23話 出発
フラムと一緒に村の入り口に着いたディランは、目の前にいる、さらさらの白い毛並みと、陽の光を纏って金色に輝く立て髪を靡かせるバロン……ディアに見惚れていた。
「なんて綺麗な毛並みだ……脚の筋肉もゴツゴツした感じもなくて、しなやかで滑らかな線を描いてる。それにこの角、こんな美しい馬を見たのは初めてだな」
「うまって、何かわからないけど、ディアはそこら辺のバロン達とは手入れの仕方が違うからね。本人も綺麗好きだから、ブラシの掛け方にもうるさいのよ」
「フルルッ!」
ディアも「当然よ!」とでも返事をしているかのように鳴いていた。
「ディア、この人も一緒に走車に乗せてあげて欲しいんだけど大丈夫かしら?」
「ブル?フゥゥ」
こいつを?と言った感じで睨みつけてくるディアだが……一瞬、その瞳に力が入ったかと思った瞬間に殺気のようなものを感じた。
「っ!」……ザッ!
思わず身体強化を使って後ろに飛び退いてしまった。
ディアは目にも止まらぬ速さで後退したディランを口を半開きにしながら、ポカンっと見つめていた。
「もう、あんたたち何やってるのよ。ディアも試すようなことしないで。彼は十分強いわよ」
フラムが呆れ気味に言うが、試すって?
(あの殺気みたいなのは何か試そうとしたのか?)
「ディランも悪いわね、この子は自分の走車に乗る人にはこうやって威嚇するのよ。そのせいで買い手がつかなかくてあたしが貰ったんだけどね」
「なるほど、あんな殺気をいきなり受けたら普通に怖いだろ……それで、俺は合格なのか?」
「フシュッ!」
少し顔を背けながら鼻を鳴らすディア。
「合格なんじゃない?嫌そうな顔してないし」
「そうか?それならいいんだが」
「さぁ、出発までに荷物も中に入れてちょうだい。あ、そう言えばあんた、バロンの手綱は握ったことはないのよね?」
「バロンは初めて見たからな、一回り小さいのには乗ったことはあるが……」
「それじゃ、ちょっと練習してみる?あんたがバロンを引いてくれたら、チュチュと三人で交代出来るようになるから助かるのよ」
――と言うことで、ディアの手綱を握り、走車を引く練習が始まってしまった。
しかし、乗ってみて感じたが、ディアの方がこちらの意図を理解して協力的に動いてくれるし、なんなら手綱など無くてもディアに任せて問題無いぐらいの印象だった。
「十分ね、初めてでここまでディアが自然に動いてくれるなら何も問題ないわ。あたしも走車の中で休む時間が増えそうで良かったわ」
「思ってたより簡単だった……と言うよりは、ディアが賢すぎるんじゃないか?」
「まぁね、他のバロンより気難しいところはあるけど、優秀なのは間違いないわ」
「人もバロンもそれぞれってことか」
――そうこうしてるうちに時間が過ぎ、チュチュリーゼが戻って来たのだが、周りにはロズとロザミラ、ゼラルドも一緒にいた。
「おーい、おっさーっグフッ」
ロズが手を上げながら呼ぼうとした瞬間に、ロザミラの肘が鳩尾に入っていた。
「まったく、いい加減にしなさい!何度言えばいいのよ……」
「ロズも懲りないなぁ。ディランさん、おはようございます。見送りに来させてもらいました」
「おはよう。見送りなんて良かったのに、ありがとうな。ロザミラさんもすみません」
「いえ、私達の方こそ、本当にお世話になりました。村長とシェリーも警備隊の方と挨拶したらこちら来ると思います。それから、フラム……あなたもありがとうね。スウェード村に着いたら、父さんと母さんにも宜しくね」
「あたしは会いたくないんだけど……まぁ、伝えておくわ」
「ん?スウェード村にはフラム達の両親が住んでるのか?」
「ええ、三ヶ月前に魔獣の被害にあってから何人かスウェード村の方へ移住したんだけど、あたし達の親もその時にね」
「最初は二人して『ここに残る!』って大変だったわね」
「そりゃ、ずっと暮らしてた村を離れるのは抵抗があるだろうしなぁ」
(娘を残して自分たちだけ移住することだって嫌だったろうに)
……ザッザッザッ……
広場の方から警備隊の者達が近づいてきた。その先頭を隊長のアルフテッドが歩いている。
(そろそろ出発の時間か……)
「フラム嬢、ディラン殿もお待たせして申し訳ない。我々も準備が完了しました」
「まったく、あんまり待たせないでよアルフ」
フラムがアルフテッドに声をかける。
(さっきもアルフと呼んでいたが、知り合いなのだろうか?)
「二人は面識があるのか?」
「あ〜、カレドニアで生活してたら顔を合わせることも多いのよ」
「私ども警備隊もハンターや傭兵と協力して任務に当たることも多いのでね、フラム嬢には何度も助けられておりましてな」
(お互いに任務や依頼で共同の作戦に当たることもあるのか)
「なるほど、それなら俺もアルフテッド殿と一緒に仕事をさせてもらうこともありそうですね」
「と言うと、ディラン殿も傭兵かハンターに?仕事を探しておられるなら、我々警備隊も歓迎しますよ?」
「ああ、警備隊か……その手もあったか」
「ちょっとディラン、警備隊はおすすめしないわよ?お偉方の言うこと聞かなきゃいけないし、決められた服着て働かないと駄目なのよ?」
「おいおい、この隊服だって治安を守るために必要なものなんだが……『はいはい、わかったから早く出発しましょ』」
「ふぉふぉ、賑やかですのぉ」
声のした方を振り向くと、村長とシェリーも近くに来ていた。
「おじ様、フラムさんたちもそろそろ出発ですね」
寂しそうな表情で俯くシェリーにフラムが声をかける。
「そんな顔しないの、また帰ってくるから」
「フラムさん……うん、待ってます」
「さあ、皆の衆、これ以上警備隊の方々の仕事の邪魔をする訳にもいくまい。フラムも村の事を案じて救援に来てくれて、感謝しておるよ。ディラン殿も、達者での……」
「べつに、礼なんかいいわよ」
少し照れくさそうにそう言うフラムを、皆が微笑みながら見つめていた。
「村長、皆も、改めて……ありがとう。右も左もわからなかった俺を受け入れてくれたこと、本当に感謝しています」
「ほほ、それはお互い様じゃて」
「そうだぜ、おっさんは命の恩人だからな!」
「ええ、母の杖まで作ってくれてありがとうございました」
――見送りに来てくれた皆と挨拶を交わしたところで、アルフテッドが前に出た。
「さて、名残惜しいでしょうが……出発いたしましょう」
「ああ、待たせてしまって申し訳ない。皆、見送りに来てくれてありがとう。行ってくるよ」
「姉さんも、元気でね」
ディランとフラム、チュチュリーゼはディアの走車に乗り込み、警備隊の皆と村を出立した。




