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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第1章 羽田は、世界で一番可愛い

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第19話 羽田だけ

 私が風呂から上がってもまだ、羽田は入念なスキンケアの最中だった。ヘアミルクを塗って丁寧に髪を乾かした後、手足にしっかりとボディミルクを塗り込んでいる。

 もちろん羽田が使っているのは、私が普段使用している物だ。といっても私の場合、面倒で毎日の習慣にはできていないのだけれど。


「夏鈴先輩がこんなにボディケア用品とか持ってるの、ちょっと意外でした」


 足が細くなる、という胡散臭いマッサージを実践しながら、羽田が私を見上げた。

 ドライヤーを羽田から受け取って、隣に腰を下ろす。


「一応ね」

「しかもこれ、何年か前にネットでめっちゃ話題になってたやつですよね? 美白効果がすごい、って」


 羽田が指摘した通り、私が使用しているボディミルクは数年前に大流行したものだ。1個1500円という価格もあって、特に女子中高生の間で話題になっていた。

 でも、最近は話題になんてなっていない。私も、惰性で同じ物を使い続けているだけだ。


 すみれが、やたらとすすめてきたから。


 すみれはお洒落やメイクが好きな子で、全く興味がなかった私にもあれこれと話題を提供してくれた。

 興味はなかったけれどすみれと話を共有したかった私は、すすめられた物をいくつか買っていたのだ。


 思い返してみれば、確実に下心はあった。すみれが好むような容姿になれば、彼女から特別な感情を向けてもらえるかも、なんて。

 すみれが語っていた理想は自身のなりたい姿であって、他人に望む姿ではなかったということに気づいたのは、彼女に嫌われてしまった後だったけれど。


「……夏鈴先輩?」

「なんでもない。よく分かんないから、話題になってたのを使ってただけ。こだわりはないよ」

「確かに先輩って、使ってるコスメとかも、なんかちょっとだけ古いですよね? そのわりには流行ってたやつだし」


 私が羽田とコスメの話をすることは珍しい。羽田はいつも、私が興味のある話をしてくれようとするから。


「そうだ! 今度一緒にショッピングに行きましょうよ。最新の流行、私が教えてあげます」


 私はただ、惰性ですみれからすすめられた物を使っているだけ。

 だったら、一掃するいい機会かもしれない。


「いいよ」

「やったー! 先輩とショッピングデート、楽しみです!」


 羽田が勢いよく抱き着いてくる。私が中学時代に着ていたTシャツに身を包んだ羽田は目に毒だ。

 身長差のせいで彼女がはいているショートパンツがほとんど隠れてしまい、羽田がTシャツ1枚で過ごしているように錯覚してしまうから。


「ドライヤー貸してください。先輩の髪、乾かしてあげます」


 返事も待たず、羽田は私の手からドライヤーを奪った。ドライヤーの音がうるさいから、すぐに会話はなくなる。

 私の長い髪を持ち上げ、丁寧に羽田が乾かしてくれた。なかなか乾かないのに、途中で投げ出さずに、最後まで。

 仕上げに冷風を髪に当てた後、できましたよ、と羽田が微笑む。


「先輩の髪、本当さらさらで綺麗ですよね。いいなあ、黒髪ロングって。ちょっと憧れます」

「……私は明るい髪の方が好きだけど」


 ただでさえ根暗な性格をしているのに、真っ黒な髪は重い印象を持たれるから嫌だった。

 すみれの言葉がなければ、私は髪を伸ばそうとは思わなかっただろう。


「じゃあそれ、私が好きってことですね! よかった。私って、先輩好みの女ですね?」


 事実を口にして、羽田が私の手に自分のそれを重ねる。

 自分を好みだと認識している女の家でこんなことを言うことが、どれだけ危険か分かっているのだろうか。


「それは……」

「絶対、そうですよね?」


 有無を言わせない圧に、私は頷いてしまった。満足そうに鼻歌を歌う羽田は、この世のものとは思えないほど可愛い。


「私も、先輩の見た目も大好きですよ。綺麗な黒髪も、クールな切れ長の瞳も」

「……そう」

「でも一番は先輩の笑顔が大好きです。絶対先輩は、笑ってた方が可愛いですよ!」


 どこかで聞いたことがあるような台詞に、ずきっと胸が痛む。

 けれど次に羽田が口にした言葉は、私の頭の中にあるものとは真逆のものだった。


「だから、あんまり他の人の前で笑っちゃだめですよ。先輩の可愛い笑顔は、この私が独占したいので!」

「……なにそれ」

「だってもったないじゃないですか。他の人に、先輩の可愛いとこ見せちゃうの!」


 当たり前のことを言っています、という顔で羽田が続ける。

 どんな顔をすればいいか分からなくなって俯いた。こういう時、長い髪は便利だ。表情を隠すことができるから。


「夏鈴先輩? もしかして、照れてます?」


 羽田が私の顔を覗き込んで、ゆっくりと髪をどける。羽田の瞳に映った私は、ずいぶんと情けない顔をしていた。


「先輩」

「……なに?」

「その顔も、私以外に見せちゃだめですから!!」


 焦ったように、羽田がぎゅうっ、と抱き着いてくる。いつもとは違うシャンプーの匂いに、思わず腕が動いてしまった。


「……羽田だけだから。私に、こんな顔させるの」

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