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第2話 放課後デート

「というわけで、明日は―――」


 私の担任は、今日も無駄に話が長い。要約すれば1行で終わりそうなことをだらだらと話すせいで、うちのクラスはいつもホームルームが長いのだ。

 髪を耳にかけて、視線を廊下へ向ける。そこには羽田が立っていて、私と目が合うとぶんぶんと手を振ってきた。


 羽田は目立つから、クラスメートもちらちらと彼女を盗み見ている。それでも羽田は、当たり前のように私しか見ていない。


 羽田って、スタイルもいいんだよね。


 身長が高いわけではないけれど、顔が小さいおかげでスタイルがよく見えるのだ。すらっとした足は細く、腰はキュッとくびれている。

 生で見たことはないけれど、たぶん胸だってそれなりに大きい。


 目に毒だ。可愛すぎて。


 羽田の可愛さに想いを馳せている間に、ホームルームが終わった。その瞬間に羽田が教室へ入ってきて、夏鈴先輩! と大きな声で叫ぶ。

 まるで他人が私に話しかけるのを阻止するかのような態度だが、もちろん私には声をかけてくるようなクラスメートなんていない。


「迎えにきましたよ。先輩のクラス、終わるの遅いんですもん」


 ぷく、と頬を膨らませた羽田が可愛い。今すぐ人差し指で頬をつつきたくなる衝動をこらえながら、手早く荷物をまとめて立ち上がった。


「ごめん」

「別に先輩のせいじゃないですし、謝らなくていいですけど!」


 私を見つめる羽田は、明らかになにかを期待しているようだった。彼女が求める些細すぎる言葉を知っているから、私はそれを口にする。

 そのくらいならきっと構わないだろうと、自分への言い訳を重ねながら。


「ありがとう、羽田」

「はい! どういたしまして!」


 嬉しそうな顔で、羽田が大きく頷く。行きましょう、と笑う彼女の手を握ってあげたら、きっと見たことがない顔を見せてくれる。

 分かっているけれど、私はいつも通り、彼女の手を握らずに歩き出した。





「ここです。ちょっと並んでますけど……たぶん、30分くらい待てば入れると思うので!」


 羽田に案内されたカフェは、平日にも関わらずそれなりに混雑していた。

 とはいえ、店先に置かれた待機用の椅子はまだ空いているし、30分くらいならどうということもない。


「可愛い私と一緒なら、ちょっとくらい待つのは余裕ですよね?」


 自信満々な言葉と、不安そうに揺れる眼差しが合っていない。ぎゅ、と私のスカートの裾を握った羽田の爪は、レモンイエローに染まっている。

 私が、羽田に似合うと言った色だ。


「ちょっとならね」


 表情も変えずに答える。ほっとしたように息を吐いた後、もっと楽しそうにしてくださいよ、と羽田は不満を漏らした。





 結局45分ほど待って、私達は店内に入ることができた。

 イソスタで見た通りのファンシーな内装の店内には、流行りのアイドルの楽曲が流れている。


「どれにします?」


 メニュー表を広げて、羽田が私の顔を覗き込んできた。ケーキとドリンクメニュー以外にも、パンケーキやパフェといったメニューもあるらしい。


 コーヒーにしようかと思ってたけど、冷たい物が食べたいかも。


 顔を上げると、羽田が真剣な顔でメニューを見ていた。唇がきゅっと一文字に結ばれていて、本当に可愛い。


「決めました! 私、これにします」


 羽田が指差したのは、レモンクリームソーダだった。どうやら羽田も、暑さに負けてケーキではなくクリームソーダを注文することにしたらしい。


「私はこれかな」


 クリームソーダの隣にのってある、コーヒーフロートを指差す。すると羽田はなぜか嬉しそうな顔をして、私をじっと見つめた。


「なんだか、おそろいっぽいですね!」

「……そう?」

「もー! 先輩、テンション低いですよ。こーんなに可愛い後輩とデートだっていうのに」


 まったく、と溜息を吐いた後、羽田は元気よく手を上げて店員を呼んだ。

 私の分まで注文を済ませた羽田は、クリームソーダが届く前に前髪チェックを始める。

 少しくらい前髪が崩れていても可愛いのに、羽田はいつも前髪を気にしているのだ。


「夏鈴先輩。夏休みって、どこか遠出したり、帰省したりしますか?」

「しないよ。お母さんも忙しいし、夏期講習も詰まってるしね」


 私達が通っている高校はかなりの進学校だ。だから基本的に全員が大学進学を予定していて、私もその一人である。

 一般入試を考えている私は、この夏もほとんど毎日塾の夏期講習だ。


「確かに二年生って、結構スケジュールやばかったですよね」

「でも、一年生もそれなりでしょ?」

「はい、まあ。なので私達、夏休みもほぼ毎日、会えますね」


 羽田と私は同じ塾に通っている。そもそも私達の出会いは、高校ではなく塾なのだ。


「先輩は、夏休みも私に会えて嬉しいですよね?」

「……まあ」

「だったら、もうちょっと嬉しそうな顔してくださいってば!」


 まったく、と羽田が拗ねたところで、レモンクリームソーダとコーヒーフロートが運ばれてきた。

 思わず、ごくり、と唾を飲み込んでしまう。


「あっ、だめですよ先輩。飲む前に、ちゃんと写真撮らなきゃ!」


 アイスが溶けてしまってはもったいないのに、羽田は真剣な顔で写真撮影を始めてしまった。

 ドリンク単体の写真と自撮りの撮影を済ませた後、夏鈴先輩、と私を呼ぶ。


「2人で撮りましょうよ。アイスが溶けちゃうんで、早く」


 向かい合った席で座っていると、ツーショットを撮るのはなかなか難しい。

 しかも羽田は、あれこれと角度を指示してくるから大変だ。

 何回か取り直して、ようやく羽田が納得する写真が撮れた。


「見てください、よく撮れてますよ」


 羽田が見せてくれたスマホには、世界1の美少女と、不愛想な黒髪の女が映っていた。


「後で、先輩にも送りますね」

「ありがとう」

「絶対、ちゃんと保存してくださいよ?」

「……たぶん」

「本当に先輩はもう……!」


 羽田の溜息に気づかないふりをして、コーヒーフロートに手を伸ばす。

 世界1の美少女を見ながら飲むコーヒーフロートは、注文したことを後悔したくなるほど甘ったるかった。

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