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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
6章 大陸鳴動
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軌道降下配送

地上ではテッサリアとプロメンテ国民解放戦線と熾烈な戦いをしているが、サナエさんは研究開発に夢中であり地上の情報は全く入ってきていない。 もっともセレン(シップマスター)が意図的に伝えていないことも大きい。 そんな中、サナエさんの所に一通の要望が入る。

--- 軌道エレベータ ハッピーカムカム号 船内


「ギャップリバー・トランスポート? 何この名前」

タブレットに入って来た要望文章を確認しながら、セレン(シップマスター)に質問するサナエさん。


会長(ダイゴ)が、エリスで設立した運送会社になります。中々お洒落な名前だと』

テラ(地球)のセンスはよくわかないけど――ふーん。 それで? 」


『ギャップリバー・トランスポートから指定のポイントまで ※1:軌道降下配送で荷物を届けて欲しいとの要望です』


「随分とダイナミックね」


『安全性や環境負荷の問題がありますが、軌道エレベータが無い時代は主流の配送方法でもあったんですよ』


シップマスターも調整後、口調が基に戻っている。


「ふーん。 まぁちょうど案件も一段落したし……宇宙旅行と行きましょう! 」

少しハイになるサナエさんだが、直ぐに素に戻る。


「あっ。 でも私、こんな最新の大型宇宙船の動かす方法知らないわよ。 宇宙船の免許はペーパーだし」


『私が運転するので安心してください』

「じゃぁお願い」


『ステーション・ステーション。こちらヒルベルト商会・ハッピーカムカム号・艦コードを送信・離脱許可を』


セレン(シップマスター)からステーションへの離脱許可を求める。

暫くするとマールス・ステーションからの回答がある。


「了解しました。 ハッピーカムカム号の離脱を許可します。 良い旅を」


カムカム号を固定している連結アームが外れる。


「おお……。 凄いわね。 これが大型宇宙船。 ふふふ。乗ってきたわ! 今は私が艦長ね! 」

『艦長は……まぁいいでしょう。では艦長。ご指示を 』


「目指すは、ヘラス地中海周辺! しゅっぱーつ」

『了解です。 発進します』


カムカム号が、エンジンを点火し宇宙空間を進んでいく。


『降下ポイントまで火星時間で2時間ほどかかります』

「ふーん……それにしてもブリッジって良いわよね。 偉くなった気分になるわ! 」


--- エリス・スペース・ステーション

こちらは、エリス所有のスペースステーション。 フォボスのように共有ではないため機密性は保たれているが、広さに制限がある。 


マールス(火星)の静止軌道付近に数多くある、船の簡易パーキングスペースの一つである。 そして、ハッピーカムカム号の出向に合わせて、この基地内部も慌ただしく動いている。 


といってもハッピーカムカム号の情報は、事前に入ってようだ。


「ハッピーカムカム号が、出てきました」

副艦長が艦長に報告する。


「あいつらも我々の要望に随分と巻き込んでしまっているな……さてと小隊出撃だ! 」


クシャナ閣下(ナーミャン)が、直接前線に出られずともよろしいのでは? 惑星間貿易商の護衛です。 それほどの重要性はないと思われますが」


「構わないさ。 たまには、前線で体を動かさないと、戦場の勘が鈍っていかん。 それにこのままゆるりともさせてもらえない気もしてな」


「左様ですか。 ところで、この編成は、何か意図がおありですか? 大型艦一隻の護衛にしては、少々物騒な気もします」


「ここは最前線だ。 常に不足の事態を念頭に入れて行動する。 その内わかるさ。 副艦長たのむぞ! 」


「了解です。 後部防御型により出航! 」

エリスの宇宙基地から5隻編成の艦隊が出ていく。


--- 投下ポイント


徐々に高度を下げて、目標高度になるまで暫く掛かる。 もっともその間、何周かマールス(火星)の周りをまわることになるため、暫く遊覧飛行が続く。


「ちなみに、コンテナの中身は何なの? 」

サナエさんが、セレン(シップマスター)に質問する。


『顧客の荷物は、※2守秘義務扱いになります』

「ふーん。まぁいいか」


単調な受け答えでは、会話が終わってしまう。 退屈化と思いきやブリッジンのモニターには、外の景色が映し出されている。


「それにしても、こんな場所で母星を見たのは、初めてー」

ブリッジのモニターに映る映像を見つめるサナエさん。


「幻想的―しかし、本当に極点からの氷が、随分と多いわね」


ブリッジからモニター越しに見えるマールス(火星)は、大きく海と緑で覆われている。しかし、極点の氷の面積が地球に比べてかなり広い。


『太陽から離れていますからね。 確か惑星間プロジェクトでありましたよね。この問題をどうにかしようと』


「ああ、あれ。 人工恒星プロジェクト(惑星間プロジェクト)でしょ? 確か150年(地球歴300年)に渡って研究しているやつ。 最近動きがあったとは、報道で聞いているけど。 どうかしら?」


『人工恒星ですか』


「ユピテル教が騒ぎ出しそうな案件よね。 人工恒星を作ってマールス(火星)を温めるってんだから随分な計画よねーそろそろポイントじゃない? 」


『確かに――配達シーケンス入ります。 サナエさんは、周囲の状況と連絡対応をお願いします』

「りょうかーい。 さてと、お仕事・お仕事……」


突然にカムカム号に大きな揺れが発生する。


「……何なの一体」

『敵襲です。先方からの回線をつなぎます』


               *** 回線 接続 ***


≪こちらは、キンメリア合同宇宙軍パトロール艦だ。貴様らは、戦闘空域を侵犯している。敵性勢力との疑いがある。航行目的を明示せよ。 繰り返す……≫


「はぁぁーあ! そんな指定あるの? ってか戦争って何よ! 」


『まず、我々のマップには、そのような表示は反映されていません。テッサリアとプロメンテ周辺のみですね』


少しパニック陥っているサナエさん。

「……ちょっとまって。 落ち着いて。 プロメンテって何? タツマは大丈夫なんでしょうね! 」


『……』

「嘘でしょ。 巻き込まれているの? 」


『多少ですね』

「多少って何よ! 」


初撃の攻撃以降、後方からのミサイルは、全て撃ち落とされている状況になる。 

流石次世代AIを搭載していることはある。


「生きているのよね! 」

かなり気迫に満ちた顔で聞いて来る。


『それは問題ありません。アルプもいますし』


その言葉で多少落ち着く。

「いいわ。であればこちらの仕事も進めましょう。 回線接続要請をだしなさい! 」

『何する気です? 』


「文句言ってやるのよ! 惑星間貿易商の商売をボイコットするとは何事よ! 」

『……しかし』


「やりなさい! 」

回線が繋がり映像が流れる。


≪ほう。お嬢さんの登場とは意外だな。こんなところで何をしているんだい? ≫


≪あんた達! こちらを惑星間貿易商と知っての狼藉なの! 顧客の荷物をメレアに送っている業務中になにしてくれてんの! ≫


≪知らないと思うけど、お嬢さんがいる地上では戦争がおきているんだよ。そんな中、上空に不穏な船がいればあやしまれるよね。こっちに来て、色々聞かせてもうよ≫


後ろから声がきこえる。

“おお、すげー美人じゃん”

“まじか”


正規軍とは思えない、レベルの会話が聞こえてくる。

その反応は、一層サナエさんの怒りに火を注ぐ。


セレン(シップマスター)。 戦える? 相手は三隻なら楽勝でしょ! ドローン戦闘機と三連速射砲があれば行けるでしょう! 捻り潰してやる! 」


サナエさんが改良しただけあって能力は、把握している。


『できますが、正規軍とやり合うのは、後々問題になります』

セレンの回答を聞きながら、相手はこちらの会話は聞こえていないため、一方的に話を続けてくる。


≪まぁ来ないなら、接舷してでも貴様の身柄を確保してやる≫


               *** 回線断 ***


通信回線が、一方的に切れられる。


「じゃあどうするの! このまま掴まれっていうの! 」

刹那、モニターに映るキンメリア合同宇宙軍後方からチリが舞い上がる。


パトロール艦は、大きな衝撃が完全体に伝わる。


オープン回線で会話が、カムカム号内に響いて来る。

≪久しいな。キンメリア合同宇宙軍パトロール艦。 そんな小娘と遊んでもつまらなかろう。私を楽しませるのはどうだ? ≫


≪ちっ誰だ! ≫

画面に映るのは、中央軍少将かつエリスの英雄。


≪クシャナ……エリスの羅刹が、なぜこんなところに≫


その言葉にナーミャンが少ししょんぼりしている。 おそらく好きな2つ名ではないのだろう。

メッセージでカムカム号に“荷を配送して逃げろ”と指示が来る。


「わかっているわよ。セレン(シップマスター)。 お願い」

『了解』


コンテナをパージして一目散に戦闘域から脱出していく。

≪くっそ逃がすな! ≫


≪待てよ。あれはエリスの客人。それに手を出したわけだ。ただで済むと思っているのか?≫


ナーミャン艦隊は、5隻であり自分たちは3隻、物量からして負けている。おまけに後ろをとられ、艦長も英雄ときている。


オープン通信回線には、キンメリア合同宇宙軍パトロール艦ブリッジの裏の声が入って来る。

“艦長だめです。ここは、諦めるしかありません。とりあえず、穏便に済ましましょう”

“くっそ!”


--- ナーミャン艦隊

一見すると上手く状況が運んでいるようであるが、ここは、利害が複雑に絡む宇宙空間。 そう簡単に終わることもなかった。


「艦長。 後方よりタニア艦隊が、接近してきます」

オペレータからの情報が、ナーミャンの耳に入る。


「ふん。 だと思ったよ。 ディフェンス艦を展開しろ。 コルベットは魚雷装填し発射準備。 駆逐艦は電磁加速砲を臨界に保っておけ!! 」


軟派そうな男性の声が、オープン回線でスピーカから聞こえてくる。


≪やぁ ナーミャン。 あまり弱い者いじめるのはよくないよ。 それとキンメリア合同宇宙軍のパトロール艦隊。 さっさと離脱しろ。 まっすぐフォボスに帰るんだ。 あの船を落とそうなんて思うなよ≫


≪タニアか感謝する! ≫


キンメリア合同宇宙軍のパトロール艦は、最大速度で宙域を離脱していく。

地上と宇宙では、関係性が、少しずれているようだ。


≪貴様か……アリストライド! ≫

オープン回線からの声だけで、ナーミャンが人物を特定する。


≪やあ。久しぶり。よく戦場であうね。 散歩かい? ≫

そして、彼の出現は、ナーミャンにとって好ましくないようである。


≪そんなところだ。 ところで5男坊。 ……お前まだ大佐だろ? 艦隊の長には、早いんじゃないか? ≫

早速、ナーミャンから相手への痛烈な皮肉が飛び出す。


≪まぁ仕方ないのよ。 現在、准将は産休。代役さ。それと5男坊は、いい加減やめて欲しいんだけど≫

少しむっとしているようだ。


≪もう一人はどうした? 副艦長もいただろう? ≫


≪そっちは、育休なんだ。 誰かさんと違って。 ナーミャンも親に孫の顔でも見せる年じゃないの? ≫

痛烈な皮肉返しが飛んでくる。


その言葉にナーミャンの整った顔が歪む。

≪ほほう。同じ国でなくてなく良かったな。 同じなら締め上げていたぞ!! ≫


効果は、覿面(てきめん)のようだ。 


≪で。どうします? 一戦交えます。 私としては、このままでランデブーしてフォボスに戻りたいんですけどね。 パトロールでやり合うのは、こちらも望んではいないですが≫


≪いいだろう。 私の仕事も終わった。 このまま周回軌道に沿ってエリスのステーションに帰還する≫

≪であれば、こちらも、追従しますよ≫


--- タニア艦内

「艦長。対応は如何しますか? 」

オペレータからの確認がくる。


艦長と呼ばれる男は、会話が終わると大きく深呼吸をする。そして手直にあるパック飲料に手を付け飲み干す。


「ふー。さてと聞こえていたと思うが、照準は……うまいねー。ディフェンス艦で上手く旗艦への射線を切っているか……本艦の照準は、駆逐艦に合わせろ。 向こうから攻撃があるまで攻撃は厳禁。 前方の艦隊と相対速度を合わせて、途中までランデブーだ。 緊張感をもちつつ、宇宙旅行を楽しんでくれ。 以上だ」


モニターには、マールス(火星)が流れている。

周囲の機械音で聞こえないぐらいの呟きが、アリストライドから洩れる。


「威力偵察で来てみたら、ナーミャンとはね。 誰だよ。 宇宙で呆けているって言っていたヤツ。 どう考えてもこの布陣、こちらの出撃をよんでいるじゃないか。 一線級の指揮官だな」


しかし、この男は仮にも艦長を名乗っている。 ここで思考を終わらせるはずもなく、しばらく考え込み、ある結論に至る。


「……なるほどね。 奴らなりの考えか……やっかいなことを」


この言葉の後、アリストライドの眉間に皺が寄る。

しかし、ブリッジの他の乗組員は全員職務に集中しているため、艦長の表情に気づくこともない。


暗い宇宙空間に10隻の艦隊が、マールス軌道を遊覧することになる。


※1:軌道降下配送:低軌道からの落下輸送。 軌道エレベータ運搬時よりも頑丈なコンテナに入れての輸送であるが、落とすだけであるので早い。 しかし、コンテナ対応の処理がでてくるのが厄介。


※2:守秘義務扱い:ギャップリバートランスポートの荷役をしているので、ヒルベルト商会のサナエさんは第三者になります。 ちなみにセレン(シップマスター)は、ギャップリバートランスポートとヒルベルト商会の兼用従業員になります。

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