落日 テッサリア
リーラインとの会談から6ヵ月が経過していた。平穏な日常が続いている。
フォシンは、テッサリアの執政官に引き立ててもらった者達への対応として、プロメンテの執政官に“白翼の騎士団”の引き渡しを求めることなる。
しかし、プロメンテも捜索中と返答し、中々進展がない。
テッサリア側も絶対いるとの決めつけ、関税と武力をチラつかせながら、恫喝していく。
件に関しては、両国で発言の応酬が行われているが、もっとも本当の軍事行動を起こすほど、今のテッサリアは余裕がない。 しかし、追い詰められるプロメンテを見て多少の溜飲が下がるテッサリのフォシン支持者。
両名とも申し合わせていないが、ただの茶番劇を演じている。 探す気もなく有耶無耶にしたいプロメンテ。 恫喝し、国力を他国に誇示するテッサリア。
両者の目的を達成しつつ、発生する多くの新しいニュースやイベントにより、これらの劇も情報の海に沈んでいくことになる。
フォシンも執政官として“白翼の騎士団”の対応が常に頭にあるが、優先順位が徐々に下がることになる。
就任当初の復讐心も国の存亡を掛けるリスクの大きさを考慮すれば、実行に移すのも憚られる。 彼自身もとりあえずの広域テロ組織への指定と指名手配、プロメンテへの恫喝での対応までで留めている。
事実、両国の交易を考えれば戦争などしても得にはならないことは一目である。
「本日議会。 お疲れ様でした。 お茶をお持ちしました」
秘書官がティーポットとカップを持ってきた。
「ああ、ありがとう。それにしても前執政官は強引であったが有能だったな。 出て来る指標全てにおいて、以前よりテッサリアの状況がよくなっていくことが分かる」
机の上に資料を置き、感嘆する。
「しかし、今の執政官は、フォシン閣下です。気になさることはないでしょう」
「そうか――“白翼の騎士団”に関しては、広域テロ組織の指定と指名手配、そしてプロメンテへの恫喝芝居で何とか不満分子も抑え込めた。 悪戯にテッサリアのリソースをあの集団に割く訳にもいかんしな」
椅子にもたれ掛かり、窓から起動エレベータを見つめている。この国の発展を支えている重要な物流システムだ。この繫栄を守り持続し発展させなければならない。
無言の圧力を背負わされる地位。故に自己の要望など容易に粉砕される。
もちろん、自己満足だけで執政官になる人間もいるが、碌な結果にはなっていない。
「ご賢明な判断です。執政官が板についてきましたね」
「そうあってほしいものだ」
厳しい状況ながら、回復に向かうテッサリアに多くの人は、過去の紛争を忘れようやく戦後を脱却しようとしていた。
*
春季も中盤も過ぎた頃に事件が起こる。
巨大な爆発音と伴に、都市内の百貨店の一つが爆発する。死傷者は合計50人を超える痛ましい事件となった。
つづいて、地区の役所が狙われここでも十数名の被害が発生した。
事件はつづき、鉄道爆破事件が発生。乗客300名以上の死傷者が発生する事件となった。
度重なるテロ行為に都市国家の国民は、政府に対策を求める。そのような状態の中、監視カメラで撮られた一枚の写真が出回る。
白いコンバットスーツを着た人物が、細工を仕掛けている写真だ。
冷静に考えれば、わざわざ目立つ白のコンバットスーツで破壊工作はしないだろう。しかし、メディアを通じで流れたため多くの国民が、“白翼の騎士団”との関連を疑った。
特に新執政官就任時の広域テロ組織との所信表明があったため、世論は従来の“白翼の騎士団”からのイメージが大幅に変更された。
連日の報道も国民の不安をあおる結果となった。
もちろん、議会も何もしない訳も行かない。現在の治安維持庁の庁官の呼び出しと詰問になる。
“前回、逮捕できなかったことが原因なのではないか? ”
“治安維持庁は、前回の失敗を反省しているのか? ”
“都市の治安は大丈夫なのか? ”
前回、自分か受けた質問を後任にしなければならない。
もちろん、自分が逮捕できていないこともやり玉に挙げられる。
“執政官が無能だったのが原因じゃないですか? ”
“死亡した遺族への責任は、感じているのですか? ”
厳しい言葉が飛び交う。
以前の記憶がよみがえる。兎に角、治安維持の改善と対策との対応止まりで議会を凌ぐ。
--- 執務室
「……お疲れ様です」
フォシンも流石に議会で相当神経を使っており疲れている。
「ああ。 また奴らが現れるとはな……どう思う?」
「率直に意見しますと、あれは偽物です」
「だろうな」
フォシン自身も奴らと直にわたりあっているため、明らかな偽物と判断している。
「我々の追い続けた“白翼の騎士団”は、もっとずる賢く、治安隊の裏をかき、そもそも画像などを絶対に撮らせませんでした。
当時の事件周辺の監視カメラは事前に工作され、気づかぬ間に対応されていたんです。
それに、奴らを追跡中に死傷者はいませんでしたし、そもそもあの犯罪者集団が“白翼の騎士団”というのも噂でしかありませんでした。
“白翼の騎士団”は、憎むべき相手ですが、計画性や合理性においては、我々の上をいっているんです。奴らとやり合っている我々が言うのです。これは劣化版のまがいモノです」
「その通りだ。治安維持局内の反応は? 」
「概ね同意見です」
「直ちに捕まえられそうか? 」
「……」
「どうした。私の目にも奴らの逮捕は、難しくなさそうだが? 」
「それが……確実な証拠が固まっていない情報なので、絶対に口外しないで欲しいのですが」
「ああ」
「タニア大使館内で犯人を匿っているとの情報が」
「……冗談だろう? 」
「なので、絶対に口外しないでください。証拠もなく口外すればどんな事態になるか分かりませんので」
「なぜ奴らが絡んでくるんだ! 」
テッサリアへの崩壊が目的か?それとも私の失脚か?しかし、どちらも心当たりがない。タニアの目的が不明だ。
「恐らくなのですが。 タニアは、プロメンテと戦争をさせたがっているのではないでしょうか? 」
そっちか。いざ状況の中心となると周りが見えなくなるな。客観的に考えればそうなるか。
「テッサリの力を削ぐためか?」
「キンメリア大陸内を不安定にする方向との見方があります」
「……なんて奴らだ! 」
南部三都市との全面衝突となれば、かなりの疲弊が予測される。その後、イスペリア経由での内政干渉か。あいつらも考えているな。
「何とか戦争は回避したい。出来るか? 」
「やってみますが、かなり厳しいものになりそうです。世論調査が既に出ていますが、“白翼の騎士団打つべし” が80%を超えています」
「……タニアの奴……リーラインを呼びつける」
「予想ですが、彼は今回蚊帳の外でしょう。そもそも、前回の失敗で大きく力を落としていますし、執政官殿からもそのように聞いております。
現状ではタニア内でもそれほど地位は高くないかと思います」
「確かに。 となると本国か? ……キャンバリーの古だぬきか! 」
「おそらく。 その内、リーライン殿伝手に何か言ってくるかもしれませんが」
「自らは血を流さず、キンメリア大陸内の同士討ちか……」
「執政官が辞めても、次の執政官が同じ目に合うと考えられます。開戦時期を伸ばすことができても、より凄惨なものになると考えます」
ならば、私の代で如何に被害を最小に勝利する考える必要があるか。
フォシンは天を仰ぐ。
やるしかないのか。いい様に踊らされているのはわかっている。
「武官府と首席補佐官に連絡しろ。 作戦を考える。 ここまで来たら、最小の被害で抑える策を考える」
「了解しました」
テロ活動によりテッサリア周辺が、にわかにきな臭くなってくる。
--- プロメンテ 商社内一室
「はー結局こうなるのかい」
報道記事を読みながら、ため息をつく。
――どうして、こうも争いが好きな連中が多いのだろうか? 大人しく平穏に暮らせないのかね。
『予想通りの展開ですね』
アルプからは、相変わらずの返答。
『結局は、準備してきたんでしょ? アイギスシステムまで発注したんですから。 よく手に入りましたね』
「ナーミャンが、アイギスシステムを抑えたとの話があったからね。恐らくリバースエンジニアリングを実施していると踏んだんだ。
因みに無償レンタルだ。実戦でのデータを渡す代わりのタダで使わせろって交渉した」
『……相変わらず、抜け目ないですね』
「悪いが今回は、エリスにも協力してもらう。 まぁ血を流すのが、キンメリアの人間ってのが、非常に気に食わないけど。 それと、こちらへの報酬も吹っ掛けてやる」
『戦闘員はどの程度を考えています? 』
「現在のプロメンテの正規軍は2500前後となると……相手はおおよそ8000ぐらいで攻めてくるはず」
『テッサリアの常備軍は、16000ですので、8000であれば半数ですか。中々センスがいい数字ですね』
「褒められてもうれしくない。 しかしなー勝ち抜くには、こちらも同数である8000人は欲しいよなー」
『8000の部隊ですか……なるほど。 地上戦ですね』
「ああ。 そのためのアイギスだ。 制空権なんて取らせる気は、最初からないからな」
『怖い人だ。 しかし、人数が揃った場合、作戦はあるんですか? 』
「作成した。 いまセレンに確認してもらっている」
『そうなると勝機が、あるとみていいのでしょうか? 』
「上手く噛み合えばね」
『……前もそうでしたね。 運要素が強いですね』
「準備はするが、戦なんていつだって時の運。 それに相手は大陸盟主のテッサリア。 不確定要素を入れないと勝てない戦いばかりだよ。 職業軍人もいるんだし、少しは対応して欲しいよ。 高い税金を払っているんだからさ! 」
タツマの愚痴が洩れる。
―― どうして、農地を蘇らせただけで、こんな目にあわされるんだ。おかしいだろう!
--- エリス トリフィナ議員 執務室
「はじまったわね」
テッサリアのテロ事件の記事を見ながらつぶやく。
それにダイゴが答える。
「まったく。他人の争いを引き起こすのは好きな連中だな」
「彼からは随分要求が来たわね。アイギスシステムの利用・サバエア大陸の合同演習時期それとサバエア各都市への打診まで」
「まぁな。 アイギスシステム無償利用とはよくやる」
「兵は集まりそうなの? 」
「商社プロメンテが義勇兵を集めている……が、足りないな。 プロメンテ自体が軍を出すか、出さないかに掛かっているようだ」
「……派手にやられた相手に手を貸すか否か。 できなければ?」
「逃げるとさ。 テッサリア相手に寡兵での勝利は無理だ。とはっきり言ってたよ」
「そう」
その言葉と共に彼女は、ダイゴに背を向け窓の外に視線を向けることになる。
--- テッサリア
テロリストに関しての情報が広まり出す。
連日のワイドショーなどが、無責任に“白翼の騎士団”はプロメンテにおり、奴らは匿っている。と根拠がない報道を行っていく。
特に出所不明の白いコンバットスーツを着た人物プロメンテ庁舎内に入っていく写真が、その証拠して取り上げられている。
そもそも真実か合成かもわからない証拠に、メディアは飛びつく。
我々はテロの被害にあっているのに、我々の要望に応えないのは不公平であり、プロメンテを開放して“白翼の騎士団”を引きずり出せ! そんな論調が広まりつつある。
実際は、テッサリア政府も“白翼の騎士団”がどこにいるかまでは掴んでいない。
たまたま内戦で派手に登場した情報から圧力をかけているだけである。
事実、“白翼の騎士団”の目撃情報は、レーベやヘスベリアの方がはるかに多い。
しかし、プロメンテに圧力をかけている以上、プロメンテが匿っているとの情報に信ぴょう性が出始めている。 そしてその様に世論誘導している存在がいるのもまた確かである。
*
秘書官が報道記事をフォシンに見せる。
「見ましたかこれ? 」
例の白いコンバットスーツとプロメンテ庁舎が映っている写真を見せる。
「ああ。あいつらが動いたのだろう。 他国のことだと思ってやりたい放題だな」
「それと、リーライン殿から会談の申し出がありました。 如何します」
「タイミングを狙ったかのようだな。 君の予測通りだ。 どうする? 」
「おそらく、戦闘の支援をするとの要望でしょう。 念のため要望リストは作成してあります。 タニアに吹っ掛けることが、我々からのせめてもの抵抗です」
「因みに、世論調査はどうなっている」
「プロメンテに開戦すべしが70%を超えています」
頭に手をやり、悩む。
(まったくプロメンテは関係ないだろう。 目的は“白翼の騎士団”の逮捕だろう? )
「執政官殿の考えている通りです。 もはや、“白翼の騎士団”はただの口実で、戦争目的で情勢が動きつつあります。
メディア戦略が狡猾でして、我々の意見など聞く気がないようです。 戦争回避は、弱腰外交とのことで世論形成が進んでおり、正直八方塞がりです」
「やつらは、ここまでするか。 次からは、次があれば要注意だな。……リーラインとは、協議する。 まともな回答は期待できないが、皮肉の一つで言わないと気が済まない」
「了解しました」
--- リーラインとの再協議
秘書に連れられリーラインが、執務室に入ってくる。
「お久しぶりですね。 フォシン閣下」
「そうですな。 久しぶりですね」
張り付いた笑顔で応える
秘書官は席を外し、2人の会話が始まる。
「今日は何の御用でしょう? 知っての通り、中々忙しい状況になっていましてね」
「そうでしょうな。 今回はただのメッセンジャーです。 タニア本国から必要なものがあれば、申し出て欲しいとのことです」
「……そうですか。 では、これを」
執政官から、書類が渡される。
両者の間には、事前のやり取りこそないが、次の一手が読めている。
「……承りました」
「よくもまぁ。 やってくれましたね」
「……」
「もっとも。 あなたに言っても仕方ないでしょうが」
「……」
「あなた自身は、どこまで知っていたんですか? 」
「……」
「答えられないですか……キンメリア大陸内の不安定化ですか? テッサリアの力が落ちれば周囲は、動きやすくなる。 そこにイスペリアを絡ませる。 よくやりますな」
「……」
「古だぬきに伝えておいてください。“このままで済むと思うなよ”とね」
「承知しました」
リーラインの返答を受けて、執政官は手を叩く。
音に反応し、秘書官が入ってくる。
「リーライン殿が、お帰りだ」
秘書官がドアを開け、退出を促す。
リーラインは力なく立ち上がり、ドアから出要した際に、テッサリの執政官に告げる。
「寝耳に水とは、このことですね。 私には何の力もなかった。しかし、古だぬきを懲らしめる算段もあります。 もっともあなた方が、この窮地を抜けられればですが。 それでは」
彼はドアから退出していく。
「最後のは、何でしょうか? 」
「知らん。いずれにせよ、奴らのからの武器供与は約束された。最速で“白翼の騎士団”を捉えるしかない。手筈通り進めろ」
「了解しました」
*
その後、テッサリア議会が開かれることになる。
状況はきな臭くなっており、議会も騒がしい。 ついに、執政官が動き出すとの噂でもちきりである。 あの“翼の騎士団”を打倒するために、軍を動員するとの憶測が広まっている。
執政官が壇上に立つ。
「まず、このたび、爆破テロで死傷された方々には、心からお見舞い申し上げます。加えて、現場での救助やがれきの撤去など現場の復旧にご尽力されている関係者、ボランティアの方々には、安全にご留意され対応していただけること、心から感謝申し上げます。
さて今回の非道なテロでは、「白翼の騎士団」を名乗る広域テロ組織の関与が取りざたされております……」
*
報道番組など各メディアを通じて流される演説。
それをテッサリア 高級ホテルの一室で見ている人物が2名。
「まったく。 奴らもよくやるのう。 結局、追い詰めて、追い詰めて行動を起こすようにしむけるとは」
受像機を見ながら、先に口を開いていたのは、ニルブ・エリュス。 イスペリアのフィクサーの一人である。
「よくやる手口でしょう。 付け込まれたテッサリアのも落ち度がないとは言えませんが」
もう一人はイスペリアのかつての次席補佐官である。
テーブルの飲み物を一口飲み、次席補佐官が呟く。
「また、多数の犠牲が発生するんですかね? 」
「だろうな。あの“白翼の騎士団”相手だぞ。奴らをタダのテロ集団とでも考えているなら見当違いも甚だしい。 あれは、タニアの戦術士に匹敵するぞ」
ニルブ会長と前イスペリアの次席補佐官が報道を見ながら会話をしている。イスペリア執政官よりテッサリアへの工作員の支援を担当している。
昨日の敵は、今日の友。 イスペリアの工作員には、絶大の信頼がある彼を外部団体の長として動かしている。
「それにしても、あの小僧は、相変わらずじゃな。 あの執政官共を説き伏せて工作員まで出させるとは」
「証拠は、収取中かつ整理中ですが、ほぼほぼ揃いそうですよ。イスペリアの工作員も優秀ですね」
「まぁな……しかし、まだ教えてやらん」
「……」
確かにこうなった以上、 多少の意見では世論は止められない。
「わしも“白翼の騎士団”に煮え湯を飲まされているのでな。ここで消えてもらいたい」
しかし、ニルブは、完全に私怨によるところが大きそうだ。
「構いませんが、バレたら碌なことになりませんよ。私を巻き込まないでくださいね」
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受像機の放送はテッサリアの議会放送は終盤になってきた。“白翼の騎士団”の犯した罪とそれを断じる言動。そして国難にあっての国民への団結の呼びかけ。
どこの場所でも聞かれる内容で新鮮味がない。
「……以上から。“白翼の騎士団”なる広域テロ組織の撲滅を実行いたします。彼らの根城としているのは、プロメンテのどこかと調査結果が判明しております。
よって、プロメンテの執政官に通告します。再三再四申し上げている“白翼の騎士団”を差し出してほしい。 さもなければ、我々は、安全と自由のために実力行使の用意があります」
ここに“キンメリア南北動乱”が起こることになる。




