閑話 徒然なる日常
地上では不安を抱えつつも、表面上平穏な時間が流れている。
そして宙域にも最近登場がご無沙汰な2名について見て行こう。
--- 衛星フォボス基地 サバエア国家郡 駐留基地 の日常
衛星フォボス基地は、多数の国家が、宇宙基地を持っているが、宇宙空間で争いが起きればお互い無傷ですまないとの思惑から、平穏が保たれている。
加えて惑星間協定でもフォボスは、惑星間貿易商の寄港ポイントのため、周囲に非戦闘地帯を設けている。
結果、事故による死亡事故はあるが、今まで戦闘での死亡は一度も発生していない。
地上での各国思惑とは距離的にもはなれているため、基地内も平穏そのもので、気が緩みがちなのは仕方がないこと。
*
最近ヒルベルト商会からのナーミャンへの連絡が多い。
プロメンテの件を解決したら後の報酬は約束したが、それがいつの間にか、「逢引き」の約束になっており、いわゆるデートのお誘いである。
ナーミャンとしては、そのことが、わずかながらの業務の悩みの種になっている。
(何なんなんだ。あいつは。連絡の頻度が多い為か基地内でも私の変な噂が飛び交っているし。“若燕を捕まえたとか”、“遅い青春のはじまりか? ”とかまったく)
面白半分の噂に少しイライラしているナーミャン。
とはいえ、机の上に置かれた“白翼の騎士団”の報告書に目をやる。
(とはいえ、これだけのことをやり遂げるとはな)
プロメンテ内戦では、内戦後のキンメリア大陸内のタニア影響力拡大に対して検討が急務となっていたが、義勇軍の勝利により検討は放置となった。
何をしたか分からないが、義勇軍300とトークン隊で正規軍2000近い相手を撃破したことが公式記録になっている。
(しかし、この成果は、あり得ないだろう。 ※トークンが200体とはいえ、あんなメイド人形に何ができるわけでもないはず。 どう使えば、その大軍を撃破できるんだか。 彼に助言を与えた私でさえ、なぜあの問答でこの解答が出るのか全くわからん。 そもそもあれは助言でもないでもない)
ナーミャンとしては、異性というより同じ戦術家としてタツマに興味を持ち始めている。
あの作戦の立案能力・それを実行する行動力・さらに事前の根回しや段取りなぞ10代の若造にできるレベルを超えている。
原因を上げるとすると、やはりヒルベルト商会の異常な戦闘実績だろうか。
命懸けの戦いを小規模であっても、ここまでやっているイカレタ存在は、やつらだけだ。
大型艦だがポンコツ船のため多くの海賊に狙われたとのことらしいが、一回も落ちていない。 それに艦隊相手に1隻で勝利している。
何から何まですべてが規格外な連中だ。
そして戦闘狂と思いきや、念入りに練られた作戦により撃破している。
「大胆にして繊細との言葉が、これほど当てはまる存在は、……2人目だな」
報告書に視線を落としながら呟く。
報告書はかなり箇所に付箋がはられ読み込まれた様子が伺える。
敵にしていたら、とんでもないことになっていたな。
デスクの上には、身嗜みを整えるため用ではあるが、鏡がある。
鏡に映る自分を観察する。
「うーん」
それにしてもなぜ私なんだ? あれだけの傑物なら異性に事欠かないように思うが?
ドアがノックされる。
「入れ」
女性士官が入ってくる、
「少将閣下。ご依頼されていた資料ができましたのでお持ちいたしまいた」
「ああ。ご苦労。……なあ、私はそんなに魅力的なのか? 」
空気が凍る。士官も咄嗟の質問に理解ができてない様子でいる。
「え……? ええ。はい」
何気ない無意識の自分の質問の内容に気付き。顔が真っ赤になる。
「い……今のは忘れろ。 いいな! 」
「失礼しました」
士官は飛び出して行ってしまった。
やばい。なんだろう? 異性から言い寄られたことがないからな。
変に浮足立ってしまっている。
容姿だけみれば、妖艶との言葉がぴったりであろう。
しかし、軍服と幾多の戦果により誰も言い寄ってこないのが、彼女の現実になる。
実際、彼以外にエリスの英雄を口説く異性は、居なかった。
加えて自分の容姿をあまり気にしていないのも拍車をかける。
トロイ攻略戦後にプロパガンダとして雑誌の表紙になった際には、数回の増版が発生したぐらいだ。
今でもドラマや二次作品で彼女を基にしたコンテンツが出るぐらいだが、そんなサブカルチャーなど彼女が知るはずもない。
軍上層部も最初はかわいいマスコット程度に考えていたが、蓋を開けたら数々の窮状を打開していく本物の英雄になってしまった。
妖艶で実力もある。
中央軍として宇宙基地に転属させられたのは、当初は面食らったものである。
周囲からは、あまりの人気に軍の高官たちが、自分たちの地位を奪われると考え、扱いに困り、宇宙に飛ばしたのだろうと噂していたぐらいだ。
もちろん、彼女自身その理由を理解してはいる。当初はその理由に眉唾であったが、それでもと盟友からの説得もあり同意している。
彼女の端末が光る。トリフィナからだ。
<テッサリアが動く可能性あり、キンメリアの駐留軍に注意せよ>
少し緩んだ空気が一瞬で引き締まる。
(また、また奴が何かしでかす気か? )
眉間に皺を寄せながらそのメッセージを見るが、しばらくすると自身の仕事に戻る。
「まずは書類を片付けないとな」
--- ハッピーカムカム号 の日常
そしてもう一人の登場人物も現在、宇宙に係留中のハッピーカムカム号内のラボで実験中である。
サナエさんは、実験に勤しんでいる。
現在の新製品は二種の有機AIに更なる要素を1つ加えAIOSを用いて更なる上への開発をしている。 今のモデルは、急造のセレンとタツマモデルであるが、これに自分とタツマの疑似幼児細胞を用いたAI細胞で実験しようとの真っただ中だ。
シミュレーションでも三世代モデルが最も性能が向上との結果が出ている。
セレンのオリジナルを用いるため失敗はできない。
そのため、最大限の注意を払い、改修工程を進めている。
プロメンテの内戦後に、タツマからは“ありがとう。助かったよ”とサナエさんに連絡があっただけであった。
(それだけ? 私がどれだけ心配したと思っているの? 今度会ったら絶対にぶっ飛ばしてやるんだから)
サナエさん的には、大いに不満らしい。 もっと気の利く言葉が欲しかったようだ。
『あまり根を詰めるんじゃないわよー』
ダウナー系のセレンから言葉が掛けられる。
「大丈夫よ。 今まで利用していた、AI細胞を拡張するからね。確認には念には念を入れないとね。
疑似的であるけど三世代システムの能力は、莫大な思考演算、スピード、並列処理が可能になるのよ。
あの親父から金星モデルのトークンを大量入荷したから、トークン部隊も最精鋭になりそう。
思考演算も反応速度も桁違いよ。ふふふ。いいわ、理論が出来上がってくるこの感覚。神でも作っている感じね」
『AIが神とか~。 人間に崇め奉られるほどじゃないわよ~』
「冗談よ。まぁ性能が著しく向上できれば、色々役立つし、いいじゃない。これとカムカム号があれば、中規模艦隊ですら相手に出来そうだし」
『まさか~』
「オリジナルのセレンを更新するのよ。100機以上のエース機体と1000体の統率が取れた熟練兵士スキルトークンを用いた戦闘集団。 宙域確保と敵艦内で白兵戦。乗っ取りした戦艦の自軍の編入を行えば、いけるわ。ヒルベルト商会お得意の海賊戦法ね。
理論上だけの話だけど。まっ。カムカム号相手にやり合おうとする海賊ももういないだろうし、惑星間貿易商の船を沈める軍隊もないでしょうけどね」
彼女は嬉々として作業を進めている。
『今、改良している有機AIを製作した場合、2つの改良品があるけど~、カムカム号用とあと一つはどうするおつもり? 』
「いいことを聞いてくれました!! オリジナルをトークンに搭載してタツマたちに同行させるの。 どれだけのパフォーマンスが出せるかフィールド実験よ!
今までは、遠隔からの制御だけど、直に制御と周辺トークンの制御が可能になるはず。完成したらデータ採取が楽しみ。セレンもまた自由に行動できるわよ」
『あら~それは楽しみね。 素体が耐えられるかしら? 』
「とりあえず、出来るだけのスペシャルに色々拡張してある奴を作ったわ」
『相変わらず手際がいいこで。 とりあえず、やってみますかね~』
ダウナー系の発言にもサナエさんは、特に気にしている様子はない。
「もー少し待っててねーこれで成功したら、カムカム号もバージョンアップよ! 」
それぞれの日常の時間が流れていく。
※ ハッピーカムカム号の特注AIの同時運用の能力は、秘匿にしている。




