黎明逃避
いよいよ練った作戦が決行される。
薄暮から夜に入るだろう時刻、高級そうな集合住宅の地下の駐車場に一台のカーゴが入ってくる。
地下からの住居入り口のブザーに指定された番号を入力すると、マイクから“そちらに向かう”との回答があった。
流石、次席補佐官の住居。地下に駐車してある車両も高級車ばかりだ。
高層住宅ではなく、低層住宅なのが、一層と高級感を増している。
今は、地下の出入り口で待っているが、周囲に敵影はなし。地下駐車場入り口にもなし。
―― こんところで市街戦をしたら、一般住民への被害は避けられない。 それに相手もそこまでは望まないはず。
今のタツマの心境は、タニアの工作員といえども、人目のある街中での戦闘は控えるだろうと、祈るしかない。
次席補佐官が出てきた。
――手持ちの物が、少なくない?
「ハルマキスへのご利用ありがとうございます」
タツマの挨拶から始まる。
「今日は、よろしく頼むよ」
「ところで、荷物が少なくないですか? 」
「それは後で送ってもらう手筈になっている。 身の危険が迫っているのに本当の引っ越しはないだろ? 」
―― 確かにね
次席補佐官が、乗り込む。3人乗りのところ4人になり少しキツイ。
全員がフードが着いた道中合羽を着こむことになる。
タツマと副社長が、両側のドア側をガードし、アルプが運転をする。
「きついですが、我慢してくださいね」
「ああ。 問題ない。 しかし、随分と座り心地の良いシートだな」
「特注ですからね。 アルプ出してくれ。各員に通達 "作戦開始だ" 」
『了解です』
ゆっくりとカーゴが、地下駐車場から出発する。 明日は休日のためか、周囲に人通りが多く車両も多い。 こちらにとっては、発砲の危険が下がるため好都合かもしれない。
それにしても都会だけあって、車内から見える夜の風景も中々ものだ。
「都会ですね」
そんなタツマの言葉に達観したかのように、次席補佐官が洩らす。
「そうだな。 しかし、夜は暗くなるものだ。この明るさは、この国の影を濃くしているようにしか思えないんだ。 実際に、南部地区への政策は一切されてこなかった。
需要がある地域のみに資本を投資し、それ以外は切り捨てる。資本主義観点から言えば、正しい。 しかし、弱者置き去りの政策から多くの問題が起きて、国が割れる事態も発生した」
タツマは黙って、彼の言葉を聞きいっている。
―― 確かに南部地域は中々の荒れっぷりだった。 夜は真っ暗だし。 銃声もよく聞こえたよね。
「最低限のセーフティ政策は、実施したかったのが心残りだよ」
次席補佐官の呟きが、カーゴや周囲の音に消される。
夜の煌びやかな街中を一台のカーゴが抜けていく。
*
≪対象車両通過を確認。目視で乗員は4名。全員フードで顔が見えません。 カーゴ車両のためボックス内は不明。 画像を送ります≫
データが送られてくる。 カーゴ車両に4名が映っている。
明日は休日のためか、周囲の車両の台数も多そうだ。
≪了解した。次のポイントに移動して状況をまて≫
≪了解≫
「今回の次席補佐官の抹殺ね……どう思う? 」
「カーゴ車に乗っての逃避行だろ? レジスタンスの連中が絡んでいるところまでは、読める。 通常であれば、ズドンで終わる作戦なんだが」
「ああ。しかし、今回は指揮官殿より民間人への犠牲を出すなとの命令だ」
「おや。 随分と人道的で」
「“白翼の騎士団”の存在が効いているんだ。 正体不明の正義の味方気取りが闊歩しているのであれば、変に刺激するとそれ系を似立てた正義と称したテロへも発展もある。
自由を与えている統治下で一旦問題が起きれば独立運動への波及することを恐れているんだろう」
「随分と根深い問題だこと」
「それに下手にあの車両に近づいて周囲の車両が、レジスタンスの可能性もある。 蜂の巣は御免だろ? 」
「なるほどね。 指揮官殿が言っていた、“恐ろしく厄介な奴”というのもあながち、肩入れだけの感想ではないかもな」
「事実あのカーゴ車両……外装もおかしい。 もしかして防弾ガラスの可能性もある。 加えて――」
「あのバグドローンの持ち主が気になるんだろう?」
「ああ、“白翼の騎士団”の登場もタイミングが良すぎる気がする。もし本当にレジスタンスと“白翼の騎士団”が繋がっていたら――」
副リーダーの工作員に多少の不安がよぎっている。 しかし、それを打ち消すかのようにリーダーの工作員が、事実を並べる。
「とはいえ、それを考慮して指揮官殿は、駐屯軍からのガンシップによる航空支援も得ている。それにこちらも30人程度確保している。 幾らレジスタンスが有能でも奴は、終わりだ」
「……そうだよな。 よくかき集めたもんだよ」
≪カーゴが、ルート16の2号ずいどうに入っていきます≫
他の隊員からの無線通信が入る。
ルート16の2号ずいどうは、慢性的な渋滞発生ポイント。
何かを行うならここしかないはず。
「これで海側ルートの選択は考えにくいな」
工作員の一人がマイクを手に指示を出す。
≪東部地区ハルマキス橋の人員を中央の2脚の橋へ集中しろ≫
≪了解≫
「回転翼機の投入は、どこでするんだ?」
「あいつは目立つ。 郊外での使用だ。 奴は、隣国の出身となれば、必然的にイスペリアのピース地区を通る。 あの地域以南は、耕作地が多い。そこがアタックポイントだな」
「高機動・高火力兵器で追い詰めるね。 実に王道」
「といっても、そこを抜けて交通量の多い河川側道に入られると、こちらがゲームオーバーだ」
「“住民には被害をだすな”が、指令に含まれているからな。 楽勝に見えて意外にシビアときたか……」
「楽な作戦はない。 そしてこれ以上の最適解も浮かばないのも事実。 作戦実行に移ろう。 戦力では、こちらが圧倒しているのは事実だ」
≪一名が、運転席からカーゴ部分に移動しました。 運転席には3名! ≫
一人が消えている報告が入る。
「動くか! 」
≪報告! カーゴ脇から二輪車が現れました。 乗車人数2人乗り。 大きなコートを纏っています。 渋滞車両の脇を抜けながら出口に向かっています≫
仕掛けてきた!
≪2号ずいどう出口班に画像データを送ってやれ。出口班は追跡を実施、確保できるなら確保せよ。街中での発砲はできるだけ控えろ! 指揮官命令だ。 周囲がパニックなったら追跡が困難になる≫
≪了解≫
≪2号ずいどうの下水道検査口に異常振動を確認。何者かが蓋を開けたようです≫
≪下水道班へ周辺ポイントに直行させろ。下水道内での発砲は許可する≫
≪了解≫
カーゴ車両での輸送の時点で何かしらを仕掛けてくることは想像していた。
あの大きさの車両であれば、荷台に二輪車も詰めるし、人も載せられる。
二輪車も下水道も囮か本命か不明だが、この程度で終われば楽なのだが。
≪カーゴ側面から新たに自動二輪車が出現。 乗車人数2人。 大きなコートを纏って反対車線に移動し、入り口方面に向かっています≫
次から次へと鬱陶しい。
≪中央監視班の第1班を追跡に当たらせろ。発砲は控えろ! ≫
≪了解≫
≪追伸! カーゴ脇より大きなコートを纏った一団が現れました。ずいどう脇の扉に入っていきます≫
(……くっそ! 次から次へと)
往生際が悪すぎる。工作員は、ずいどう図面を見ながら場所と周囲の確認をおこなう。
確かずいどう内の事故があった際の避難経路だろが、図面には監理事務所もある。
タニアの駐留軍の防衛拠点と用いる計画として作られているため、意外に複雑に入り組んでいる。
(余計なことを……)
≪追加だ。中央監視班の第2班を追跡に当たらせろ。発砲は状況によって許可する! ≫
≪了解≫
「相手も必死だな」
「当然だ。 しかし、反応から見るにこちらの行動も、ある程度推測されていると考えた方がいいな」
渋滞が、少しずつ動き出す。
≪カーゴが動きます≫
≪状況は≫
≪変化なしです。画像を送ります≫
目的のカーゴ車両が渋滞にはまっている。前後には、乗用車や小型カーゴが確認できる。
画像には運転きに三名が映っている。 あれから変化がない。
逃走したやつらに紛れているかもしれないし、まだカーゴに乗ったままかもしれない。
「忌々しい奴らだ」
タニアの工作員の眉間にしわが寄る。
ここで急襲してもいいが、この行動を見るに、レジスタンスがこちらを予測しているのは明らか。
不用意に突っ込むのは危険すぎる。
「運転手はトークンか? 両サイドの人間はフードを深くかぶって、顔は隠れているな」
いずれにせよ、渋滞が動き出し、カーゴの反応は止まった。
これで奴らの手は封じられた。 追跡を実施する。
---スマイル号 車両内
「次席補佐官は、いったね」
タツマが呟く。
「そうだな」
バルティスがそれに呼応する。
「レジスタンスも散らばった。 陽動は順調。 彼らに感謝しないとね」
「ああ。 おそらく市内であれば、むやみに銃撃戦は発生しないと思うが、命がけの陽動だ。 これが愛国心というやつかね? 」
「さぁ? ただ。 自分の住んでいる土地は住みやすい方がいいだろ? “自分の巣を汚す鳥は愚かなり”だろ? 」
「それをして懐を温めるやつもいるがね――」
「たしかにね」
『さて彼らの命がけの陽動に応えるため、今度は、我々の番ですかね』
運転手のアルプが、会話に加わってくる。
「ああ。 カーゴの中身は、相手は知らないからね。 丸ごと消せば一気に解決だろうさ」
バルティスの言葉へタツマが質問する。
「出てくるかね? ……ガンシップ……」
ニルブ・エリュスに啖呵を切ったが、実際対峙するとなるとやはり躊躇が前に出てくる。航空戦力に対して地上を走る構図は、どうしても卑屈になる。
「間違いなくな」
『私も同感です』
「リアリスト集団だこと……」
車両は、渋滞を抜けると意外にも快調に飛ばせる。 スピードを上げ、前の乗用車を追い抜きシティ地区から遠ざかっていく。 4半刻ほど経過する。
「タツマ! そろそろピース地区に入るぞ! ルートはどうする?」
バルティスが、タツマに確認する。
「ルート18だ」
「本気か? 完全な農耕地域じゃねーか。 相手に狙ってくださいと言っているようなルートだぞ! 」
バルティスが叫ぶ。
「ええ。同様にこっちも戦いやすい。 副社長。 戦闘準備おねがい」
「なるほどな。 了解だ」
タツマもコンバットスーツのバイザーを取り付ける。
―― さてと。 大胆円と行きますか!
*
工作員チームを動き出す。
≪目標ピース地区エリア入りました≫
≪了解。 ガンシップに画像を送り航空支援を開始。 我々も追撃だ≫
その言葉と同時に各エリアから、追跡部隊からの報告が上がってくる。
≪下水道部隊。接敵。交戦中! ≫
≪2人乗り二輪車を裏道で尾行中≫
≪逆走した二輪車を補足中 ≫
≪ずいどう内の避難出口全て押さえました≫
≪カーゴ車両2名を確認。 1名いなくなっています ≫
「1名いなくなった? カーゴの後ろに行ったな。いずれにせよ、これで全部抑えたな。
これで奴らも積みだな」
工作員のリーダー格が洩らす。
「ああ。 多少、イラついたが、思っていたよりあっけないな」
≪こちらもピース地区にたどり着く。 各員戦闘配備≫
無線で隊員への檄を飛ばす。
5台の輸送車が激走を始める。
*
外からガンシップの音が聞こえてくる。
≪きたかー。 アルプ! 敵の得物は? ≫
『画像解析……20mm機関銃2門と榴弾発射機・ミサイルランチャーですね』
≪また豪勢な。 副社長! 外映像はどう? ≫
≪問題なし! クリアだ≫
≪作戦会議でも言ったけど、ガンシップの後はテクニカルとの交戦が考えられる。 残弾とリロードのタイミングには、注意してください! ≫
≪俺を誰だと思っている≫
≪慢心は、禁物なんでしょ? ≫
≪わかったよ≫
アルプが会話に入ってくる。
『それと交戦タイミングはそちらで行ってください。 それと、ガンシップからの攻撃を回避するため、大きな揺れが発生しますのでお忘れなく』
≪了解だ! ≫
『行きますよ』
アルプがカーゴアクセルを踏み込む。エンジン音がうなりを上げ、車両の速度がさらに上がる。
それと同時にガンシップから攻撃が開始される。
機関銃の音がけたたましく耕作地域に響く。
周囲に人家もないため、攻撃への躊躇がない。
アルプが、左右にカーゴを振りながら進む。
カーゴに弾丸が当たったのか大きな音が、車内に響く。
それに続き榴弾が近くで爆発したのだろう。 巨大な爆音と伴に大きく車体が揺さぶられる。
しかし、走り続けるスマイル号。
「クッソー、反撃がないからと思って! いいように! 」
『タツマ。口を閉じてください。 舌を噛みますよ! 』
更にハンドルを切るアルプ。
爆音とともにまた車両が揺れる。
*
ガンシップの操縦者も少し焦りを覚え始めてきている。
「……あの車両、只のカーゴ車か? 20mmと榴弾だぞ! 」
≪どうした? ガンシップ! まだ、撃破できないのか! ≫
≪こっちもやっている! 何なんだ! あの車両……異常に硬い! クッソ≫
≪早くしろ! 河川側道に入られたら終わりだぞ! ≫
≪了解だ。 ならば! ≫
回転翼からミサイルが発射される。
『ミサイル来ました! 』
スマイル号の天井部がパージされる。中から副社長のジャガーノートが準備万端で待ち構えている。
「捉えた。 いいね。 考えずに真っすぐ飛んでくる獲物は! 」
20mm炸裂砲弾が火を噴く。爆発は車両を浮き上がらせるぐらいの爆音である。
「ジャックポット!! 」
『ミサイル破壊を確認!! 』
ミサイルの爆音と閃光で周囲が明るくなる。
「なんなんだ。あの車両は……全弾打ち込む。フルバーストモード解除!」
7発のミサイルが襲ってくる。車両内では、けたたましい警告音が響く。
しかし、アルプは落ち着いて操作をしていく。
『フレア発射します』
車両から照明弾が打ち上がる。短距離ミサイルのため熱源に誘導される。
5発のミサイルが、左右に分かれ着弾後 周囲に爆音と閃光を発する。もはや戦場そのものになっている。
取りこぼしの2発がスマイル号めがけて突っ込んでくる。
「見せ場は、多い方がいい」
副社長からボルトハンドルを引く巨大な薬局が銃身からはじき出される。
巨大な落下音とボルトアクション一つに大きな音が、カーゴ内に響く。
第2射・第3射と炸裂弾が発射される。
『ミサイルの撃破を確認』
爆発の閃光が辺りを再び明るく照らす。
≪何やっている!! ガンシップ!! ≫
≪こちらの攻撃が通らない……なぜだ! ≫
≪我々も時期に到着する。それまでに車両を停止させろ! ≫
ガンシップの操縦者もいらだちが募ってくる。
「くっそー! たかがカーゴ1台に――ならば近接の機銃掃射で破壊する」
『ガンシップ接近してきます。近接戦闘になった場合、こちらが不利です』
≪了解だ。 手筈通りだ≫
副社長は、装備を外し別の武装に換装する。
次期作戦の攻撃スタイルに合わせてある。
ガンシップが機銃による攻撃をしながら接近して来る。
「いいね。こっちを地上のネズミだと思ったか?」
左右にかじを切りながら攻撃をかわすスマイル号。
ガンシップからルーフが取れたコンテナの中が確認できた。
「そこか!! ……!! 」
「よう! がちょうさん! 」
副社長から局所制圧型小型ミサイルが発射される。途中で散弾が飛び散る。爆風と散弾がガンシップのコクピットや外壁を襲う。
バランスを崩しながらガンシップは、戦場を離脱していく。
*
「隊長! ガンシップが撃墜されました! 」
部下から報告が上がってくる。
「……分かった。 テクニカル。 スピード上げろ!! 地上戦で潰す! 」
「相手を舐めていたわけじゃないが、想像の上をいっているな」
「ガンシップを退けるとは。 しかし、ガンシップから最後の情報じゃ、荷台には1人だけとか? 」
「そうだな。次席補佐官は乗っていないらしいが、いずれにせよ、あの車両は潰す。 攻撃準備射程に入り次第、斉射だ! 」
*
『後方より新手。 車両群を確認。 5台です』
≪あの作戦で大分散らしたんだけどな≫
タツマの期待外れ感が、無線越しでも感じられる。
≪仕方ないさ。攻撃準備もできている。 テクニカルとも真向からやり合えるぜ! ≫
バルティスはやる勢いだ。
≪了解だ。 隊長格いると思う? ≫
≪さぁな。 いるとしたら一番後ろだろうな≫
副社長から要望がはいる。
「今度はこちらから攻撃する。減速して射程内に入り、離脱する。できるか?」
『了解です。3……2……1』
車両の速度が落ちる。その刹那、荷台後方のドアパネルがパージされる。
急な出来事でテクニカル車両1台が、吹き飛んできたドアパネルに巻き添着こまれ大破する。
副社長のジャガーノートに換装されているミサイル砲から2基のミサイルが発射される。炸裂方により1台を走行不能。周囲のテクニカルにもダメージがあるようだ。
その後スマイル号は、スピードを上げる。 近接時にテクニカルらの銃撃により被弾。
しかし、距離とジャガーノート装備であるため、被害は軽微である。
「あと3台か。」
炸裂弾は打ち止めにある。ロケットランチャー換装をパージする。大きな音が車内に響く。
≪あとどれくらいだ! もう武器は打ち尽くしだぞ! ≫
『もう間もなくです! 』
車両の速度は上がる。
バルティスの換装装備は撃ち尽くし、後は小火器しかない。
*
タニア側もレジスタンスのその戦闘力の高さに舌を巻く。
「まさか短時間にガンシップとテクニカル2台とは――」
「隊長!!境界沿いの河川に近づいています。これ以上は、露見する危険があります! 」
カーゴは、河川側道に入っていく。彼らはその状況を見送るしかなかった。
「くっそー。 また失敗の報告か。 まぁいい重要人物は確保している」
各場所からの報告が入る。
≪下水道部隊。接敵撃破。 トークン2体を確認撃破しました≫
≪2人乗り二輪車は、一般人です。 治安局に遺失物の届を聞いています≫
≪こちらも逆走した二輪車は、治安局に入っていきました! クソ! なんなんだあいつら≫
≪ずいどう内から出てきた人間は……現場作業員とトークンです! ≫
……全部はずれだと
じゃあ、次席補佐官はどこに消えたんだ。確かに住居からの写真にはしっかりと写っている。逃走車両にもいなかった。一体どこにいるんだ。
--- 海岸沿い・ルート
海沿いの道を走る車両が見える。 ちょうどいいドライブコースなのだが、本日は思いのほか車両がすくない。
故に絶好の夜間ドライブ日和になっている。
「たすかりました。 彼らは大丈夫でしょうか」
『大丈夫よん。 レジスタンスの陽動班には、護衛としてトークンを付けているし、本体のチームは、この程度で死ぬようなら、とっくにあの世に行っているわよ』
「そうですか。 ならばいいのですが」
セレンの分身が、運転する乗用車に次席補佐官が乗車し、ハルマキスに向かっている。
次席補佐官は、不安な環境にいながらも車内から外の景色を眺める。 星灯りとフォボスの僅かな灯りが、海の水面を照らしている。
こんなにゆっくりと夜の海を眺めたのは、いつ頃だろうか?
次席補佐官の中に久々の感覚がよみがえる。
「夜の海がこんなにも綺麗なのか……」
『ゆっくりご覧になってくださいな。乗用車だから、乗り心地は問題ないでしょう。
車両の下からの乗車は、不便だったでしょうけど』
「いいものですね。 明るくない夜というものも」
『随分と多忙な生活だったようね。これからは、少し時間的な余裕があるといいわね。
さてと、そろそろ、ハルマキスの国境……誰もいなさそう。 少しは刺激が欲しいモノね』
ハルマキス橋を渡り、次席補佐官がハルマキスに入る。
--- イスペリア ピース地区
「隊長。これからの対応は」
「……けが人を収容して撤退だ。責任は私がとる。奴らを侮っていたとは思わない。しかし、ここまでの予測はできなかった。全てが上回っていた。……完敗だ」
ガンシップの搭乗員は、不時着なのでケガ程度住んでいる。
大破した車両から工作員を救助する。
「大丈夫か」
「ええ。 すみません。 任務失敗ですか」
「ああ。 ここまでやり込められるとは」
とりあえず、全員息がある。
リーダーの工作員の気が、ふと抜ける。
(これで、私もお払い箱だな……)
僅かに気が緩み、これからの事が頭をよぎる。
そのつかの間一瞬を突き、周囲にサーチライトが集まることになる。
息つく間もなく、怒涛のレジスタンスの攻めが、繰り広げられる。
「やぁ。 これで3回目かな? 君たちと会うのも」
白いコンバットスーツを着た何者かが、工作員の隊長・副隊長に話しかける。
急なライトによりタニア側の視野がおぼつかないが、周りをコンバットスーツで身を固めた武装集団に囲まれていことは、タニア側も直ち認識できた。
因みに、彼らはイスペリアの工作員になる。執政官からの支援によるものだ。 もちろん白いコンバットスーツは、タツマが装備している。
追い詰めた状態での拘束は、一番危険が伴う。手練れの人材はありがたい。
「白翼の騎士団……か? 」
タニア側からの質問がある。
「よくご存じで」
「|テッサリア《キンメリア筆頭都市国家》で暴れている部隊は? 」
「それを言うと思いますか? 敵対勢力に対して」
「……」
「さて、命はとりませんよ。安心してください。 君達には、情報提供者という捕虜になってもらいます」
「そう簡単に内部情報を話すと思うか? 」
あくまでも気丈に振舞い、対応する工作員。
「もっとも我々は、捕虜になってもらう事実が欲しいんですよ。 連行しろ! 」




