19話 宴の終わり
宴も終わり、広場の焚き火を見ながらダナンと飲み交わす。とは言ってもディランの飲み物はただの果実水だが……
「ディラン、あんたが来た時は大人気ない態度を取っちまったが……ロズたちや村を助けてくれたこと、本当に感謝してる、ありがとう」
酒をゆっくりと口に含みながら、染み染みと言うダナン。
「そんなに感謝されるような事じゃないさ、結果的に村の皆を助ける事が出来ただけなんだから」
「何言ってやがる、モヴーダと戦った時、あんたがいなきゃ俺は死んでたはずだ。リベルの仇も討てずに、ウルカを残して……な」
そう言いながら、少し離れた席でロザミラやフラムと話しているウルカを見つめるダナン。
「そうか……そう言えば、お前さんが傭兵を辞めたのは、彼女と関係があるのか?」
「ん?まぁ、結婚前は俺もウルカもカレドニアに住んでたんだが、行きつけの飲み屋で働いてたアイツに惚れちまってな。最初は『傭兵なんて危険な仕事してる人とは付き合いません』って言われたんだが……色々あってなぁ、傭兵も辞めるって条件で結婚して、この村に来たんだよ」
ダナンは少し気恥ずかしそうな表情で教えてくれた。
「へぇ、傭兵の仕事を辞めてまで結婚をなぁ……惚れた男の弱みってやつか」
「まあな、でも、今の生活は俺も気に入ってるんだぜ?村の皆は良いやつばっかりだし、食べるもんだって村の畑や森で狩をしたりして手に入れられる。お金に執着しないで生きていけるって、良いもんだぞ」
「そうだな、それは俺も同感だ」
ディランも短い間ではあるが、この村に来てからの生活はイスフィールにいた頃とは全く違う環境で過ごしていた。
確かに、灯りや火、水や風などを魔法や魔道具で生み出せない生活は不便に感じることもあったが、それを先人の知恵とも言える知識や道具で補う姿に感動を得ることの方が多かった。
「それはそうと、俺の話しばっかじゃ不公平だろ?ディランの家族とか、嫁さんは…って、聞かない方が良かったか……」
ディランの家族や身近な人の話しを聞こうとしたダナンだったが、迷い人である彼に、今は会うことが出来ない者の話しを聞くのは浅慮だったと、言葉を濁す。
「ああ、気にしないでくれ。俺は結婚もしてないし、恋人だっていないからな。それに、家族も20年前に侵蝕……魔獣の被害に遭って、それっきりなんだ」
ディランの家族はイスフィールから少し離れた村で暮らしていたが、ディラン本人は騎士見習いとしてイスフィール王国の寮で生活していた。
その時に、両親の住む村が侵蝕に巻き込まれ、迷宮に飲み込まれてしまった。
騎士見習いだったディランは安全地帯からの補給物資の運搬を行ったが、周辺に避難してきた者達から村や両親のことを聞いて回った。
しかし、ディランの村から生き残った者はおらず、両親を見つけることは出来なかった。
「そりゃ……悪かったな、変なこと聞いちまった」
「いや、だから気にするなって。それに、もう20年も経ってるし、気持ちの整理だって出来てるさ……それより、お前と嫁さんの馴れ初めをもっと聞かせろよ」
「は?そりゃ、さっき教えたろ」
「いやいや、もっと詳しく!今後の参考に、な!」
「参考にって、しゃあねぇな……」
――盛り上がるダナンとディランを他所に、フラム達女性陣は……
「それで、フラムはカレドニアで彼氏の一人や二人、作れたの」
「んぐッ、ゴホッゴホ!いきなり何よウルカ?」
同年代の友人でもあるウルカからの質問に、思わず咽せるフラム。
「何って、幼馴染の将来を心配してるのよ。フラムももうすぐで30歳になるじゃない。本当にどうするつもりなの?」
「そうよ、そろそろ良い人を見つけてくれないと姉さんも心配だわ」
「ちょっと、姉さんまで?もう、いいのよ、あたしは独りでも大丈夫だから」
「大丈夫って……母さんと父さんも、あなたの子供の顔見たがってるわよ?」
「それは、姉さんとロズがいるからいいじゃない」
「そう言うことじゃなくて、あなたの、子供を見たいってことよ。もう、こっちに来る時に母さんたちの所には顔は見せたの?」
「スウェードの村に?寄ってないわよ。魔獣討伐の依頼だったから、少しでも早く移動したかったし。寄るとしたら、帰りになるだろうけど、顔合わせたくないなぁ」
「あら、ご両親に会うのに何か問題があるの?」
「大有りよ、顔合わせるたびに『結婚はまだか?相手を早く連れて来い』って言われる身にもなってちょうだい」
「それは、あなたのことを心配してくれてるからじゃないの」
「そうよ、嫌なら早く相手を見つけることね……あ、ちょうど良さそうな相手がいるじゃない?」
「ああ、確かに」
ロザミラとウルカがニヤニヤしながら隣の机で話している二人に目をやる。
「え?……いや、ディランのこと言ってるの?ないない!あたしなんかよりもっと可愛い娘とかいるじゃない」
「あら、ディランさんの事とは言ってないけど?その言い方だと、嫌って訳じゃなさそうね」
「そうですね、だけどフラム?あなたは自分で思ってるよりも可愛いと思うわよ。ロザミラさんに似て綺麗な顔してるし、スタイルだって、筋肉もいい具合についててしなやかな身体つきしてるし、羨ましいぐらいよ」
「ちょ、ちょっと二人とも、そういう話はいいから、もう、帰る!」
フラムはその場から立ち上がり、スタスタとロザミラの家に向かって歩き出してしまった。
「逃げられたわね、こういう話になるといつもこうなのよね」
ロザミラは「ふぅ」とため息を吐く。
「小さい頃から変わらないですね。村にいた頃も同年代の男の子に言い寄られたりしても『興味無い』の一言で一蹴して、一人で剣を振ってましたし」
「そうね。恋愛よりも剣を振ってる方が好きだなんて、お母さんともよく喧嘩してたわ」
「フラムにとって、今の生活が充実してるなら、それで良いのかもしれませんね」
「う〜ん、姉としては結婚して落ち着いて欲しいものだけど、押し付けても良くないわよね」
ロザミラとウルカは酒を一口ずつ飲み、ゆっくりと頷き合った。
「さ、私たちも帰りましょうか」
「そうですね、あそこで楽しそうに話してる主人も連れて帰らないと……それじゃぁ、おやすみなさい、ロザミラさん」
「ふふ、ウルカも、おやすみなさい」
ディランにウルカとの馴れ初めを饒舌に語るダナンの耳を引っ張り、ウルカが引き摺っていくのを眺めてから……それぞれが帰途についていった。
残されたディランも、揺ら揺らと燃える焚き火を見つめながら家族のことを思い出していた。
(親父、お袋、村の皆……守りたいものを守れなかった俺が生きてる意味って何なんだろうな?知らない世界にまで来て、こんな俺にどうしろって言うんだ)
……重い足取りで広場から出て行くディラン。その背中は、小さく見えた……




