26話 チュチュの霹靂
チュチュリーゼは、ディラン達と宿に着いてから、しばらく部屋で休み、一人で村に出向いていた。
手にはチュチュよりも大きく、布で覆われた長い物を抱えながら村の中を進む。
「さてさて、もっと休みたいとこだけど、やらなきゃいけないことを済ませないとね〜」
一人呟きながら歩き、スウェード村のハンターギルド支部までやってきた。
ギルドに入ると、そのまま受け付けの女性のもとまで向かう。そこで、チュチュに気づいた受付嬢が声をかける。
「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
「えっと、エルデリア村での魔獣討伐依頼の完了報告と、村を襲ってきた賊が持っていた武器の引き渡しをしたいっす」
「でしたら、依頼者の署名が書かれた依頼書の提示をお願い致します。それから、賊の討伐報告に関しては傭兵ギルドの方へ報告していただけますでしょうか?」
受付嬢は淡々と、それでいて少し面倒くさそうに話す。
そんなことは気にせずに言われた通りに依頼書の準備をするチュチュ……
「はいはい、依頼書はこれでっと、賊の討伐は報告じゃなくて……」
「失礼、そちらのお嬢さんの用件は武器の引き渡しと言ってなかったかな?」
受け付けでのやり取りを後ろで聞いていた男が声をかける。
「あなたは!」
「あ、アルフテッドさん!」
チュチュと受付嬢が驚きの声をあげる。
「ああ、すまない、君たちのやり取りが聞こえたものでね。それから、賊の討伐報告はもう私が済ませてきたから問題ない」
「おー、仕事が早いですね〜。じゃなくて、そうそう、これがその武器なの」
ゴトッ……と受け付けの机にあの布で包まれた物を置いて紐を解く。
「これは、リベルシェイカー!?このような貴重な物をハンターギルドで預かってよろしいのですか?」
「いいのいいの。ウチが持ってても、また誰かに奪われたら大変だし。ギルドで管理してもらった方が安心だもの」
「承知致しました。こちらの武器の管理は本部とも確認し、責任を持って行います。それから、エルデリア村での魔獣討伐依頼の完了処理と報酬の準備をしてまいります」
受付嬢は受け取った依頼書と数枚の書類を裏の事務職員に手渡し、数字の書かれた紙を手に取る。
「こちらの番号でお呼び致しますので、ギルド内でお待ちください」
「はーい、わかりましたー」
紙を受け取り番号を確認すると、そこには七番と書かれていた。呼ばれるまで、そこまで時間はかからないなと考えながらアルフテッドに声をかけた。
「そう言えば、アルフテッドさんはどうしてここに?傭兵ギルドに報告したって言ってたよね?」
「ん?まぁ、ここには別件で立ち寄ったんですが……あ、よろしければ、モヴーダの討伐報酬をお渡ししてもいいですかな?」
「ふぇ?いいの?」
「賊の移送ついでに報告に来ましたが、もともと討伐されたのはあなた方ですので、正当な報酬ですよ」
そう言ってジャラジャラと音のする布袋を懐から取り出してチュチュに手渡す。
「モヴーダを含め、二十人の賊の討伐、引き渡しの報酬として小金貨十枚が入ってます」
モヴーダの討伐依頼報酬は小金貨六枚相当であり、本来の報酬よりも多い相場である。
ちなみに硬貨の種類は小硬貨、大硬貨、小金貨、大金貨、白金貨の五種類に分けられている。
「あれ?ちょっと多くないですか?」
チュチュは相場より高い報酬に驚き、アルフテッドに尋ねる。
「モヴーダの部下が多く、組織としての脅威度も鑑みての追加報酬。それから、これは口止めされていたのですが……ダナン殿から、友人の無念を晴らしてくれたあなた方にと、いくらか受け取っていたので」
「あ〜なるほど〜ダナンさんも素直じゃないですねぇ」
と、納得した様子でチュチュが頷いていると……
ガチャ……と受け付けの横の扉が開き、アルフテッドと同年代の男が出てきた。彼はアルフテッドの姿を見て、目を少し見開き…
「アル!来ていたのか……例の連続誘拐事件の件だが、お前の推測通りかもしれんぞ」
「待て、ギル。あまり大きな声で言わないでくれないか」
アルフテッドは目を細めて、言葉の圧を強めた。
「おぅ、すまん。中に入ってくれ」
「わかった……それでは、チュチュリーゼさん、私はここのギルド長と話があるので、これで失礼いたします。ディラン殿やフラム嬢にもよろしくお伝えください」
丁寧にお辞儀をして、アルフテッドはギルドの奥に入って行った。
「ほぇ〜誘拐事件ねぇ……っと、ウチもちょっと買い出ししてから戻ろっと」
チュチュがこれからの予定を考えていると、受け付けの方から声がかかる。
「七番でお待ちのチュチュリーゼ様、お待たせいたしました。依頼完了報告の処理と報酬の準備が出来ましたので受け付けまでお越しください」
「おろ、思ったより早かったなぁ。はいはーい!今行きますー」
「お待たせ致しました。こちらが報酬の小金貨四枚と、報酬引き渡しの証明書です」
「はーい、どうもです。それじゃ、ありがとうございましたー」
チュチュは報酬と証書の確認を済ませ、受付嬢のお姉さんに手を振ってギルドを出て行く。
「よし、道具屋はあっちか」
ギルドを出たチュチュはその足で道具屋に向かい、仕事に使う消耗品の買い出しを済ませると、店を出た所で見知った顔の女性を見かけた。
「あ、フラミアおばさん!お久しぶりですー」
声をかけられた赤い髪の女性はチュチュの方を振り向いて、口元に手を当てて驚いた様子で答える。
「あら?チュチュちゃん!元気だった?」
「うん、元気ですよ!フラムも一緒に来てるんだけど、おばさんさえよければ今から会いに行きます?」
「まぁまぁ、あの子も帰って来てるのね。もう、帰って来たなら顔ぐらい見せてくれたらいいのに。私の買い物も終わったし、会いに行こうかしらね」
そして、二人はフラムに会いに宿へと向かって行った……
宿に到着したチュチュとフラミアはそのままニ階の泊まっている部屋に向かう。
フラムの部屋の前に辿り着いたところで、向かい側のディランが泊まっている部屋の扉が開いていることに気づいた。
「開けっぱなしなんて不用心だなぁ」
閉め忘れたのかと思ったチュチュはディランの部屋の前に近づいていく……
「……あのことはチュチュにも内緒にしなさいよ」
部屋の中から、よく知る友人の声を聞いたチュチュは思わず声を出してしまった。
「ほぇ?」
その瞬間、部屋の扉がバッと開き、フラムとチュチュが目を合わせたまま固まってしまった。そして、部屋の中からディランも顔を出すと、チュチュの後ろにいたフラミアと目が合ってしまった。
「あら?あらあら、フラムったら、やっといい人を見つけたのね!」
フラミアはフラムが男の部屋から出てきたこの状況を見て、困惑するどころか、むしろ嬉しそうにしていた。
「え?お母さん!?どうしてここに……って、待って!彼はそう言うんじゃないのよ!」
フラムが母親の勘違いをなんとかしようと焦っていることをよそにチュチュは真剣な顔で考え込んでいた。
「あのフラムが、自分から男の部屋に?これは、絶対に……ぶつぶつ」
「そんなに隠そうとしなくたっていいじゃないの、それでお名前は何とおっしゃるの?」
フラムの言葉に耳を傾ける様子のないフラミアはディランの方へと詰め寄る。
「は、えぇ……ディランと言いますが、その、本当にフラムの言う通りで、俺たちはそう言う関係ではなくて」
「まぁ、まぁまぁ、まだお付き合いする前でしたのね、私ったら嬉しくてつい勘違いを……」
フラミアは、少し残念そうに眉根を下げながら言葉を続ける。
「この子は昔からガサツで男勝りなもので、女としての魅力が足りないんじゃないかと……」
「いや、それは違います。彼女は少し不器用ですが、困ってる人のために尽くせる面倒見の……『ちょっと!』」
「ちょっと!ディラン、あんたも急に何言ってんの!」
ガチャン!
フラムは、顔を真っ赤にしながらディランを部屋に押し込んで扉を閉めてしまった。
「なんなのよ、もう」
「いや〜おじさん、フラムのこと良くわかってるね〜」
チュチュはニヤニヤしながらフラムを見つめる。
「チュチュもうるさいわよ?母さんも、用がないなら早く帰って!」
「ふふ、わかったわよ。元気そうな娘の顔も見られたし、お父さんにも良い知らせができそうだしね」
そう言って帰ろうとしたフラミアだったが、フラムの方を見つめ……
「そうそう、フラム?ディランさんのこと、必ずものにしなさいよ?あなたのことをちゃんと理解してくれてるんだから」
「なっ!だから、そんなんじゃないってば!ちょっと、母さん!?」
フラムの懸命な言葉はフラミアには届かず、笑顔で帰って行った。




