3話 エルデリア村
洞窟の入り口には、先ほどの少女と怪我をした青年が座り込み、ロズたちを待っていた。
青年の腕の傷は、彼女が処置をしたのか包帯のような布が巻かれている。
近づいてくる気配にニ人が一瞬警戒したが、ロズの顔を見て安堵の表情を浮かべる。
「良かった!無事だったのね!」
「おう、あれぐらい何てこたぁねえよ!」
ロズが「余裕、余裕♪」と少し調子に乗った様子で話す。
それを聞いたシェリーはキッと目を釣り上げる。
「バカなこと言わないでよ!その人が助けに入ってくれなかったらロズも私たちも死んでたかもしれないのよ!村のためだって、いくら何でも無謀よ!」
チラッと、こちらの方を見ながらも凄い剣幕でロズに言い放つ。
「あ、ああ、わかってるよ。だけど、トドメは俺が刺したんだぜ!なあ!おっさん!」
シェリーの勢いに怯みながらも自分の頑張りを主張する。
(確かに、ロズがいなければ倒しきれなかったのも事実だし、ここは少年を立ててやるか)
「お嬢さん、彼がいなかったらもっと苦戦してたかもしれない。確かに無謀だと思うところもあるが、彼の協力があって助かったよ」
それを聞いてロズがニヤニヤしながらシェリーに話しかける。
「ほ、ほらな!俺だって……」
と、自慢するように話を続けるロズを尻目にシェリーがこちらに声をかける。
「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます。彼、ゼラルドの傷もそこまで深くはなく全員無事に村へ帰れそうです。あなたは、どうしてここへ?街のハンターギルドからの応援は数日はかかると聞いていましたが……」
(ハンターギルド?聞き慣れない言葉だが)
「ああ、いや。俺はここで迷ってたところでね、休もうと、この洞窟へ入ったらこの状況だったんだが、大事に至らなくて良かった……お嬢さんの言うハンターギルドとは関係ないんだが、どんなものなんだ?」
「え……っと、ハンターギルドのことを知らないんですか?」
シェリーは少し驚いたように聞き返す。
(そんなに常識的な事だったのか?)
「恥ずかしながら、街から離れて生活する時間が長くてね、世間の常識からは疎くなっちまってな」
「それは……いえ、そうですね。ハンターギルドと言うのは、先ほどの熊の様に魔獣化した物の駆除、捕獲などを生業にする者を集め、彼らへの依頼を斡旋、報酬を支払う場と言ったところでしょうか」
(なるほど、あの化け物たちを魔獣と呼んでいるのか?それの対応を民間でやっていると……イスフィールでもそんな話は聞いたことがないが)
「なるほど、俺のいた国でも聞いたことはないが、民間の騎士団と言ったところか」
俺の言葉を聞いて、三人の顔が強張る。
「お、おい!おっさん、あんた、国にいたってとこは教団の関係者なのか?」
「教団?俺のいた国はイスフィール王国なんだが、宗教とかそう言うのは無かったはずだが」
さらに三人は首を傾げる。
「イスフィールなんて国は聞いたことがないぜ?俺たちが知ってるのは、マナと魔獣を信仰する、マナウルス教国てやつだよ」
(イスフィール王国を知らない?マナウルスなんて国も聞いたことが無いが……)
「マナウルス?それも聞いた事がないな」
お互いの言うことに違和感を感じ、何とも言えない沈黙が続く。
その沈黙の中、今まで休んでいたゼラルドが口を開いた。
「何にしても、この人のおかげで助かったんだ。村に案内するんだろ?ならそろそろ行こう。俺はもう、大丈夫だ」
「そうだな!難しいことは村に着いてから考えよう!爺さんに聞いたら何かわかるかもだしな」
ゼラルドの言葉に、ロズが気持ちを切り替える様に声を張る。
それから、全員で洞窟を出て歩き始める。
しかし、歩き始めてすぐにシェリーが、大事な事を忘れていたと言わんばかりディランに声をかける。
「そういえば、おじ様!自己紹介をするのを忘れていました。私はシェリーと言います。そして、この無駄に元気そうなのがロズ……『無駄にとは何だ!』……もう、うるさいわね」
ロズがシェリーの言葉にすかさず突っ込む。
「俺は、ゼラルドと言います。この二人の兄貴分のようなものなんですが……傷を負って、足を引っ張ってしまいました」
言い合いを始めた二人を眺めながら、ゼラルドが申し訳無さそうに自己紹介する。
「俺はディランと言うんだが……ゼラルド、その傷はあの熊を相手に、二人を守るために出来たんじゃないのか?それなら、兄貴分として立派にやってるじゃないか。そんなに卑下するもんじゃない」
ゼラルドはディランの言葉に目を見開き、少し俯いて言葉を続ける。
「ありがとうございます。ですが、ディランさんが来てくれなければ、私たちは……」
そう、ディランがたまたま遭遇したことで助かったが、あのままでは誰かが命を落としていてもおかしくない状況だった。そのことを理解しているゼラルドは、自分の弱さに歯噛みしていた。
その様子をディランは複雑な心境で見つめる。
(昔の俺を思い出すな)
村までの道中、四人はお互いのことを話しながら歩いた。
その話の中で、どうしてロズ達があの洞窟にいたのかもわかった。
ロズ達の住むエルデリアという村に、あの熊の魔獣が頻繁に出現し、村の食糧を荒らすようになったのだそうだ。
一説によると、魔獣化した生き物は、知性も発達すると考えられており、クローベアも自分で食糧を探すよりも村の蓄えを奪う方が効率が良いと学んだのだろう。
しかし、いつまでも村の食糧を奪われ続け、魔獣の脅威に怯え続ける生活など許容出来るものではないだろう。
ロズ達は、村の自警団として魔獣討伐に名乗りをあげたが、村長含め多くの村人が反対。
ハンターギルドの応援を待とうという話でまとまった。
はずなのだが……
「どうして三人だけで、こんな無謀な真似をしたんだ」
ディランがそう告げると、三人とも罰が悪そうに俯く。
「いや、だってよ!村のために、何とかしたかったんだよ」
「ロズが、一人でも行くって聞かなくて」
「危険なことをするコイツらをほっとけなくて、止めても聞きませんし」
それぞれが、まるで言い訳でもするように言葉を絞り出す。
「村を守りたいロズの気持ちは立派なもんだと思うが、着いてきた二人も、引き摺ってでもこいつを連れて帰るべきだったんじゃないか?三人とも戦いに慣れてるわけでもないし、まだ子供だろうに」
ディランの言葉に三人は更に肩を落とした。
そう、ロズとシェリーは15歳、ゼラルドは17歳らしい。村の皆が反対しているにも関わらず、ここまでするとは……これが若さか。
ディランが少し悟りをひらき始めたところで、村の入り口が見えてきた。
「さあ!もう説教はいいだろ?あれが俺たちの村さ!」
四人は、エルデリア村に到着した。




