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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第1章 羽田は、世界で一番可愛い

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第25話 好きの欠片

「やっぱり、天笠じゃん!」


 私を指差して下品に笑った男子は、中学時代のクラスメートだった。その隣には同じく中学時代のクラスメートである女子が立っていて、後ろには見知らぬ男女2人が立っている。

 しまった、と思った時には既に遅く、私は二度と会いたくないと思っていたクラスメート2人に囲まれてしまった。


「てか天笠さん、祭り一緒に行くような人できたんだ。おめでと」


 ちっともおめでとうなんて思っていなさそうな声で、挨拶をしたことがあるだけの女子が笑う。名前はなんだっただろうか。もう思い出せない。

 けれど彼女の心底私を馬鹿にした醜い笑い声は、今も頭の中に残っている。


「……先輩?」


 羽田は私の手を握ったまま、心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。

 繋がれたままの私達の手を見て、2人がにやにやと嫌な笑みを浮かべる。


「なんかこの子、雰囲気すみれに似てない?」

「うわ、分かるかも。天笠、マジできもいじゃん」


 顔を見合わせて2人が笑う。なにか言い返さなきゃ、そう分かっているのに、唇が震えてまともな言葉を紡いでくれない。

 羽田にはみっともない姿を見せたくないのに。


「ねえ、アンタ、天笠さんの中学時代のこと知ってる?」

「……なにをですか」


 羽田の声には、あからさまな敵意が滲んでいた。私を庇うように私の前に立って、小さな体で2人を睨みつけてくれる。

 けれとタチの悪い連中は、そんな羽田を見てけらけらと笑い声をあげるだけだ。


「じゃあ教えてあげる。天笠さんが中学時代、一人ぼっちになった理由。アンタも気をつけた方がいいと思うし」

「結構です」


 羽田は力強く宣言すると、肩幅まで足を広げ、世界中の可愛いものを集めたって敵わないほど可愛い顔を怒りでいっぱいにした。


「夏鈴先輩のことは、貴女達より私の方がずっと知ってるので! 夏鈴先輩のことで、私が貴女達から教えてもらうことなんてありませんから!」


 夏祭りの喧騒に負けない大声で叫ぶと、羽田は私の手を引っ張って歩き出した。

 だが、途中で急に立ち止まり、後ろを振り向く。ぽかんとした顔を浮かべた2人に向かって、羽田は再び怒鳴り声をあげた。


「それから! さっき誰かに私が似てるとか言ってましたけど……それもあり得ませんから! 私、世界で一番可愛いので!」


 事実をはっきりと口にした後、羽田は満足したのだろう。行きましょう、と私の手を引っ張って、2人の姿が見えない場所まで連れ出してくれた。





「先輩、大丈夫ですか? なにか飲みます?」


 しばらく歩くと、花火の観覧席エリア近くに到着した。数年前から観覧席は有料で予約販売されているから、観覧席エリアに立ち入ることはできない。

 とはいえ周辺には変わらず屋台があり、少し離れた場所に休憩スペースも設置されているようだった。


「……羽田、あのさ、さっきのことなんだけど……」


 ようやく口から出た声は情けないくらいに震えていた。私の目に映る羽田の姿が、どんどんぼんやりとしたものになっていく。


 だめ。だめだってば。泣くなんて、私らしくない。

 羽田の前での私は、人見知りで友達がいないけれど、クールで落ち着いた頭のいい先輩なんだから。


 唇の内側を噛んで、必死に涙を堪える。またしても黙り込んでしまった私を見て、羽田はにっこりと笑った。


「夏鈴先輩、かき氷食べません?」

「……え?」

「歩いたら汗かいちゃいましたし。お祭りっぽくていいじゃないですか。ほら、ちょうどあそこに屋台もありますし!」


 ね? と羽田が私の手を軽く引っ張る。


「……聞かないの。さっきのこと」


 聞いてほしくないくせに、つい尋ねてしまう。だってなにもなかったことにするには、先程のできごとは強烈だったはずだ。


「ねえ先輩。私、いつも言ってますよね。先輩のこと大好きだって」

「……うん」

「大好きな人には、辛そうな顔より、笑顔でいてほしいって思うものなんです」


 じわ、と涙があふれそうになって、とっさに俯く。泣かないように地面を睨みつけていると、羽田がしゃがんで私の顔を覗き込んできた。


「夏鈴先輩。そろそろ先輩も、私のこと大好きになっちゃいました?」


 好きだよ、とっくに。

 どうしようもないくらい、羽田が大好き。


「それに今日は、先輩がテストで1番をとったご褒美なんですよ? だったらなおさら、先輩に嫌な話なんてしてほしくないです」


 ほら、と羽田に促され、かき氷の屋台に並ぶ。レモン、メロン、ブルーハワイ、と様々なシロップのかかったかき氷の写真が飾られていた。


「私、レモンにします! 黄色いから!」


 羽田のその言葉で、もう我慢できなくなってしまった。

 でもこの涙は悲しみの涙じゃない。羽田が愛おしくてしょうがなくて、とめられなくなった涙だ。


「先輩? だ、大丈夫ですか。あっ、私、ハンカチ持ってます!」


 慌てた羽田がハンカチを手渡してくれた。ありがとう、と受け取った私の口から、好きの欠片がこぼれる。


「羽田。……私と出会ってくれて、ありがとう」

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