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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第1章 羽田は、世界で一番可愛い

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第22話 忠告を兼ねたお仕置き

 冗談言わないでよ、と笑い飛ばすには羽田の顔は真剣すぎた。

 赤くなった可愛い顔でじっと、羽田は私の目を見ている。


『ちゅー、してみます?』


 確かに羽田はそう言った。私の聞き間違いでもなければ、都合のいい幻聴でもない。

 そして羽田がこんなことを言うのは初めてだ。


「羽田」


 悩んだ私が結論を出すより先に、羽田が口を開いた。


「な、なーんちゃって! ほ、ほら? お家で二人っきりですし? ベッドの上ですし? なんかこう……ちょっとふざけちゃったって言うか!」


 早口でまくしたてながら羽田が起き上がる。腕の中からなくなった温もりが寂しい。

 私も起き上がって羽田を見つめると、羽田はすぐに俯いてしまった。


「羽田」


 そっと羽田の肩に手を置く。ゆっくりと顔を上げた羽田の瞳は涙でいっぱいになっていた。


「そういう冗談、言わない方がいいよ。羽田は可愛いんだから、危ないことになる」


 なにかを言いかけた羽田を制するように、羽田の額にデコピンをした。


「だからこれは、忠告を兼ねたお仕置きだから」


 これは羽田への言い訳なのだろうか。それとも、私自身への言い訳なのだろうか。

 分からないまま、そっと羽田の額にキスをする。


「……先輩」

「ピザくるまで勉強するよ」


 くるりと羽田に背を向けた瞬間、勢いよく抱き着かれた。そのままバランスを崩した私は、羽田に押し倒される形になってしまう。


「先輩、だーいすき!」





 結局ベッドで戯れている間に、ピザの宅配員がやってきた。

 玄関先でピザとコーラを受け取り、リビングのテーブルに広げる。散々ベッドの上で動いたせいで、私も羽田も髪がぼさぼさだ。


「先輩。あったかいうちに食べましょ!」

「うん」

「あっ、でも先に乾杯ですよね!」


 紙カップだけど、と思いつつ、コーラで乾杯する。熱々のピザに手を伸ばすと、思っていた以上にチーズが伸びた。

 笑顔でピザを頬張る羽田は、リスみたいで可愛い。さっきまで羽田と同じベッドにいたんだよね……なんて思い出すだけで、羽田には見せられないほどにやけそうになる。


 さっき、本当にキスしてたらどうなってたんだろう。

 羽田にキスをして、そのまま押し倒していたら? 羽田の柔らかそうな胸に、思いっきり手を伸ばしていたら?


 羽田は今日、どこまでを覚悟してあんなことを口にしたのだろう。


 ピザを食べながら、もしものことを想像してしまう。羽田はどこまで許してくれるのだろうか。

 羽田を傷つけたくない。嫌われたくない。幻滅されたくない。

 だって私、羽田のことが本当に大好きだから。


「先輩、見てください。このピザ、めちゃくちゃチーズ伸びます」


 羽田がシーフード系のピザを手に取り、見せつけるように一口かじった。羽田が口からピザを離していくにつれて、びよーん、とチーズが伸びていく。

 限界まで伸びたチーズが切れると、羽田は口元に手を当てながら笑った。


「見ました!?」

「うん、見てたよ」


 主に羽田の顔を見ていたけれど、チーズもちゃんと視界の端に入れていた。


「先輩もやってみてください。写真撮っておくので」

「……食べてるところ撮られるの、なんか嫌なんだけど」

「いいじゃないですか! 絶対、他の人には見せませんから!」


 気は進まないけれど、羽田に笑顔で言われたら断れない。私がピザへ手を伸ばすと、羽田は慌ててスマホを構えた。


「ねえ、羽田」

「なんですか?」

「それ、動画でしょ」


 あからさまに動揺して、羽田は私から目を逸らした。しかしスマホの位置を動かさないのだから、やはり動画モードになっているのだろう。


「羽田」

「……だ、だって、夏鈴先輩の動画、欲しかったんですもん」


 可愛いことを言って、羽田がこっちを向いた。私としては羽田を映してほしいのに、カメラは私にばかり向けられている。


「それにほら! 写真も動画もあんまり変わりませんって! どっちでも先輩は美人なので、安心してください!」


 溜息を吐いてピザを食べる。撮影されていると思うと、気が散って味に集中できなかった。


「じゃあ後で、羽田のも撮るからね」


 よし、と私は内心でガッツポーズした。これで、私のシャツを着た羽田の動画を撮影することができるのだから。





「じゃあ、今日は本当にありがとうございました!」


 16時過ぎに、羽田は家へ帰ることになった。もう少しいてほしいけれど、さすがにもう引きとめることはできない。

 それに、明日も塾で会えるのだ。


「駅まで送る」

「いいんですか?」

「うん」


 二人で家を出て、わざとゆっくり道を歩く。夕方でもまだ空は明るくて、少し離れた場所にあるグラウンドからは歓声が聞こえる。

 なんてことはない夏の夕方だ。でも隣には、誰よりも特別な羽田がいる。


「先輩、もうすぐお祭りですね」

「うん」

「可愛い浴衣用意したので、楽しみにしててください!」


 自信満々に笑う羽田は可愛い。どれだけダサい浴衣を着たって、羽田が可愛くなくなることはないんだろう。

 駅に到着すると、羽田は何度も振り返りながら改札の向こうに消えていった。

 一人きりになって、きたばかりの道を引き返す。一人で歩くことに慣れた道のはずなのに、なんだか無性に寂しくなった。

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