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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第2章 栞は、世界で一番私のことが好き

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第35話 スイカ記念日

「よし! じゃあこれで、準備完了ですね」


 庭にブルーシートを敷き、その上に空き缶を置いた。そして、空き缶の上にスイカを乗せる。

 これなら、スイカが汚れてしまうことはないだろう。


「どうします? 先輩からやりますか? それとも私からやります?」

「……私は別に、どっちでもいいけど」


 重要なのは栞と一緒にスイカ割りを楽しむことであって、私自身がスイカを割りたいと思っているわけではない。

 だから別に、先でも後でもどっちでもいいのだ。


「じゃあ、先輩からにしましょう。先輩、せっかく楽しみにしてたんですから!」


 そう言って、栞が台所から持ってきためん棒を渡してきた。日頃は生地を伸ばす時に使っている道具だけれど、スイカ割りにも使えるだろう。

 ちなみに、目隠しに使うのはアイマスクである。


「先輩が上手に割れるように、私がいっぱい指示出してあげますから!」

「栞も初めてなのに?」

「初めてですけど、それくらいできます!」


 意外と難しいと思うけど、栞はやたらと自信満々だ。アイマスクのせいで何も見えなくなった私の手を引いて、所定の位置まで連れていってくれる。

 慣れた家の庭とはいえ、アイマスクをつけたまま歩くのは心もとなかった。


「じゃあ、手放しますね」


 栞の温もりが離れたことで不安になったのは、一瞬だけだった。すぐに栞の楽しそうな声が聞こえてきたから。


「先輩、そのまま真っ直ぐですよ! 真っ直ぐ五歩くらい進んで、こう、えいっ! とやっちゃってください!」


 丁寧なのか雑なのか分からない指示を聞きつつ、五歩前へ進む。歩幅がいつもより小さくなってしまった気がするのは、気のせいだろうか。

 視界を奪われただけで、いろんなことが分からなくなってしまう。


「ここでいいの?」

「うーん……あと半歩だけ前で!」

「……分かった」

「あつ、いい感じです、そこです!」


 めん棒を握る手に力を込める。大きくめん棒を振り上げて、勢いよく下ろす。脳内シミュレーションは完璧だ。

 しかしめん棒を思いっきり振り下ろしても、何の手応えもなかった。


「……あれ」


 とりあえず、アイマスクを外して現状を確認する。スイカには傷一つついていなかった。


「先輩、スイカの右を叩いたんですよ。方向的にはあってたのに、手を下ろす角度がずれちゃってて」

「……そうなんだ」

「はい。次は私の番ですね。先輩、目隠ししてください!」


 栞が近寄ってきて、私の目の前でぎゅっと目を閉じた。無防備過ぎる姿だけでも危険なのに、目隠ししてください、なんて言葉にどきどきしてしまう。

 軽く深呼吸をして、栞の顔にアイマスクをつける。小さな顔は、アイマスクだけで半分くらい隠れてしまった。


「わっ、見えないとなんかこう……落ち着きませんね?」

「でしょ?」


 栞の手を握ると、いつもより強い力で握り返してきた。それが可愛くてにやけてしまっても、栞には見えないから何の問題もない。


 ……目隠しされた栞、か。


 状況だけを考えると、なんだかすごくいけないことをしているような気分になってくる。

 今私がなにをしても、栞には見えないのだ。


「……夏鈴先輩?」

「ごめん。今移動させるから」


 栞の手を引っ張って、先程私がいた場所まで歩かせる。手を放すのは名残惜しかったけれど、さすがに庭で私の妄想を実現させるわけにはいかない。


 見えないからって、勝手にいろいろするのはよくないし。


 もし栞にバレてしまったら、さすがに気持ち悪いと思われてしまうだろう。それは避けなければ。


「そこから、6歩半かな。栞のいつもの歩幅なら」


 そう伝えたのに、栞はやたらと小股で歩いた。


「ここですか?」

「あとちょっとだけ前。うん、そこ。思いっきり叩いてみて」

「はい!」


 栞が振り上げためん棒を思いっきり下ろす。見事にめん棒はスイカに的中し、切れ目に沿ってスイカが割れた。

 目隠しを外した栞が、やったー! と飛び跳ねる。


「夏鈴先輩、見ました!? 私、スイカ割れましたよ!?」

「うん、見た。いい場所にあたったと思う。スイカのど真ん中だったから」

「ですよね!? それに、綺麗に割れて、スイカも美味しそうです!」


 先程まで冷蔵庫に入れていたため、スイカはまだ冷たい。庭に出て汗をかいてしまった私達にはぴったりだ。


「リビングに戻って食べよう」

「はい! そういえばスイカって、塩かけたら甘くなるとか聞きません? 先輩聞いたことあります?」

「……聞いたことはあるけど、やったことはないかな」


 塩をかけることでスイカの甘みが引き立つ、と聞いたことがあるけれど、試したことはない。そういう冒険は、一人だとなかなかしないものだ。


「じゃあ、一緒にやってみましょうよ!」

「うん。いいね」

「塩でスイカが美味しくなるのか、楽しみですね!」


 無邪気に笑った栞と一緒にリビングへ戻る。台所から塩の入った瓶を持ってくると、栞は満面の笑みを浮かべた。


「ねえ先輩。今日は私達の、スイカ記念日ってやつですね!」

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