追放と招致
--- 発覚から2日後
~南部 13支部 教会 ~
「13。 今回の件、本当に助かった」
例のインテリさんからのお礼の言葉が掛けられる。
今は、例の教会での緊急ミーティングになる。議題はもちろんインテリさんが、どこかの工作員に目を付けられ、顔が割れていたことになる。
「気にしないでください。たまたま、私の情報網に引っかかっただけです」
タツマも穏やかに応えるが、ミィーティング自体の雰囲気はかなり重い。
少なくともこれから何が起きることは容易に想像がつく。
主催した管理者が現れる。 出席者も全員静まる中、彼が口を開く。
「今回の件で、10の顔は、敵に割れていることが明白になった。 ここまで一緒にやって来てもらったが、残念ながらここから去ってもらう必要がある」
「覚悟は出来ています」
追放劇と言いたいところだが、周囲の人間への波及を考えれば致し方のない事。そして本人も納得しているようだ。
「大丈夫なんですか」
タツマが10に声を掛ける。
インテリさんは、若干の影を残しながら作った笑顔で回答する。
「大丈夫です――とまではいきませんけど、仕方のない事です。このままここに居ては、他の方にも迷惑が掛かります。 故郷に戻ります。 働き口はー 何とかなるでしょう。 既に職場への退職届は出していますので、明日にでも立ちますよ」
―― 職を持っている傍らのレジスタンスとは、バイタリティーがある。
「すまない。そして今までありがとう」
管理者が、礼を言う。
その言葉を聞くと、10は席を立ち、教会を出ていった。
しばらく、沈黙が室内を支配する。
そして沈黙を破るのもまた、進行役の管理者の務めなのだろうか、彼が再び口を開く。
「さて、13 が教えてくれた情報から、敵工作員の面が割れた」
管理者が、送った写真を彼らに示す。
「彼らが工作員だが、間違いないかね。13」
「はい。 間違いはないですが、恐らく向こうもこちらに気づいたはずです。 この顔で出歩くとは思えないです」
「なるほどね。 一応の写真というわけか。 それも仕方ない。 ところで、欠員が出たので、私の伝手で新たな隊員を招き入れる」
“大丈夫なんですか? 身元とか”
“急な人員の加入は問題では? ”
顔が割れての脱落者のため、今回は例のサインは使えない。
そもそも、あの暗号は破られており、タニアの工作員が、こちらの素性を掴み始めている。
レジスタンスの中にもそれなりの動揺がある。
「大丈夫だ。サバエア大陸のエリスからの使者になる。入ってくれ」
扉を開けて入って来る大きい体に浅黒いボディ……
“ウェヌス人かよ”
“惑星色が豊かになるな”
“戦闘力を向上させる気でもいるのか”
多くの私語が聞こえ始める。
そしても最も驚いたのは、タツマ本人だろう。
―― 副社長……何しているんですか?
「彼はサバエア大陸の大物政治家のからの推薦だ。絶対の信頼がおける。彼が抜けたコードを継承し、名前は“10”とする」
まずの管理者からの表明により、一同もそれなりに納得する形になる。
副社長はこちらをちらっと見るが、タツマとは目を合わさない。
―― まぁ赤の他人の方がいいのだろう。
「さて新たに仲間が加わったとろで、次の任務と説明をしたいと思う。近々タニアから大規模な薬物の密輸がある。これの阻止を行ってもらいたい」
タツマから疑問を管理者にぶつける。
「治安当局に情報を流せばいいんじゃないですか? 」
「そういうと思ったよ……実は、同じ例が前にもあってね。与えた情報が筒抜けになり、検挙には至っていないんだ。 おそらく、現場で証拠と犯人を抑えて通報しないと動かない可能性がある」
―― なるほどね。
「今回こそは、薬物の流入を阻止したい。 作戦内容を送信する」
端末に情報が届く。
「関係者との打ち合わせと、準備を整えて当日現場での集合とする。解散! 」
管理者は、そういうと奥に引っ込んでいった。各員がバラバラに教会を後にする。
副社長もこちらを気にすることなく会場から出ていく。
内容を確認しているが、どうやら、運搬船の医薬品コンテナの一部に薬物を積んで来るらしい。 それを税関が入る間に、抜き出し抜け荷をする算段らしい。
我々の目的は、その抜け荷が、奴らのアジトに到着する前に破壊することが目的のようだ。
データは一定時間立つと消える仕組みになっているので、早々に頭に入れる必要がある。
作戦はいたってシンプルであるが、タツマの脳裏に不安が過る。
―― インテリさんの面が割れているように、タニアの工作員の面も割れたはず。
加えて、管理者さんとのヒアリングの中で、今までのレジスタンス活動では、活動以外への強襲はないと言っていた。
そうなるとレジスタンスを取り巻く状況が、変化していると考えたほうがいいのかもしれない。
席を立つ仲間いる中、席を動けないタツマがいる。
―― このようなときは、御老公に相談だっけ?
「なぁじいさん」
「御老公だろ?」
「どっちでもいいだろ? 」
「……まったく可愛げない若造だな。それでなんじゃ」
「以前何でも相談してくれって言ってたよね。 最近というかタニアの行動どう思う?」
「10が抜けたことか? 」
「というよりも、彼の面が割れたことが……気になってね」
「ほぅ……それで? 」
「今回の件ですが、気になるので少し調べていただけますか? 」
「調べる――何を? 」
「ここ最近、我々は小さいながらに立て続け位に作戦が成功している訳で、
今回の工作員への直接攻撃未遂もその反動とも見ることもできますよね」
「まぁな」
「となれば、近況の大がかりな案件、つまり今回の作戦について向こうも何かしら大掛かりな行動が、起きるような気がして……」
「“大掛かりな行動”ねー。 それで何を確認したい」
「タニアの工作員の中の動向ってわかります」
「また難儀な要望じゃの~まぁいい。探れるところまで探ってみよう」
「また罠の可能性もあるのか? 」
12が、会話に割り込んでくる。
「わからない。 しかし、違和感があるのであれば解決しておきたい。それだけです」
「細かい奴じゃの。 了解した。それでは。行くぞ12」
「了解です」
彼らが出ていく。
―― あとは、管理者さんとの少し話してみるか……。
教会召喚時のタツマは、管理者とレジスタンスの内容について話すのがルーチンになっている。
タツマはテラ人であるため、マールス人としては、嘘はすぐわかるとの安心感もあるため、意外に情報が聞くことができる。
*
会議解散後から宿につく頃には、周囲はすっかり暗くなっている。
といっても、アルプもカーゴ車での移動のため、地域のギャング程度であれば交戦は問題ない。 実際に軽い小競り合いには巻き込まれている。
いつもの安宿につくと副社長が、ロビーで待っている。
「おせーよ。 待ちくたびれたぞ! 」
「こちらも色々とあるんですよ。 こっちに来た理由も聞かせてくれるんですよね」
「まぁな。それと言伝も預かっている」
タツマは、副社長を自室に案内する。
少し広めの部屋なので3名は余裕程度の部屋になる。
部屋に入り、アルプがお茶を入れる準備を始める。
「さて早速、理由を聞きたいところなんだけど」
「イスペリアの大物からトリフィナさんのところに連絡があってな。エージェントを一人都合付けて欲しいとのことだ」
「大物ねーということは、レジスタンスの活動を知っていて、なおかつレジスタンスにも信頼がある人物かー」
「ああ。 実際オーナーも彼からの要請を飲むしかなったようだ」
「ほぅ」
「エリスの情報庁の局長は、追い出したため、多少の融通聞く状態になっている。しかし、うちの派閥形成はこれからだ。故にまだ弱小勢力のままでな。
故にこちらから直接エージェントは出せない。なのでその話が、ダイゴのところに話が廻ってきたわけだ」
「ふーん。 レジスタンスに協力してエリスになんかいい事はあるの? 」
「マールス内の1強の勢力を落とす。そんな算段だろ? 」
「やだやだ。大国間の政治闘争をこんなところに持ち込まないでほしいね」
「それも仕事だ」
とはいえ、タツマは既に首を突っ込んでいるため、どうしようもないも事実もある。
「ところで、報道記事で見たよ。各国からの融資をしてもらうんだって? 」
「ああ。 公共融資であれば、良いだろうとのセレンの判断だ。 第三者の意見が入るのが嫌なのはわかるが、これ以外方法がない」
「いいですよ……それに金が無ければ事業は進まないし。不満はありませんよ」
とは言いつつも、タツマは納得出来ていない模様。
しかし、それを無視して副社長が、話を続ける。
「それと、お前の親父が議員と再婚してな、社長の苗字も変更だ」
「はっ? 」
「随分と経つが、社長の名前は、タツマ・スキュレスだ」
公文書を渡してきた。
―― いやそれよりも、まだ親父の扶養に入っていたのか?
「ここでの潜入任務での偽名はバレる可能性もある。 ちょうどいいタイミングじゃないのか? 」
―― そういう問題?
「ところで、エリス中央軍のフォボス宇宙基地への連絡が、多いようだが? 」
「報酬の約束があるからね」
「……彼女を口説くつもりでいるのか? 」
「もちろん」
呆れる副社長。
「……年も離れていると思うが」
「いいじゃん。年なんて」
「まぁ、あんまり迷惑かけるなよ。結構うわさになっている。あのエリスの英雄に男の影が、とかな。因みにサナエさんは、いいのか? 」
「良いも何もあのタイプは、仕事に生きるタイプだからね。そゆうことに興味もないでしょう? 」
「……そうか。そうそう、社長の要望だった南部動乱で使用したトークンの修理は完了したぞ。 動乱で利用したトークンは全て修理が終わってカムカム号に引き上げた。 あの数を今のプロメンテに置いておくと何かと因縁を付けられるからな」
「まぁこちらからみれば、英雄だけど、相手から見れば悪魔であり、反乱因子だんもんね」
「まぁな。カムカム号には、おおよそ総勢1000程度あるからチョットした軍隊だな。それとセレンも現在サナエさんで改良中だ。まだまだ性能が上がるらしい」
親父の案件だったな。 性能が良くなることは良い事だ。
「でもやっぱりセレンは凄いね。あれだけのトークンを自在に動かせるなんて。 現在技術じゃ無理でしょ? オーバーテクノロジーだよね。 社長になったら秘密を教えるとか言っていたけど……」
「……ヒルベルト商会の秘蔵兵器だからな。 時が来れば奴も話すだろうさ」
「副社長は、知っているの? 」
「ダイゴしか知らん。 それに俺に電子工学はわからん」
「私も計算機とか苦手なんだよねー」
タツマが諦めたように洩らす。
「それにしても、今回トークンを連れて来なくてよかったのか?」
「大陸北側は、トークンへの風当たりもあるしね。 大量に動員したらそれこそ変に勘繰られる。アルプ一体で十分さ。それにここには柵がない。ヤバくなったら逃げるだけさ」
「ならいいが……ところで、今回の作戦どう考える? あの場で少し引っ掛かっていたようだが? 」
「情報がないから何とも言えないけど――なんか嫌な予感がするんだよね。 だから、今御老公に調査を依頼しているんだ」
「御老公……あの爺さんか――俺も社長同様に危ない気がする」
「理由は? 何となく? 」
「いや。 社長が、工作員を見破ったのが理由だ。 恐らく向こうもこちら側に相当な奴が加わったと感じている。 そうなるとその実力を見極めたいと思うのは常だ」
「……なるほど。 そういう見方もできるか? 」
ここでアルプが、紅茶を両名に出してくる。安物であるが、香りはそれなりに良い。
両名はいったん落ち着くため、紅茶に口を付ける。
香りが良いが、やはりうまみが薄い。
といっても安宿の茶葉に期待をするのも酷なもの。
「ふー」
緊張した雰囲気から、お茶の一杯で大きく息を吸い込め、リラックスする。
「いいな。こういうのでいいんだよ。 こういうので。 変に高級なのは味が濃くていけねーな。 ところで、その前提を聞いた上でどう考える」
副社長が、質問を続ける。
―― 変に高級な茶葉ってどうゆうこと? いやいかん、まずは仕事のことだ。
「薬物の輸入だが飛行機を使わないとなると、タニア本国が直接かかわっていないと思う。船より空路は検閲が厳しいからね。 恐らく下っ端の役人の私腹を肥やす程度の話のはず。
本国は知らないか、知っていても目をつむっているかは、不明だけど。
しかし、そこにこちらのタニア連中がかかわって来るとのことだろう? 」
「たぶんな」
「となると、工作員が、絡んでくるのは取引時の護衛か、取引後の相手の護衛になるだろうね――そうだねー取引後の相手根城での油断しているときに襲撃がベストかも。
片方の護衛だけの相手で済むのと根城についた安心感からの襲撃の方が、成功率も上がるかも」
「……なるほど」
「疑問でも? 」
「いや。金を貰った相手の密売人はどうする?」
「タニアの治外法権撤廃がくすぶっている今なら写真だけで治安隊は動くしかない。そっちに任せる」
「……」
「因みに社長にバディは、いないのか? 」
「そーなんだよね。 アルプだけ。“13”とか変な名前になっているし」
捕まった時のために個人同士は全て番号で呼び合っている。
「とにかく、御老公からの情報待ちかな」
「了解だ。俺もそろそろ戻る。 じゃぁまた後でな」
「治安が悪い地域だから、帰り道は気を付けて」
「おう! 」
そう言ってバルティスは、タツマの部屋を出て行く。
ホールウェイに出る。 安宿であってもこの辺りで一番の安全が確保された宿だけあって、それなりに大きく、清掃が行き届いている。
(まったく。 ダイゴの下で一体どうすれば、あんな作戦を立てられるようになるんだか。確かに荒事尽くめの航海だったが、それほど、頭を使った作戦もなかったろうに。そういえばあいつ。 歴史マニアとかいっていたからその辺りか? )
そんなことを考えて、バルティスは、自分の宿泊地に戻っていく。
【薬物取締の大捕り物】
翌日、ご老公からの情報が来た。
内容は、輸入管理局とタニアの小銭稼ぎのようであり、病院向けの精神薬コンテナの中に
に混ぜて輸入する気でいるようだ。
港でコンテナを開けて、目的の品を別輸送車に乗せ換えて終了だ。
やはり、本国は関わっていない。であれば、密輸船自体の護衛は少ない。
特殊な事情もなく、政府の人間も絡んでいないので、杞憂であったことに安堵する。
―― しかし、小賢しことを。
タツマの眉間に皺が寄る。
ここまでは、一般的な密輸の手口になる。おおよそ治安隊でも対応できる内容になる。
しかし、問題はもう一つの情報の方だ。第三方面部独立作戦局が動くとのこと。
その中でも出世頭の切れ者の隊長が動くらしいとの情報。 写真も添付されている。
「こいつ……アルプこれ」
『あの時の秘書官と似ていますね』
「どう思う」
『彼なら秘書の立場を利用して、プロメンテの資金を把握し、利用することは、可能でしょう。 プロメンテ資金流出の黒幕かもしれません。 ヒューリが生きていた時にそそのかしたと考えれば、筋は通ります。 もっとも証拠はないですが』
「同感だ。それだけの相手となると……作戦を変更しよう。セレンに繋いでくれ」
『了解です』
--- 南部 13支部 教会
ご老公に無理を言って、再招集をかけてもらい、タツマ自身の考えを述べ
13人の前作戦の説明を行っている。
・
・
・
「……以上の作戦を提案します」
「……なるほど。 人員配置と接敵までのタイミングまでの指示とは恐れ入る。しかし、なぜここまでの作戦にする必要があるのかい? 」
管理者が、タツマに質問する。
「確認した独立作戦局局長は、かなりの切れものです。恐らく今までの成功を忌々しく思っている可能性もあります。ただの麻薬密売で済まなく、追加戦力を投入される恐れがあります。 なので、ここまでの作戦にしないと対応される可能性があります」
「……」
タツマの回答に管理者が黙る。
「ただの、抜け荷程度あればここまでの作戦は、必要ありません。 ただし、対独立作戦局相手に中途半端な作戦では、こちらの被害も軽微では済まされません」
「わかった――了承しよう。 各員13が示した地域に陣取ってくれ」
“了解です”
“わかった”
“従いますよ”
と各員が了解の合図を送りその場を離れていく。
確認後、最後の一人になった際に神職に相談を持ちかける。
「“13”どうした? まだ何かあるのかい? 」
「少し面白い余興をしませんか? 」
「余興? 」
「ええ。 もしかしたらこの組織にプラスになる余興です」
タツマが、管理者に説明をする。
「……冗談にしては、笑えんぞ! 彼らを無断に語ってタダで済むとは思えない! 」
管理者が青ざめている。
「大丈夫です。 彼らも非合法組織。 それに正義のために戦っているのであれば、理にはかなっています」
「しかし……」
管理者はいまいち踏ん切りがつかない。
―― まぁ気持ちはわかる。
「大丈夫です。 奴らがバックにいるとなれば、この組織の権威も上がるというものでしょ? 仮にも正義の味方じゃないですか」
タツマの白々しい言葉が、舞い発言を続ける。
「もし、追及があれば、私が勝手にやったことにすればいい。 そんにこれが成功すれば、レジスタンスの名声も向上し、今後の作戦にも良い影響があると思いますよ。 加えて資金集めも楽になるかもしれません」
「うーん……」
管理者はかなり悩んでいる。 おそらくメリットとデメリットを天秤にかけているのだろう。 それをそばで黙って結果を待つタツマ。
「わかった――準備は任せる」
「ありがとうございます。 先ほどの作戦内容をお送りしますね。 他の人に言うと浮足立つだけなので、ここだけにとどめておいて下さい」
タツマが作戦データを送ると、管理者はその内容に納得したようだ。
「わかった。 他言はしない。 約束しよう― 作戦を進めてくれ」




