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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
幕間(中学時代回想) 初恋の人

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第30話 絶望の始まり

「アタシさあ……宮野に告白しようと思うんだけど、夏鈴はどう思う?」


 すみれがそう言ってきたのは、三年生になった直後のことだった。

 宮野とすみれはどんどん仲良くなっていったけれど、なかなか宮野が告白してくれることはなかったからだという。


「……どう、って?」

「上手くいくかな……」


 不安そうに呟いたすみれの頬は赤く、彼女が決して私には向けてくれない顔をしていた。

 そのことにはもう慣れたけれど、慣れたからといって、私がなにも感じないわけじゃない。


「……宮野が告白してくれるの、もうちょっと待ってもいいんじゃない?」


 私がそう言ってしまったのは、すみれが宮野と付き合うことが嫌だからだ。

 今でさえすみれは宮野に夢中だ。付き合い始めたらきっと、もっと宮野しか見えなくなる。

 すみれが、私を見てくれなくなってしまう。


「そう? 待ってたら、してくれるって思う?」

「うん。すみれ、可愛いし、明るいし……。私が男子だったら、絶対、すみれのこと好きになってる」


 すみれのことが大好きなのに、私は嘘をついてしまった。


 男子じゃなくたって、今の私だって―――。


 その先の感情に踏み込んでしまうのが怖くて、頭を横に振る。


「ありがとう、夏鈴! アタシ、もうちょっとだけこのまま頑張ってみる!」

「うん」


 応援してる。その言葉は、嘘でも言えなかった。






「俺、天笠さんのことが好きなんだ」


 私が宮野にそう言われたのは、夏休みに入る直前。

 期末テストが終わって浮かれ始めたみんなを『受験をもっと意識するように』と担任が諫めていた頃だった。


 委員会の仕事で遅くなったすみれを待っていた私を呼び出し、誰もいない空き教室で宮野がいきなりそう言ったのだ。


「だから、俺と付き合ってほしい」

「……嘘」

「嘘じゃない。その、ずっと天笠さんともっと仲良くなりたくて。それでいろいろ頑張ってたんだけど……伝わってなかったかな」


 恥ずかしそうに言って、宮野は頭をかいた。ふわふわの髪の毛は、すみれが好きだと言っていたものの一つだ。


 私と宮野は友達じゃない。すみれを介して話したことはあるし、グループ単位でなら一緒に出かけたことはあるけれど、その程度の仲だ。

 そんな宮野が、私を好き? どうして?


「……でも、すみれのこと……」


 二人は付き合っていないけれど仲が良くて、クラスメートもいつも二人の恋を噂していた。

 連絡を頻繁に取り合っていたことだって、私は知っている。


「もしかして天笠さんも、俺が佐伯を好きだって勘違いしてた?」

「勘違い?」

「うん。その……佐伯って天笠さんと仲いいから、佐伯を通せば天笠さんと仲良くなれるかなって、俺、最初からそう思ってたんだ」


 どんな顔をしたらいいか分からなくなって、俯いて顔を隠す。

 そうなんだ、と呟いた私の声は震えていた。


 どうしよう。私、どうすればいい?


 すみれと宮野が両想いじゃなくてよかった。すみれを宮野にとられなくてよかった。

 でも、宮野が私に告白したことを知ったら、きっとすみれは傷つく。


 ―――違う。

 私が怖がってるのは、すみれが傷つくことじゃない。すみれが、私を嫌いになってしまうことだ。


「……私、宮野とは付き合えない」


 そっか、と頷いた宮野の顔は意外にも晴れやかだった。薄々、私が頷かないことを知っていたのかもしれない。


「気持ち、聞いてくれてありがとう。……高校は違うところになるだろうし、今のうちに言っておきたくて。これから忙しくなる時期だし」

「……うん」


 私は宮野のことは好きじゃないし、宮野が私を好きになった理由もよく分からない。

 けれど他人を好きになって、その気持ちを本人に伝えることは簡単なことじゃないだろう。

 だから精一杯の気持ちを込めて、ありがとう、と頭を下げた。


「あ、あの、こんなこと言うの、失礼かもしれないけど……」

「なに?」

「このこと、すみれには言わないでもらえると……嬉しい」


 私の一方的な願いで、宮野には関係ない事情だ。それでも宮野は、分かった、と穏やかな笑顔で頷いてくれた。


「誰にも言わないよ。っていうか、振られた話とかしてもダサいだけじゃん」


 ははっ、と明るく笑うと、教室に戻ろうか、と宮野が言ってくれた。


「うん」

「……あ、これからも、友達としてはよろしく。気まずくなってると変じゃん?」

「分かった」


 これからも、という言葉にちょっとだけ申し訳なくなった。私は宮野を友達と思っていなかったわけだから。


「……これから、よろしく」


 でもきっと、宮野はいい人だ。

 だって宮野は、すみれが好きになった人だから。





 そして、それから2週間後。

 宮野に振られた、というすみれが、泣きながら私の家にやってきた。

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