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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第1章 羽田は、世界で一番可愛い

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第4話 なでなでしてください

「羽田、超可愛い……」


 ベッドに寝転んで、スマホの画像フォルダをスクロールしていく。

 羽田には絶対に言えないけれど、私は羽田の写真をかなり大事に保存している。制服や私服別にフォルダ分けまでしているくらいだ。

 ちなみに一番のお気に入りフォルダは、満面の笑みを浮かべた羽田だけを集めた『幸せいっぱい羽田フォルダ』である。


「……やっぱりこれ、好きだな」


 中でも特に大好きな1枚は、今年の春に羽田から送られてきた写真だ。

 高校の合格発表の時の写真で、羽田の受験番号が書かれた掲示板の前で羽田がピースサインをしている。

 正直羽田の成績では厳しいのではと思っていたから、合格を聞いた時は飛び跳ねて喜んでしまった。


 こんなに可愛い子が私なんかを好きになってくれたのは、奇跡だ。

 だけど、私がその奇跡に飛びつかない理由はちゃんとある。

 簡単に言ってしまえば、過去のトラウマというやつだ。私はもう、二度と恋で傷つきたくない。


 だから、これ以上羽田のことを好きにならないようにしないと。


 毎日自分に言い聞かせているのに、会うたびに好きが増していく。


「……勉強しよ」


 これ以上羽田の写真を見続けていたら、よくない妄想に頭が支配されてしまいそうだ。それはまずい。

 私は深呼吸をして、ベッドから起き上がった。





「せーんぱいっ! おはようございます!」


 塾の授業が始まるまでの間、教室で自習をしていたら、羽田が入ってきた。彼女は物怖じしない性格で、上級生だけの空間にも遠慮なく入ってくるのだ。

 塾でも美少女として有名な羽田は、やはり注目される。とはいえ、羽田と私の仲がいいことは、とっくに知られていることだ。


「今日のブラウス、新しいやつなんです。どうですか? 可愛くないですか?」


 制服姿の羽田も可愛いけれど、私服姿の羽田も当然可愛い。

 今日の羽田は胸元が大きく開いた白いブラウスを着ていた。スカートは爽やかなライトグリーンで、いつものローファーではなくサンダルを合わせている。


 ボタンを1個でも外したら、谷間が見えちゃいそう。


 なんて考えていることを、羽田に悟られるわけにはいかない。


「うん。似合ってると思う」

「夏鈴先輩! こういう時は似合ってるじゃなくて、可愛いって言うんですよ」


 よく見てください! なんて言って、羽田が近づいてくる。彼女がテーブルに手をついて少し屈んだから、わずかに谷間が見えた。


 まずい。


「羽田」


 立ち上がって、彼女の姿勢を正してやる。私としてはいくらでも見ていたかったけれど、教室には他人の目もあるのだ。


「胸元、危ないから気をつけて」


 他の人に聞こえないように、そっと耳元で囁く。羽田はなにか言いたそうにぱくぱくと口を動かしたけれど、結局なにも言わなかった。


「……そうだ」


 鞄の中から、シンプルな黒のカーディガンを取り出す。薄手のカーディガンは、冷房対策に念のため持ってきたものだ。


「これ、羽織って。好みじゃないだろうけど」


 私と羽田は、服の趣味が全く違う。フリルやレースのついた可愛らしい服装が好きな羽田は、きっとシンプルな無地のカーディガンなんて好きじゃないだろう。

 でも、こればかりは仕方ない。


「……先輩」

「なに?」

「ありがとう、ございます……」

「うん。それ、別に返すのいつでもいいから」

「洗濯……いや、クリーニングしてから返します」

「いいよ、そんなの」


 むしろ、洗わずに返してくれた方がありがたいんだけど、とはさすがに言えない。

 羽田は私のカーディガンを羽織ると、丁寧に全部のボタンをとめた。せっかくの可愛いブラウスが見えなくなってしまったけれど、羽田はなぜか嬉しそうだ。


「お昼になったら、迎えにきますね」

「うん。授業、ちゃんと真面目に聞きなよ」

「ちゃんと聞きますよ。私、真面目ないい子ですもん」


 また後で、と手を振って羽田は教室を出ていった。授業が始まる前のたった数分でも、私と話そうとしてくれるのはいつものことだ。

 羽田が見えなくなってから、溜息を吐いて壁にかかった時計を見つめる。現在の時刻は午前10時。昼休憩までは、まだ2時間半もある。


 早く、羽田とお昼ご飯が食べたい。





「お昼行きましょう、夏鈴先輩!」


 昼休憩が始まるとすぐ、羽田は私を迎えにやってきた。私の腕を強引に掴んで、そのまま教室から連れ出される。

 塾の近くはいろんな飲食店があるものの、この時間はどこも混雑しているため、急がなければ午後の授業に間に合わなくなってしまうのだ。


 塾を出た私達は、よく行くチェーンの定食屋に入った。店が大きく提供が早いおかげで、比較的スムーズに入店できる。

 それでも10分ほど待つ必要はあるようで、私達は椅子に座って待つことになった。


「先輩」

「なに?」

「今日の英単語の小テスト、私満点でした」

「すごいね。満点って、なかなかとれないのに」


 英語の授業では、毎回授業開始直後に英単語のテストが行われる。毎回、なにか1つはやたらと難しい問題が出て、なかなか満点をとれる生徒はいないのだ。


「すごいですよね?」

「うん」

「偉いですよね?」

「うん」

「じゃあ先輩。頭、なでなでしてください」


 そう言うと、羽田は目を閉じて頭を差し出してきた。絶対に目を閉じる必要はないと思う。


「……髪、崩れちゃわない?」

「優しくなでてください」


 厄介な注文をして、早く、と羽田が頭をさらに近づけてきた。こんな風にこられたら、拒む理由を見つけられない。

 同性の友人なら、きっとこれくらいのスキンシップは普通だろうから。


 深呼吸をして、そっと羽田の頭へ手を伸ばす。ストレートアイロンで整えられた髪を乱してしまわないように、ゆっくりと手を動かした。

 すると羽田が、ふふ、と甘ったるい声で笑う。叫びたくなるほど愛おしい気持ちをなんとか抑え込んで、羽田から手を放した。


「もう終わりですか?」

「……結構、なでたと思うけど」

「じゃあ次も満点とったら、またなでてくださいね。約束ですよ?」


 私の返事を待たずに、羽田は強引に私の小指を奪った。


「約束、忘れないでくださいね!」

「……分かった」


 仕方ないな、なんて顔をして頷く。内心では、すごく嬉しいのに。


「お腹空きましたね。先輩、なに食べるか決めました?」

「まだ」

「メニュー見ときましょうよ」


 本当は羽田が食べたい……なんて、普通に気持ち悪いな、私。

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