イスペリア 合同庁舎
オリジナルは、4000年以上の前の建築物。故に、今あるのはレプリカになる。
といっても、何度のて替えも当時建てられたデザインを活かして実施しているとのこと。
デザインは、赤レンガを基調とした重厚な壁と丸っこい屋根とそして2つの棟がくっついているような特徴なデザインをしている。
庁舎周辺の建築物もそれに合わせてデザインされているので、街並みが統一されており、イスペリアの異国情緒の雰囲気を盛り上げている。
また、景観条例により一定のデザイン制約があるため、一等地にあるにも関わらず高層建築物がないのが特徴になる。
との内容が、この観光案内看板に書いてある。
『観光であれば、さぞ楽しいのでしょうね』
「そういうこと言わないの」
さてと、掃除屋さんの詰め所に行きますか。
--- 清掃員詰め所
例のごとく一同を介した朝礼スタイルでの新人紹介が始まる。
もう何度経験しただろうか。
「みんな。今日から一緒に働いてもらう、タツマ・スキュレスさんだ。何でもテラ(地球)からのバックパッカーでプロメンテでの農業やシメリアでの鉱山労働にも従事していたこともある経歴の持ち主だ。
それと相棒のアルプさん。トークンであるが、彼のオリジナルでそこら辺のトークンとは比較にならない性能とのことだ。 みんなよろしく頼む」
勿論、アルプは仮面をつけている。
ここの監督員らしき人が、こちらを紹介してくれる。
「本日からよろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
拍手が起きる。自分探しの旅に出ている設定のような履歴になってくるな。
紹介が終わり、監督員さんが一枚のカードを渡してくる。
「タツマさん達は、今日は、班長と一緒に掃除場所を回ってくれ。IDカードを渡しておく。 なくさないでくれよ。 掃除業者であっても庁舎へ自由に出入りできるカードだ」
「わかりました」
さてさて、お掃除始めますか。
今日は見習いのため、班長さんの後ろをついていく。
まずはゴミの収集を中心に行うのが今回のミッション。
庁舎内の各部署のゴミを収集して大型の収集車に詰めていく。
このIDカードがあれば、一通りの部屋に入れそうだ。
意外にセキュリティは緩そう。もっとも只の役所だからね。
最低限のセキュリティしかないか。
庁舎内には、多くの清掃用トークンも働いているため、アルプが目立たないのがいい。
―― 北部は、トークンに対して嫌悪感があると言っていたが、庁舎内のトークンは、何も装備していないな。
事実、周囲に嫌悪感があるということで、アルプには態々仮面を付けさせている。
「トークンが結構いますね? 」
「ああ、こうして、綺麗してもらってもらえるから、我々も楽が出来るんだ」
「北部地域は、トークンに嫌悪感があると聞きましたが? 」
「こちらの棟はタニア関係の部署がはいっているから、タニアの人が多いんだ。だから、あまり気にしないのかもね」
そんなことを話しながら、手際よくを個人のごみ入れや、フロア全体のごみを清掃屋の大型コンテナに集めていく。
フロアのゴミが、おおよそ収集できた。
「ここが弁務官室。 この国で一番偉い人の部屋だ。入るときは必ずノックを5回するのが基本だ。返事がなかった場合は、何もせず引き返すのがルールだ」
「了解です」
「今日は、この部屋の掃除は、別班の予定だから関係なしってところかな。 さて此処までが、まずのルーチンワークになる。さてと次……」
部屋から離れようとしたときに、疲れた小役人のような覇気のない人がこちらに歩いてくる。
班長さんが、廊下壁側により彼に道を譲る。こちらも彼の行動に合わせる。
「おや掃除かね? 」
「いえ。本日は別班がきますので。新入社員教育で弁務官様のお部屋入室の方法を教えていたところです」
班長がきびきび返答する。
「ああ、なるほど……そちらさんが新入社員?」
弁務官が何気なく視線をタツマに向ける。
「本日から一緒に働く、タツマ・スキュレスさんです。トークンは、彼の相棒で掃除の支援をしてくれるそうです」
「タツマです。よろしくお願いします」
「ああ、そう。よろしく」
彼はそう言うと部屋に戻っていった。
「何か随分と人物像のイメージが違いますね」
「イメージ? 」
「さっき、この国で一番偉い人と言っていたじゃないですか?もっと、こう偉そうとか、傲慢そうな人物かと思ったんですけど、意外に普通というか」
シメリアの執政官とか傲慢のさいたるものだし。
「確かにね。見た目はあんな感じだよね。でも弁務官の名は伊達ではないよ。間違いなく切れ者だ。迂闊なことをいったら噛まれるよ」
「了解です。誠心誠意を込めて作業いたします」
「いい心がけだ。さて次はトイレ掃除方法を実施だ! 」
--- 数日が経過する
潜入して数日が経った。今日はアルプと組んで弁務官室の掃除をする。
ドアを5回ノックすると
「どうぞー」
との声が聞こえてきた。
ドアを開けての第一声。
「弁務官殿。 失礼します。 これから室内清掃をおこないますが、よろしいでしょうか? 」
定型文なのでそのまま発言する。
「ああ。頼むよ」
弁務官は書類仕事に忙しいようだ。もちろん裏に回るようなことはしない。
入口近くの応接セットの清掃をしている。
この部屋だけは、音がでない昔ながらのモップや布での掃除になる。
そのため手間がかかる。
「君はテラから来たんだって? 」
思いかけず、弁務官から清掃者への声かけがあった。
―― さっそく履歴書が流れたな。 慎重な回答が必要だな
「ええ。バックパッカーですね」
「マールスの苗字なのが気になってね」
「ええ。母がマールス出身なんです」
「ふーん。 そのトークンは? 」
「友人から譲り受けました」
「譲り受けたねー相当な代物だよね。お友達は随分とお金持ちだね」
―― なるほどね。目ざといか。
「ええ。分かります? 金持ちの友人ですから、引っ越すからいらないと。こちらの価格ですと10万マリベルで譲ってもらいました」
「それは安い。新品なら100万マリベル以上する代物だぞ」
「そうなんですか? まぁ、こうゆうのに興味がある奴で新製品を買ったらしく、おさがりですね」
―― へー アルプって結構高価なのね
「じゃあ君もそこそこの出身なのかい? 」
「まさか。中小企業に勤めの息子ですよ」
「ふーん。大学は? 」
「家計が苦しかったので、通信制大学になりますね」
理由は、違えど全て事実になる。マールス人相手では、嘘によるバトルは勝ち目がない。
「なるほどね。それにしてもそのトークンよく動くね。ギコチなさがない」
「専用のプログラム組んでいますからね」
「君が? 」
「まさか。 その友人は、こうゆう改造とかが強いんですよ」
――サナエさんは確かに強いからね。
「そのトークンは、テラ産? 」
――こいつかなり絡んでくる。 落ち着いて対応だ
「自分は、トークンのこと良く分からないんで。 動けばいいかなと」
「……それはウェヌスの1世代前のモデルだよ。お友達も随分と気前がいいね。私なら絶対にその値段では譲らないけどね。 本当に貰ったのかい? 」
「優秀な人物でしたからね。通信制大学にしか行けない自分への慰めもあるのかもしれません」
「ああ……なるほどね。 私の席側も頼むよ」
弁務官が、徐に席から立ち上がり、机の上の書類に布を掛ける。
清掃を開始するが、かなりの頻度でしているためか、汚れはほとんどない。
「ふーん。ところで君はさ、何が目的でここにいるの? 」
―― 少し煽って来たか?
「そうですね。旅の資金がなくなったんで、その資金稼ぎですかね」
「なんでバックパッカーなんかしているの? 落ち着いてテラで就職とか考えないのかい? 」
「世界は広いですから、若いうちに色々な地域を見てみたいと思いまして」
「ふーん」
こちらの動機に興味がないようだ。
「ところで、君はプロメンテの農作業にも従事していたようだね。 どうだったの? あそこ随分ひどいことになっているようだけど」
―― しつこいな
「あの戦闘ですよね。一緒に働いた人もいたので、いたたまれないです。自分が働いていたのは、まだ、畑が荒れていた時代でしたし。農道整備などをやっていました」
「ああ! その時代ね。収奪法案後の時代だろ? とすると商社プロメンテに雇われていたの? 」
「ええ。 短期労働ですが、そうなりますかね。 長居をしたら、私も結構いい思いができたのかもしれませんね。もっとも戦場に駆り出された可能性もありますけど」
「確かにねーその後、シメリアか? オガネソン鉱床は、今でも話題がつきない。そこにもいたんだろ? 」
「ええ。でも自分の時は、鉄鋼石しか取れないくたびれた山だったんですけどね。 見つけた経営者、ショーンさんですか? 凄いですよね」
「ふーん。履歴書は、本物なんだね」
――堂々と“怪しんでいますよ”宣言か。落ち着いて対応だ
「自分の足跡を示したまでですけど。弁務官殿の履歴書に比べればお粗末なものですよ」
「いやいや、若いのに様々な経験を積んでいるのは、素晴らしいよ」
清掃が終わり片づけに入る。
「清掃が終わりました」
「ありがとう。 また頼むね」
笑顔で部屋を出る。
緊張がほどけ疲れがどっと襲ってくる。偽りを交えた本当のことが一番わかり難いらしい。
――あいつ、警戒心が強すぎるだろ!
ぐったりしながらも次の作業のため、タツマ一行は詰め所に戻っていく。
――そういえば、肝心の次席補佐官とまだあってないな。
--- 弁務官室
「どうだった?」
弁務官が、自分の所有のAIに相談する。
『嘘の可能性は、30%~40%ほどで少し高めに出ています。 しかし、弁務官に対しての緊張と動揺を考慮した場合、適性値と判断します。事実、回答も履歴書通りですし、時系列も問題ないと思います』
「なるほど――私も彼の嘘が認識できなかった」
レジスタンスの奴らが、工作員を送り込んでくるなどの噂もある。
とりあえず、用心に越したことはない。
「しかし、よく職をかえるな。こいつは」
履歴書はシュレッダーに入れられ裁断される。もう関心がないようだ。
それよりもレジスタンスの後処理だ。
中央管轄区の工作員が顔つきでばらまかれたのは痛いな。
白翼の騎士団みたいのが、しょうもない映像を残したことで、対応に苦慮するし。加えてテッサリアにも白翼の騎士団が現れたと聞いている。
|リーライン殿《第三方面部独立作戦局指揮官》も真偽の確認のため、テッサリアに出払ってしまっている。
カリカリするのもわかるが、“白翼の騎士団”にのめり込み過ぎている感じもする。
こちらもここ最近かなり周りが騒がしいため、余り“白翼の騎士団”に傾倒するのもどうかと思うが、向こうは実力部隊を持っているため、あまり強くいうことができない。
「リーライン殿おかけで、自然な流れでヒューリの口封じができたのが、最近の成果か」
そんな独り言がつい洩れるが、ここには一人だけなので気にしない。
徐に自分の部屋の窓辺に立ち外を見ると、海と統一された街並みのつり合いが、実に美しい。
「まったく、統治も楽ではないな」
*
とりあえず、厄介な奴をやり過ごした後のある日の清掃作業
「班長。ここの偉い人って執政官じゃないんですか? 弁務官ってそんなに偉いんですか?」
何も知らない体で、一緒に掃除担当の人にさりげなく話を振ってみる。
「君はテラ出身だったね。 一般的には、執政官が一番の責任者だよね。しかし、イスペリアでは、弁務官が、イスペリア議場の決定に対しての拒否権が使えるんだ。
だから、一番偉いってわけ。もっとも今まで拒否権を行使されたことは、ほとんどないけどね」
「へー。 それなら執政官もいるんですよね? 部屋を掃除したことがなくて」
「ああ。こちらの棟に執政官はいないよ。隣の棟さ。執政官にあってみたいのかい? 」
「そうですね。見たことないので、見てはみたいかも」
「君も中々ミーハーだな。しかし、こちらの棟の雰囲気は基本温厚だからね。新人はまずは、タニア棟で仕事を覚えてから、イスペリア棟に行くんだ」
「やっぱり執政官って、偉そうなんですか? 」
「偉そうというか、執政官に限らずイスペリア棟は、全体的にピリピリしている感じかな。基本雰囲気が悪い」
「へー」
「君もここにきてだいぶ経つよね。そろそろ、イスペリア棟に行ってもらうかな」
「そんなのを聞いたら、モチベーションが下がってきました。 さっきのは、なかったの事にしません? 」
「……よーし決めた。明日、清掃長に掛け合って、廻してもらうよ」
ニヤニヤしながら偽悪的な笑みを向けてくる。
「えー」
タツマの嫌がるような演技が、より相手の悪戯心に火を灯す。
――ようやくイスペリア棟か。雰囲気わるいのかー
--- イスペリア棟
うわー。談話が一切聞こえないよ。事務の音と時折、注意や叱責の声だけが聞こえてくる。窓が小さいのもあるが、基本的に電灯だけで暗いし雰囲気悪!
確かに職員が足早に歩いている。ブツブツ独り言を言いながら歩いている人もいるし。
なるほど、タニア棟とは、雰囲気が全く違っている。
オフィスフロアにて。タツマが声を張り上げる。
「清掃に参りました。よろしいでしょうか? 」
“あぁぁ! いま立て込んでいるんだ後にしろ! 後に”
“俺は頼むよ。ゴミと机周りを頼む”
“チィッ。清掃は耳障りなんだよな”
“お前は、好きにすればいいだろ? 俺は清掃をしてもらう”
“女性じゃないのかよ! クソが! ”
“セクハラだぞ”
様々な声が飛んでくる。
たかが清掃の一言で。何このお互いのけんか腰スタイル。それに独り言の内容がひどい。
クリーナを掛ける。確かに音はするよね。ゴミを集めて専用の大型のコンテナに入れる。
ときどき、“うるせーな”“鬱陶しい”などの言葉も聞こえてくる。
――凄い環境だな。
「ありがとうございました」
“ああ、また頼むね”
そういえばタニア棟は、女性職員は、かなりいたが、こちらはフロアも男性が全てだった。
これじゃ女性は、来ないんじゃないでしょうかね。
そしてイスペリア棟のどこのフロアもこんな感じであった。
そうそう、清掃会社の帽子を被っているので気づかれていないが、12が、ここの庁舎にいる。あいつイスペリアのエリートだったのね。
執政官室も5回のノックとのことで5回ノックしたが、全員返事がなかった。
荒み過ぎていませんかね。 こっちの職場。
とりあえず、中休み。
「疲れたー。何なんだよ! こっちのフロアは――」
愚痴も垂れたくなる状況になる。
アルプ? 奴はタニア棟で掃除中。タニア棟担当者が休暇のため駆り出されている。
性能が良いので何かと重宝されているようだ。
なので、こっちは一人での作業になる。
結果、環境からの当たりを一人で受けているのも、疲れが倍増する要因になっている。
――こっちの棟が不人気なのも納得だよ。
休憩時間、海の見える休憩室で一休みをしている。そこに疲れ果てているような役人が歩いてきた。なんか上に行くほど、疲れている人物が多いな。
とりあえず、ようやくターゲットへの接触が出来そうだ。
「ああ、新入りの掃除屋さんか。 聞いているよ。 私のオフィスも頼む。 私はいないけど入ってくれて構わない。オフィス担当者に言っておくよ」
自分の名前を言わずにどうしろと? といっても、顔で判断しろとのことか――?
「承知いたしました。 ところで、どちらのオフィスですか?」
「……ああ。 すまない、次席補佐官室になる」
「そうでしたか」
―― 全くここの連中は、合言葉が好きなのかね? ええと。確か――
「ところで、今日も天気がいいですね。あの白い鳥はどこに飛んでいきますかね?」
「……イスペリアの港の方だろう。」
「日が昇る方向ですね。」
「……そうか、わかった。毎日この時間に来てくれ。仕事が空いたら顔をだす。」
「掃除の件、了解しました」
今日は曇っているし、この合言葉は逆に怪しまれそうだけど。
*
清掃のためオフィスに入ると担当者も一緒についてきたようだ。見張りらしい。
重要情報もあるからね。しかし、まー汚れているね。
こぼしたコーヒーの後やダストボックスも溢れている。
―― 荒み過ぎだろう!
「部屋の状況。 凄いですね」
「次席補佐官は、激務だから。夜中に帰宅やオフィスに泊まることもザラなんだ」
早速、清掃を開始する。床に落ちている大きなゴミ拾い、クリーナで床を綺麗に磨く。
ダストボックスをコンテナ入れ、埃だらけの棚を拭き掃除を実施する。
しばらくして、清掃が終わる。
「終わりました。 如何ですか? 」
立会いの担当者も綺麗になっていくオフィスに満足しているようだ。
「さすが、プロだね。我が家にも来てもらいたいぐらいだ」
「ありがとうございます。その際は是非お願いします」
タツマが、立ち合い人の誉め言葉に適切に合わせ、次席補佐官のオフィスを後にする。
これでは、執政官の部屋もおおよそ検討が付く。
――まったく、ここに通い詰めないといけないとは、フロアといい、高官の部屋といい、仕事とはいえ気が滅入るな。




