第15話 プールって、最高……
「……もしかして夏鈴先輩って、泳げないんですか?」
プールに入ってすぐ、羽田は私が泳げないことを見抜いた。
思っていた以上に中央部分の水が深く、私がなかなか移動しようとしないからだろう。
「別に。ただ、足がつく場所の方が安心するだけ」
「……へえ?」
「それに、水に顔つけたらメイクも崩れるでしょ」
「夏鈴先輩がメイク崩れを気にするなんて、珍しいですね?」
にやにやと笑った羽田が、私の顔を覗き込んでくる。
「先輩の苦手なこと、見つけちゃいました。いやあ、まさか先輩が泳げないなんて。びっくりですね」
私が泳げないことの、いったいなにがそこまで嬉しいのだろうか。分からないけれど、満足そうな羽田を見ていると、泳げなくてよかったかもと思ってしまう。
「でも大丈夫ですよ。今は私がいますから。だから先輩、絶対、私から離れないでくださいね?」
そう言って笑うと、羽田は強引に私を引っ張って歩き出した。だんだんと底が深くなっていって、鎖骨あたりまで水が迫ってくる。
ひんやりとした感触は気持ちいいけれど、ふわふわとした足元が怖い。
「先輩、可愛い」
「……からかわないで」
「えー? 私、感想を言っただけですよ? そんなこと言っちゃうと、先輩の腕、離しちゃうかも」
本当に羽田がそんなことをするつもりがないことは分かっている。けれど、もし、と想像するだけで顔が強張ってしまう。
そんな私を見て、羽田はまた笑った。
「まさか先輩にこんな弱点があったとは。意外です。美人で頭もいいし、先輩の弱点なんてコミュニケーション能力のなさくらいだと思ってましたから」
私の最大の弱点なら、目の前で可愛く笑ってるけど。
そう真実を口にしてしまったら、動揺した羽田に腕を離されてしまいそうな気がする。
「なんだったら私が先輩に泳ぎ方、教えてあげてもいいんですよ?」
だったら手取り足取り教えてもらおうかな、と言いたくなるのを我慢する。今日の私はいつも以上にだめだ。
水着姿の羽田に夢中すぎて、余計なことばかり口走りそうになる。
「……調子に乗らないで」
「乗ってませんってば。先輩、ひどーい」
きゃはは、と笑って、羽田は水の中でそっと私の腹部を撫でた。いきなりのことに驚いてびくっと反応してしまうと、羽田がまたからかうような笑みを向けてくる。
「水の中だと、先輩はやり返せませんもんね?」
ぷつっ、と、私の中でなにかが切れた。
これはもう、羽田が悪い。
「羽田」
離されてしまわないように、まずは右手でぎゅっと羽田の腰を拘束する。そして左手を、そっと羽田のへそに伸ばした。
「ひっ!?」
可愛い声を出しそうになった羽田は、唇を噛んで必死に我慢した。周りに聞かせたくはないから、私としてもありがたい。
羽田の小さなへそを、そのまま左手の人差し指でつつく。声を我慢しているからか、それとも羽田が敏感なのか、羽田の身体は何度もびくびくと反応した。
「せっ、先輩、わ、私が悪かったですから……っ」
涙目の羽田に言われて、名残惜しさを感じながら羽田のへそを解放する。
「さすがに今のはやりすぎですからね!?」
「……先にやったのは羽田」
「わ、私じゃなかったら、ガチで怒るかもしれないレベルですよ!?」
「羽田にしかしない」
こう言えば羽田は、喜びと恥ずかしさが混ざったような顔をして黙るのだ。予想通りの反応を見せてくれた羽田は、私の肩に顔をうずめた。
「夏鈴先輩の人たらし……」
「羽田限定だと思うけど」
「そういうのが、一番狡いんです!」
「でも、そういうの、好きでしょ」
ああ、だめだ。これ以上こんなやりとりを続けてしまったら、今夜、羽田を帰せなくなってしまう。それはまずい。
「そろそろウォータースライダーに並ぶ? それとも、なにか食べる?」
動揺していないふりをして、羽田に尋ねる。あくまでもこれは冗談の延長線にあるものであって、それ以下でも以上でもないのだと、羽田に勘違いしてもらうために。
「……ウォータースライダー行きます。あれ、結構勢いよく落ちますから。先輩、怖いって言って私に抱き着くはめになりますからね!」
羽田に抱き着けるのなら、怖い思いをする甲斐があるというものだ。
「羽田こそ、怖がってきゃーきゃー叫ぶんじゃない?」
「私はジェットコースター系とか平気なタイプですから!」
強がる羽田と一緒にプールを上がる。すると水着が濡れたせいで、先程よりも羽田がなまめかしい姿になっていた。
スカートタイプな分、太ももにはりついた水着が、なんとも言えない色気を放っている。
プールって、最高……。
「ほーら、行きますよ、先輩!」
「危ないから走らないで」
「分かってますって」
早足の羽田に引っ張られ、ウォータースライダーの列に並ぶ。30分以上は待ちそうだけれど、目の前に水着の羽田がいるのだから、何時間待ったって問題はない。




