南部 第13支部 教会
ここは、南部地区で最も治安が悪い部類の場所であり、観光客はおろか地元住民も滅多に近づかないエリアだ。
昼間から上半身裸で寝ている者。 夢遊病者のように徘徊している者。 時々奇声も聞こえてくる。
以前訪れた落書き場所に比べて昼間でも人が多く、危険性をひしひしと感じるエリアになる。
日が高いことが、まだ救いかもしれない。 夜になるとギャングの抗争が後を絶たえない場所なのだとか。
さて、そんな危険地域をカーゴ車両でうろつく2名がいる。
本日はアルプとコンバットスーツ装備でダウンタウンの南部地区の指定された教会に向かっている。
乗車中ということもありバイザーメットはしてないものの、道中合羽にカービン銃と戦場装備で移動中。 問題が起きたら本気でやりあう気構えでのご登場である。
物騒な地域過ぎて丸腰の移動なんてできる訳がない。
目的の教会の裏口に着くと、カーゴ車両を停車し両名が車両から降り、アルプに周囲を警戒させる。
教会周囲の壁は高く、ちょっとした砦といっても過言ではない。
裏口の扉も見るからに分厚く頑丈そうにできている。
タツマが、呼び鈴のブザーを決められたテンポで押す。
暫くするとスピーカーから声が聞こえて来る。
≪どちら様ですか? ≫
≪蛇にそそのかされて楽園を追われたものです≫
≪ご用件は? ≫
≪新たな楽園をさがしております≫
ロックが開く音がする。
≪おはいりください≫
―― 合言葉については、何も言うまい。
ドアを開け中に入る。表の状況からは想像がつかないほど庭は整備されている。
手入れされている花壇には、季節の花々がお生い茂り、木々の剪定も申し分ない。
――おお本物の楽園か? 壁一枚隔てて随分違うな
この教会の管理者に迎え入れられる。
「どうですか? 我が教会の庭は 」
「素晴らしいですね。ここまで手入れされえた庭園は、中々お目にかかれませんね」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、手入れをしている介があるというもの。 ところで、その武器とバイザーメットは、ここで控えてもらうのが決まりです」
つまりは渡せということか? 敵か味方か分からない奴の前で武装解除か――
「……」
タツマが一旦躊躇する。
「なるほど。新しい場所ですから信用が置けないといった感情ですね? しかし、従って貰います。 それとトークンもここで待機をお願いいたします。 なにせ顔を映す機能は我々の脅威ですからね」
管理者の口調は穏やかだが、確固とした意思がある。
アルプは、その言葉に反応する。
『いいでしょう。 タツマ。 私は残ります。 ただしバイザーメットと銃は私が管理するのでよろしいですか? 私は、彼を護衛する命を受けています』
管理者は一旦考え込んだのち、口を開く。
「いいでしょう。 そこのトークンに武器一式を預けるのを許可しましょう。表の車両もそのままで結構です。 万が一にも悪戯される可能性ございませんので」
―― この地域で路上駐車でも悪戯されないねとは、どんな組織だよ
「それでは、頼む」
タツマが銃とバイザーメットをアルプに託す。
『了解です』
管理者に導かれ教会の花壇を通り建物裏口から中に入る。
教会内部では、一面のステンドグラスと彫刻が出迎える。
―― 地上の楽園を想像したものか。 これはすごい。 圧巻だ。
管理者が中に進んでいく。
「ではこちらへ」
部屋に通されると12人が座っている。自分と管理者を入れると14人になる。
因みに先日の青年と老人もすでに着席している。
管理者から最初に新たなメンバー紹介として、教会から一緒に逃げた青年さんが、番号を“12”とし、タツマは“13”となった。
どうやら、このコミュニティーは、個人を番号で呼ぶ決まりのようだ。ご老公と呼ばれる爺さんは、番号が無いらしい。
着席すると、自己紹介もなく説明もなく次に行う作戦内容が、管理者から説明される。
大まかな内容は、イスペリア中央港からティファー大陸のメムノニア港行きの大型船に目的物を積込み出立するとのこと。
それを奪取するのが目的で、人員の配置が説明されていく。
タツマは、アルプからおおよその事前情報を得て、この場にいる。
そのため、説明された作戦に多いに疑問が生じている。
そもそも船というのも気に入らない。イスペリアには、空港がある。 であれば、飛行機の方が早くかつ安全に目的地に着けるのにどうして船なのか。
プロメンテから奪取されたのが、札束だろうと何だろうとあまりに不自然過ぎる。
それに、目立つ大型船というのも気になる。
―― 全員真剣に聞いているが、こいつら本当に考えて聞いているのか?
タツマの彼らへの不信感が湧く。
協議も終盤になり、各配置の人間が説明されていく。
“13は、腕利きとのことで前衛での対応を頼む”
――いやいやいや。実力も分からん連中に背中をまかせるとか無理だから
「あのーいいですか? 」
ここでついに堪えきれず、タツマが質問する。
“どうした? 13”
「モノが不明ですが、ここから出国させるのであれば、航空機で向かえばいいのになぜに船なんでしょうか? 」
まずは、一般的な疑問から入る。
着席者から反論が上がる。
“ほう、新人。貴様この作戦にケチをつける気か”
「まず、ケチ以前に理屈が通らない。 先ほど提示した質問への回答を頂きたい。 命を落とすかもしれない状況下において、不安点は払しょくするのが道理です」
“怖気図いたのか? 新人”
さらに煽るような言葉飛んでくる。
「私は意図をお聞きしているだけです。 それにこの作戦。 実施するのは構いませんが、失敗が目に見えています」
場の空気が一気に悪くなるが、命を掛ける作戦が、杜撰では投入される側は、たまったものではない。
管理者さんが助け舟を出すことになる。
「では、“13” 君はどう考えているんだい? 」
「そこの御老公さんからの情報を元に少し考えていたんですが、今回の横領金額は、個人が手にするには大きすぎる。 組織的に私腹を肥やすことも考えられますが、恐らくモノに変えられているのでないかと思います」
“モノ? ”
“しかし、あの金額を変えるほどの資産は動いていないと聞いているぞ! ”
「1,000億マリベルもの大金を出して、プロメテが欲しかったもの、そしてタニアが手に入れたいモノ、両者が意見が一致するものが答えになると思います。故に金ではないように思うんです」
“金でなければ……どこぞの国家の機密か? ”
“1,000億マリベルもの国家機密ってなんだよ。ない。 ない ”
「私も当初何かの秘密だと思いました。 そうなると、各国の政治スキャンダルや裏金情報とも考えましたが、それにしても金額でかすぎる。恐らく……」
「軍事情報か! 」
一人が閃いたように大声を上げる。
「その辺りが妥当でしょう。ただ、軍事情報といってもプロメンテは小国、タニアは大国両者の戦力配備状況はかなり違う。配備計画・人事・訓練計画・動員計画など入手したところで金と情報が釣り合わない。 もっと均衡になるような何か――」
「兵器情報か! 」
「その通りかと。 新型兵器の情報の可能性が高いと思います。 新型兵器データは、そもそもデータ伝送ロックが掛かっています。 恐らく画面を直接撮影したのでしょう。
しかし、担当者のメールは監視下にあるため、画像の入ったハード自体の現物で取引でしょう。手のひらサイズの記録媒体に大型船での輸送は似つかわしくない。
私なら、航空機か、船を使用するなら軍艦を考えます。との仮説を立てました」
“所詮お前の予測だろ? ”
“前線配備で怖気づいただけだろうが”
ヤジは飛ぶが、その中で管理者だけが、建設的な質問をしてくる。
「もう、イスペリア内に目的物はない可能性もあるのか? 」
「十分に考えられます」
管理者が苦虫を嚙み締めた顔になる。
「このまま見過ごすしかないのか」
「結論から言えばそうです。 特攻するなら構いませんが、一網打尽で終わります。
ただし、持ち出した情報に関してのヒントはありました」
かなり勿体ぶった情報の出し方になる。
といっても確証もないし、状況証拠だけしかない。
例の議員を使って調べて貰った。
“ヒント? ”
「ええ。ある人が、金の流れが分からないとおっしゃっていた。キンメリアでもタニアでもないとなると」
「サバエア大陸? 嘘だろ……タニアに良いように――いやプロメンテといえば通りがいいか。 しかし……」
「調査中ですが、プロメンテからルヴェリエに莫大な金の流れがありました。 あそこは、大工業地帯であり、巨大企業もありますからね」
「そんな……」
「ともかく、おそらく情報は既にタニアに渡っていると考えた方がいい。 兵器本体を持ち出すのであれば、ここの駐留軍で警備するはずですがそれもない。
故にその“高価な何か”は、既にアマゾニス海を渡っている最中か、渡ってしまっている。そう考えるのが通りです」
全員が沈黙する中、タツマが続ける。
「残念がることはないと思いますよ。 命拾いしたことを喜ぶべきだと。生きていれば次の作戦を実行できますから」
―― プロメンテには、金欠の中頑張ってもらうしかない。
管理者が決断する。
「わかった。情報を感謝する。作戦は中断。確認をとる。とりあえず、解散だ。時間をおいて散会してくれ」
落胆した表情で言葉を絞り出す。
各々が部屋から出ていく。何故か睨らまれている。
―― 最初から目立ち過ぎたか?
御老公と12が声をかけてくれる。
「さすがだな。商人いや13だったな。 ここまでの人物だとは思わなかったよ」
「あなたの実力も見たかったですが、後のお楽しみですね」
「ところで、12さん。金の流れの情報はどこから得たんですか? それなりの情報網がない限りつかめないですよね」
今回の件もスキュレス女史に大分無理をいっている――ってかあいつの要望なんだから動いてもらわないと困る。
つまり、この情報は政府クラスのバックがないとつかめない情報になる。
「……それを聞いてどうする?」
明らかに警戒しているが、こっちも命が掛かっている。
情報の信ぴょう性が非常に気になる。
タツマが質問の背景を説明する。
「あなたのネットワークを使わせてほしいと思って。 精度の高い情報であればこちらの安全も確保できる」
「それは、わしから回答しようか」
御老公が、口をはさんでくる。
「お前さん、あの場所の暗号の意味を知っているかい? 」
恐らく場所を示しているとの回答ではないのだろう?
そんなありきたりな質問ではないはずだ。
「いいえ」
「あれはな、工作員との連絡ツールなるが、バディ同士は直に連絡をするのが基本」
「……」
「しかし、出来ない場合もある。何だと思う? 」
検討がつかない。
「……」
「簡単な話。相方が死亡したときまたわそれに準じた時になる。そして、新しく補充された工作員は最初の連絡先は知らない。そこであのマークが役立つことになる。
自分か信頼できる相手に事前に連絡方法を教える手段なんじゃあれは。
意味としてはあの暗号が出た分だけ、工作員が死亡しているともいえるな」
「……」
「最初の待ち合わせの場所の目印にあのマークを使用する。しかし、次からは別の方法を考えないといけないがね。故にここの主を除けば、現場組の人数は常に偶数のはず。しかし今回は……」
「奇数の13人」
「ここにいる誰もがお互いの正体は、探らない暗黙の了解。 なぜなら、このグループ内に1人は自分を知っている人間がいる。 そんな状況だからじゃ。 もちろん両名が敵のスパイの可能性があるが、我々は読心術が使える。 怪しい人物の洗い出しは容易いものだ」
御老公は何気に自信ありげに語っている。これはこちらへの牽制の意図もあるのだろうか? 話し終えると、少しの沈黙をおいて再びご老公が話し出す。
「しかし、あんたは暗号を解いてこちら側に来たわけだ。あんたは、確かにわしらを助けてくれた。 しかし、あの時襲った奴らと立場が等しい。
故に直ぐにでも素性を知りたいと思い、こちらもそれなりに調査したよ。プロメンテの話、そして今回のサバエア大陸の金の流れの話――お前さんエリス都市国家の大物とのコネがあるんだろ? 恐らくは、トリフィナ一派の誰かだ」
「……」
――なんなんだこの爺さん。
タツマの顔が険しくなる。
「なるほど、心に揺らぎが見える。図星だな」
―― こいつ。 飄々としている爺さんと思ったが中々食えない奴か。さてどうするか?
「なるほど。流石です。 恐れ入ります」
タツマは、あっさりと負けを認める。変な隠し立てしても利益にならんし、相手の不信を買うだけだ。
「……潔く認めるのか。 奴らも随分、食えん輩を雇ったものだ」
「食えないのはお互い様でしょう。さて、どうします? もし、懸念があるのであれば、私は手を引いても構わないんですよ。 上にもそのように報告するだけですし」
「……まぁいい。 お前さんは、裏切りそうにない。そしてトリフィナ一派となれば、まぁこちらかの容易に接触できよう。 それにプロメンテのネスも頼りにしたのであれば、信頼はおける程度の輩であることは分かった」
―― 確かに向こうまで顔が利くのであれば、この爺さん相当か?
「さてと、まだ“12”にした質問の解答がまだだったの。 金の流れの情報源は、わしじゃ。 何かあれば相談に乗るぞ。そして死ぬなよ」
御老公は去っていく。 12もこちらに視線を向ける。
「そうゆうことです。信ぴょう性が、ほしいなら御老公の信頼を得るのが一番です。 じゃあまた」
青年も去っていく。
部屋に残ったのは、タツマだけになる。
面倒くさい奴らと共同戦線を張らないといけないというのが、気が重い。
「管理者さんに活動内容でも確認しておくか……」
*
組織の詳細や全貌が不明のため、まずは管理者へのヒアリングからである。
本来であれば会議前にして欲しかった。
この辺りの杜撰さは、いかにも寄せ集めの素人感がある。
管理者さんとの会話から、レジスタンスを組織したのは、ある企業の金持ちらしいこと。
ミッションも資金も代理人と呼ばれる者から降りてくるとのこと。
主催者がどこの誰だが不明であるが、活動の資金には困っていないらしいなどがある。
入会者に関しては、あの爺さんが一通り確認しているので、レジスタンス独自で入会者の裏を調査する必要がないとのことだ。
あの爺さんには番号はなく、みんな“御老公”と呼んでいるらしい。
―― あの爺さん強かだな。この組織のお目付け役とでも言いたいのかね。
管理者さんが、話を続ける。
「おそらく、出資者も我々が、治外法権への撤廃の理念に共感しての出資だと思っております。事実こうして、多くの実績も出してきました」
何気に満足気である。
「なるほど……」
取り敢えず、タツマがその意見を流す。
―― それだけの金持ちであれば、実働部隊でも組織すればいいと思うが、何故にこんな素人集団に出資するのかがわからない。
とはいえ、ここが次の職場になる。 命を大切に労働に勤しむことになる。
--- イスペリアにて3ヵ月の経過
タツマのレジスタンス生活が、続いている。
最初のような莫大な金が動くような案件はなく、極めて小ぶりのものが多い。
例えば、タニア系住民によるイスペリア内の土地購入の裏工作を事前に潰したり、希少生物の不正取引の情報を事前に流し、イスペリア治安局を突撃させたり、タニア情報幹部の不倫の情報……など、ゴシップ系をにぎわせたりもしている。
よく言えば、不正の炙り出し、悪く言えば治安局の小間使いにも思える。
といっても、なんだかんだで、小さいながらにタニアの悪事を潰し解決しているので悪い気はしない。これがレジスタンスの役割と言えば、中々地味なものだろう。
そして現在、タツマは、案件が一服したのでイスペリア・シティ地区のカフェにいる。
ハイソなカフェの個室ではなく屋外テラスで一人茶を啜っている。
ランチタイムであろうか周囲は賑わっており、食欲をそそる匂いが鼻腔をくすぐる。
アルプは目立つ為、カーゴ車両に座り、待機している。
こうすることで運搬車両の備品としてカムフラージュできる。
この地域における目立たな護衛としてのギリギリの立ち位置である。
***
イスペリアでは、トークンは使用しているものの、その一つ目センサーを衆目に晒さらさない形での利用が好ましいらしい。
よって仮面などを付けることがマナーになっている。
そうしないとユピテル教徒やアンチトークンニストに絡まれることになる。
このトークンへのヘイトもノーマンズライジングによる影響によるところが多い。
一説にはこの北部のエリシウム大島に親玉がいて、大陸北部は最前線であり被害が甚大だったことが理由との意見もあるが、単にユピテル教徒が多いだけということも考えられる。
***
―― 事前に練習として屋外で運用した介があった。
そんな感情を持ちながら、街中の掃除をしている仮面付きのトークンを見ながらお茶を啜るタツマ。
本日は完全に休暇だ。 潜入捜査にも休みは必要。
―― たまにはハイソなカフェでリラックスして頭を整理しないとだよねー
報道紙を読みながら、現状の情報を入れ、自分の行動も帳面に整理し書き出していく。
アルプに整理してもらうのも重要だが、自分でも情報整理しておく。
3面には、他国の外交として商社プロメンテとトリュフィナ議員との食料融通計画の会談と、シメリアへの融資の依頼などの記事が載っている。
どうやら親父がようやく成果を出したようだ。
これで商社プロメンテの鉱山部門も動き出すことができるだろう。
プロメンテの財政悪化の記事もあるが同時に商社プロメンテの上りでなとかなっているようだ。 一時は潰そうした組織に助けてもらっているとは、何とも皮肉な結果である。
――それにしても、あのヒューリの奴、結局何に金を掛けたのか分からずじまいだな。
カップの残りのお茶を飲み干し、ティーポットから最後の一杯だろうお茶を濯ぐ。
――しかし、もう何も起きないで欲しい。レジスタンスごっこもそろそろ終わりにしたいなー。 レジスタンス支援とか言っているけど、まさか一生とか言わないよなー
少し不安が過る。とはいえ、こちらにも仕事がある。 正直言ってそろそろ切り上げたいところでもある。
「……!」
刹那、タツマが異変に気付く。
小声だが、アルプに小型通信機を用いて連絡を入れる。
≪アルプ!!聞こえるか?≫
≪どうしました≫
≪11時の方向! ≫
アルプが、タツマの周り飛ばしているバグドローンが周囲を確認する。
≪商社プロメンテの社員が襲われた原因を作った工作員2名ですね≫
あの停止ジャックしたトークンの消し忘れに残っていた工作員がいる。
相手は、こちらに気づいていないようだ。
―― あれはヤバいな
タツマの嗅覚が危険を察知する。
≪奴らへの尾行は、一人では無理だ。あのタイプはヤバい。バタフライタイプはある? ≫
≪あります≫
≪遠方から監視をしてくれ。あいつらはタニア関連の奴らだ。 映像を残してくれ≫
≪了解です≫
≪話している内容は、わかる? ≫
≪近くにいる活動家に対してのようです。 タツマではないようです≫
≪どこらへん≫
≪タツマの位置ですと7時の方向です。 教会から出ていく連中の中に彼を見ました。 確認する場合は気を付けてください。 彼がこっちに気づき合図をおくられたら巻き込まれることになります≫
≪何とか情報を伝えられない? ≫
≪やってみます≫
屋外テラスのため、建物のガラス反射で後ろが見える。
―― ああそう言えばいたな―何かインテリっぽい奴が。
インテリが端末を取り出し、誰かと通話を開始している。
≪アルプ確認した。 インテリっぽい奴だろう? ≫
≪眼鏡をかけている人すべてにインテリというあなたのスタイルはどうかと思いますが、概ね合っています≫
インテリさんは、通話を終えるとウエイターを呼び、会計をし、席を立ちどこかに向かう。
≪因みに、なんて話したの? ≫
≪タニアの工作員の写真と内容です。見張られています。という趣旨を管理者さんと話しました≫
≪彼らも手練れだね≫
―― 素人であっても色々と潜り抜けているということか
≪そうですね。 残念ですがタニアの工作員は何かを感じとったようです。 撤収する模様です≫
―― あれだけで? 敵さん用心深いようだ。
≪ドローンでの追跡、開始します≫
≪お願い。 私はもう少しここにいる≫
≪了解です。 各自撤収でよろしいでしょうか≫
≪それで頼む≫
タツマは、ウェイターを呼んで、お勧めスイーツを注文する。
前の時は食せなかったんだよね。
なぜ追跡しないかって。こっちは追跡のプロではないし、向こうはプロ。
相手が2人でない可能性もある。
コンバットスーツもなく、武器も最低限しかない状態で、単独で突っ込むのは危険極まりない。 なので、今は静観するのが吉。
スイーツを堪能し、お会計を済ませて立ち上がると、昼食客からティータイム客にすっかり変わっていた。中々長居をしたものだ。 さて、根城に戻りますか。
根城に戻りアルプの帰りを待つ。ドアがノックされアルプが戻ってきたようだ。
さて収穫を聞くとしよう。
「どうだった? 」
『手練れの工作員ですね。 途中で乗用車に乗って三つ先の地下鉄に乗ったところで見失いました。 地上での追跡と空からの追跡を巻く算段でしょう。 乗用車のナンバーは偽装の可能性が高いです』
「まぁそんなところだろうね。 脱出計画も立て置くのがプロだからね。 でも収穫はあった。 あいつらこっちに来ていたんだ」
あの会話からして、ヒューリに雇われていたような感じもするが、奴は死んでいる。
ならば、新たな雇い主がいるのか。どのみちタニアの小間使いには変わりなしだな。
--- タニア陣営
とあるアジトに例の2人組の工作員が、拉致の失敗した説明に苦慮している。
「どう思う?」
「ターゲットが、俺たちに気づける可能性はない。しかし、あまりにタイミングが良すぎる気もした。 頼んだ飲み物を飲むのも早すぎるし、そもそも直前のあの連絡も気になる」
「同感だ……あの場に活動家がもう一人いた場合はどうだ? 」
「だとしたら、追ってこない理由が見つからない。標的が目の前にいるんだぞ」
「……確かに。 いやこの判断は正しはずだ。一先ず別の作戦に切り替えよう」
「了解だ。 しかし、新しい指揮官に報告をしないとな……気が重い」
そんな会話の最中、ドアがノックもなく開き、1人の人物が部屋に入ってくる。
「ターゲットを取り逃しましたね。 お二人さん」
工作員2人は敬礼する。
「作戦の失敗。 申し訳ございませんでした」
「結構。 君たちのやり方に任せます。それに私も随分とここを留守にしました」
「……」
彼らは直立したまま動かない。室内は異様なまでの緊張状態にある。
「2流の指揮官なら、当然この結果を責めるでしょうね。なぜ逃したと」
「……」
「しかし、少し前から活動家の動きに変化が見られました」
「……? 」
「極めて慎重であり、洞察力が高くなっている。 正直に言えば、厄介を通り越して、恐ろしいくらいの相手です。今回の撤収は案外正しいのかもしれません。 仮定の話ですが、君達がターゲットを追っていったら、逆に拘束され尋問に掛けられた可能性すらあったかもしれません」
「……」
「疑問の表情ですね」
「失礼しました! 」
再度の緊張が両名に走る。 新しい指揮官の視線は鋭い。 先日、大きな案件を成功させて昇進したばかりの人物である。 実力は折り紙付きである。
「構いませんよ。 では事実をお教えしましょう。監視カメラにバグドローンが映っていました。 あなた達を追ってね。 しかし、地下鉄で追跡を諦めたようです」
「……っ」
工作員達の表情が一瞬動く。
それに気づいたのかそれとも気付かない振りをしているのか、彼はそのまま話を続ける。
「しかし、悔しがることはありません。出し抜かれても何も起こっていないのですから。しかし、向こうはこちらの顔を知っている可能性が高い。こちらも知っていますがね」
彼らの表情は硬い。
「顔は変装でどうともなるので心配いりません。 問題は奴らの情報網の広さです。 今後は変装抜きに外出禁止とします。 両名、心してください」
柔らかい口調であるが、漂う雰囲気は、一線級の人物には間違いない。
「了解です」
再び敬礼をする。
その男は、部屋を出るとオフィスに向かう。さて、とんでもない奴がレジスタンス側についたようだ。 まったく困ったものだ。最近、案件が悉く阻止されていく。
別に体制に大きな影響を与えるものではないが、鬱陶しいのは事実だ。
おまけに不倫報道に関しては、奴らの意図すら読めない。
オフィスのドアを開け、椅子に腰かける。 椅子にもたれかかるとトークンが、ハーブティーを出してくる。
出されたハーブティーを一口含むと、緊張の糸がほどけていく。
その男は、大きく深呼吸をする。
「彼のお茶選びのセンスだけは、私もかないませんでしたね」
一旦の沈黙の後、緩んだ気持から感情が洩れる。
「折角、情報を得たレジスタンスを逃がしたのは痛かった……しかし、随分と面白くなってきましたね。 知恵比べと行こうじゃないか。 レジスタンスのネズミども」
タニア中央情報局 第三方面部 独立作戦局 指揮官。
リーラインが静かに壁を見つめる。




