20話 宴の後で
村の宴会の翌日、いつものように目を覚まし、顔を洗う。それから、村長やシェリーと朝食を摂る。
昨夜は元の世界のことを思い出して、気分が落ち込んでしまったが、一眠りすることで幾分か気持ちは切り替わっていた。
「おはようございます、ディラン殿。昨晩は、宴会を楽しんでいただけましたかな?」
「おはようございます。ええ、美味しい料理もたくさんいただきましたし、ダナンの結婚話も聞けたので、とても楽しかったですよ」
「ダナンさんとウルカさんの話ですか?いいなぁ、私も聞いてみたかったです」
「シェリーもウルカさんに聞いてみたらいいんじゃないか?きっと教えてくれると思うぞ」
「そうかな、今度聞いてみよっと」
「そうじゃ、ディラン殿、今日は昨日の宴の後片付けもあるじゃろうから、訓練も休みにしようと思うんじゃが構わんかの?」
「はい、構いませんよ。朝食を摂ったら俺も広場に行って手伝いますよ」
「それは助かりますな、ありがとうございます」
――それから、朝食を終えて広場に向かう。昨日作っていたレイナに渡す杖も持って家を出る。
広場にはすでに村人達が集まっていて、机や椅子の片付け、掃除などを始めていた。
その中からロザミラを見つけ、声をかけに行く。
「ロザミラさん、おはようございます。何か手伝えることはないかな?」
「あら、ディランさん、おはようございます。それなら、洗い場の方をお願いしてもいいでしょうか?食器を運ぶのを手伝っていただけると助かります」
「わかりました、任せてください」
――そのまま洗い場の方へ汚れた食器類を運んでいくと、ゼラルドも同じように食器を運んでいた。
「あ、ディランさんも手伝ってくださるんですね。ありがとうございます」
ゼラルドはそう言って頭を下げるが、ディランはそれを「いやいや……」と制止する。
「俺も宴会で美味しいもの食べさせてもらったからな、片付けぐらい手伝わないとな」
「ディランさんらしいですね、それじゃ、その食器はこの辺りに置いてください。あとはこっちで洗って片付けていくので、広場から残りの食器を持ってきてもらえると助かります」
「おう、任せてくれー」
カシャン、と食器が割れないように洗い場の横に置いていき、広場に戻っていく。
「ふぅー、これで全部片付いたのか?」
「そうですね、あとは昼食を摂って休憩にしましょう」
と、横にいたゼラルドが答えてくれたところで、杖のことを聞いてみた。
「そうだ、ゼラルド、お前の母さんに作るって言ってた杖なんだが、ほぼ完成したぞ。あとは長さや持ち手の微調整をするだけなんだが、レイナさんは家か?」
「え、もう作ってくれたんですか!ありがとうございます。母は家で昼食の準備をしてくれてるはずなので、このまま家で一緒にご飯を食べますか?」
「流石に、いきなりお邪魔してご飯をいただくわけにはいかんだろ……俺は昨日の残りをいただいてからゼラルドの家に寄るさ」
「そうですか、わかりました。では、また後で」
「おう、また後でな」
ゼラルドに手を振って一旦別れ、広場の残りご飯をいただきに行く。
昨日の串焼きを炙り、再度熱を通す……そして、一本目の串肉を口に頬張ったところで、同じように串焼きを狙うハンターと遭遇した。
「あ、ディランも串焼き食べに来たのね、それ、一本もらってもいいかしら?」
「フラムか、一本だけなら構わんが、あとは自分で焼けよ?」
「それじゃ、いただきまぁす……やっぱり美味しいわねぇ。ってか、別に良いじゃない、あと五、六本ちょうだいよ」
「五、六本だと!?俺の串焼きが無くなっちまうだろうが、ったくしょうがねぇな……追加で焼き直してくるから待ってろ」
「あら……ありがと、じゃあ冷めないうちに残りもいただくわね?……はむっ……ん〜まぃ」
一晩経ってタレが染み渡った肉の旨みに舌鼓を打つフラムに、ディランは怒ることもなく、諦めたように首を振る。
「待ってろって言ってんだろうが……まあ、冷めちまうよりは良いか」
そんなやり取りをしながら、昼食を済ましてゼラルドの家に向かう。
コンコンッ
小気味良い木の音でノックし、ゼラルドが扉を開く。
「いらっしゃい……って、フラムさん?一緒だったんですね」
「ああ、昼食の時に広場で会ってな、暇だからついていくって言ってな。構わないか?」
「ええ、それは大丈夫ですけど……」
「けど、なによ?嫌なら言ってちょうだい」
「あ、嫌とかじゃなくて、フラムさんとは訓練の時ぐらいしか話さないもので、ちょっと驚いたと言うか」
「こいつも、ダナンも似た様なもんだぞ?普通に話したらいいんだよ」
「ダナンと似てるってどういうことよ?ちょっと、聞いてる?」
「ほら、外で立ち話も何だし、中に入ろうぜ」
「アンタの家じゃないでしょうが!」
「っぷ、はははっ……あ、いや、すみません。二人のやりとりが面白くてつい、ディランさんの言う通り、ここでは何ですから、どうぞ中に入ってください」
「おう、ではお言葉に甘えて、お邪魔します」
奥に進み、前と同じ長椅子に腰掛けるレイナに挨拶を交わす。
「レイナさん、お邪魔します」
「お邪魔するわ」
「あらあら、フラムちゃんまで来てくれるなんて、二人ともいらっしゃい。何も無いとこだけどゆっくりしてね」
「ありがとうございます。でも、杖の調整だけしたらすぐに帰りますよ」
そう言って、持ってきた杖を差し出す。
「ああ、息子から杖が出来たと聞きましたが……不思議な形をした杖ですね」
「まぁ、木の棒みたいな杖が一般的なら見慣れないかもしれませんね。この杖はクラッチと言って、上の輪っかみたいなところに腕を通して、肘置きに体重をかけられるようになってるんだ」
「ここの輪っかに、腕を通すんですか?」
初めて見る杖に恐る恐るといった感じで腕を通していくレイナ
「そうそう、それでその肘置きの位置を調整したら完成です。そのまま立ってもらって、長さが合ってるか見ても良いですか?」
「え、ええ、こうですか?」
「そうです……そのまま、長さは問題無さそうか、肘置きの位置も、こっちはもう少し角度をつけるべきか……よし、これでいいかな。レイナさん、肘置きに体重をかけてみてくれるかな?」
「はい……!っこれは、楽ですね。今まで使ってた杖より腕に力もかからないし、ほとんどふらつかないわ」
「手と腕に体重を分散して支えられる分、腕への負担も軽くなるし、歩きやすくなってるはずだ」
「まぁ、まぁ、本当だわ!これなら今までよりも外に出て歩けそうよ」
嬉しそうにゼラルドに話すレイナ。
「よかったね、母さん。ディランさんも本当にありがとうございます」
「こっちこそ、気に入ってもらえて良かったよ。だが、使い慣れるまでは無理しないように。ゆっくり慣らしていってくださいね」
「ええ、わかりました。何かお礼を考えておきますね」
「いやいや、お礼とかはいいから、そんなのより少しでも歩けるようになってくれた方が嬉しいよ」
何度もお礼を言うレイナとゼラルドに「気にしないで」と、困り顔で繰り返し言うディラン達の様子を見ていたフラムは、自然とディランの横顔を見つめながら考えていた。
(ほんとに、根っからのお人好しなのね)
その視線に気付いたディランが声をかける。
「ん?俺の顔に何かついてたか?あ、さっきの串焼きのタレか?!」
と、口周りをゴシゴシと拭き始める。
「な、何もついてないわよ!ちょっと、ボーッとしてただけだから気にしないで」
そう言って顔を横に背ける。長い髪で表情は隠されてしまったが、その頬は薄っすらと赤くなっていた。
「そうか?さて、杖も渡せたし、俺たちはこのぐらいで帰らせてもらおうかな」
「あらあら、もう少しゆっくりしていったらいいのに……」
「急にお邪魔して、ゆっくり休ませてもらうわけにはいかんよ。それじゃ……あ、杖のことで何かあったらまた言ってくださいな」
「えぇ、わかりました。本当にありがとうございます」
「いえいえ、では、お邪魔しました」
そう言ってゼラルド達と別れ、二人は広場の方へと戻って行った。




