次席補佐官
日々の労働で掃除の能力が上がるタツマであるが、ついに本命との会話にこぎつける。
--- 数日後
あれから、数日が経過した。
ようやく彼の仕事も空いたのか、休憩室に来ている。
因みにアルプもいる。もちろん仮面を付けての業務をしている。
仮面は、目のところだけ横筋が一本空いている。 その中で光るモノアイが何ともいえない状況であり、夜に見たら腰を抜かすこと必至のデザインをしている。
イスペリア棟に入る時のトークンの礼儀と言うことで何かと面倒くさいが、郷に入っては郷に従えの精神。
清掃をして分かったことだが、けっこうな盗聴器が仕掛けてあるようだ。
―― まったく。 なんて庁舎だよ
タツマの呆れた感情をよそに次席補佐官から会話が始まる。
もちろん、この場所に盗聴器はない。 というか撤去した。
あまりに多くあるので一つぐらい撤去してもバレないだろうの精神。
「君が、レジスタンスの一味か」
次席補佐官は、休憩室の大きな窓から海を眺めながら言葉を発している。 故にこちらから見えるのは彼の背中だけである。
「そうなりますかね。本題ですが、あなたにタニアの工作員が纏わりついているとのことです。 そいつを確保しろとのミッションです。 纏わりついている者に対して、何か心当たりはあります?」
ここは、本人の心当たりから入らないとどうにもならない。
「なるほどね。 時々視線を感じたのもそのためか……」
いったんの沈黙。
『ところで、エリスから新しいレジスタンスを頼んだのは貴方ですか? 』
アルプが、急に会話に割って入ってくる。
「……」
次席補佐官からの回答ない。しかし、アルプは続ける。
『あなた自身もレジスタンスに疑問を持っておられるのではないでしょうか? 』
「……どうしてそう思う? 」
次席補佐官からアルプに根拠を質問される。
『詳細な理由は全く不明です。 しかし、今までレジスタンスはイスペリアの人を中心に構成されてきた。 しかし、ここにきてあえて外部の国に助けを求めた。考えられる線は2つ。
1つは、レジスタンス内部に裏切者がいる。故にその戦略に乗らない外部の者をいれるという案。
もう1つは、外部の者とのコネクションを作りいざという時の逃走ルートにする案。この場合、あなた自身が、危険かつ重要な情報を握っている。以上ですが、いかがでしょうか? 』
「そのトークン。 優秀だな」
「ええ。現状の技術で頂点にいるような性能ですよ。 それでどうなんでしょうか?」
レジスタンスの裏切者への牽制、それとも逃走。いずれにしても彼の意見が必要だ。
「私はね、入庁当初からイスペリアの治外法権撤廃を心に決めていたんだ。タニアとの関係は、経済的にも安全保障的にも切っても切れないが、植民地のような扱いは、違っている」
―― リアリストでもあるが、理想も追うか……話ズレていない?
「そこで、ある組織と手を組み、内部情報と少しずつ渡していてね。 この国にも私と同じ志を持った人もいるんだ。庁舎内にもそれぞれ研究会もある。 危険でもあるがね」
―― レジスタンスのことか。 なるほど。
「工作員が何を探っているのかは、おおよそ見当がついているが、襲って来ていないところを見るとまだ証拠がないようだね」
「ちなみに、探っているものって? 」
「ここイスペリアは、タニアがキンメリア大陸に影響量を及ぼせる中継地。 故に多くの情報が集まってくる」
「……」
「最近、プロメンテの動乱の時に莫大な金と引き換えにデータ端末がここから出て行った。中身の詳細は分からないし、誰が持ち出したのか、全て不明だ」
――最初の案件のやつか。
「しかし、コードネーム“TF-1”と呼ばれているようで、プロメンテの自殺した執政官とイスペリア弁務官との会話記録が残っている」
「……それで? 」
「ああ。これだけでは全く役に立たない。金額や受け渡しだけで、それ以上の情報もない。 しかし、状況によって世間に公開すれば、威力はある。 おそらくそれを狙っているのだと思う」
「であれば、それこそあなたを拉致でもして、吐かせれば済むことでは? 」
「次席補佐官を拉致すれば、イスペリア当局もだまってはいまい。 それに私は、表面上タニアとの折衝を官僚として担当し、両国の懸け橋になっていると自負している。 その人間を容易に消すと思うかい? 」
「……」
「それに相手はその情報を私が持っているかどうかはまだ不明のはずだ」
―― ややこしい状況になっているということか。
「しかし、私に工作員を向けてきたことは、薄々感づき始めているだろう。あまり悠長に構えている状況ではないようだな」
『もう一つよろしいでしょうか? 』
「なんだね? 」
『レジスタンスのオーナーとは、誰でしょうか? 』
「それも私にもわからんのだよ。 壮年のダンディーな男性が一応の対応者になっているが、彼がここまでの組織維持や運営ができるとは、思えない」
「その根拠は? 」
タツマが質問する。
「顔つきだな」
「顔つき? イケメンとか」
「私も長年この地位にいる。組織を動かす。維持するにはそれなりの苦労や決断が必要なる。つまりは相応の顔つきなる傾向があるんだ。しかし、対応者は、能力があるかもしれないが、おそらく誰かに仕えているそんな顔つきだ」
―― つまり勘ってやつか……当てになるなるのか不安だがね
「そして、レジスタンスのパトロンは、かなりの財力がある。それは間違いない。 表社会の組織を動かし、裏のレジスタンスも動かす。 それだけの技量を持っているように見えない。 もっとも君に揺らぎがあったようにただの勘でしかないがね」
タツマの方に視線を向ける。
―― 読まれるかー いい気味じゃないなー
『なるほど。第六感ですね。結構。私は信じます』
アルプが納得している。
「随分と物分かりの良いトークンだね。非科学的と言われるかと思ったのだがね」
『証拠全くない場合、個人の直感を考慮にいれるようになっています』
「へー」
―― サナエさんらしいな。
「さてと、タニアの工作員が動いたのであれば、私も行動にでないといけないな」
「どうします? 」
「次席補佐官の職を辞するしかないか」
――なんか話がおかしくない?
「いや……ちょっと。 職をやめてどうします? 」
「そうだな、別の国でゆっくりと過ごそうと思う。 行先は……隣国のハルマキスにしようと思う。 勿論他言は禁止だ。 こちらにも準備がある。そちらの準備もよろしく頼むよ」
次席補佐官は、休憩を終えて戻ってしまった。
*
『中々おしゃべりな次席補佐官さんですねー』
「こっちらテラ人と知って嘘がつけない状況だからな。 安心したんだろ? 」
『欠点でもあるが、利点でもある。 なるほど』
アルプが、関心している。
「因みに最初の質問の意図はなんだっんだ?」
『彼が、今まで一緒に動いていたレジスタンスを信じているか否か。 そしてそこに属しているタツマを信じているか否かですね。 しかし、言動から見る限りテラ人ということで、今は信じているようです。 もちろん、読心術を用いてこちらを観察していたようですが』
「どうしてわかる? 」
『背を向けていましたが、反射した目はこちらを観察していましたから』
―― 嫌らしいねー
その後、タツマが暫く黙って考え込んでいる。 そして何かを悟ったように語り出す。
「――それにしても、別の国でゆっくり過ごすね」
『彼は何をしたいのでしょうか? 』
「彼なりの戦いにこっちを巻き込む気なんだろうな。 一般人になって他国への出国。 今のイスペリアが一番嫌う状況だ」
『まぁ。 情報を持っている人間が外にでるわけですからそうなりますね』
「そうなれば、彼の自由度は上がるが、同時に工作員がそうはさせまいと表に出てくることにもなる。 ……自ら囮になり、注意を向かせる。その際に工作員への対応をしろということだろう」
『危険な役目を自ら? 』
「だろうな。 しかしレジスタンス内部に疑問があるのに、どうしてそんな博打をするかね? 」
『やはりタツマへの。 テラ故の信頼感でしょうか』
「初対面なのに? 」
『相手はマールス人人。 心が読める故の対応でしょう。 それに状況が動いているのに座視している訳にもいかないのが事実だと思います』
「確かに」
『しかし、先ほどのやり取りで新たな疑問も生まれます。 もしレジスタンス内に裏切り者がいるとしてレジスタンス自身が破滅しないのが不明ですね』
「確かに。 そんなことってある?」
『分かりません。引き続きそちら件も考慮して先ほどの情報を整理します』
「頼んだ。 さてと! 午後はトイレ掃除だな! きれいするぞ!」
『了解です』
タツマ達は、休憩室を後にする。
―― レジスタンスの内部の裏切り者ねー……これから先は、レジスタンス内部と庁舎内両方に詳しい人間に聞いた方がいいな。
12が、ここの庁舎にいたよな。あいつに聞いてみるのも一つの手かもしれない。
*
本日の業務も終わり、いつも使用しているカーゴに乗り込み安宿へ帰る。
「まったく今日の業務も終わりだ。終わり」
タツマがいつもの感じで車両に乗り込む。
『お疲れ様でした。 本日は結構なイベントがありましたね』
「次席補佐官だろ? 命を賭けてまで国のために尽くすかね~ 」
『良いではありませんか? そういう方々で歴史が作れているのでしょう? 』
「どうだかね」
アルプが数冊の雑誌を車内に置いている。
「これは? 」
『廃棄された経済情報誌です。情報は古いですが、この国を知るには良い情報源と思いまして、ゴミから漁ってきました』
車両が出発する。
タツマがおもむろにその雑誌を捲り始める。
街灯からの光で雑誌の詳細が、見えたり見えなかったりで見難い状況だが、なんとかアウトラインだけはわかる。
政財界への要人の特集や株価予測、勢いのある企業特集、新しいビジネスモデルから投資への広告が掲載されている。
「どこも変わらんねー」
『儲け話は、いつも人の心を引き付けます。 タツマも社長という地位です。 少しは経済の動向に目を向けたら如何ですか? 』
「惑星間貿易商は、星単位の読み方だからね。それを解析するなんて複雑すぎて人間には、無理無理。 そういうのはセレンにやってもらっている」
『なるほど』
信号で車両が止まる。
「それにしてもオーナーが、何でいきなり要件を直接指示してきたかなー」
『今回の件ですか? 』
「そう。 それも個人あてに。 力があれば、怪しい次席補佐官を消すのは訳ないだろ? まぁその後の処理が問題になるってのは、分るけどさー」
『裏があるんですかね』
「裏ねー」
『そもそも先ほどのコード“TF-1”は、まだ知られていない情報です。そして次席補佐官は、レジスタンスを疑っている。 そのいい例が外国に支援を頼んでいる』
「オーナーもそれに気づいて事を動かせた? 」
『はい』
「しかし、タニアの工作員を容易に動かせるかねー」
『もしかしてですが……』
「何? 」
『我々は、オーナーのことをかなり大きく見てるような気がします』
「……まぁ正体不明だからね」
『もしかしたら逆なのかもしれません』
「逆? 」
『はい。 次席補佐官を動かして、タニアに火をつける。 そもそもタニアの工作員を勝手に動かせる人間は、中枢でしかありません。 少なくとも弁務官か、それこそ、タニア中央情報局クラスのはず』
「……こちらに接触させ、次席補佐官をうごかして、タニアを動かせる算段? 」
『可能性があります。 タツマであれば、次席補佐官と聞いても畏怖もなければ、怒りもない。ただの部外者ですからね。 それにテラ人と言うのが、都合がいい』
「それって騙せないってこと? 嘘が見破られるとか? 」
『悪く言えばですが、よく言えば、信頼を勝ち取りやすいといったところです』
「誉めて頂き幸いだよ」
―― まんまんと相手の術中にはまった訳かーいやそうなるとオーナーは何を考えているんだ?
信号が変わり車両が動き出す。
「まいったね。本当だとしたらレジスタンス内の裏切り者の線が濃厚じゃないか」
『しかし、我々が断っても誰かがに白羽の矢が立つだけです』
車両は進む。徐々に治安の悪い地域に入ってくる。
タツマは情報誌を捲くる。
「まぁいいさ。なるようになる。それに我々は、いざとなれば逃げればいいだけ……」
タツマの雑誌を捲る手が止まる。
『確かに。気楽に行けばいいんです。 我々がミスをしても今まで通りです。何か面白い記事がありましたか? 』
タツマがおもむろに室内ライトを付け、雑誌のある部分を見ている。
「アルプ。“ニルブ通商事業集団”って何? 」
『……タニアを中心の交易事業、航路事業、メディア通信事業を行っている会社ですね』
「ふーん。 事業分野が、違い過ぎない?」
『情報では、交易から始まった事業から、海外の情報をイスペリアに伝える業務を起こし、メディア事業に発展したとのことです。中々面白い会社です。そこが、どうかしましたか? 』
「そこの社長の写真が載っているのだが……まぁ若いんだが、どこなく似ているんだよ」
『似ている? 』
「ああ……少しこの会社調べて欲しい。特に重役含めお偉いさん全員の履歴と写真がほしい」
『了解です』
*
そこからさらに時は、数日進む。
次席補佐官の脱出の準備を進めつつも、清掃作業に抜かりはない。
引き続きの情報集めも精力的に行っており、かつタツマは、例の12との会話の機会を伺っていた。
そして、ようやく彼が一人になった瞬間が訪れることになる。
「デスクの清掃は、大丈夫ですか? 」
タツマが、定型文で彼に話しかける。
「!!……お前何でここに? 」
「お静かに。私は清掃員ですよ」
「……」
「聞きたいことがあるんだけど? 」
「ここでは、都合が悪すぎる。 後でここに来い」
端末にデータが送信されてくる。
「……それでは」
端末に送信されてきたのは、いつものカフェの情報になる。
--- ハイソなカフェ
夜になり、カフェもどちらかというとオシャレなバーに変わっている。仕事返りの同僚やカップルで酒を交わしている。
大衆酒場のようにどんちゃん騒ぎがないものの、それなりに酒を肴に会話が弾んでいる。
もちろん、雰囲気も十分である。
本日も商談用の個室を取ってもらっているようだ。
こちらはノンアルコールでの会話になる。
12が既に座っている。 カフェオレを注文しているようだ。
「お待たせ―」
タツマが遅れて入ってくる。
「待ってない。それに遅いぞ! ところで、お前。 清掃屋だったのか? 」
「そんなところです」
「ふーん。 まぁいい。 それで何が聞きたいんだ? 」
12からの情報をまずは流し、給仕に、同じものにスイーツを追加し注文する。
一通り中もが終わり、12と正対する。
「次席補佐官の情報って何か聞いている? 」
「……いや何にも。ああ……ただ噂だけど辞めるんじゃないかってのが」
「――理由は? 」
「そこまでは、なんでも仕事に疲れたとか」
―― なるほど、それなりに情報は漏れているか。
「12が思う理由は? 」
「……分からんが、身の危険が迫っているとの噂がある」
「……君たちの棟では、色々な研究会があるんだよね。そこで、執政官の周囲の情報って出回っていない? 」
「……お前、何を知っている。情報は交換だぞ」
「次席補佐官の周囲に怪しい人物がいるらしい」
「!! 」
「工作員とのことらしいんだが、どうも違うように思えるんだ」
「? 」
「タニアの諜報機関は、優秀なんだろう? それなのに長期間の尾行っておかしくない?
直ぐに対応すると思うんだ」
「まぁ……確かに」
「で、質問の意味ね。尾行者ってイスペリアの諜報機関か何かじゃないかってこと。目的は、彼の安全の確保かな?」
「馬鹿な。イスペリアの諜報機関を動かせるのなんて……」
「そう。 執政官だよね。 彼らの動向を何か知らない? 」
「……聞いたことはある。執政官が諜報機関を使って誰かの守っているって。誰かまでは知らないけど」
―― 12がそこまで知っている? そうなると……
「……なるほど。 なるほど。 なるほど。 あのヤロー」
タツマの眉間に皺がよる。
「どうした」
「いや。助かった。それじゃ」
タツマはカフェオレとスイーツを一気に流し込み、席を立つと足早にその場を立ち去っていく。
「おい! 勘定! って……逃げられた」
12の前には、平らげられた皿と空になったグラスのみが置いてある。




