継続 キンメリア南北動乱
--- テッサリア 執政官庁舎 戦時評議会
戦時評議会で第二次プロメンテ攻略戦と銘打った状況が報告されている。
まずは武官府からの説明になる。
「第二次プロメンテ攻略戦ですが、開始当初の攻撃により大きな被害が発生。庁舎内にいた次席補佐官は重体。前線司令官は重傷のため指揮が取れません。現在副司令官が前線の指揮を執っております。死傷者、1000名弱発生しております。 一方で都市内の警備は通常であり、特にテロ活動らしきものは見受けられません」
武官府は、統治から軍事までを統括する部署である。この下に治安維持庁や軍務庁がある。
都市国家の形態から大きな官僚機構をもつことが出来ないため、横の連携を重視し、効率を上げるための組織である。
「“白翼の騎士団”が、牙をむいてきたか……。エリス艦隊の動きは?」
「領空への頻度は変わりませんが、向こうは複数の艦隊での実施、こちらは、一国の対応であるためパイロットや整備士の疲労が目立ってきております。このままでは深刻な事態に発展する恐れもあります」
一拍を置いて軍人官僚が執政官に話しを続ける。
「フォシン執政官殿。 現状の想定からするに軍部だけの対応は、そろそろ限界を迎えつつあります。 民間から航空機の整備士の徴発と予備役の招集をお願いできないでしょうか? 」
かなり切迫している。
「なるほど、領空を食い破られるか勢いという事か……」
「……はい」
「それで、リーリ執政官への尋問は? 」
武官府の治安維持庁に視線を移す。
「それなりには進んでいますが、“白翼の騎士団”と関わりがあるのは、グルジョ執政官であり、私は知らない。 とのことです。実際、彼らが共に行動していることが、証左ではないかとの発言ばかりでして。 そのメディア戦略がかなりきいておりまして、暴力的に口を割らすと後々面倒なことになるため情報の開示にはまだ時間を頂きたいです」
「忌々しいな。 全てに道理を通してくる……」
全員が先日の勝利からひどく沈んだ会議になっている。
突如として現れた“プロメンテ解放戦線”なる存在に良いようにあしらわれている感がある。
一旦の沈黙の後、フォシンがついに不満を爆発させる。
「……どうしろというんだ! どうしてこうなるんだ! おかしいだろ! 平和に! ようやく正常に戻ろうとしたときに! なんで! なんでこんな目に合わなければいけないんだ! 」
執政官が取り乱す。 全て術中にはまっている。 しかし、抜け出す術もない。
参加者は黙ってその様子を見るしかない。
ここは評議会であるため、人数制限が掛かっており、多少の暴言や感情的行動は大目になる場所であり、多少の暴言や態度は暗黙の内に潰せる場所である。
「……」
ここまで復活してきたテッサリをまた混沌事態に戻す状況。執政官本人としては何としても避けたいところである。
「ふーーー。 くっそ。 どうしろと“白翼の騎士団”は、化け物か何かか? 何なんだあいつら! 軍務庁! 次の作戦は! 」
武官府完了を通り越して直に軍務庁の官僚が回答を求める。
「かなり、厳しい作戦ですが、樹林帯への空爆を考えております」
「プロメンテの航空隊とアイギスシステムの網はどうする!」
「数で押し切きり、地上を支援します」
「その間のテッサリアの守りは? 」
「……停戦協定を信じるのみです」
興奮している自分を治め、静かに深呼吸をするフォシン執政官。
「シティ地区並びに周辺への高射砲の設置を許可する。 準戦時体制下に移行だ。 市内への軍用車の乗り入れも許可だ。 夜間外出禁止令と報道規制も実施だ。
予備役と民間整備員の徴兵も進めろ! 軍務庁・治安維持庁・各庁の連携を期待する。 武官府は各情報をまとめ整理しろ! 」
「承知しました」
「了解です」
各々が回答を貰い、事態打開に向けて動き出す。
(ただの、小規模組織がなぜここまでのことができるんだ)
--- ドルサ地方 第三防衛線
数日後、ドルサ地方の第三防衛線陣地の天幕の一つにタツマ達の姿を確認できる。
内部には、テッサリアの進軍状況や最終決戦に向けた準備をしている。
タツマ達は、報道紙で戦況を知ることになる。
「空爆とはずいぶんと思い切った策を……」
タツマが率直な感想を漏らす。
ヘスベリアの頭目が疑問を呈してくる。
「しかし、東側から回り込めば、樹林帯を通らず我々を追撃できたでしょうに。なぜ樹林帯に固執するのですかね? 」
「そこに明らかな脅威があるからだ」
「脅威? 」
「そう。野戦砲というシティ部を狙っているとされる砲撃陣がある。それを排除せずに南下はしないさ。それに囮と知っているのは我々だけだ」
「確かに」
『最初の砲撃で20基、空爆で13基の野戦砲の破壊を確認しました。設置した野戦砲は全滅です。道中に設置した自動兵器を無効化してテッサリア軍は南下しています。速度は想定より早いですね』
「で、奴らとは、ここの第三防衛線で戦うのか?」
「ここは、それなりの丘陵地になっている。 文字通り上を取っているため、こちらが有利。 狙いも付きにくい。 砲台も動かしやすいメリットもある。 作戦を実行するには打ってつけさ」
「作戦内容は確認しているが、ではここもか? 」
「ええ。 敵も丘陵地にキャンプ地を設営したから、衛星からこちらを確認できるでしょうね ――ところで、全部隊の分割案はできている? 」
白いコンバットスーツが、グルジョ氏に視線を向ける。
「完了している。100班近くに分割してある」
「それなら、結構。 作戦が開始されたら1班ずつ最終防衛線に向かってね」
「しかし、大丈夫か? ここが拠点と分かれば相手は猛攻を仕掛けてくるぞ。 人数を減らしての対応は無謀では? 」
ヘスベリアの頭目が心配そうにこちらを見て来る。
「ここから先の作戦に、安全な作戦は一つもないさ。 そして、全ての作戦を成功させないと我々に勝利が無いのも事実だ」
「まぁそうだけどさ。 あんたが戦場に消えると作戦全体に影響がありそうで――」
「その時は何とかしてください。 それと、最終防衛線にある程度入ると、レーベから声明が出る手配図になっていますが――」
「わかっている。 作戦書は熟読しているさ、動揺はせんよ」
「それとテッサリアへの声明だけど――」
「我々は、弱者だ。体面を気取っている場合ではない。だろう? わかっている。それにこの状況下で、この案をテッサリアが受け入れるとも思えないし」
「ならよかった。 今後の西方方面の指揮官は、グルジョ氏でいいかな? 」
「俺は構わないぜ」
ヘスベリアの頭目は、了承する。
「白翼殿。 了解した。 御武運を」
グルジョ氏の快諾により武装組織の指揮権が移譲されることになる。
--- テッサリア 戦時評議会
武官府の人間が、説明を行っている。
「先の軍務庁による空爆でシティ地区南部樹林帯の無力化に成功。 前線部隊は、ドルサに向けて進軍中です。 道中の農耕地区での物資調達を実施し、さらなる南部進攻にそなえております」
先の空爆が成功し、戦時評議会は多少落ち着きを取り戻している。
「現地徴発か……」
「はい。 しかし、プロメンテは既に我々の支配下。 故に合法的に徴発が可能です」
武官府の言葉は、冷たくそして戦争の現実をみせられることになる。
「そうか……」
フォシンは天井を仰ぐことしかできない。
「シティ地区には、本国からこちらの治安部隊を1,000名投入しており、部隊が抜けた後のプロメンテ・シティ地区への治安維持を担っております。 状況はおおむね順調です。
愛国同盟なるプロメンテのレジスタンスの勢力も縮小中。 引き続き警備強化を行っていきます。
また文官府による統治政策として、プロメンテ市民の移動、そして限定的ではありますが経済活動など日常生活に戻す活動を実施しております」
「了解だ。 現地の情報はよくわかった。 前線はどうなっている」
フォシン執政官が、まずのシティ地区統治に多少に安堵している。 しかし、管理できているのは、中心都市のみだけであり、他の地域はなんの統治すらない。
武官府の前線管理者が起立し報告する。
「はい。 では私から。 プロメンテ解放戦線 の根城が判明しました。 プロメンテ南方のドルサ地方です。 大規模なキャンプ地が衛星から確認できました」
プロジェクターでスクリーンに衛星写真のような上空写真が映し出される。
「なぜ、今になって判明するんだ? 本物か? 」
フォシンからの質問が出る。
「結論から言えば本物です。 軍務庁や他の庁を交えて情報の真贋を図りましたが、7000名近くを収容する人は、この規模のキャンプ地が必要なるようです。 おそらく、散らばっている人員を集めて、 プロメンテ・シティ地区奪還への再攻勢の準備ではないかと推測されます」
丘の上に大規模なキャンプ地が出来ている。確かに相当数の人数が撮影されている。
「この画像が示すように、いずれにせよここに大規模な人がいることは確かです」
(それはわかる。 しかし、それを今、我々に見せる意味はなんだ?理由が分からない。
奴らならもっと、狡猾な手段に出られるはずだ)
フォシンは疑問を抱きつつ、武官府の官僚からの報告に耳を傾ける。
「我々としては、この場所への攻撃を計画しております。本来であれば周辺地域への侵攻を掛けたいところですが、ここでプロメンテ解放戦線に戦力を整えられる前に奴らを破壊することが優先と判断します」
(だが、現状ではここを攻撃するしか方法がない。それ以外の選択肢がない。ドルサ地方は、プロメンテと他国との境である。 しかし、ここまで来た以上、攻めるしかない)
「戦力は? 」
「この映像より人数は、7000前後と推測します。この数字は、当初こちらが想定していた人数に近いものがあります。 よって、ここが彼らの全戦力とであると判断します。 シティ地区は、引き続き治安維持隊に任せ駐屯軍の全力をもって叩く計画とします」
(プロメンテ周辺への侵攻とプロメンテ解放戦線の討伐。両方軸を考慮した戦線の拡大は不可能。 エリスが居なければ何とかなるんだが――くっそ)
「……攻撃を許可する。 中央評議会用の答弁書の準備を頼む」
フォシンが首席補佐官に指示を出す。
「了解しました」
根城が分かったことで、シティ地区からほぼ全軍の出撃が発令された。
南部の森を抜けて農耕地で待機していたテッサリア軍の総勢7,000名が、進軍を始める。
ヘラス南北街道を使って、目的地のドルサ地方への進軍するテッサリア軍。
十数日の経過の後、激戦の第三幕が上がることになる。
--- キンメリア大陸 ドルサ地方
激しい砲撃戦が行われている。
「次弾装填!!遅いぞ!!打てー」
南北戦争が開始されて、久々の大規模な砲撃戦が行われている。
前回同様、人が見えず、司令部の指示のまま砲塔の方向と角度を付けて砲撃を行っている。
恐らく方向はあっているのだろう。
事実向こうからも砲撃が飛んできており、それなりの被害が出ている。
“航空支援が無い中での地上戦ってどんな貧乏くじだよ! ”
“エリス艦隊が、イシディス海にいるんだ! 文句垂れず場所を移動の準備だ”
といっても、テッサリ側は、引き続き精度の高い砲撃ができており、徐々にプロメンテ解放戦線が、押されている。
*
テッサリア 野営陣地では戦前指揮官と副官で状況の把握と司令部からの情報の整理に勤しんでいる。
「指揮官殿、中央司令部からの情報ですが、プロメンテ解放戦線 の一部が戦線から離脱しているようです。 脱走兵との報告ですが本当でしょうか? 」
「その情報か……確かにその情報は受けている。 しかし、我々が押しつつあるのは事実だが、決定的な勝利は掴んでいない。早すぎる気がすると言ったところだな」
「この情報が事実だとしたら、プロメンテ解放戦線内で何かが起きたのではないでしょうか? 」
「何か……か。 脱走兵は西へ逃走か? 」
「はい。 メレア方面に向かっているとのこと。そこからレーベに向かうのではないかとの予測です。レーベは、ヘスベリアと友好関係と聞いています。ゆえに完全な逃走ルートが形成できます」
「なるほど、サバエアに逃げ込めば、我々から悠々と逃れられるとの算段か。忌々しい」
前線指揮官尾眉間に皺が寄る。
連日の猛攻撃にプロメンテ解放戦線からの攻撃が、弱くなってくる。
司令部からは連日脱走兵が頻発しているとの情報も日増しに入って来る。
その事実を裏付けるように相手側からの砲撃弱体化が著しい。
そして十数日後ついに、砲撃がなくなった。
≪指揮官殿。砲撃がありません。どうしますか≫
前線の砲撃部隊から無線で指示を仰いでくる。
≪シティ地区の例もある。斥候を出せ。違和感があれば直ちに戻ってこい≫
≪了解です≫
斥候隊が、丘の上の砲撃陣地に着く。あたり一面砲撃の後になっており、その中で、破損した白いコンバットスーツだけが取り残されていた。
--- 前線指揮官の天幕
「さて、このコンバットスーツをどうみるか?」
前線司令官は、ボロボロになったコンバットスーツを見て思案している。
白色のコンバットスーツは、砲撃で著しく破損しており、焼かれている。しかし、着用者の骸はない。
中央司令部に報告はしてあるが、これで“白翼の騎士団”の頭目を仕留めたと考えるのは、短慮過ぎる。 しかし、敵の砲撃陣が撤退したのも事実。
であえればメレアに向かって進撃か、ここでシティ地区への帰還かを決める必要がある。
死傷者も発生している。
先の空爆は成功したが、プロメンテ航空隊に帰還するところを狙われ、ポンコツ航空部隊であってもかなり落とされている。 飽和攻撃の前には高性能機であっても凌ぎきるのは難しい。
進軍にしても引き続き航空支援は難しい。
「まったくやってくれるものだな」
司令官がそんな呟きを吐いた直ぐ後に天幕に副官が入ってくる。
「司令官殿。 中央司令部より入電です」
副司令が、送られてきた文章を渡す。
それを暫く読み込むことになる。 周囲からの砲撃音もなく、いたって平和な状況が続いている。
「進撃か」
読み終えると、そうつぶやく。
中央司令部内容では、シメリアの義勇軍からの情報で、白翼の騎士団が倒れたことによりプロメンテ解放戦線の統率が出来なくなっているというものであった。
そして シメリアの義勇軍だけでも投降したいとの打診があったとのこと。
中央は、シメリア義勇軍からの提案を却下し、“プロメンテ解放戦線” の殲滅を選択したとのことが記載されてあった。
脱走兵・白いコンバットスーツ・投降の状況から“白翼の騎士団”が倒れたと判断した根拠なのだろう。
副司令官に文章を渡す。
「どう考える?」
「あの“白翼の騎士団”であっても、戦場ですから運が悪ければあっけないものですが……」
副司令官も同様に煮詰まっていない。
文章を再度読み込み、彼の視線もボロボロの白いコンバットスーツに向けられることになる。
「判断が付きません。 あるのは、状況証拠だけですし」
「同感だ。 といっても“プロメンテ解放戦線”が脱走しているのは事実。しかし、相手は、あの“白翼の騎士団”となれば話は別だ。 どこまでが欺瞞が判らん」
「仰る通りです。 中央もそこは考慮しており、衛星からの映像からも逃走の確認できているといっています。 各部隊が散逸しての逃亡とのことで報告です。シメリアの義勇軍からの“プロメンテ解放戦線の統率が出来なくなっている”との情報と一致していると判断したようです」
「……まずは、プロメンテ・シティ地区への負傷者搬送部隊と進撃部隊の編制だ」
「了解です」
指示の数日後、サバエアのレーベよりテッサリとプロメンテの南北戦争に関しての公式発表が発せられる。
<我々は、貴殿らの戦争に加担する気もなく、巻き込まれる気もない。 メレアを通って兵が来ているようだが、我が領地に入り、安全を脅かすようであれば、プロメンテ・テッサリア何れであっても排除する。 我々は無関係であり、両者の平和的解決を望む>
レーベの公式な発表である。 司令部から情報が転送されてきた。
本当に“白翼の騎士団”が倒れ、烏合の衆になっていれば殲滅も容易。そしてこの声明でレーベ以西には逃げられないことも確定。
仮に“白翼の騎士団”が倒れてなくても、このまま物量で追い立てれば、袋のネズミにすることは可能である。 テッサリアが勢いに乗る。
司令官の気力も高まる。副司令官に号令をかける。
「進撃だ」
「了解です」
ようやく戦いの終わりが見えてきた。




