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1話 見慣れぬ世界

 気がつくと、冷たい石床の上に倒れていた。

 そのすぐ近くには、さっきの黒い核が砕けて散らばっている。


「ここは、どこだ?」


 立ち上がり、周囲を見渡してみると、ひらけた石造りの広場の中心に自分がいることが分かった。

 そして、目の前には核を祀っていたのか、祭壇と思しき物があった。


「どうなってる?核の破壊には成功……したんだよな?」


 状況を理解出来ず、色んな思考が飛び交い始める。


 (いや、考えても解らんもんは解らんな。まずは解る事から整理すべきか)


 そう思い、まずは手足を動かしてみる。

 

「手と足は……動く、痛みも無い。俺は名前は、ディラン・デッドガードナー、歳は35……所属はイスフィール王国迷宮攻略部隊、第三小隊の隊長。イスフィール辺境の迷宮で核の破壊を試み、問題が発生。…と」


「記憶も問題は無さそうだな。ここは……見覚えは無いが、迷宮の侵蝕を受けている感じもない」


「んで、この儀式か何かのために作られた広場と祭壇……まさか、あれから何年か後の時間まで飛んだ?いやいや、流石にそれはないだろ」


 (とは言っても、この状況、訳がわからんな。とにかく情報を集めるためにも動くか)


 そう考えながら、広場の外へと向かい、歩き始める。

 改めて周囲を見ると、この広場は森の中に造られているようで、森の方には少し切り拓かれた道が続いている。


 (まぁ、行くしかないか)


「取り敢えず装備の確認をって言っても壊れそうな盾が一枚と、鎧下の麻布の服だけだしな……頼むから、怖いもんは出てくんなよ〜」

※ディランの盾は近接戦闘に特化、武器として使用することを想定した特注である。形状はカイトシールドタイプのエンアームズ(肘と手で固定する)

 

 未だ状況が分からない中、一人黙々と森の中を進む。

 歩きながら周囲の様子を見ると、見た事の無い植物や虫、小動物などが目に入ってくる。


「色んなとこに迷宮攻略で行ったつもりだが、見た事ないもんばっかりだな。マジで時間でもぶっ飛んだのか?生態系が変わるぐらいの時間を?」


 その後も、周囲の見慣れない光景に戸惑いながらも進み続け、二時間ほど経った頃、ようやく違う景色にたどり着く。


「結構、歩いたなぁ、あれは洞穴か?ちょっと休ませてもらうかね」


 迷宮攻略の疲労も残る中、慣れない所を歩き続け心身共に疲れが出始めたディランは、ここで休息をとることに決めた。

 洞穴の入り口には看板が立っていて、目を細めながら読んでみる。


「結構字体は崩れてるが、なんとなくは読めるか、なになに?マ……ジュー……出……ケン?」


「わからん!が、まぁ入り口で少し休む分には大丈夫だろ」


 そう思い、洞穴の中へ足を進めるが、すぐに違和感を感じた。

 (なんだ?微かだが血の匂いがする?)


「奥の方からか……はぁぁ、やっと休めると思ったのになぁ」


 左手の盾を構え直し、警戒しながら奥の様子を窺う。

 そこには一定の間隔で揺ら揺らと燃える火の灯りが灯されていた。


(真っ暗かと思ったが、壁に松明が掛けられているのか。しかも火を着けてからそんなに時間も経ってない感じだな)


 松明の状態を確認しながら、洞窟の奥を見つめる。


 (誰かがこの洞窟に入って、奥に進んで行ったってことは状況的にわかる。だが、何のために?どうして血の匂いがする?)


「さて、一人で進んでいいもんか……ちょっと様子を見るだけなら大丈夫か、悩む時間も惜しいな。よし……すぅ、っぐ!」


 ディランは呼吸を整え、全身に魔力を巡らせようとした途端に身体の節々に刺す様な痛みを感じた。


「っつ〜、何だってんだ?」


 ディランは魔力による身体強化が出来なかったとこに戸惑ったが、今は先に進むことが優先だと気持ちを切り替える。


 (空気中のマナの取り込みに失敗したのか?疲れが溜まってるせいか?いや、考えるのはよそう)


「早く進まねぇと……」



 ――その頃、洞窟の奥では


「おいっ!ゼラルド!無事か!!」


 ゼラルドと呼ばれた青年の左腕には、大きな爪で裂かれた傷痕があり、そこからじわじわと血が流れる。

 彼は右手に持った斧を支えに、ふらつきながらも立ち上がる。


「ぐぅっ!な、なんとか……な」


 痛みに耐えながら答える。彼の目の前には、人のニ倍近くはある巨熊が迫っていた。


「俺たちが引きつける!お前はそのまま退がれ!シェリー!援護を頼む」


 赤みがかった髪色の青年が、前に出つつ指示を出す。


「え、ええ。でも、ロズ……このままじゃ」


 シェリーと呼ばれた女が不安そうに言う。


「わかってる!くそっ、村の皆のためにもコイツはっ!」


 青年が両手で持った剣で勢いよく斬りつける。


 ギィン!


 巨熊は難なく爪で弾き返し、そのまま反対の腕を振りかぶる。


 青年は態勢を崩した状態のまま、その攻撃を剣で受ける。


 パキィン!


 と高い音と共に剣が折れ、後ろに倒れ込む。


「な!?うぉっと!」


「ロズ!このっ……当たれ!」


 シェリーが弓で牽制するも、巨熊の硬い毛に弾かれ動きを止める事も出来ない。


 巨熊が倒れた青年に追い討ちをかけんと、腕を振り上げた瞬間、彼の目の前に大きな背中が映る。


 ギィン!


 見知らぬ男が、盾で巨熊の攻撃を受け止めたのだ。


「正面を抑える!怪我してるやつと一緒に逃げろ!」


「え?あ、あんたは?……?!」

 

 突然の事に思考が追いつかないのか、ロズはすぐに動きだせずにいた。


 助けに入ったディランは、巨熊の攻撃を受け止めながらすぐに状況を分析する。


 (咄嗟に助けに入っちまったが、こいつはグリズリータイプか?見た目からして、クローベアだが、何でこんなとこに……っと!)


 ギン!ガン!ガン!


 クローベアが何度も攻撃を仕掛けてくるが、それを盾で受け流していく。


 (身体強化が出来ないとやっぱキツイな、攻撃が重い……周りのやつらは?)


 弓を持った娘が負傷して退がっていた青年に駆け寄り、もう一人の赤毛の青年は、後退せずに折れた剣を構えていた。


「シェリー!ゼラルドを頼むっ!」

「!?っ、何言ってるの!ロズ?!」


 そう言って、青年がこちらに駆け出す。

 シェリーと呼ばれた娘も、負傷した仲間を優先にと判断したのか、こちらを気にしつつも逃げて行く。


 (おいおい、逃げろって言ってんだろうよ、折れた剣で戦う気か?)


 ディランは内心呆れながらもどうすべきか瞬時に思考する。


 (クローベアの毛と皮膚は硬い、身体強化無しで戦うには力が足りない)


「やりようによっては何とかなるか?おい、少年!無闇に突っ込むな!死にたくなけりゃ俺に合わせろ!」


 クローベアの正面から離れず、攻撃を受け流しつつ声をあげる。

 

「っ!誰だか知らねぇけど、おっさん!アイツは絶対に倒してぇんだ!どうしたらいい?」


「おっ、さんじゃ!いや、おっさんか?まぁいい、コイツは毛も皮も硬い。狙うなら目か口の中だ」


「そうなのか、でもどうやって狙えば…」


 ロズは、自分の二倍近くもあるクローベアの頭をどうやって攻撃すればいいのかと、見上げた。


「なんとかするさ、合図するまで俺の後ろで構えてろ!」


「え…ぁあ、わかった」


 クローベアと二人が向かい合い、緊張が走る。

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