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25話 スウェード村

 スウェード村の入り口付近まで着いた一行だが、そこで警備隊の走車は横道に逸れていく。そしてアルフテッドがこちらに近づき、声をかける。


「我々はここで野営をするので、ディラン殿たちはこのまま村の中へ向かってください」


 遠征での野営訓練も兼ねているのだろうが、賊を連れたまま村の中に入ることにも配慮したのだろうと考えながら、返事を返す。

 

「ご苦労様です。ここまでの道中、同行させてもらってありがとうございました」


「なに、気になさらなくて結構ですよ。明日の朝はディラン殿たちを待ってから出発いたしますので、今日はゆっくり休まれるといい」


「われわれだけ村の中で休ませてもらうのも気が引けますが、お言葉に甘えさせていただきます。では、また明日、よろしくお願いします」


 挨拶もそこそこに警備隊の面々に声をかけ、村の中へと入っていく。

 

 ゆっくりと進んでいき、スウェード村の中で最初に目についたのは車宿だった。旅や行商の要所というだけのことはあり、そういった者達向けの施設が多いようで、人の通りも多い。


「すごいな、エルデリア村とは活気が違うというか」


「そりゃね、昼時のこの時間は特に多いんじゃない?休憩したり、あたしたちみたいにこれから一泊して他の町やカレドニアに向かうでしょうから」


「そうそう、ウチらも早く宿……って、フラムは両親の家に泊まるの?」


「まさか、あたしも宿に泊まるつもりよ?チュチュと同じ部屋でいい?」


「そりゃいいけど、フラムこそいいの?」


「親と一緒の方がゆっくり休めないわよ。あ、もちろんディランは別部屋よ?」


「いやいや、わかってるっての」


 そうこう話しながら近くの車宿に入り、ディアを繋いで店番に声をかけに行く。


「いらっしゃい、そこに泊まる人数と部屋の数を書いてくれるかい」


 中年の男性店員が対応してくれ、彼に言われた通りに宿帳へ記入しようとペンを握る。そして今まで気にしていなかった大事なことに気づいた。


「なぁ、フラム」


「なによ?」


 ヒソヒソと話すようにディランはフラムに尋ねた。


「この世界の文字、知らないんだが」


「あぁ……わかったわ、貸して、あたしが書くから」


 後ろでチュチュが「どうしたの?」と首を傾げていたが、苦笑いではぐらかした。


 書いている様子を横から見ていたが、改めて見るとイスフィールで使っている文字と字体が似ていた。


(多少の違いはあるが、これなら読み書きする分には問題なさそうだ……そういや、ロズ達と会った洞窟の前の看板もなんとなく読めてたな)


「すまん、助かった」


「べつに構わないわ。それより……いや、後で話しましょ」


「わかった。そうだ、ディアはどうなるんだ?」


「ああ、それはね、宿帳にバロンの数と繋いだ厩の番号を書いてるから大丈夫よ。食事も掃除も厩番がしてくれるのよ」


「なるほど、助かるな」


「まぁね、とにかく部屋に行きましょう。はいこれ、あんたの部屋の鍵よ」


 ポンと鍵を手渡される。


 持ち手は木製で出来ていて、先に硬い金属の鍵が埋め込まれていた。持ち手の下の方には何の花か分からないが花びらの模様が刻まれている。

 

 (この模様の扉が自分の部屋ってことなのかね)

 

 部屋の場所は二階の隅で、向かいの部屋がフラム達の部屋になっていた。


「ふっふーん、宿だー布団だー!」


 チュチュが勢いよく布団に飛び込んだ。


「ディラン、あんたは部屋で待ってなさい。話があるから」


「お、おう」


 (さっきの宿帳の時の話だろうが……)


 とりあえず、部屋の中に入り周りを見て回る。どこに行っても、こういう宿の部屋の中ってのは気になるもので、ちょっとワクワクした気持ちで歩き回る。


 (寝床は木で作られているが、丈夫で良い香りのする木を使っている……やすりも丁寧にかけられているし、寝心地も悪くなさそうだ)


 ウロウロと見て周り、次は照明に目を奪われる。


 (壁に取り付けられている球体から光が…魔法でも蝋燭でもない)


「何か紐みたいな物が繋がってるが、これが光の元なんだろうか?」


 コンコン、扉を叩く音が響く――

 

 ガチャっと扉を開くと、フラムが腕を組んで部屋の前に立っていた。こちらの顔をチラッと見てから……「入るわよ」と一言口にして部屋の中に入り、寝床に腰掛ける。


「さぁ、さっそくだけどディラン。あんた、文字は読めるの?」


「あぁ、なんとなくは読めるんだよ。なんて言うのかね、俺の世界で使ってる文字と似ててな」


 眉根を寄せながらしばらく考えこんでから、フラムは口を開く。


「読めるなら取り敢えずは問題ないかしら。書くのは、そうね……一覧表を作ってあげるから、練習してみて」


 そう言って、部屋の机にある紙と羽ペンを手にサラサラと書いていく。


「ほら、書き方もちゃんと見てなさいよ……この字はここから書き始めて、ここをクルッてするの。次は……」


 (改めて見てもやっぱり、イスフィールで使ってる文字と大差ないな。それにしても、本当に面倒見のいいやつだなぁ)


「……ちょっと、ちゃんと聞いてる?」


「あ、あぁ、聞いてる。この感じなら、書くのもそう難しくなさそうだわ、ありがとうな」


「ほんとに大丈夫かしら?まぁ、他にもわからないことがあれば言いなさいよ?」


「おう、助かる……っと、そうだ、この灯りはどうなってるんだ?蝋燭でもなさそうだし」


 わからないことはまだまだあるのだが、ちょうどフラムが来る前に見ていた照明について聞いてみることにした。


「これ?なんだったかしら、たしか、チュチュは電気って言ってた気がするけど」


「電気?ってあのビリビリってシビれるやつか?」


 イスフィールで雷や電撃を使う魔法があったことを思い出し、フラムに尋ねる。


「そう、それよ。電針鼠って魔獣の素材から作れるらしいわよ。詳しい仕組みはわからないけど、作ったのはチュチュのお母さんだから、気になるなら後で聞いてみたら?」


「へぇ……って、これ、チュチュの母親が作ったのか!?親父さんも武器職人なんだろ?すごいなぁ」


「チュチュの店は魔獣の素材を加工して武器とか道具を作るのを専門にしてるから、あたしもよく世話になってるの。あなたも装備の調整をするなら行ってみたら?」


「チュチュにも言われたしな、お金に余裕が出来たら行ってみるさ」


「まぁ、まずはお金が必要よね。それで、仕事は決めたの?出発前にはああ言ったけど、警備隊なら収入は安定すると思うわよ。もちろんハンターでもあなたならすぐ稼げるでしょうけど」


「そうだなぁ、ちなみにハンターと傭兵の仕事って具体的にどんなもんなんだ?ハンターは魔獣を専門にしてて、傭兵は何でもやるって聞いたんだが」


「まぁ、簡単に言えばその通りよ。具体的には、そうね、ハンターはカレドニア以外にも滞在してるの。ハンターギルドも色んな町や村に支部があって、そのハンターギルドでハンター達は依頼を受けるんだけど」


「おう、確かシェリーもそんな感じで言ってたな」


 フラムは途中で口を挟んだディランを上目でチラっと見ながら続ける。


「で、依頼を受けたらその依頼書を持って依頼人と直接会って仕事を始めるの。終わったら依頼人から依頼書に署名してもらって、ギルドに持ち帰れば報酬を受け取れる流れよ。傭兵に関してはそこまで詳しくないんだけど、仕事の流れはハンターと変わらないはずよ?違うのは、依頼の内容がたくさんあるってことぐらいじゃないかしら」


「たくさん、ね」


「賊退治や要人の護衛とか、物探しとか、とにかくたくさんよ」


「なるほど、それじゃ警備隊はどんな感じなんだ?」


「警備隊は、それこそ町や村を襲う賊の討伐やカレドニア近辺の治安の維持が主な仕事よ。ハンターや傭兵と協力して魔獣の討伐に行くこともあるけど、報酬はカレドニアの商業主から支払われるから、安定した収入になるの。ただ、決められた服を着て、決められた時間に仕事に行かないといけないから、あたしは窮屈で嫌だけど、こんな感じかしら」


 (イスフィールの騎士団と同じような感じか?この世界の情勢や規律なんかも分からない、ましてや迷い人の俺は、あまり関わらない方がいいか)


「ありがとう、わかりやすくて助かったよ。とりあえずは、ハンターか傭兵の仕事を考えてみるさ」


「それがいいと思うわ。さて、そろそろあたしも部屋に戻ろうかしらね、っと」


 そう言って机に手をついて、腰掛けていた寝床から立ち上がると、そのまま扉の方に向かい、こちらを振り向く。


「じゃ、またご飯の時にチュチュと一緒に呼びに来るから」


「おう、わかった」


 フラムが扉を少し開き、何か思い出したように再びこちらに向き直る。


「わかってると思うけど、あのことはチュチュにも内緒にしなさいよ」


 あのこと、とは迷い人のことなのだろうと思い返事しようと口を開きかけた時……


「ほぇ?」


 扉の外から聞き覚えのある声がした。

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