第21話 ベッドの上で
「せーんぱいっ、そろそろピザ、頼みます?」
11時半を過ぎたところで、羽田がそう言い出した。そろそろ昼食の時間だし、午前中はそこそこ集中して勉強ができたと思う。
可愛すぎる羽田が隣にいたせいで、一人の時に比べるとかなり効率は下がってしまったけれど。
「うん。そうしようか」
「受けとりに行くと半額になりますけど、どうします?」
羽田がスマホで見せてくれたのは、近所にあるピザ屋のホームページだ。家まで届けてもらうこともできるけれど、受けとりに行けば半額になるらしい。
「何分かかるか調べてみる」
地図アプリに住所を入れて検索すると、徒歩14分と表示された。
往復28分。なかなかに悩ましい。
「先輩はどっちがいいですか?」
「羽田は?」
「私はどっちでもいいですよ? 先輩と一緒なら、暑い中歩くのもへっちゃらなので!」
そう言って羽田は、私の手をぎゅっと握った。
相変わらず、本当に可愛い。
「でも、宅配もありです! その分、お家で先輩といちゃいちゃできるんですもんね?」
私の顔を覗き込んで、羽田がにやりと笑う。いちゃいちゃなんてしてない、と言いながらも、私は羽田の手を放さなかった。
「先輩が決めてください。家で私といちゃいちゃするか、お散歩デートに行くか」
魅力的過ぎる二択だ。でも私の脳味噌は、思ったよりも早く結論を出してしまった。
「デリバリーにしよう」
ショートパンツの下からのぞく、羽田のすらりとした綺麗な足。正直なところ、私はまだまだ羽田の足を見ていたい。
外へ出るとなれば、羽田は着替えることになるだろう。それは嫌だ。
どんな服を着ていたって羽田は可愛いのだけれど、それはそれとして、無防備な羽田をできるだけ長く拝んでいたいのだ。
「その方が、待ってる間も勉強できるしね」
「へえ? 本当に? 先輩、私とお家でいちゃいちゃしたいんじゃなくて?」
立ち上がった羽田が、ふざけて後ろから抱き着いてきた。背中に柔らかいものを感じ、にやけてしまいそうになるのを我慢する。
「夏鈴先輩」
「なに?」
「私といちゃいちゃするの、好きですか?」
好きに決まってるでしょ、と言いそうになってしまうのを堪える。
顔を上げると、にや、と笑った羽田が私の手を引っ張った。
「先輩、ベッドに寝転んで、注文するピザ一緒に決めましょ?」
私達は昨日、同じベッドで寝た。だから今さら、二人でベッドに寝そべることを拒む理由はない。
「ね? せーんぱい」
相変わらず可愛い声で言って、羽田が私をベッドに誘う。狭いベッドだからと心の中で言い訳をして、羽田に身体を寄せた。
「ねえ、夏鈴先輩」
「なに?」
「楽しいですね!」
目を合わせて、羽田が目尻を下げて笑う。本当に可愛い。
「私、シーフード系もお肉系もどっちも好きですよ! 先輩は?」
私は羽田が好き。
なんて言いたくなるのを我慢して、なんでも、と答える。実際特に好き嫌いはないし、羽田が美味しく食べられるものがあるなら、それが一番いい。
「羽田、どれが一番好き?」
ホームページをスクロールして、順番にピザを見ていく。
結局羽田が選んだのは、一枚で四種類の味が楽しめるピザだった。シーフード系と肉系が二種類ずつのバランスがいいピザだ。
「私、宅配ピザとか久しぶりです」
「……私も」
目が合うと、羽田がにっこりと笑った。
「じゃあ、コーラも頼んじゃいません!? ピザにはコーラって、よく言うじゃないですか!」
言いながら、羽田がドリンクメニューを開く。明らかに割高だなと思うけれど、羽田との楽しい思い出には変えられない。
「うん。そうしよう」
注文を済ませ、スマホをテーブルの上に置く。大体30分くらいで、ピザは家に届くらしい。
勉強を再開することもできるけれど、羽田と二人で寝転ぶ時間を続けていたい気持ちはある。
「夏鈴先輩」
私の名前を呼んで、羽田はおもむろに両手を大きく広げた。
「ハグ、しましょう」
「……ハグ?」
「はい。それとも夏鈴先輩、ベッドでのハグは意識しちゃいます?」
寝転んだまま、羽田が蠱惑的な笑みを浮かべる。けれど羽田の頬はわずかに赤く染まっていて、羽田が緊張していることが分かった。
「先輩、意識しすぎじゃないですか?」
挑発するような言葉にそっと息を吐く。
目が合うと、羽田は緊張した顔で笑った。
ベッドでハグなんて、友達同士じゃしないから。
そう突き放すのはきっと簡単で、でも、私は猛烈に羽田を抱き締めたい。
「……先輩。私とハグするの、嫌ですか?」
「羽田」
結局私はいつものように、羽田の誘惑に負けた。寝そべったまま羽田を抱き締める。
二人きりの家で、ベッドの中で、腕の中に羽田がいる。脳が溶けそうなほど幸せなシチュエーションだ。
「ねえ、先輩」
「……なに?」
「ちゅー、してみます?」




