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【百合】天笠夏鈴は堕とされたい~健気で一途な後輩に堕とされる百合の話~  作者: 八星 こはく
第1章 羽田は、世界で一番可愛い

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第14話 このいちゃいちゃには正当性がある

 明日、私は羽田とプールに行く。

 羽田が、私が選んだ水着を着て、私と一緒にプールに行く。


 おそらく明日、私はこの地球上でもっとも幸福な人間だろう。明日に備えて塾や学校の課題を進めなければいけないことは分かっているのに、浮かれ過ぎてなにも手につかない。


 羽田が誘ってくれたプールは、郊外にある大きな屋内プールだ。日焼けする心配もないし、中に大きなフードコートがあるおかげで食事にも困らない。

 流れるプールやウォータースライダーもあって、一日中いても飽きないと公式ホームページに書いてあった。


「……ちょっと待って?」


 羽田の水着姿をどうにかして写真にもおさめたい……なんて考えていたら、私はとんでもない事実に気づいてしまった。

 プールへは電車に乗って向かう。電車で移動する時、水着を着る人間なんていない。

 つまり私は明日、羽田と一緒に更衣室で着替えることになる。


 行きは服の下に水着を着ている可能性もあるけれど、帰りはそういうわけにはいかない。

 つまり最低でも1回は、羽田が私の隣で裸になるわけである。


「うわ……やばい、かも」


 想像するだけで全身が火照ってしまう。明日の私は、地球上どころか宇宙上で最も幸福な生物かもしれない。





「先輩!」


 待ち合わせ場所に到着すると、既に羽田が待っていた。真っ白な日傘をさして、黄色と白のギンガムチェックのワンピースに身を包んでいる。

 麦わら帽子をかぶった羽田は、まるで雑誌の表紙のように絵になっていた。


「ごめん。待った?」

「はい! でもまあ、待ち合わせ時間まではまだ10分もありますし」

「でも、ごめん。暑かったでしょ」


 近くのコンビニででも涼んでいればいいのに、羽田は暑い中、駅前で私を待ってくれていたのだ。

 きっと私がきた時に、すぐ見つけられるように。


「電車乗る時間長いし、ジュースでも買っておく?」

「はい!」


 羽田が頷いたのを確認してから、近くの自動販売機でスポーツ飲料を2本購入した。


「そろそろ電車くるし、行こう」


 ちょっとだけ迷った後、私から羽田の手を握った。驚いたように目を見開いた羽田が、数秒の後、とびきり幸せそうな顔で笑う。


「今日、最高の一日にしましょうね!」


 羽田の笑顔を見られただけで、私にとってはもう十分最高だ。


「浮かれて溺れたりしないようにね」

「しません! 私、小さい時は水泳習ってたんです。だからちゃんと泳げますから!」


 ぎゅ、と羽田が強く手を握り返してくる。手を繋いだまま、私達は駅の改札をくぐった。





「わーっ、本当にすごい人ですね……」


 夏休みなだけあって、大型プールには多くの客がきていた。家族連れやカップル、友人同士のグループなど、客層は様々である。

 この施設の目玉でもあるウォータースライダーには長蛇の列ができていて、滑るまでにかなりの時間がかかってしまいそうだ。


「とりあえず着替えましょうか。更衣室あっちですよ」


 羽田に手を引かれ、興奮しているのを悟られないように歩き出す。

 更衣室の中もかなり混雑していて、空いているロッカーを探すだけで一苦労だった。

 荷物をまとめると、羽田が素早くワンピースを脱いだ。やはりその下には既に水着を着ている。


「どうですか、先輩。似合います?」


 水着姿を見せつけるかのように、羽田が近寄ってきた。いつもは見えない谷間がはっきりと見えていて目に毒だ。

 凝視しているのがバレないように、わずかに目線を逸らしながら凝視する。やっぱり、妄想と実物では破壊力が違う。


「似合ってる」

「ですよねー! 我ながら似合ってるなって思ってたんです」


 今すぐ羽田の写真を撮りたいけれど、更衣室内で写真を撮るわけにはいかない。私もすぐに服を脱いで水着姿になった。


「先輩もやっぱり、似合ってますね」

「ありがとう」

「じゃあ、行きましょうか! 時間がもったいないですし!」


 貴重品や着替えをロッカーに入れ、鍵をかけて更衣室を出る。外に出た瞬間、周囲からの視線を感じたのは気のせいじゃないだろう。

 周りを見渡すと、多くの男達が羽田を見ている。私の羽田なのに。


「羽田」

「どうかしました? あっ、最初からウォータースライダー並びます?」

「そうじゃなくて……気をつけてね。羽田、ナンパ男に狙われそうだから」

「……気づいてなさそうなので教えてあげますけど、先輩もですからね」


 溜息を吐くと、羽田は私の腕をぎゅっと抱いた。いつもと違って直で感じる柔らかい存在に、鼓動が速くなる。


「こうやっていちゃいちゃしてたら、さすがに誰も声なんてかけられないですよ、きっと」


 羽田の言葉は、私にとって危険すぎるほど魅力的だった。

 声をかけられないようにするため。そう言い訳すれば、羽田といちゃつくことに正当性を持たせられるのだから。


「ですよね、先輩?」

「一理ある」


 深く頷いて、私は羽田の胸を堪能することにした。堂々としていれば、羽田だって私の脳内が邪な願望に溢れていることには気づかないはずだ。


「行きましょ! まずはそうだ……あそこで! 比較的空いてますし!」


 羽田が指差したのは、特徴のないプールだった。ウォータースライダーや流れるプールに比べれば、確かに人が少ない。

 最初に入るプールにはぴったりだろう。


「うん、行こうか」


 歩きながら、プールの深さはどれくらいだろう、ということが少し気になってしまう。

 子供も遊んでいるようだからそれほど心配はしていないが、私は泳げないのだ。


「夏鈴先輩。プールって、超楽しいですね!」


 しかしそんなことは、プールに入る前からはしゃぎきっている羽田の前では、些細すぎる問題である。

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