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46話 お嬢様のお願い

 ――


「……とまぁ、このお嬢さんの護衛でここに来たんだが、ゼラルドが助けに入ってくれて助かったよ」


「そうでしたか、でも、ディランさんの速さなら問題なく助けられたんじゃないですか?」


「まぁ、俺が踏み込んだ瞬間にはお前さんが飛び込んでくれてたからな」


 ディランの身体強化の魔法で加速すれば間に合う距離ではあったが、それより先にゼラルドが反応して助けに入ってくれたことで、カティアは助かった。


「あ、あの!わ、わたくし……カティア・ローレンスと申します。た、助けていただき、ありがとう存じます!」


 そこへ、カティアがあたふたしながら頭を下げた。


「うん、怪我が無くて良かった。だけど、周りには気をつけないと……ローレンス家の人なら尚更ね」


 ゼラルドは優しく言い聞かせるように話しているが、まるで妹の心配をする兄のような感じだった。


「……ごめん、なさい」


 ゼラルドの言葉にカティアは俯いて声を窄めてしまう。

 そんな彼女の前にイシュナンテが、腰に差した剣の柄に手を当てながら躍り出た。


「……馴れ馴れしい」

 

「え……ああ、俺が彼女に説教することじゃありませんでしたね。あなたがしっかり周りに気を配っていればこうはならなかったでしょうし」


「なっ……」


「おいおい、二人とも初対面でそんな……」

「ディランさんも、護衛対象から目を離して話し込むなんて、どういうことですか?」


「うぐっ……」


 (まったくその通りだけども)


「それは、面目ない……」


「ま、待ってください!二人に非はありませんわ。わたくしの不注意ですもの」


「カティ……」

「お嬢さん、いや、護衛中に話に夢中になっちまった俺のせいだ」


「はい、ディランさんの言う通りです」


「ぜ、ゼラルドくん?なんか辛辣になったね」


 (村にいた時はもっとこう、好青年だった気がするんだが……あれか、これが反抗期?)


「いえ、ディランさんらしくない不注意だったので、ここはきちんと言うべきだと思って」


「……なるほど」


「お、おい!あんたら、大丈夫か!?」


 そこに、走車の御者が慌てて声をかけにきた。


「急に前に出てくるから驚いたよ!」


「あ、いえ!申し訳ありませんでした……わたくしの不注意で」


「いやぁ、怪我がないんならいいんだ、悪いが荷物を積み直すのを手伝ってもらえないか?」


 御者はカティアの様子を見ると、安心したように胸を撫で下ろした。


 (人の良い御者のようで良かったな、怒鳴り散らされてもおかしくないってのに)


「ええ、もちろんですわ!」


 カティアは自分の服が汚れることも厭わず、率先して積荷を運ぶのを手伝っていた。


「カティ……これは、私がするから」

「いいえ、わたくしの責任ですもの」


 イシュナンテがそれを止めようとするが、お嬢様は聞く耳を持たずに運び続ける。


「やれやれ、俺の知ってる金持ちとは全然違う娘さんだ……ゼラルド、すまんが一緒に手伝ってくれないか?」


「確かに、真面目な方ですね……もちろん、手伝いますよ」


 ディランとゼラルドに加え、フラミアやローゼスも手を貸してくれ、すぐに積荷は運び終えた。


「すまんな!嬢ちゃんも気をつけてな!」


 ディランたちは御者を見送り、一息吐く。


「ふぅ……さて、お嬢様、あちらのお店に行きたいんでしたね?」


「え、ええ……その少し待ってくださる?」


 カティアはチラチラとゼラルドの方へ視線を向けながら、少し緊張した表情を見せる。


「ああ、俺は構わないよ」


「感謝しますわ」


 そのまま、ゼラルドの元へ歩み寄り、意を決したように顔をあげた。


「ぜ、ゼラルド様っ、少し、よろしくて?」


 (まるで好きな男に告白するみたいな勢いだな……)


「え?うん、何かな?」


「あ、あなたも、わたくしのシュバリエ選考会に参加しますの?」


「シュバリエ?そう言えば、商業ギルドで言ってましたね。皆さん、その選考会が終わるまでカレドニアには行かないとか……俺は参加しないよ。そもそもどうやって参加したらいいかも知らないんだ」


「そう、ですの……でしたら!今からでも参加してはっ」

「カティ……そんな弱そうなやつ、シュバリエは務まらない」


 カティアの言葉を遮るように、イシュナンテが横槍を入れた。

 

「弱そう、ね。君は彼女の付人かなにかなのかな?」


 イシュナンテの言葉に、ゼラルドは目を細めながら問い返す。

 

「……私は、カティを護る剣」

「ちょっと、イシュナンテ!失礼でしょ、おやめなさい!」

「カティこそ、彼を選考会に参加させてどうするの?痛い思いをさせるだけ……」


 (なんだかややこしくなりそうだな……何故かお嬢さんはゼラルドを選考会に出したいみたいだし……はっ!)


「そ、そうだよ。お嬢様、名だたる強者が集まる選考会に飛び入りで参加させるなんて危険過ぎますよ」


 (俺の仕事(・・)にゼラルドを巻き込まんでくれよ〜)


「ディランさんまで……わかりました。どのみち、そのシュバリエが決まるまでカレドニアには行けないようですし、俺も参加しましょう」


 (ゼラルドぉ!なんでそうなる!?)


「村にいた時よりも腕を上げたってところを見せてあげますよ」


「あら、あらあら、青春ねぇ」

「ほんとに、ゼラルドったらよっぽどディランさんに良いところを見せたいみたいね」

「だっはっは!面白そうじゃねぇか!」


 フラミアやレイナたちも側で盛り上がっていた。


「やっ!……ん、コホン、良かったですわ。では、明日の朝、ローレンス家が所有するこちらの……」


 一瞬喜びそうになったのを誤魔化すように咳払いをして、選考会の説明をするお嬢様。そんな彼女を見つめながら、ディランはイシュナンテと顔を合わせ、二人揃って肩を落としていた。


「はぁ、なんてこった……」

「……まったくです」

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