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56話 思わぬ再会

 ――クリスたちがマナウルス教国に囚われ、マナの研究を受けていた頃。


 ディランは商業都市カレドニアで、ローレンス家の協力を得ながら教国に関する情報を集めていた。


 その傍らで、カティアの魔法訓練に付き合い、傭兵として簡単な依頼をこなしながら、調査の報告を待つ日々を送っている。

 

 今日も仕事を探しにギルドに向かおうとしていた。


 ――種火の燭台、玄関口


 階段を降りて、女将さんに声をかけようとして見知った顔を見つけた。


「お、フラムにチュチュ……二人ともどうしたんだ?」


「……っ、別に、前を通りかかったから女将さんに挨拶しにきただけよ」


 フラムが少し不貞腐れた様子で言うと、チュチュリーゼが『やれやれ』といった感じで首を振る。


「おはよ!おじさん、久しぶり〜」


「ああ、おはよう、二人がここにくるなんて珍しいな。通りがかったってことは、仕事か?」


「ん〜、そういうわけじゃないんだけど……おじさんにも用があったし」


「俺に?」


「そうそう、カレドニアに来てからおじさんがなかなか遊びに来てくれないからって、フラ……むがっ」


 チュチュが何かを言おうとして、フラムが咄嗟に口を塞いだ。


「なんでもないのよ、ほら、チュチュの店にも、顔出してないんでしょ?暇なら連れて行ってあげるわよ」


 (チュチュの店か、確か……魔獣の素材を使った装備とかを作ってるって言ってたが)


「……そうだな、今日は特に予定もなかったし、行ってみるか」


「お!乗り気だね〜、いいよ!案内したげる」


 (相変わらず、元気なやつだな……)


 溌剌とした笑顔を見せるチュチュに、そんなことを思いながら女将さんに声をかける。


「頼むよ……女将さん、行ってくる」


「行くならさっさと連れて行っとくれよ、朝から騒がしいったらないよ」


 その口調とは裏腹に、女将さんの表情は明るかった。


「ふっふ〜ん、そんなこと言って、女将さんもウチらの顔が見れて嬉しかったでしょ?」


 チュチュがニヤニヤしながら女将さんに詰め寄る。


 (あの女将さん相手に、なんて態度を……)


 ディランは内心ヒヤヒヤしながら、その様子を横目に見ていた。


「ほんとに、この子は……昔から口を開けば調子の良いことばっかり言って」


 だが、女将さんはそんなチュチュに怒るでもなく、悪戯っ子を嗜めるように微笑んだ。


「ほら、行っておいで」


「はーい!」


 チュチュは元気よく返事をし、フラムは小さく会釈をしてから先に外へ出ていった。


 ディランもそれに続き、宿の扉を開く。

 


 ――街に出ると、朝陽を浴びた石畳の光が飛び込んだ。その眩しさに目を細める。


「それで、チュチュの店ってどの辺なんだ?」


「中央通りをちょっと外れたとこ!大通りだと賑やかすぎて集中できないからさ〜」


「……集中?」


「そ〜だよ、良いもの作るには、良い環境が大事なの!」


 そう答えると、チュチュは満足そうに胸を張った。


 その少し前を歩くフラムがチュチュの方へ振り返る。


「……それ、ヴォスさんの受け売りでしょう?」


「いいじゃない、ウチもそう思ってるんだから」


「えっと……その、ヴォスさんて誰なんだ?」


「ん?ヴォスはウチの親方だよ。まぁ、父親でもあるんだけど」


「父親で、親方なのか……」


「うん、魔獣の素材を扱うのは難しいからさ、ウチも親方に教えてもらってるの」


「へぇ、親から技術を学べるなんていいじゃないか」


「ふふん、親方はそういう"魔装具"を作るのが専門だけど、お母さんは日用品とかで使う"魔道具"を専門にやってるの」


 得意気にチュチュは続ける。

 

「それに、このハンマーもフラムの剣も、もうウチが全部仕立ててるし」


「……ああ、そういえば」


 ディランはフラムの腰に下げられた剣へ視線を向ける。


 鞘からわずかに覗く刃は、淡く赤みを帯びている。装飾は控えめだが、鍔の意匠には炎を思わせる曲線が刻まれていた。


「その燃える剣、どうやって作ってるんだ?」


 フラムは静かに柄へ手を添える。


「これは、あたしが……倒した炎鱗蜥蜴(サラマンダー)の素材を使ってるのよ」


「そうそう、ウチの自信作なんだから」


 チュチュが割り込む。


「炎鱗蜥蜴の鱗を粉にして刃に練り込んでるの、風との摩擦で炎が発生する特性を利用したんだよ」


「ほう……」


 ディランは興味深そうに頷く。


「触ってみてもいいか?」


 フラムが小さく頷く。


 ディランは剣を抜き、構える。


 刃は薄く、しなやかで、軽く振り抜いた瞬間、刀身は赤く熱を帯びた。


「……凄いな」


「でしょ〜」


 チュチュは自分の力作を褒められて、誇らしげに胸を張る。


 ディランは軽く笑い、剣を返した。


「扱いやすいし、あたしも気に入ってるのよ」


 フラムがそう言って剣を鞘に収めると、チュチュは腕を組んでふんと鼻を鳴らした。


「炎竜の素材もあれば、もっと凄いのが作れると思うんだけどね」


「さすがにあんなのは一人じゃ仕留められないわよ」


「炎竜か……」

 

 (迷宮で見たドラゴンタイプは、優に家一軒分は超えてたからな……それを仕留めるのは命懸けだろう)


「わかってるって、そんな危険を犯してまで素材を集めて欲しいなんて思ってないから」

 

 そんなやり取りをしている間に、三人は工房の前に辿り着いた。


 中に入ると、壁には様々な形状の武器や防具が立てかけられ、商品棚には様々な道具が陳列されていた。


「おお、見たことないもんが一杯ある……」


 ディランが呟くと、店の奥から小柄でガタイの良い男が姿を見せる。


「うちの店は一品物ばかりだからな……いらっしゃい、娘の知り合いか?」


「え、ああ、そんなところです」


 その男の前にチュチュリーゼが歩み寄る。


「ほら、親方。この人がエルデリアでクローベアを倒したおじさんだよ」


「おん?こいつが……」


 親方は眉を釣り上げながら、値踏みするようにディランを覗き込む。


「……ふむ、この体格なら調整はほとんどいらんな、チュチュ、"あれ"を持ってきてやんな」


「あいよー」


 チュチュリーゼが奥の部屋へと姿を消していったが、ディランは状況が掴めず、フラムに助けを求めた。


「えっと、どういうことなんだ?」


「すぐにわかるわよ……黙って待ってなさい」


 (待ってろって言われても……)


 それからすぐ、店の奥からチュチュが戻ってくると、その両手に大きな白い布に包まれた"何か"を持ってきた。


「お待たせ〜!はい、おじさん!これ、あげる!」


 それをグイッとディランに手渡すと、中を確認するように促す。


「あげるって……」


 言われるがまま、布を解いていくと……白布の隙間から微かな光沢が覗いた。


 指先に伝わる質感に、胸がざわついた。


「これは、盾?」


「正解!それに、なんだか見覚えがない?」


 (見覚えがないかって……形は、俺の知ってる盾とは少し違う形状だが……この手触りは……っ!)


「まさか、いやっ……どこでこの素材を!?」


「ふふ〜ん、気づいた?クローベアを倒した洞窟に落ちてた盾の残骸を集めて、型を作り直したんだ」


「多分、あんたのだと思って、回収しておいたのよ」


 そこに、フラムが小さく呟く。


「まじか……粉々に砕けちまって、もうお別れだと思ってたのに」


 ディランは懐かしい仲間との再会を喜ぶように、盾をそっと手に取る。


 冷たいはずの金属が温かく感じた。


「ありがとう、二人とも」


「にひひ、親方も手伝ってくれたんだよ」


「親方さん、本当に……ありがとう」


「良いってことよ、初めて触る素材だったし、俺も楽しめたからな。それで、お前さん、クローベアの爪は持ってるか?」


「クローベアの爪?それなら、持ってるが」


 そう言って、革袋の奥に詰めていた爪を二本取り出す。


「よしよし、そんじゃそれをちょいとかしてくれるか?」


「え?それは構わないが」


 二本の爪を手渡すと、親方は慣れた手つきでディランの盾に取り付けていった。


「っしゃ、これで完成だ!」


 その様子を見ていると、盾の甲に鋭い二本の爪が装着されていく。その姿は――

 

「まるで、クローベアの爪腕みたいだ」


「おうよ、クローベアの頑丈で鋭い爪を取り付けることで、攻守ともに盤石の代物になっただろ?」


 親方は完成した自分の武器に満足気に頷くと、ディランに盾を返した。


「ほら、持ってきな」


 それを受け取り、右腕に取り付ける……


 (形は変わっても、なんだかしっくりするな)


「……っと、そうだ、お代を払わないと」


「バカ言え、持ってけって言ってんだろうが」


「は?いや、そういうわけには……」


「素直に受け取ってよ、おじさん……遅くなったけど、村を助けてくれたお礼だと思ってさ、フラムからのお願いでもあるんだから」


「ちょっと、チュチュ!余計なこと言わないで!」


 フラムが慌てて声をあげたが、その顔はみるみる赤くなっていた。


「っ!もう、渡す物は渡したんだから、あたしは帰るわよ!」


 そう言い残して、フラムは店から出て行ってしまった。


「ほらほら、おじさん!追っかけてちゃんとお礼言ってあげてよ」


「あ、ああ……行ってくるよ。親方さん、チュチュも、これ、大事に使わせてもらうよ」


「そんなこたぁいいから、早く行きな!」


 親方に急かされ、ディランはフラムを追って店を出た。

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