表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
4章 再禍動乱
31/55

動乱の後始末 

演目は、フィナーレに向かうほど、多くの血を流し進んでいく。

--- プロメンテ 農耕地区 ビャーネ邸


「全滅だと! 馬鹿な!!」

部下からの報告に空挺師団の隊長は声を荒げる。


「正規軍1500、それに相手は農民だぞ!!」


定時連絡が3時間途絶えると全滅扱いになるのが、プロメンテ軍内の規範になっているための処置だ。


機械的に対応するのはもちろん違うのは分かる。

しかし、3部隊に連絡がとれないのも事実。


ネス氏を尋問にかけ、内情を吐かせたいところだが、いまだ見つからずじまい。

(クッソ! どうなっているんだ)


周囲はすっかり日が落ちて漆黒の帳が下りている。


調査時も住民からの一切の反抗もなく。ただただ、気持ち悪いくらい順調に進でいた。

部屋に土足で入り・荒らされても、反抗しない。


全てが順調に行き過ぎて、何も疑問にも思わなかった。 しかし、今冷静に考えるとおかしい。

逆の立場になれば、こんな理不尽を受け入れるはずがない。


兵士たちも時間がたてば失踪扱いになるため無理な捜査もしていない。 故に戦闘もない。

全体として緩慢な雰囲気になっている。


(何か嫌な予感がする――この状況は意図的に作られているのか)

隊長の思いとは裏腹に平穏な時間が、その後しばらく続く。


                    *


夜も深まり、気温も下がる。 そして、人が最も睡魔に襲われる時間に差し掛かる。


≪セレン。状況を動かす。 樹林帯の群体制御を解除して、農耕地区の群体制御に切り替えろ。農耕地区内の敵を制圧だ≫


『りょうか~い』


夜の暗い倉庫の中、無造作に積まれた農作物を入れる袋がある。

その袋の中でぼやけた青い灯がともる。


ゆっくりと中から袋が破れ、中からトークンの一つ目が顔を覗かせる。

次々と卵から羽化するような光景だ。


瞬く間に3体の小隊が出来上がる。

トークンは音を立てず、屋外へ。 


他の場所でも続々とトークンが起動していく。


まずは、倉庫前の警備隊を静かに排除する。

トークンの得物は、消音器付のハンドガンとコンバットナイフになる。


掠れた音と共に倒れる音。 死体は物影に隠す。 暗闇にモノ言わぬ一つ目が揺らめく。


戦闘用のカービン銃を手に入れたのち、ネス邸の周辺の警備隊に手を付ける。


人間のような会話もなく、作業のように行動し、人が倒れ、隠ぺいしていくの繰り返しである。


納屋のトークン隊が、他の部隊と合流することで2個、3個、4個小隊と膨れ上がっていく。


トークン達は、セレンの指示に従い回転翼機の破壊に作戦を移行する。


回転翼機の駐機場周辺は電灯により明るく照らし出されている。


隊長より定時連絡の時間になり、無線機から音声が聞こえる。

しかし、邸宅周辺と倉庫や納屋からの応答がない。


≪どうした、定時連絡の時間だぞ。連絡はどうした! ≫

無線機からいら立つ声が聞こえてくる。


(連絡がない……何かが起きている。 馬鹿な。 回転翼機の警備隊が一番近いか)

回転翼機の警備兵を状況確認に向かわせる。


結果、回転翼機を対応する人間がいなくなる。


影を見つけ進むトークンが回転翼機に近づき設置するは、高性能爆薬(C-4)。

各駐機場の回転翼に設置していく。


どうやら死体に気づいたようだ。 無線機が騒がしくなってきた。


トークンは、速やかに駐機場から離れ、夜の闇に溶け込む。


警備兵が駐機場に戻ってきたところで、静まりかえる夜の農耕地区に突如として、爆発の轟音が響き渡る。人も電灯も吹き飛び、ネス邸のガラスが破壊されるほどの衝撃が四方に走る。


その衝撃でついに隊長の不安が爆発する。

「何が起きている! 誰か状況説明をしろ! 」


≪敵襲です。正体不明の……≫

無線が切れる。 遠方から連続した発砲音や爆発音が聞こえ、やがて静かになる。


急速に状況が悪化している。かなりまずいことになっている。


状況不明なこともあるが、素人仕事ではない。

手練れの工作員がこの場にいる。 それも複数だ。


無線への応答は沈黙を続ける。外は引き続き静寂である。

燃え盛る回転翼機の周囲が、ただ明るく照らされている。


隊長は銃を手に取り、周囲を見渡す。広い空間に司令部を構えたのが凶となった。


冷汗が止まらない。屋敷内にも兵はいたはずだが連絡がつかない。


となればすでに侵入されていると考えるべきだ。


心臓の鼓動で場所が分かるのではないかと思うぐらい心拍数が上がっている。


突如して無線が開く。

≪お初にお目にかかります。ネス・ビャーネと申します≫

(嘘だろ?ここでか)


≪貴様どこにいる!! ≫

≪興奮しないでください。隊長さん。 投降してはいかがでしょうか。 樹林帯の部隊は全滅ですよ≫


≪ふざけるな! そのような世迷言を!! ≫

≪しかし、私以外から無線がないのも事実でしょう≫


一旦の沈黙を挟む。 隊長の動揺を見透かしているようだ。そして再びネス氏から音声が入る。


≪投降すれば命は取りませんよ。 農耕地区の兵隊さんも投降なさっております≫

≪その手に乗るか!! ≫


≪私はね。 プロメンテ軍の皆様には生きていて欲しいのです。 ヘスベリア(港街)の海難事故の際に救われましたから。 彼には投降を呼びかけてくださいと申し上げたんですが。 前線で命を掛けて戦っている兵士には、無理な要望でした≫


≪ただの農民兵に正規軍が、負ける訳ないだろう!! ≫


≪現実ですよ。 おおよその制圧は済んでいます。 隊長さんは特別です。 朝まで待ちましょう。 朝になり屋外に出てご確認ください。 では≫


通信が切れる。

長い夜が過ぎて行く。彼は一睡もできず、朝を迎えることになる。


日が昇り鳥のさえずりが聞こえるが、今は日常の平和な音がとても異様に感じる。


外に出ると焼け焦げた回転翼機と兵士の60体弱の死体袋が並べられている。


トークン達が運び込んだようだ。人数からして部隊の半分以上が消えたことになる。

「あ……あ・あああ…… 」


声にならない声を出し死体のある方に向かう。

「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! なぜだ」


不意にトークンが、隊長を拘束する。 しかし、抵抗の意志はなさそうだ。

目の前に現れるネス・ビャーネ氏

「貴様―なぜだ! 」


「あなた方も我々をこのようにする気だったのでしょう? なればこそ、逆にこうなることも予想できたはずです」


隊長の目は血走っている。


「我々もね、樹林帯の戦いで犠牲者が出ているのですよ。 倒れた者の名前も顔も知っている。

口が悪いが優しかったり、寡黙だが頼りにされていたり、お調子者でも真面目であったり。

その人達の人生が昨日の戦いで終わったんです。 ねぇ。 激怒したのはこちらですよ」


温厚のビャーネさんが、今にも掴みかかりそうな勢いである。


「ネス殿、その辺で」

真っ白なコンバットスーツに身を包んだ兵士が、ネス氏を制止させる。


「……白翼の騎士団……貴様らかー!! ネス! 貴様こいつらと手を組んだのか!! 」

―― おやおや、それなりに有名なのね。


もちろん、中身はタツマになる。バイザーメットを被っているため、相手から素顔は見えない。


「違うな。 我々は我々の正義で動いているんだ。 今回の件は、あまりに看過できなくてな」

隊長は暴れ出すがトークンの拘束を抜け出すことができない。


「連れていけ! 」

タツマの指示でトークンが、暴れる隊長に拘束具をかけて捉えたプロメンテ兵士を輸送車両で、捕虜のいる場所に連行していく。


「終わりましたね。 タツマさん」

「まだですよ。 最後の一押しが有ります」


タツマが、仕上げに向かって歩を進める。


--- 勝利宣言と暴動

さて、戦に勝ったら勝どきを上げる必要がある。

第二陣や暗殺部隊を送り込まれてはたまったものじゃないし。


じーさん経由でヘスベリア(港町)の放送局を呼んでいる。 あとで礼を言わないとな。


ヘスベリア経由でプロメンテ・シティ地区に情報を流してやる。

他国だから情報操作もできないだろうさ。


報道の回転翼機が飛んできた。

―― さて、もう一芝居打ちますか。


ヘスベリア(港町)の報道陣は、現状を見て信じられない顔をする。

確かに正規軍が捕虜になっているのだ。


そして、真っ白なコンバットスーツ……。 被弾の後も見られる。白翼の騎士団が出てきている。他のコンバットスーツは白いローブをまとっている。彼らは直ぐにわかった。彼らは本物であることを。


カメラが回る。ここからタツマ劇場が始まる。

「プロメンテ・シティ地区の諸君!!君たちは罪のない農耕地区の住民への度重なる蹂躙に対して、見て見ぬふりだ。


前回の収奪法案・今回の派兵法案……。これらの所業は看過できない。


我々はプロメンテ農耕地区の住民の安全を確保するという己の正義の名のもとに、目下の災難を排除するため力を行使した。


ここに、プロメンテ軍 撃破完了 を宣言する。

まず君たちは、多くの血が流れ、命が消えたことを理解しなければならない。


さて、これからの我々の行動だが、君たちも不正義を行使した一味となるわけだ。一方的な暴力がどのようなものか、その身で感じてもらう必要がある。


いずれシティ地区にはお邪魔するのでゆめゆめ気を抜かず、生活するがいい。次の朝は決して無償でやってくるのではないことを知るだろう。以上だ」


ヘスベリア(港町)の報道陣は、演説をそのまま流し、戦地の状況をレポートしている。


副隊長に報道陣の対応は任せ、その場を後にしてネス邸に向かう。


アルプは現地に残して、遺体の収容とバクドローンの回収業務を実施している。


セレンは、稼働できるトークンを用いて死者の探索に回している。


これでこちらは問題なし。長かったー。

生きた心地しなかったよ。クッソ。何でこんなことになるんだよ。


タツマとしては、戦いには勝利したが、無意味な犠牲に気分が晴れないままだった。


--- プロメンテ・シティ地区


報道が流れる。予期しない結果。

受け入れがたい事実。


軍部でも正規ルートからの連絡がないことに不安と不穏を感じていた。


兵からのメッセージとして、断片的であるが、全滅・被害甚大・東の平野への撤退との 情報は入っていた。


そのため、追加の部隊の準備をしていた矢先の報道だ。


まさか、全滅させられるとは。 少なくとも、組織的行動は、不可能にさせられている。


それも1日で。 農民相手の暴動鎮圧ではなかったのか。


画面に映るのは地上部隊だが、状況からして空挺団もただでは済んでいないことは、想像に難くない。


常備軍の30%に深刻な、損害が出ている悲惨な状況に陥っている。


高級将校も画面を唖然と見つめるだけだった。


逆にシティ地区内は、放送終了後から騒然とし始めている。


軍が殲滅させられたこと?

それもあるが、白翼の騎士団が来るかもしれないことへの不安だ。


白翼の騎士団からの安全確保、自国の正規軍が大敗北したことへの説明と責任を求める市民のうねりが、プロメンテ庁舎に押し寄せている。


庁舎内執務室では、ヒューリがパニックになっている。


盤石と思われた作戦が、白翼の騎士団とかいう不明の団体に全滅させられたのだ。


「クソ、クソ、クソ、何なんだ一体。正規軍だぞ!!なぜ負ける。見当が付かない」

室内と歩き回っている。


外の群衆は、徐々に暴動へと発展し始めている。


“ヒューリを引きずり出せ!”

“奴に死を!”

“戦犯ヒューリを断罪せよ! ”


だんだん言葉が過激になってくる。


もうダメだ。ここまでのし上がってきたのに。

ここで終了なのか。


クソ!

仕方ない。タニアに亡命しよう。奴らの手足となって働いたんだ。


ドアがノックされる。


「リーラインです」

「入れ!  開いているぞ! 」


「閣下。屋外が暴発寸前です。 どうなさいますか? 」


秘書官(リーライン)はいつもと変わらないトーンで聞いてくる。


しかし、ヒューリは、その異様な雰囲気の違いに気づかない。それだけ追い詰められているようだ。


「いいところに来た。タニアへ。いやイスペリアの弁務官に繋いでくれ。タニアに亡命する」

「タニアにですか? 」


「そうだ!! タニアのために働いてきたんだ。ここで私が捕まれば洗いざらい全て明らかにしてやると伝えてくれ!! そうすれば……」


秘書官は、ヒューリを落ち着かせるように両肩を軽くたたき、席に座らせる。

「閣下。 落ち着きましょう? タニアがなぜあなたを助ける必要があるのです? 」


「私は、タニアのために働いたんだ。汚れ仕事もしてきた。その報酬をもらうだけだ。さぁ分かったらイスペリアと連絡を取ってくれ」


不意に壁にいたトークンが、席に座ったヒューリを拘束する。

「何をする! 我は執政官だぞ。 放せ! 」


暴れるヒューリを諭すように、リーラインが語りかける。


「落ち着いてください、閣下。 タニアはあなたを助けません。 タニアは、港を手に入れた時点であなたの役割は終わりでした。いわゆる用済みです。


しかし、借りもあるので執政官としての立場を与え続けたにすぎません。その執政官の椅子が報酬ですよ」


「……貴様。タニアの狗か! 」


「狗とはひどい。 監視役ですよ。 貴方の。 さて今回の失敗はあまりに酷い。 そしてやりすぎです。 ここまで大事になるとタニアであっても火が消せません。 なので、火元から消えてもらいます」


「何を言って……」

銃声が響く。


弾丸がヒューリを打ち抜き、硝煙の香りが僅かに漂う。


顔色変えずリーラインは、操った銃を床に置く。


「さて、彼の遺書はできていますか? 」

トークンが、デスクの引き出しを開けて、遺書を出す。


ヒューリの代わりに文章やサインを書いていたトークンを用いて、書かせたものだ。

筆跡は、ヒューリそのものになっている。


「あなたは優秀ですね。付いてきなさい。今度は私の秘書をお願いしましょう。

我々は、イスペリアに向かいます」


騒然としている庁舎の裏口から2つの影が、何事もないように立ち去っていく。


キンメリア南部動乱は、当分後を引きそうだがひとまずの終結を迎えることになる。


つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ