に沈黙が訪れると、これからテラ(地球)に戻れる安心感から眠りが襲う。 特に飛行機の振動は、眠りを誘う。


―― 少し眠るか。

誰もいない為、リクライニングを最大まで倒してタツマが、目を閉じて、眠りに入る。


                 *


一体どれだけ経過したのか不明である。

『……マ。……ツマ。』


う……。


『起きてください。目的地に着きましたよ』

「――着いたのか。 随分と寝てしまったか? 少し早くない……」


余りにもぐっすりと眠ったのだろうか? タツマも寝ぼけながら飛行機を降り、空港の連絡通路を通って専用出口に向かうが、窓から見える風景に違和感がある。


「おかしくないか? 」

タツマの視界映る風景に違和感を覚える。 色々な意味で目が醒めてくる。


―― 都市の風景違う……エリスなら、宇宙まで伸びる軌道エレベータがあるはずだ。 あの巨大な建造物を見過ごすなんてありえない。


出口に向かって足早に歩いていく。


―― どこだ、ここ?


もっともここは空港であり、生死の間にいるわけでもないが、不安が先に立つ。 

一枚の横断幕がタツマを迎える。


< サクラメンサ にようこそ! >

「さ……サクラ……メンサ? サクラメンサってどこよ」


『テンペ大陸になります』

いつの間にか隣にいたアルプが答える。


「おおぅ。 びっくりした――いやいやいや。 はー? 馬鹿じゃないの? おかしいだろ? エリスじゃ……」


アルプが端末にメッセージを飛ばしてくる。 記載分は一言。

<サナエさんと合流し案件を片付けて>


「……うそでしょ? 」


タツマが固まる。 ボー然とするとはこのことか。 何も考えられない。これが戦火を潜ってきた人間にすることか?


遠くから声が聞こえる。

「ターツマー」


声の方に視線を向けるとサナエさんが、走ってこちらに向かってくる。 ここに来て、入って来る情報が多くなってくる。 サナエさんは、徐々に近づき、会話の距離で止まる。


―― 走る必要もないだろうに

「タツマ。 ようやく会えた。 会いたかった」


息を切らしながら駆け寄ってくる。少しかわいいと思った瞬間

サナエさんからの右平手・左平手・そしてみぞおちへの攻撃が入る。


―― なぜ……? 


急な攻撃により直接ダメージを貰い、タツマは、その場で大の字に倒れることになる。


「怖かったんだから。心配したんだから。だから絶対ぶっ飛ばすと決めていたんだから」

泣かれた。

――  何気に武闘派ですね。


自分より背が高いので平手でも威力がキツイ。


どうしてこうなった? どうしてこうなった? ホントどうしてこうなった?

そしてこれからどうなる?


つづく


※1:ヘラス民族:ヘラス地中海を中心とした古代文明を築き上げた末裔。 実際には、多人種多文化であったが、結束を高めるときに使用する。 日本における大和人のような感じ。


※2:放送権:国外資本であるイスペリアの資本が、タニア国内で放送局を持つこと。場合によっては情報統制に大きな影響がでるため、普通は許可が出ない。




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