第39話 お店なので
「これ、着てみてください。私、夏鈴先輩にこういう服着て、ツインテールしてみてほしかったんです!」
栞が渡してきたのは、ワインレッドのブラウスと揃いのデザインの黒いジャンパースカートだった。
胸元には黒い大きなリボンが縫いつけられており、袖はふんわりと膨らんでいる。赤と黒、という色味のおかげで少し大人っぽく見えるものの、かなり甘いデザインの服だ。
「さすがに、私が着るには可愛すぎない?」
「絶対似合いますって。とりあえず試着してみてくださいよ。ねっ?」
強引に押し付けられた服を改めて見る。嫌い、というわけではないのだけれど、自分に似合うとは思えない。
とはいえ断ることもできず、私は渋々試着室へ入ったのだった。
◆
「……やっぱり、似合ってないような気がする」
試着室の鏡に映る私には、予想通り違和感がある。こういう可愛い服は、私よりも栞が着るべきだ。
「先輩、着替え終わりました?」
「終わったけど」
「じゃあ、開けますね!」
試着室のカーテンが開いて、栞と目が合う。目が合った瞬間、きゃー! と栞が叫んだ。
「先輩、超可愛いです! ツインテールにしたら、絶対もっと可愛いですよ!」
「……私がツインテールとか、似合わない気がするんだけど」
「絶対似合いますって。先輩は普段愛想がないだけで、可愛い顔してますもん。しかも夏鈴先輩、私といる時はよく笑いますし」
写真撮りたいけどマナー違反かなぁ、なんて呟く栞が可愛い。こんなにはしゃいだ姿を見られるのなら、慣れない服を着た甲斐があった。
とはいえいつもよりずいぶんと短いスカートは落ち着かない。階段の上り下りをするたびに気になってしまいそうだ。
「……栞は、こういう服が好きなの?」
「大前提として、私はどんな服装をしている先輩も大好きですけど」
嬉しすぎる前置きをした後、栞がにっこりと笑った。
「慣れない服を私のために着てくれるっていう特別感がいいんです!」
栞が身体を半分だけ更衣室に入れて、私の髪に手を伸ばした。素早くツインテールの形を作ると、やっぱり! とまた楽しそうに笑う。
「絶対似合いますよ! 私、これを着た先輩とデートしたいです」
可愛すぎる服もツインテールも、普段の私なら絶対に選ばないものだ。
だからこそこの服を見るたびに、栞との幸せな今日を思い出すかもしれない。
「……分かった。これ、買ってくるから」
「わーい! 絶対、またデートしましょうね!」
分かっていたことだけれど、私は笑顔の栞にかなり弱い。いや、これも全部可愛すぎる栞のせいだ。
カーテンを閉めて着替えながら、栞に着せたい服を改めて考える。
そういえば服をあげる時は、脱がせたいって意味があるんだっけ。
もし栞を脱がせる機会があったら、私はどこから脱がせたくなるんだろう。上から? 下から?
どこからでもいい、なんて結論は出せない。これは極めて重要な問題だ。
大事なのは、どっちがより恥ずかしがってくれるかだよね。
「せんぱーい? 着替え、まだですか? なにかありました?」
私の邪な思考は、栞の愛らしい声によって中断されたのだった。
◆
店を出て、今度は私が狙いをつけていた店へ向かう。
栞はいつも、甘めのガーリーな服装をしていることが多い。童顔な栞にはよく似合っているけれど、いつもとちょっぴり雰囲気が違うものがいいだろうと考えたのだ。
そして個人的に、どうしても栞に着せたい服のデザインを見つけた。
オフショルダーである。
オフショルダーというのは肩が出るデザインの総称で、その形は様々だ。肩だけが出たものもあれば、首元もがっつり出ているデザインのものもある。
インナーを選ぶせいでなかなか厄介なデザインなのだけれど、私は絶対にオフショルの栞が見たい。
なぜなら、えっちだから。
「これ、着てみて」
新作としてマネキンも着用している服を手にとる。首も肩もがっつり露出したデザインのサマーニットだ。
あまりにも無防備すぎて普段着には向かないだろうけれど、二人きりで出かける時なら問題ない。
「夏鈴先輩」
「なに?」
「これ、かなり胸元が出ちゃうと思うんですけど……もしかして先輩、だから選んでます?」
「別に。大人っぽいデザインで、いつもと雰囲気が違っていいかなって思っただけ」
無表情を意識しすぎたせいで、つい早口になってしまった。
最近の私はだめだ。栞のアピールがどんどん過激になっていくせいで、私もどんどん欲望を出してしまっている気がする。
「へえ。じゃあ先輩、これに合わせるスカートは、この二つだったらどっちがいいと思いますか?」
笑いながら、栞は近くにあったスカートを二着手にとった。
一着は足首まであるロングスカートで、もう一着は膝上のミニスカート。
分かりやすく試されているのに、どうしても嘘をつけない。だって私の答え次第で、栞が試着する服が変わってしまうのだから。
「絶対、こっち」
「やっぱり。じゃあ、試着してきますね」
ロングスカートを棚に戻した栞が、くるっと振り向いて笑った。
「先輩。お店なので、覗いちゃだめですからね?」




