狂瀾怒濤
投票結果が開票される。 結果は、51%での開戦に決まった。 国民が勝てる見込みのない戦に同意した理由に関しては、様々であるが、“国の矜持”。 この一点が最重要であった。
特に疲弊し困難な状況を克服した農業地域は、ほぼすべてが開戦に賛成にまわっている。
--- 評議会
国民投票を経ての開かれる緊急評議会は、開始前からざわついていた。
国力を著しく落ちているプロメンテが、キンメリア大陸筆頭のテッサリア相手に戦いを引き受けるなど無謀そのものであり、結果は火を見るより明らかであった。
“結果が出ましたね”
“ああ。開戦だ”
“勝ち目が、薄いのになんてことを……”
“……”
グルジョ 執政官が口を開く。
「さて、方針は決定し、カードは配られた。今後の方針の協議を実施しよう。そのまえに、総司令官は、リーリ執政官に任せたいと思う」
最初の提案として総司令官が指名されることなる。
「それは如何なる理由でしょう」
指名を受けたリーリ執政官が、グルジョ氏を睨みつける視線を送る。
本来であれば軍属上りのグルジョ氏の方が軍を動かすのには長けているはずだからである。
「私はここで執政官の職を辞する」
一瞬その言葉に全員が不穏なものを感じたが、この男がそうやすやすと責務を放棄する人間ではないことは、ここの全員が知っている。
次の言葉を聞くまで委員会は、沈黙が訪れる。
「……」
「逃げだすようなことはしないさ。 将軍」
武官府の席の方を見ながら話しだす。
「なんでしょうか?」
「志願兵は、募集しているかい? 」
「……この場での冗談は、相応しくないですぞ」
「本気だよ。 一兵卒で志願する気だ」
「……そうですか。 いやー執政官が前線とは、兵士の士気も上がりますな! 」
将軍が、強がりを見せる。しかし、この戦が、いかに無謀なことであるかを参加者は、全員理解している。
只一人を除いては。
「なるほど。よくわかりました。前線の士気を上げるために志願するとのことで、よいのですね」
リーリ執政官の鋭い視線が、グルジョ氏を視線で射抜く。
「ああ。 それに若者が先に死ぬのは、心苦しくてな。 加えて私のようなものが、後方でふんぞり返っていては、国民や軍の士気もあがらんだろう? 」
「……ほう。 それが理由ですか? 」
「プロメンテ動乱の敗戦の将が、最高司令官の一角では示しがつかない。 必要であれば、私の首をテッサリアに渡せばいい、そうすれば、彼らも矛を収めやすいだろう。 私が戦場で消えた方が、ことは上手くはこぶはずだ」
「……自殺志願者か何かですか? あなたは」
呆れながらも彼女の視線には怒りが混じっている。
「この戦いが、無謀なのは承知している。 だからこそ、私の命で国民が救えるならば、安いものだろう」
グルジョは、諦めにも達観にも似た表情が見える。
「それが、最前線で戦う理由であると。……まずあなたは、執政官であり、かつては軍に所属していた人間です。 その時何を学びましたか? はっきり言います。執政官であれ軍人であれ、どちらも“国民のための力”になることでは、ないでしょうか? 」
「……」
「あなたの理由を聞いて、わかりました。残念ながら死にたがりを戦場に送る訳にはいきません。 それこそ士気が下がりますから。
執政官辞任は却下です。何もせずそこで見ていればいい。 それと、私はこの戦いに負ける気はありません」
武官府側から
「リーリ執政官殿、何か妙案があるのでしょうか? 」
「先日、ネス邸に出向き、そして正直に言いました。 助けてくれと。 この国のために力を貸して欲しいと。 我々は間違える。 しかし、立ち直ることもできる。機会を頂けないかと」
「……それで」
「手を貸すといってくれたよ。 彼らは義勇軍を隣国から集めているとのことだ。総数は、5000まで確保してある。 プロメンテ軍と合わせて7000程度での編成はできる。 アイギスシステムの噂もホントのようだ。 制空権を維持する作戦が、向こうさんにはある。 かなりしんどいとも言っていたがね」
「本当ですか! 」
「加えて、先日、死に顔の執政官が来たと言っていた。言伝を預かっている。
“海難事故時の恩義はいまでも忘れていません。 国民を守ること救うことが、公人の務め。 であれば、その中には自分も入っているはずです。 自分を守れない者が、他人を救うことはできない。 人生の選択を誤ることなきよう再考を”
と言っていた。 何を言っているのかその場では不明だったが、今日分かった」
「……」
リーリ執政官は、グルジョから視線を外し、評議会の出席者に目を向ける。
「どうするかは、自ら決めなさい。 まず、私が総司令官と指名された。 将軍に命じる。戦力を可能な限り集め、計画通りの配備を実施!
治安維持局は、市民の避難の開始。場所は、当初計画通りプロメンテ東側のシメリアとの国境付近だ。
文官府は、戦時体制下に移行。 統制経済の発動。 気休めかもしないが、両国家とも疲弊している。 長期戦にはならないはず。 期間は6ヵ月。
それとテッサリアに打電だ! “クソッたれ”と伝えてやれ」
--- テッサリア 執政官庁舎
秘書官がドアをノックする。
「入れ」
「プロメンテから打電が届きました」
「なんと? 」
「……“クソッたれ”。 その一文です」
「……やはり、そうなるか。 予想はしていたが、双方疲弊した国家同士で争うことになるとはな。
武官府に指示を出せ。 開戦は1ヵ月以内だ。最終準備に入らせろ」
「了解です」
結局こうなるのか。
--- プロメンテ 商社プロメンテ 本社
タツマが地下の資材倉庫で報告書に目を通す。
「……まぁいいさ。 財布が一つできたと思うか」
『セレンからの確認済み作戦プランは、受領済みです。それにしても軍議とは。随分と作戦規模が大きくなりましたね』
「本当だよ。 非戦闘員の素人に何をさせるかね」
『非戦闘員は認めますが、素人は無理がありますね』
白いコンバットスーツに身を包む。随分とこの格好をしている気がする。
サナエさんのだろこれ?
お洒落なコンバットスーツは無いのとか言って真っ白にしたのは。
『馴染んでいますね』
アルプの言葉を無視して、軍議場に向かう。開戦は確定だ。
エレベータに乗りプロメンテ社の中央ロビーに向かう。
ロビーには簡易な机と椅子のみのスタイル。全てを省いて最大限の案を捻りだす。
巨大なリスクを背負い、最大限の利益を確保するのにリラックスした部屋での会議は無意味との意味合いがある。
ロビー裏手の扉が見えてくる。
『タツマ。 ヒーローは、最後に登場ではないでしょうか? 開始時刻よりずいぶんと早いですが? 』
「ヒーローなんて器じゃない。 それに、時刻が指定されていれば、遅れずに行くのが商人です」
『イスペリアでは、だいぶ遅刻もありましたが』
「そうゆうことは言わないの! ……ここからは、私一人で対応する」
『了解です。 ここで待機しています』
扉を開けると、役者が全員揃っている。
「……」
―― 随分と士気が高いことで
「へー初めて本物を見た。本当に白いコンバットスーツなんだ」
「随分と洒落たコンバットスーツだな」
「流布された写真と形状が、だいぶ違うな」
それぞれの声が聞こえて来る。
ヘスベリア、シメリア義勇軍の各頭目とプロメンテの2人の執政官、と将軍、ビャーネさんがいる。
「さ。“白翼の騎士団”殿こちらへ」
ビャーネ氏が促し、上座に座らせる。
「進行は、僭越ながら私が進めます。 この会議……軍議の目的は一つ。 テッサリア軍の打倒になります。 そして義勇軍の方々、こんな困窮した国への支援。本当にありがとうございます」
ビャーネ氏が感謝を述べる。
「まぁあんたらには、世話になりっぱなしだし。鉱山も蘇らせてもらった。 恩返しはしないとな。
それに山岳事故でプロメンテ軍にだいぶ世話になっているかならな。 俺の弟も雪崩に巻き込まれて一時は絶望していたが、プロメンテ軍の救助隊に助けられたんだ」
「我々もレーベの輸出で街に活気が戻ってきましたから。 ここでこの平穏を脅かされては困るのでね。 我々も海難事故での救助に関してプロメンテ軍には随分と借りがありますからね」
「私からも礼を言わせてくれ。ヘスベリア、シメリアそして商社プロメンテの方が、この国のために行動してくれて感謝する」
リーリ執政官が感謝を示す。
「さて挨拶がすんだところで、“白翼の騎士団”殿から作戦内容と説明を提示してもらいます」
ビャーネさんがこちらに話を振って来る。
作戦計画が、各端末に送信される。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
全員が一斉に黙る。
リーリ執政官が口を開く。
「この作戦しかないのか? 」
「ええ。 住民を思えばこそです」
「確かにそうだが」
「執政官殿は、厳しい立場になると思いますが、耐えてください。 それと、テッサリアに軍事行動を思い留まらせるように説得してください。公の手段で、より感傷的に」
「それで諦めるとは、思えないが」
「諦めることは求めていませんよ。 我々は、テッサリアより遥かに弱い。 だから、手rサリアに他国からの支援など受けられたら、それこそ不利になる一方だ。
弱者に対して強者が力をふるう絵面にします。 哀れなプロメンテに暴力をふるうのかと。
とにかく、同情を誘う文言と演技をお願いします。
メッセージは、テッサリアに向けてですが、真の狙いは周辺の都市国家です。 リーリさんのその美貌が、役に立つ時ですよ」
「……屈辱だな」
「ええ。 その屈辱的作戦に一度負けていることをお忘れなく」
リーリ執政官が思い出したようにつぶやく。
「我々に利用した、あの時の手段か……」
「体験者は、理解が早くて助かります」
プロメンテの将軍が口を開く。
「航空隊は、孤立無援か? 現在の計画から人員の移動で対応はできそうであるが、いくらアイギスがあると言ってもこれでは……」
「ええ。 消耗戦です。 一見すると孤立無援ですが、策は打ってあります。 潤沢な兵器が届く手はずになっておりますのでご安心を」
「どこからだ? 」
「秘密です。 しかし、この場での偽りはございません」
シメリアの義勇軍の頭目も質問する。
「しかしなー。 本当に起こるのか? これ?」
質問に対してヘスベリアの義勇軍の頭目が答える。
「確かに発生し易い環境ではある。 よくご存じですね」
「ええ」
「それに、いいのか、このやり方? 」
「仕方ないでしょう。理屈は問題なさそうですし。あまり褒められたやり方ではないが」
「戦争に褒める。褒めないはありませんよ。 所詮は殺し合いです。 その最中に人道を解くなど愚でしかありません」
「……まぁな。 白翼は手厳しいな」
タツマが続ける。
「それと前線で暴れたいと思いますが、英雄譚のような戦い方はできません。こちらは弱者です。 各隊にそこの周知徹底をお願いします。 兵力は最終段階まで温存してください」
「作戦総指揮はどうする? 白翼? 」
「作戦の意図が理解できたものであれば、私は誰でも構いと思います」
「……確かに」
「白翼でいいと思います」
初めてグルジョ氏が口を開いた。
「作戦の立案からその意図まで知っているのはあなただけだ」
「まぁいいんじゃね。これだけの作戦を考え出したんだし」
「賛成します」
「では、決まりですな。 総指揮官殿」
ビャーネさんが会議を締める。
「では、散会。各内容に基づいて配置してくれ」
白翼の指示が飛ぶ。
“承知”
“了解”
各員がバラケていく。
しかし、グルジョ執政官が1人残る。
タツマが、話しかける。
「どうしました? 作戦に疑問がありましたか? もしあれば忌憚なく話して頂きたい」
「……勝てるのか? 」
「さぁ? 勝負は水物です。 最善を尽くすだけですよ」
「……」
タツマは続ける。
「プロメンテ航空隊には、最大の支援策を施していますが厳しい状況になるでしょう。
リーリ執政官も国民からの突き上げを食らうことになるでしょうね。 テッサリアからの圧力も相当でしょう。
義勇兵団やプロメンテ軍は、最前線で血を流し、命を落とすことになります。 で、あなたは、何をするんです? 高みの見物か。それともあの世にでも逃亡しますか」
「……」
「いずれにせよ。近々、状況は動きます。悩んでいる暇があれば動いてください。動く中で何かつかめるかもしれません」
--- キンメリア南北動乱 開戦
後世の歴史家は、弱体化した国家同士の争いを愚かだとみるだとうか?
哀れとみるだろうか? しかし、巻き込まれた当事者は、こう思っている。
うんざりだ!
イスペリアよりテッサリアの動きありとの知らせが来たのは、曇天の日の朝だ。既に人員の配置は、終わっている。
テッサリアからプロメンテまでは、自動車・兵器の移動は時間が掛かるため、多少の心準備ができるのがいい。
鉄道は繋がっているが、さすがに利用はしていない。 今回他の国への支援を仰ぎ、ヘラス街道の利用と領空航行は認めさせたようだ。
ここはキンメリア大陸内の筆頭大国故の処置になるだろう。しかし、それ以上の支援はなさそうだ。 他国がプロメンテに同情的であったのが救いだったようである。
既に配置している部隊に続々と指示が飛び、状況が一気に緊迫する。
イスペリアの情報と“例の違法衛星”から常時ではないが、移動速度や到達時間が読める。
これだけ大掛かりになると、やはり宙から情報が必要になって来る。
――テッサリアもそれなりにあるはずだが、いっても都市国家の規模。 所有している衛星数は、それほど多くない。
テッサリア8000に対して、こちらは7500を確保している。
内訳は、プロメンテは2500の常備軍と5000の義勇軍との共同戦線で対抗する。
プロメンテはほぼ全軍での対応のため、これで失敗すれば文字通り丸裸だ。
防衛戦力の全てを投じる。
防衛ラインは全部で4つ。
シティ地区北部・プロメンテの樹林帯・ドルサ高地・メレアだ。
プロメンテ航空隊は、独立遊撃隊として制空権の維持を担ってもらう。
因みに、ヘスベリアとシメリア航空基地にアイギスシステムを配備してある。
といっても両方ともプロメンテとの共同運用であり、共同財産であり攻撃し難い条件になっている。
アイギスシステムがあれば、こちらの誘導兵器が続く限り制空権を崩すのは難しいだろう。
性能は、飛行体であれば、鳥以外全て検知できる代物だ。
といってもプロメンテの戦闘機の性能は、テッサリの最新鋭に比べれば型落ち感が否めない。防御だけ固めている作戦になる。
それでも戦わなければいけないのが辛いところ。
さっそく、テッサリアの航空部隊の第一陣が、防空権に侵入してくる。
プロメンテの制空権確保のための威力偵察だろう。
プロメンテの旧型航空機と地対空兵器が、アイギスシステムの支援により敵の誘導兵器が撃墜されていく。
曇天の空に爆音が響き、辛気臭い花火が上がっていく
アイギスシステムの支援は、機能は申し分ない。多数の誘導兵器が撃墜されていく。
が全ては不可能だ。
アイギスシステムの防衛網を突破しプロメンテの地上そして航空戦力が、撃墜されていく。プロメンテのパイロットは、脱出しているが、テッサリアとの兵器の性能の差がありすぎる。
≪1番・2番・3番機ロスト!! パイロットの脱出確認。敵機第一陣引き返しました。第二陣来ます! 5機編成です≫
プロメンテの航空隊の基地に戦況報告が、飛び交う。
「威力偵察でこれか……こっちは消耗戦だな」
航空指揮官の意気が多少下がるが、直ちに切り替える。
「パイロットの人命優先だ。ポンコツでも台数はある! 使いつぶせ! 全機でテッサリア機、一機を撃ち落とす意気でかまわん。
誘導兵器は、アイギスシステムと地上からの地対空兵器で対応しろ! なんとしても地上戦に持ち込ませるんだ! 」




