第24話 可愛い子と
「ちょ、ちょっとこれおかしくないですかっ!? ぜんっぜん当たらないんですけど!?」
15分近く待って、ようやく私達の番がやってきた。持ち弾は1人10発。羽田は勢いよく全てを発砲し、そして、見事に失敗した。
「……確かに、結構きつい」
景品まではかなり距離があり、並んでいる人が多いせいでやたらと急かされる雰囲気がある。
そんな空気の中で、冷静に欲しい景品を狙うのは困難だ。
もっとも景品に当たったとしても、よほど運がよくない限り、景品が台から落ちることはなさそうなのだが。
「先輩、あと何発あります?」
「……3」
「狙いは?」
正直なところ、特に欲しい物はない。そりゃあ1番上にある最新機種のゲーム機は魅力的だが、獲得できる可能性はゼロだろう。
私にとってこれはただの思い出作りで、景品欲しさに参加したわけではないのだ。
「羽田は、どれが欲しい? できれば、可能性がありそうな範囲のやつで」
「あれが欲しいです」
羽田が指差したのは、1番下の台にある子供向けのブレスレッドだった。安価なビーズで作られたブレスレッドは軽そうで、他の景品に比べると獲得難易度は低そうだ。
とはいえ、高校生の私達にとっては不要なおもちゃでしかない。
「お菓子とかじゃなくて、あれでいいの?」
「はい。先輩からアクセサリーをもらうチャンスですもん」
「アクセサリーって……」
ファミレスでお子様ランチを頼んだらおまけでもらえそうなおもちゃだ。アクセサリー、なんて呼べる代物じゃない。
なのに羽田は、それを本気で欲しがっている。私からもらえるから、というだけの理由で。
「……分かった。狙ってみる」
深呼吸をして、銃を構える。まずは一発。運がいいことに景品にかすったけれど、わずかに揺れただけで落下しなかった。
この屋台では、完全に落下しない限り景品は獲得できない。
「先輩、頑張ってください!」
可愛い浴衣を着た好きな子が、自分を真剣に応援してくれている。間違いなくこれは、頑張らなきゃいけないシチュエーションだ。
狙いを定め、祈りを込めて引き金を引く。先程よりは中心に当たったけれど、やっぱり景品は落ちない。
これ、裏に重石でもおいてるんじゃないの?
店主に文句を言ってやりたくなる気持ちをおさえ、最後の弾に備えて集中する。
自分が予想するより、弾道は少しだけ右にずれる傾向があった。だとすればいっそ、少し左を狙ってみてもいいかもしれない。
よし、と呟いて引き金を引く。先程までと異なり、弾は景品のど真ん中にぶつかった。
そして。
「落ちた!」
思わず、はしゃいだ声が口からもれてしまう。店主は微笑んで、よかったねぇ、と私におもちゃのブレスレッドを渡してくれた。
近くで見ても、やっぱりかなり安っぽいブレスレッドだ。
「羽田。本当にこれ、欲しいの?」
射的屋から離れつつ、改めて羽田に確認する。羽田は曇りのない目で頷いた。
「欲しいです。先輩がくれるものなら、なんでも」
「……私はいらないし、別にいいけど」
「やったー! じゃあ、先輩がつけてください」
羽田が浴衣の袖を少しめくって、左手を差し出してきた。繊細なチェーンのブレスレッドと違って、簡単にはめられる物なのに。
袋からブレスレッドを取り出し、羽田の手首につける。羽田は宝物を触るような手つきで、そっとブレスレッドを撫でて笑った。
「夏鈴先輩、ありがとうございます。これ、大事にしますね!」
「大袈裟過ぎるでしょ」
「そんな言い方しなくていいじゃないですか。嬉しいことなんて、たくさんあった方がいいんですから」
ね? とあざとく顔を覗き込んできた羽田が自然に私の手を握る。
「だから、可愛い子と手を繋ぐ、なんて嬉しいことも、人生で多ければ多いほどいいんです。ね、先輩」
「……はいはい」
「またそんな態度とって。で、次どうします? 食べたいの決まりました?」
頷いて、私はすぐ近くにあった林檎飴の屋台を指差した。
そもそも林檎飴という物自体が可愛らしい見た目をしているのだから、羽田との相性が抜群であることは疑いようがない。
「いいですね、林檎飴! でも1個だと結構大きいですし、シェアします?」
「えっ」
「今さら、間接キスとか気にしませんよね?」
見たところ、この屋台ではカットされた林檎飴は売られていない。つまりシェアするということは、1つの林檎飴を羽田と一緒に食べるということだ。
「どうせならいろんな種類の食べたいですもん。ね、先輩?」
「……確かに」
羽田の主張に納得したふりをしたけれど、本当は羽田と間接キスがしたいだけだ。
林檎飴を購入し、歩きながら食べる。先輩からどうぞ、と差し出された林檎飴を拒んだのは、羽田が食べた後の林檎飴を食べたかったからだ。
「……先輩」
「なに?」
「これ、正直微妙かもしれません」
林檎飴を一口かじると、羽田がなんとも言えない表情で私を見つめた。
「食べてみてください」
羽田が林檎飴を私の口元に差し出してきた。がぶっ、と林檎飴に噛みつく。確かに、美味しいとは言えない味だった。
やたらと温い林檎飴の表面は少し溶けているせいで、まず食感が微妙だ。それに林檎も新鮮なものではなかったのか、水分が少なくパサついている。
「……2人で1個にしておいてよかったね」
「ですよねー。まあでも、不味い林檎飴っていうのも、お祭りらしくていいですけどね!」
ポジティブなことを口にして、羽田はまた林檎飴にかぶりついた。そしてすぐ、私の口元へ林檎飴を差し出す。
どうやら、一口ずつ交互に食べてこの林檎飴を処分することにしたらしい。
次は何を食べるか、なんてことを話しているうちに、林檎飴は残りわずかになった。
たぶん、残り一口で終わる。
「先輩、あーん」
これでようやく不味い林檎飴から解放される……と口を開いた瞬間、天笠? と急に名前を呼ばれた。
私の苗字は比較的マイナーだ。だから人混みで自分の苗字が聞こえたら、つい振り返ってしまう。
そして私は、振り返ったことを後悔した。




