27話 カレドニアへ
フラムの母、フラミアとチュチュにフラムと二人で部屋にいたところを見られたディラン……
「フラムの母親に俺は何を言ってんだよ……」
自分でもどうしてそんな事を口走ってしまったのか戸惑ってはいるが、フラムが村の皆や迷い人である自分の事を気にかけてくれるその優しさが、彼女の魅力だと感じているのは確かだった。
「まぁ、今更気にしてもしょうがないか。とりあえず、ご飯まで休むか」
一人で呟きながら布団の上に寝転がり、目を閉じた……
……コンコン…扉を叩く音で目が覚める。
「んが、結構寝ちまったか?今開ける」
ガチャリ…扉を開けるとチュチュが立っていて、少し離れた壁にもたれながら腕を組み顔を背けているフラムがいた。
「お、やっと開いたー、おじさん寝てたでしょ!」
「ああ、良く寝たみたいだ。待たせたか?」
「待ったよー、扉を三回も叩いたんだから!」
(三回?)
それが多いのか悩み、首を傾げるディラン。ここでフラムがこちらを向いて口を開いた。
「もう、たいして待ってないわよ。ふざけてないでさっさと食事にしましょ」
そう言って、スタスタと階段を降りて宿の食堂に向かうフラム
「むー、置いてかないでよー。ほらおじさんも行くよー」
宿の食堂では既に宿泊客で賑わいを見せていた。食堂の隅の机にフラムが陣取っていて、そこへチュチュと一緒に腰掛ける。三人で食事をしながら、今後のことを確認する。
「それで、明日のことだけど、起きたらここへ集合して、朝食が済んだら出発するってことでいい?」
「ああ、俺は大丈夫だ。アルフテッドさんや警備隊の皆に迷惑はかけられないからな。なるべく早く起きるさ」
「ん〜、ウチも〜それでいいよぉ〜起こしてね〜フラムぅ〜」
いつも以上に語尾が伸びてふにゃふにゃしてるチュチュを見てみると、その頬はうっすらと紅潮していた。
「まったく、すぐ酔うんだから飲まなきゃいいのに」
そんなチュチュを見て、やれやれと言った感じでフラムは頬杖をついていた。
「見た目的には酒飲ませちゃ駄目な気がするんだが」
「まぁね、この見た目で25歳なんだから不思議よね」
本当に、シェリーと同年代かそれ以下でも不思議ではない見た目のチュチュの謎である。
「そうだな、そう言うフラムは飲まないのか?」
「あたしはいいのよ、悪酔いする方だから、外じゃ飲まないことにしてるの」
「へぇ、俺はまったく飲めないからなぁ」
「そうなの?強そうな見た目なのに、意外ね」
「ああ、よく言われる」
「ふぅん……あ、そう言えばこれ、渡しておくわ。昼間にチュチュがギルドに報告に行ってくれたのよ」
ジャラっと音がする袋を渡される。
「これは?」
「エルデリアでの魔獣討伐報酬と、賊の討伐報酬だそうよ。賊の討伐報酬はアルフから受け取ったらしいわ」
「小さい金貨が一、ニ……六枚、ってことは大硬貨が・・・六百枚分か?宿代が六百日分じゃないか!」
「どんな勘定の仕方よ、まぁだいたいそれぐらいだけど、モヴーダの討伐報酬の分は分配したってチュチュが言ってたけど、詳細も確認する?」
「いや、そこまではいいさ。確認してもよくわからんだろうしな、ありがたく頂戴します」
「ふぁあ〜、ねーむーいー……すぅ、、」
チュチュが、声をあげたかと思ったらもう寝息をたてていた。
「ビックリした、って寝ちまったぞ」
「ほんと、いつまで経っても子供っぽいんだから……さ、行くわよ。部屋までおぶってあげて」
「へいへい、よっこらせっと」
ディランはチュチュを背中に担いでフラムについて部屋まで向かう。
「ご苦労様、明日は寝坊するんじゃないわよ?それから……」
フラムが目をキッと細めてディランを睨む……
「あたしの母さんに変なこと言わないでちょうだい。変な勘違いして、後が大変なんだから」
「あぁ、そのことは、すまん……反省してる」
しゅん、となるディラン……それを見てフラムも少し恥ずかしそうに声を細める。
「いきなり母さんに反論するから驚いたけど……ちょっとだけ、嬉しかったわ……おやすみ!」
バタン!と勢いよく扉が閉められ、ディランはしばらく立ちすくんでいた。
(なんだ、この感じ?胸の辺りがソワソワする、顔がアツい……)
「頭冷やして寝るか!」
初めての気持ちと感覚に困惑しながらも、それを紛らわせるために頭を洗いに部屋へ戻るディランであった。
――翌朝。
ディランが宿の食堂に行くとフラムとチュチュも揃っていた。
「あ!おはよーおじさん、思ったより早かったね」
チュチュがニカッと笑顔で挨拶してくれたが、フラムはチラッとこちらを見ただけで顔を背けてしまった。
「ああ、二人ともおはよう。もう食べ終わったのか?」
「おはよ、あたしたちも今からよ」
「お、おう、じゃあ食べるか」
ディランとフラムは何とも言えない気まずさを抱きながら食事を摂っていたが、その様子をチュチュリーゼはニコニコしながら眺めていた。
「うんうん、二人ともじれったいなぁ、もう」
チュチュの独り言はだれの耳にも入ることはなかった。
――朝食を済ませて、ディアを連れて村の外へ向かっているとディランのもとへ近づいてくる男がいた。その男の後ろには昨日宿で会った、フラミアの姿もあった。
「おい、お前さんがフラムの男か?」
「いえ、違います」
「おい、母さん、違うらしいぞ」
「もう、あなた、まだ付き合ってないって伝えたじゃない」
「そうだったか!」
もう色々と察しがついたディランは無言でフラムを見つめる……フラムは額に手を当てながら二人に近づいていく。
「父さんも母さんも何してるのよ?」
「何って、また挨拶も無しに出発するつもりだったでしょ?お父さんにも顔ぐらい見せて行きなさい」
「そうそう、寂しいじゃねぇか。それに、やっといい人見つけたって聞かされりゃ気になるに決まってんだろ?」
白髪が混じった茶髪の男…フラムの父親がそう言ってフラムの方へ声を掛ける。
「母さんも変なこと言わないでよ、彼はそう言うんじゃないって説明したでしょ」
「はいはい、わかってるってば。それよりも、気をつけて行ってらっしゃい。あんまり危ないことはしちゃ駄目よ?」
「母さん」
「チュチュちゃんもお前さんも、娘のことよろしく頼む」
フラムの両親が心配そうに声を掛ける……そして、フラムの父がディランの前まで来て静かに口を開く。
「ディランさんでいいかな?俺はローゼス、あのじゃじゃ馬娘の父親だ……どんな理由があるのかはわからんが、あの子がギルドの仕事以外で男と一緒に行動するなんて珍しいことでな。あいつを傷つけるようなことはしないで欲しい」
真剣な表情で、他の三人には聞こえないように話すローゼス……
「ローゼスさん、俺は訳あって娘さんに助けてもらっている身です。フラムが言うように、そう言った関係でもありません。恩人である彼女を傷つけるなんて、俺にはできませんよ」
全ての事情を話すことは出来ないが、娘を心配する父親にできる限りの誠意で応えるディラン。その答えを聞いたローゼスは表情を緩めて笑顔で声を掛ける。
「はっは!フラムと一緒にいる男がどんな奴かと思っとったが……信用できそうだ、気をつけて行って来い!」
そう言って肩をバンっと叩かれる。その音で他の三人がこちらを振り向く。
「あら、あらあら?もう仲良くなってるじゃない」
「仲良くって、初対面の相手に何してるのよ……」
「細かいことはいいんだよ、ほら、気をつけて行って来い」
はっはっは!と笑いながら手を振るローゼスとフラミアに見送られながらスウェード村を出たのであった。
――村を出ると、アルフテッドたち警備隊の面々は準備を終えて待っていてくれていた。
「アルフテッドさん!申し訳ない、お待たせしてしまったようで」
「おお、御三方ともおはようございます。なに、それほど待っておりませんよ。準備の方はよろしいのですかな?」
「ええ、大丈夫よ。いつでも行けるわ」
「そうですか。では、出発いたしましょう」
こうして、一行はカレドニアへ向けて出発した。




