第23話 夏祭りデート、開幕
今日はいよいよ、私が羽田との約束を果たす日―――つまり、夏祭りの日だ。
集合時間は16時30分で、現在の時刻は16時ちょうど。私は、待ち合わせ場所に選んだ駅の近くの美容室にいる。
「できましたよ。すっごく可愛いです!」
テンション高めに褒めてくれるお姉さんは美容師だ。今日は朝から予約がたっぷり詰まっていて、昼食をとる時間すらなかったという。
羽田と祭りに行くために、私はわざわざ浴衣を買った。白地に赤い金魚模様の浴衣だ。
だが浴衣を買ってすぐ、私は重大な問題に気がついたのである。
仕事があるから、お母さんに着付けは頼めないかも。
着物ほど複雑ではないし、インターネットを探せば浴衣の着付け動画なんていくらでも存在する。自分で着ることは不可能じゃない。
けれど、祭りの最中に着崩れしてしまったら困るな……と悩んでいたら、お母さんが助言をくれたのだ。
『美容室で着付けしてもらうのが一番楽じゃない?』と。
そしてお母さんは、着付けとヘアセットに十分過ぎるほどのお小遣いをくれた。根暗な娘が浴衣を着て夏祭りに出かけることが、きっとすごく嬉しかったのだと思う。
こうして、羽田との夏祭りのために浴衣を新調し、美容室で着付けとヘアセットを行った、浮かれきった私が誕生したというわけである。
「……ありがとうございます」
外は暑いから、今日は長い髪をまとめてもらった。編み込みを駆使したお団子ヘアは、自分ではとてもできそうにない。
真っ赤な花の簪も浴衣によく似合っている。自分で自分を褒める趣味はないけれど、まあ、プロに頼んだ甲斐があった、くらいなら言ってもいいだろう。
「もしかしてデートとかですか?」
「……まあ、そんなものです」
「楽しんでくださいね! あと、暑いからこまめな水分補給も忘れずに!」
そう言って、お姉さんは私を送り出してくれた。振り返るとすぐ、次の客の接客にとりかかっている。
夏祭りシーズンは毎年こうなのだと、ヘアセットの最中に教えてくれた。
履きなれない下駄で待ち合わせ場所へ向かう。予想はしていたけれど、かなり歩きにくい。きっと、靴擦れに苦労することになるだろう。
「あっ、夏鈴せんぱーい! こっちです、こっち!」
待ち合わせ場所に到着すると、浴衣姿の羽田がぴょんぴょんと飛び跳ねて私を手招きした。
黄色の浴衣は向日葵柄で、明るく可愛い彼女によく似合っている。手に持っている巾着袋も揃いのデザインで、下駄の鼻緒まで黄色だった。
そして、大きな向日葵の簪を頭にさしている。率直に言えば、世界一可愛い。
「先輩、浴衣超似合いますね」
「ありがとう」
「それにやっぱり、私がおすすめした白い浴衣ですね」
私が黙ってしまうと、羽田は素早くスマホを取り出した。
「メイクとか髪型が崩れちゃう前に、ちゃんと写真撮っときましょ!」
「うん」
プールでは、水着姿の羽田を写真に残すことに失敗した。今日は必ず、羽田の写真を大量に撮らなくては。
林檎飴を食べる羽田も撮りたいし、綿あめも捨てがたい。黄色繋がりで冷凍パインもいいだろうし、趣向を変えて焼きそばもありだ。
「撮れましたよ。ほら、私達超可愛い!」
満足そうな羽田が写真を見せてくる。確かに、かなり完成度の高い写真だろう。
「可愛い先輩にはやっぱり、可愛い私がぴったりですね!」
行きましょう、と羽田が私の手を引く。今日は夏祭りだ。はぐれないようにずっと手を繋いでおくのは、極めて合理的なことに違いなかった。
◆
「うわぁ……すごい人ですね、やっぱり」
夏祭り会場は、かなりの人で賑わっていた。道の両側には様々な露店が並んでいて、どの店もかなり列ができている。
羽田と一緒じゃなかったら、絶対にこんなところにはこなかった。
「なにから食べます? 私、お腹空かせてきてるので、なんでも食べられますよ!」
「そうだね……」
浴衣姿の羽田に、一番食べてほしいもの。
頭をフル回転させて、なんとか正解を導き出そうとする。かなりの難問だ。この前塾で受けた模試のどの問題よりも、確実に難しい。
「先輩、悩み過ぎです。珍しく食いしん坊ですね?」
「そういうわけじゃない」
ただ私は、羽田に似合う食べ物を必死に考えているだけ。
「あっ、じゃあ先輩が悩んでる間に、あれで遊びません? 射的! お祭りっぽいじゃないですか!」
羽田が指差したのは、そこそこ繁盛している射的屋だった。商品は最新ゲーム機から駄菓子まで様々である。
ああいう店は、上位景品はとれないようになっているものだ。とはいえ景品狙いでなければ、思い出作りとしては悪くない店だろう。
「いいね。やろう、射的」
「やったー! 勝負ですね、先輩!」
羽田と一緒に、射的屋の列に並ぶ。案の定、射的にチャレンジしている人達がゲットできた景品は、安価な駄菓子ばかりだった。
「先輩。夏休みも、もう半分ちょっと終わっちゃうんですねぇ」
「振り返ってみると、あっという間だったね」
夏期講習と羽田で、この夏は終わってしまいそうだ。名残惜しいけれど、満足はしている。
「はい。だからこそ残りも、楽しく過ごしましょうね!」
「……夏休み明けにテストあること、忘れないようにね」
「忘れませんってば!」
私って結構真面目なんですからね! と羽田が唇を尖らせる。知ってる、と口にすれば、羽田はあっさり笑顔に戻ってくれた。
本当に、この夏は楽しいことばかりだ。
一生、この夏だけを繰り返せたらいいのに。




