帰還
イスペリアのごたごたを片付けてまずはプロメンテに戻るタツマ。晴れやかでありつつも、多少のもどかしさを抱えての帰還になる。
タツマ達が、イスペリアの後始末をしてようやくプロメンテに戻ってきた。プロメンテを出て火星歴半年(地球歴1年)が経過している。
しかし、それだけの期間であっても、かつての農業地区は、だいぶ様変わりしている。 鉄道も工事も始まっており、ここに来るまでに大きな工場もあった。
プロメンテウィードを加工する工場のようであり、車両の出入りがあるところを見ると稼働しているようだ。
例の戦場となった樹林帯は、森の中の街道として機能しているが、所々に石碑があるのがなんとも言えない状況ではある。
プロメンテ農耕地域に入る。 スマイル号から見える景色は、以前と比べて随分と人が多く、建物や店舗がかなり増えている。 明らかに地域に活力が戻ってきているようだ。
アルプが、運転しながらタツマに話しかけてくる。
『あの閑散とした地域がよくまぁ短期間でここまでなりましたね』
「働いたからね――それに戦って守った地域、郷土愛と結束も高まるというものさ」
『なるほど――これが人間の性格なのですね。 勉強になります』
「そりゃよかった」
『タツマには、郷土愛はありますか? 』
「どうだろ? あまり考えたこともなかった。 宙域貿易商だから宇宙や3つの惑星を飛び回ってばかりだし……でも、プロメンテは、苦労して開墾した場所だし愛着はあるかも」
『ほー。苦労すると愛着が湧くと。 人間の感情は複雑ですね』
ネス邸に向かうと邸宅からなんか低層の建築物があるんだけど……ここを去る時に基礎工事をしていたのが出来上がったのか?
商社プロメンテの門の近くにスマイル号を止めて、丘の上の建物を見上げている。
――ビャーネさん。 流石ですね
「どきなさいよ、入荷の邪魔でしょ! 」
大きな声で、女性のドライバーに叱られてしまった。 そそくさとスマイル号をどかす。
とりあえず、出入り口のガードマンに話しかける。
「あのービャーネさんに会いに来たんですが」
「ああ社長ね。予約はあるの? 」
「いやーちょっと」
「あーダメダメ。最近そうゆう輩多いからさ。昔のなじみで会わせろとかが多くて、断ってくれって言われているの。じゃぁね」
カードマンは、人払いするかのようなジェスチャーを取ってくる。
しかし、タツマも引き下がらない。 この程度は挨拶代わりにしか思っていない。
「それでは、伝言だけでもお願いできませんか? ヒルベルト商会が来たと」
「営業か? ……分かった。とりあえず伝えてやるよ」
ガードマンは、渋々と端末からどこかに連絡を入れているようだ。
しかし、徐々に顔つきが変わっていく。連絡が終わったようだ。
「どうです? 」
「え……ええ。そのーどうぞ」
「ホントですかありがとうございます。どちらに行けばいいんですかね。昔の中庭がすっかりなくっていまして」
「ええ。まぁロータリーに駐車して頂いて結構です」
スマイル号に乗り込みロータリーに向かう。
「しかし、なにこれ? ここまで変わる? 」
『事業が上手くいっている証拠だと思いますよ』
「こっちは、開店休業っぽいのに! 」
『確かに。 特にここ1、2年は、短期労働がいたについてきましたね』
チョットひどくない?
ロータリーに車を停車するとビャーネさんが、出迎えてくれた。
「お久しぶりです」
タツマからの挨拶になる。
「よくご無事で!噂は聞いております。ささこちらに」
ビャーネさんの案内でタツマ達は進む。
旧ネス邸の場所にあるオフィス棟に向かう。 その場所にあった物はすっかり新品のオフィスに建て替えられている。
「よくここまで大きくできましたね」
「これもタツマさんの資本のおかげですよ。穀物生産も順調ですし、加工品もプロメンテで行うことで、付加価値商品としてヘスベリアからレーベへの輸出も好調です。
オガネソンの鉱脈開発も順調です。 やはり資本が入ると違いますね。事業が進みますよ」
事業が軌道に乗っているようで、上機嫌である。
「それはよかった。早速ですけどスキュレスさんと連絡を取りたいんだけど。出来そう? 」
ここに来た理由は、このもどかしさの原因を解決するためである。 端末からでの取次は一切できないとのだったのでこうして通話可能な場所に戻ってた訳である。
「ええ。 それはもちろん。 取り付けましょう」
オフィス棟に入ると、従業員が動き回っている。
「何人いるの? 」
「ここだけで200人ですかね。グループ全体では、2000人弱まで増えてきました」
「最初は、農地耕作を中心に50人程度だったのに」
「そうでしたね。 鉱山事業の完全合併から鉄道事業の拡大、耕作地の拡大、そして製造業へ進出ですからね――もとからあった組織もあるため、一概に言えませんが、急激な成長だと思いますよ――ああ、こちらです」
懐かしそうに語りながら、エレベータに案内される。
エレベータにのり、ビャーネさんの事務室に向かう。
周囲を見回すと確かに以前の様な生活感はさっぱり無くなっている。
―― 随分な近代的なオフィスだな
「ここです。 さぁどうぞ」
ビャーネさんがドアを開けると、相変わらずのガラス張りの温室が広がっている。
「……変わりませんね」
「ええ。植物を育てることは、私の唯一の道楽ですからね」
「……」
それほど長い時間が経っている訳でもないが、ある種の懐かしささえ感じる。
「いい茶葉が、手に入ったのでが、一服どうです? 」
「いただきます」
社長室からは穀倉地帯が一望できる。良い眺めだ。あの状況からよくここまで来たものだ。
「イスペリアの治外法権の件は聞いて言いますよ。あのフィクサーを顎で使うとはさすがですね」
「フィクサー? 」
「ニルブ・エリュスですよ。ニルブ通商事業集団の」
――あいつか。 やはりフィクサー気取りか
「タツマさんのことを根ほり葉ほり聞いて、グチグチ言っていましたよ。 あなたが、治外法権撤廃の成果をレジスタンスと彼に譲ったことで、怒りの矛先がないんですかね」
「……そう」
―― あの爺何気に偉いのか?
ビャーネさんは、固定用端末機から繋いでいる。
「ええ。 そうです。 タツマさんがお話したいそうです。 はい。 お願いします」
受話器をこちらに渡す。
「携帯端末ですと盗聴の恐れがあるので、どうぞ」
**** ☎ 通話中 ****
≪どうも。お久しぶりですね≫
≪元気そうね。大変だったでしょう? ≫
≪やってくれましたね。色々言いたいことはありますけど。 今は控えますね。 で報酬はどうなります? ≫
≪あら? 報酬はダイゴから振り込まれる予定よ≫
≪……≫
≪あなたの働きには感謝しているわ。 ここまで上手くいくなんて思ってもみなかった≫
≪そうですか。御満足頂いてありがとうございます。ではもういいですかね? こっちも本業もありますので。それに今回の件も全てあなた方の問題だ。 自分達の星の問題なのだから、自分達で対応したらどうです? ≫
タツマの直接的な皮肉が、向こうに届く。
≪うーん。 どうかしら? もう少し付き合ってくれないかしら? ≫
しかし、あまり効果が無いようだ。
≪……≫
――こいつ!
≪うふふふ。残念だけど、もう少し付き合ってもらうわよ。 カムカム号はエリスの中継基地に係留中。 加えてキャミャエル氏もこちらにいる? わかるわよね? ≫
つまりは、人質がいるとの恫喝になる。
――ふわふわした声で、こいつ下衆ヤローじゃねーか――そいえば議員だった。
≪また問題が起きたら連絡するわ。じゃーねー≫
**** 通話中終了 ****
通信が切れる。 タツマも切れそうになりプルプルと震えだす。
「あのタツマさん――あの大丈夫ですか? 」
ビャーネさんが不安そうに尋ねてくる。
―― 落ち着け。ここで暴れても意味がない。意味がない。意味がない。
「なんなんだ! あいつは! やろう、ぶっ飛ばしてやる。後方でぬくぬくと」
『タツマ。落ち着いてください。あの議員をぶっ飛ばしても、何も得られないでしょう』
分かっているが、人には感情というものがあるのです。人が命がけで戦っているのを
何が“大変だったでしょう? ”だ!!
「ふざけるなー!! 」
--- エリス トリュフィナ執務室
トリフィナは、通話が終わった為、受話器を置きプレジデントチェアに深く腰掛ける。
「御子息からよ」
「そのようだな」
ダイゴは来客用のソファーに座ってタブレットを弄っている。
トリフィナは、チェアを廻し、窓側に体を向けて高層から街並みの景色を眺める。
エリスの議員ともなると中々好立地な場所に事務所が借りられるようだ。
「だいぶ、お怒りモード。 こちらの都合に巻き込んでいるのだから当然よね」
少しため息交じりで独り言のようにつぶやく。
ダイゴがその言葉に反応して、タブレットを弄るのを止め、顔を上げ視線をトリフィナ抜向ける。
「あなたの息子。 想像以上の傑物ね。あの時の焦燥していた子供とは大違い」
「……プロメンテの復活。 内戦の処理。 イスペリアの治外法権撤廃ね」
突如としてトリュフィナの声が真剣になり、目も鋭くなる。
「……残念だけどもう少し付き合ってもらうわ」
「……」
「“白翼の騎士団”が、テッサリア内で暴れたことで、テッサリア議会内で白翼の騎士団の討伐の気運が高まっているわ」
彼女は立ち上がり。 自身の机の上にある報道紙に視線を落とす。 新執政官の所信表明の記事が躍っている。
「……」
「恐らく、彼らと公の関係があるプロメンテに首謀者の引き渡しを要求するはず。
そして今のプロメンテにはそれを跳ね除ける余力はないことは、明白。
もしプロメンテが、潔くタツマを差し出せばそれで終わり。しかし、しないでしょうね。
もしかしたら――無謀でも開戦に踏み切るかも? 」
「ここでテッサリアが動くとは思えんがね。ようやく、戦後処理に目途が立ったばかりだろう」
「人の性はそう簡単には変わらないわ――人が理性だけで動くものでないことは、貴方がよく知っているでしょう?」
トリフィナが席を立ち、報道紙をもってダイゴに近づいて来る。
「間違いなく、キンメリア大陸内の南北で国家間戦争が始まるわ。 正直いって、テッサリア相手では、今のプロメンテでは勝ち目がない。 それに、この演説は、色々とつけ入られ易そうよ? 第三者の介入も期待できそう……ふふふ」
報道紙をダイゴの前のローテーブルに置く。
ダイゴがテーブルに視線を落とすとセンセーショナルな報道の文字が目に入る。
「テッサリアが動いたときに、息子の出番か? あいつは魔法使いじゃないぞ? 」
「それでも、奇跡は起こしている」
「奴にとっては奇跡ではなく、状況の把握と合理的判断に基づいた結果でしかないと思うが」
「いずれにせよ。彼をここでテラに返すわけにはいかないの」
「テッサリアが弱ったところで、停戦協定から和平協定か? 」
「……」
「エリスは手を汚さず、“白翼の騎士団”の手柄を頂く。やることが汚いな」
彼からの軽い煽りにも特に反応することなく、回答していく。
「そうね。多くの血が流れ、命が消えることになるでしょうね。でも、こうなったらとことんまで、利用するしかないの。
お花畑の理想論を掲げることは簡単よ。でも都市の平和ためには、汚いことも必要でしょう? 平和のために血を流す。 いつの時代も矛盾だらけね」
ダウナーと諦めの入り混じった捉えどころない雰囲気で語る。
「それと息子に報酬払っておいてね」
「ああ。そうする」
--- テッサリアの報道記事
ビャーネさんと合流してしばらく経過している。 プロメンテはある種の故郷的思いもあり、なんとなく
居座っている。
商社プロメンテにとってみれば、タツマはオーナーであるが、彼自身としては食客も心苦しいので商社プロメンテの清掃係をアルプとともに努めている。
昔日の経験が役立っている。 本日も作業が終わりタツマ達は、プロメンテ社の専用室にいる。
といっても備品倉庫の一角に間借りしている感じである。
プロメンテ社のオーナーなので特別室を用意されそうになったが、彼自身ここでは、多くの利益を上げられないと理解している。 そのため、空調があるだけの質素な部屋を所望した次第である。
自分達用に広いスペース貰っても利用しないし、そもそもいるだけの人間に利益を上げられない。であれば、広いスペースは、プロメンテ社の従業員に利用してもらう。
―― 従業員に快適に働いてもらうことで、わが社の借金も減るってもんよ。
そんな考え事をしながら報道記事を読んでいる。
内容は、テッサリア新執政官の所信表明演説の記事である。
室内には、アルプとタツマの2人だけである。
「もう……嫌なんだけど。いい加減ほっといてくれないかな」
『あそこまで暴れていれば、こうなることは予想できたはずですよ』
「対応すれば対応するほど、墓穴掘っているようにしか感じないんだけど」
『事実ですね』
「どっちの味方なのよ? 」
『私は中立ですよ。客観的な目線も重要です』
「指名手配位で終わりにならないかな? 」
どうせ架空の組織だし。ここで潰しても惜しくない。
『がベストですね。もっともテッサリアも先の紛争でかなり疲弊しています。ようやく回復が見えてきたこの時期にやらかしは、しないと予測します』
「やらかす……ね。 また一戦交えるの? 悪いけど、テッサリア相手じゃ無理だよ。戦力が違い過ぎるし、プロメンテ内戦のような欺瞞作戦も使えないし、正体がばれた状態からでは、奇襲もできないし」
サバエア大陸最強の都市国家エリスの軍を用いて、ようやくドローの相手にゲリラ戦術と欺瞞作戦しかないない我々では、勝ち筋なんてあるはずがない。
「もういいんじゃない。逃げるか? 」
『スキュレス女史との会話からは、そうはさせないとの意思が伝わってきましたが? 』
「……あいつも目的はこれか? いや。 いや。 無理だから。 頭目はやられましたからの死亡エンドはどう? 」
『それが効く相手は、ないと推測します。 といっても個人の引き渡し云々で戦争まで起きないと判断します』
「普通に考えればね。 人一人のためにテッサリアが、軍を動かすことはないと思うんだけど、すごく嫌な予感しかしないのよ。 どうするか? 」
『逃走ルートは確保しますが、とりあえずセレンに相談してはいかがでしょうか? 』
「そうだな。不安要素を明らかにしておくのも重要か? 相談してみるか! 」
タツマ達には、一抹の不安が有りつつも、当初の問題が解決できたことで、平穏が訪れている食糧庫たるプロメンテ。 その平穏は食料供給に対して大きな安定をもたらしている。




