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5話 迷い人②

  "迷い人"……ディランのことを村長はそう呼んだ。


 その呼び名は、この村に伝わる古い伝承に由来するらしい

 

「村長、その伝承ではイスフィールについてどう伝えられているんだ?」


「イスフィールという国は、この世界では存在しておらぬと言うことは確かじゃ。即ち、迷い人もこの世界の者ではないとされておる。伝承の中で、迷い人がどうなったのかまでは……わしも若い頃に耳にしただけでな、詳しくは覚えておらんのじゃ」


 村長は申し訳なさそうに眉根を寄せる。


「じゃが、ハンターギルドを構える商業都市カレドニアなら、詳しい伝承も残っておるかもしれん」


「商業都市……」


 (やはり、聞いたことがない。村長の言う通り、この世界自体が俺の知らない世界だと考えるべきか……)


 思案するディランに、ロザミラが声をかけた。


「ディランさん、そのハンターギルドからもうすぐ依頼を受けた者が訪れるはずです。その方に話を聞いてみてはいかがでしょう?」


「ああ、確かその、カレドニアからでしたか。他にあてもありませんし、そうさせていただこうかな……それまで、この村に居させて欲しいのだが、いいだろうか?」


「もちろん、構いませんぞ。しかし、この村に宿はありませんでな。狭いですが、わしの家を使っていただくのはどうじゃろう?」


「それは、有難いですが、迷惑では?」


「なに、子供達や村の危機を救っていただいたのです。気にせず、使ってくだされ」


「そうですよ、おじ様。私とお祖父様だけじゃ広すぎて勿体無いぐらいですから」


 シェリーが横からひょこっと顔を出す。


「そう言ってくれるなら、お言葉に甘えさせていただこうかな。村長、少しの間だがお世話になります」


 ディランは村長へ頭を下げる。


「しかし、何もせずに居候というのも気が引けます。何か出来ることは?」


「いや、村の恩人に対してそのような『それなら!』」


 と、村長の言葉に割り込むようにロズが声を上げる。


「俺たちに、戦い方を教えてくれないか!おっさんが熊の魔獣と戦ってた時の動き、凄かったんだ!頼むよ!」


「ロズ!失礼でしょ!ディランさん、すみません」


「いえ、だが……戦い方か。この村で戦える者はどれぐらいいるんですか?」


「それは……魔獣の襲撃のせいで、この村には戦える者がほとんど残っておらんのです。大人が十人、それからロズ達と歳の近い者達が十人ほどといったところで」


「怪我人もいるし、街へ移住した者もいて、村の人口自体が減っているんです」


 ゼラルドが村長の話を補足するように説明する。


「それに、俺も戦い方を教えて欲しい。今の村の状況で魔獣や、賊に襲われたら……」


「確かに、この状態で村が襲われたら、その被害はどうなるか……村人全員で街に移住するというのは?」


 ディランの問いに、その場の全員が俯く……


「それは、わしも考えたんじゃが……ゼラルドの母親をはじめ、怪我のせいで動くことが儘ならぬ者もおる。その者達を連れて行くにしても、簡単な事ではなくての」


 (それもそうか、そもそも村を捨てて移住することに抵抗があるだろう)


「わかりました。では俺でよければ、戦い方や身の守り方を教えましょう」


「お!やった!流石おっさ……げふっ」


 テンションを上げるロズのみぞおちに肘鉄を食らわせるロザミラ。

 その動きには無駄がなく、流れるようで……


「いい加減になさい、ディランさんでしょ」


 (ロザミラさん、やはり只者じゃないな)


「ああ、ロザミラさん、構わないよ。ここじゃ、ただのおっさんなのは間違いない、気にしてないから」


「そうは参りません、命の恩人を前に……親として恥ずかしい限りです」


 ロザミラはそう言って、目尻を下げて困ったような表情でロズを見つめる。


「ほら、おっ……ディランさんもいいって言ってるし、あ〜、いや、気をつけるよ」


 ディランからはロザミラの表情は見えなかったが、ロズは母親の顔を見て。しゅんと縮こまりながら返事をする。


「さて、戦い方を教えるとは言ったが……訓練所や訓練用の盾や木剣、棒でもいいんだが、そういった物はあるだろうか?」


「それでしたら、村の自警団で使っていた物があるわい。場所は、わしの家の前の広場を使ってくだされ。しかし、本当にお願いしてもよいのですかな?」


 村長の問いにディランは頷いて、右手で頭を掻きながら答える。


「ええ、構いませんよ。俺に出来ることもそれぐらいでしょうし、タダで寝泊まりさせてもらうのも申し訳ないので」


「ふむ、わしらとしても助かるしのぅ……わかりました。村の者達にも訓練に参加するように声をかけておきましょう。今日の所はゆっくり休んでくだされ」


「それじゃ、部屋に案内するね。お祖父様、私の隣の部屋は使ってもいい?」


「ん?あの部屋なら綺麗じゃから構わんが、良いのか?」


「うん、良いの。ほら、おじ様、こっちですよ」


 (なんだ?今のやりとり、少し気になるが)


「ああ、すまん。案内を頼む」


 そのまま、客室を後にするディランとシェリー……そんな中、村長が静かに口を開く。


「迷い人の伝承か、あの者が本当にそうだと思うか?」


 その問いに、ゼラルドが答える。


「あの森の中で、一人で迷っていたこと、ハンターギルドのことを知らない……どれも不自然です。教国の者だとしても、ここに一人で来る理由がわかりません」


「確かにのぅ」


「何にしても、あの方に助けていただいたことに変わりはありません。困っているのなら、少しでも力になりたいですが」


 ゼラルドは目を伏せながらそう呟く。


「俺も賛成だ、もし本当にそのぅ、迷い人?だったら、おっさんは右も左もわかんねーってことだろ?どこにどんな村や街があるとか、お金だって持ってねぇんじゃねえか?」


 ロズの「おっさん」の部分でピクリと反応したロザミラだったが、ロズの言っていることに同意する。


「そうね、確かに……その、イスフィールという国、違う世界から来たというのが事実なら、こちらの通貨も持っていないでしょうし、常識についても分からないことばかりじゃないかしら」


「うむ、伝承についても作り話じゃと思っておったんじゃがのぅ……本当に迷い人が存在しておるのか、ディラン殿を疑う訳ではないが、その辺りもこれから確認していかねばの」


 村長の言葉に各々が頷いて、この日の話し合いは終わった。

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